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安定性と流動性を両立したキャリアパスの仕組みについての
定量・定性的研究

プロジェクト概要

エビデンスに基づき「安定性と流動性を両立した研究者のキャリアパス」を提案する。1)流動性阻害の理由とその解決方法、2)具体的なしくみの探究、という2つの局面からアプローチしながら研究を進める。また、先行研究と既存事例の精査や定量・定性調査を実施し、それらのアウトプットをもとに行政担当者や多様なステークホルダーとの対話を重ねて、研究者育成に係る政策を提案し実行可能性を検証する。

実施体制

研究実施者

氏名 所属・役職
安田 聡子(研究代表者) 九州大学大学院 経済学研究院 教授
宮川 剛(共同代表者) 藤田医科大学 医科学研究センター 教授
田中 智之 京都薬科大学 教授

行政担当部署

部署
文部科学省科学技術・学術政策局人材政策課人材政策推進室

政策課題

「研究者の流動性と安定性の両立について」
統合イノベーション戦略2023(202369日閣議決定)で示された「科学技術・イノベーション政策の3つの基軸」のうち、第2の基軸「知の基盤と人材育成の強化」にかかわる政策課題に取り組んでいる。

具体的な研究計画

本プロジェクトが焦点を当てる政策課題は、統合イノベーション戦略2023(202369日閣議決定)で示された「科学技術・イノベーション政策の3つの基軸」のうち第2の基軸「知の基盤と人材育成の強化」にかかわるものである。

すでに第11期科学技術・学術審議会人材委員会で、「アカデミアと産業界の間の人材の流動性の分析や、流動性が高まらない根本的な理由等についての調査研究を実施し、産学官の議論の場で共有し、新たな方策につなげていくべき」(文部科学省HP、「第11期人材委員会審議まとめ」、p. 11)という指摘があった。

本プロジェクトは、この指摘を踏まえ、「安定性と流動性を両立するキャリアパスの仕組み」の構築を目指し、エビデンスに基づいた調査・研究を推進している。効率的な進行のために以下の1)を安田が、2)を宮川と田中が担当して、同時並行的に調査を進めている。

  • 1)人文・社会科学の視点――「流動する人材は単なる労働力や、統計上の数値ではなく、社会的制約の中で意思をもって行動を選択し、時に構造そのものを変革しうる存在である」という人間観――に基づきながら、「流動性が高まらない根本的な要因」について調査を進めている。
  • 2)本プロジェクト開始前から収集してきた多様なデータやエビデンスに基づき提案する「越境研究員制度」を中心として、調査・分析を進めている。

研究進捗の概要

現時点で本研究は、「流動性が高まらない根本的な要因」に関する調査結果と、流動性と安定性を両立する仕組みである「越境研究員制度」の有効性に関する分析結果を統合し、政策提言の基盤を整えていくことを目指している。

具体的には、個々の研究者や企業の行動様式、日本の大学や日本企業が置かれている制度的背景をふまえて、本研究が提案する「越境研究員制度」に修正を加えている。単なる制度設計にとどまらず、制度が定着・機能するために必要な社会的条件、そうした社会的条件の形成を促す政策やインセンティブ設計について考察を試みている。関係機関との意見交換をより一層活発に行い、制度の具体化を図る予定である。

これまでの調査で明らかになったことは以下のとおりである:

  • ●流動性を妨げる複合的要因
    流動性を阻害する要因には、多くの企業に共通するものがある一方で、企業ごとに異なる複合的な要素も含まれている。前者(共通する要因)には、新卒一括採用、メンバーシップ型雇用、社内研究者が事業展開や完遂にも関与する複数機能統合型R&D等が含まれる。後者(企業ごとに異なる要因)には、産業ごとに異なる制度や社会的文脈、企業ごとに異なる理念、価値判断の基準、顧客への向き合い方などが含まれる。これら多様な要因を包括的に考慮した対応策の必要性が、現時点で確認された。

  • ●競争的資金を活用した新たな雇用モデルの可能性と課題
    これまでの調査を通じて、「競争的資金を活用し、学内に任期のないポジションを設けること」が、本研究の目的である「流動性と安定性を両立する仕組み」として有効である、という考えに至った。しかし、これに対しては、大学関係者の多くが「実現は難しい」と捉えている。他方で、行政関係者からは「大学のマネジメントの工夫によって実現は可能」とする前向きな意見が寄せられている。

以上の成果に対して今後はさらに考察を深め、異なる産業分野や特性をふまえた検証を行うとともに、本研究が提案する「越境研究員制度」の社会実装に向けた具体的提案を取りまとめていく。それによって、実効性のある制度として、科学技術・イノベーション政策形成へ貢献する。同時に、次世代の博士課程進学者の増加、日本の研究力回復、国際競争力強化をも目指す。

主な成果発表実績

  • 安田聡子「アカデミアとビジネスの連携の多様な形」、『BIO Clinica』38 ( 14 ) 39 - 43202312.
  • ・安田聡子「国境、そして産学を越えた高度人材の流動がイノベーションには不可欠」月刊先端教育20254月号 26-2720253.

共進化に向けた取組とその効果

共進化のための意見交換ならびにディスカッションを通して、多くの気づきや学びを得た。内容が多岐にわたるため、ここでは主として「現状に係る行政官と研究者の認識の相違」、「本研究が提案する越境研究員制度に係るエビデンス」、「越境研究員制度の公益性」の3つについて報告する。

  • ●現状に係る行政官と研究者の認識の相違
    ・博士人材のアカデミア内でのキャリアパスについては、URAの育成・活躍促進の取り組みは行われているものの、ポジションの安定性、任期付き問題についての施策はほとんど検討されてこなかった。
    ・大学関係者のほとんどが、競争的資金を原資に学内で任期無しポジションを十分に創出することは困難と考えているのに対して、文部科学省・行政官は、間接経費の活用など、大学によるマネジメントの工夫により任期無し雇用はおおむね可能であると考えており、認識の相違が示唆された。

  • ●本研究が提案する越境研究員制度に係るエビデンス
    ・本研究が提案する仕組みは、多数の科学者・政治家・行政官・シンクタンク関係者との意見交換に基づくものであるものの、「政策立案のエビデンス」とする為には、より高い説得力が必要であることが、研究者と行政官とのディスカッションで明らかになった。

  • ●越境研究員制度の公益性
    ・越境研究員制度の公益性に対して、行政が制度設計を主導する必要性を説得的に示していく必要性があることが、研究者と行政官とのディスカッションを通して明らかになった。

研究成果・資料

※現在準備中です。