1. HOME
  2. 海外情報

海外情報

トピックス

2016年10月27日

SciREXセミナー シリーズ「変革期における科学技術イノベーション政策」 第2回:21世紀、世界の人口構造変化と日本 開催レポート

SciREX-科学技術イノベーション政策研究センター

 社会経済現象の基底には常に人口変動の働きがあり、今日の世界における目まぐるしいまでの国際情勢変化は、それらの関係がより強く複雑になっていることを示しています。アラブの春とユースバルジ、それらに端を発した動乱と大量難民の発生は一例に過ぎません。人口高齢化について孤高のフォアランナーとなりつつある特異な国、日本の21世紀における役割とは何か、またこのような変化を受けて科学技術イノベーションのあり方について、金子隆一さん(国立社会保障・人口問題研究所副所長)にご講話いただきました。

日時

2016年 9月 28日(水)18:30~20:00

場所

霞が関ナレッジスクエア エキスパート倶楽部

出席者

22名(行政:9名 研究・大学:6名 民間:7名)

話題提供者・ファシリテーター

金子 隆一 氏 国立社会保障・人口問題研究所 副所長

奥和田 久美 氏 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 上席フェロー

講演資料
講演概要

1.歴史的転換点にある日本の人口変化

 世界の人口推移を見ると、近代化とともに爆発的に増加し続けているが、ピークを超えたあたりで一定水準を保つと想定されている。このパターンは生態学では「ロジスティックカーブ(別名、S字カーブ)」と言い、生物は一定程度まで人口が増加したのちそれをキープすることを表している(スライドP2)。

 他方、日本の人口推移と今後の推計をみると、通常のロジスティックカーブを描いておらず、2008年をピークに急激に減っていく。日本では、明治期に人口増加が始まったが、今後は明治期の増加ペースと同じペースで減少に転じるとされている。しかし、これは単に一度経験した人口や社会を逆回しにして経験していくのではない。労働力人口の割合が減少しながら、高齢者の割合が増加するなど、人口構造の中身が大きく異なる。日本では1960年代の国民皆年金皆保険制度など、現代社会の基盤となる多くの制度が人口の上り坂で作られてきた。今後人口が下り坂に入り、社会の前提が転換していくなかで、これらの制度が従来通りに機能していくことはほとんど期待できない(スライドP4)。

  

2.地域別の人口シェア

 地域別の人口シェアをみてみると、今後増加傾向にあるのはアフリカと中国である。両国は2030年をピークに減少に転じる。またインドは、中国を追うかたちでピークを迎えその後に減少に転じる(スライドP9)。

 1950年、2010年、2050年で世界における日本の人口シェアを見てみると(スライドP6)、1950年では5位に位置していたのが、2010年には2%で10位、2050年になると1%で17位ほどまで下がっていくと推測される。1950年~2010年にかけて、中国、インド、その他のアジア諸国で人口が増える一方、先進国全体としては減少した。日本も相当の減り方をしている。今後はアフリカ地域における人口が増えると予測されている。

 

3.人口減少のスピードと高齢化


 人口増加率1%とは、70年で人口が2倍になるペースを意味する。たいしたことのないように感じるが、これが500年続くと人口は148倍、1000年続くと22,026倍となるから、爆発的な潜在力を持つことが分かる。逆に日本の人口増加率は今後21世紀半ばにはマイナス1%まで低下する見通しで、これが続くと70年後には人口は半分に、1000年後には日本人口そのものが消滅するほどの減少ペースに直面する(スライドP10)。

 また高齢者の割合についても世界の動向と比較することができる。高齢化自体は、どの国でも近代化にともなって避けることのできない共通課題であるが、その進み方は国ごとに差がある。その中で日本は、1990年代から高齢者の割合が急激に増え、いまや世界のトップを歩いている。スライドP12のグラフは縦軸が出生率、横軸が平均寿命を表しているが、日本は出生率が低く平均寿命は著しく長い。この状況に変化の徴候はなく、21世紀半ばまで続くと見られる。この極端な組合せが長期に続くことによって、急速な高齢化が生み出されていく。





 

4.少子化を解決したら、人口減少は止まるのか?

 たとえば、今、少子化問題が完全に解消したと仮定してみる。少子化を解消するとは、出生率が人口置換水準まで回復することを意味するが、今の日本では、たとえこれが実現したとしても、2070年頃まで人口は減り続ける。というのは、仮に女性一人ひとりが今よりも多くの子を産んだとしても、親世代の人口規模が縮小しているため、全出生数はそれほど増えないからだ。人口は増加を始めたら、その増加が止まるまでには長い時間がかかるし、いったん減少を始めたらその減少も簡単には止まらないという特性を持つ(人口モメンタム)。このメカニズムにより、日本の場合、今少子化が解消されても、2070年代まで人口減少は止まらない(スライドP13)。

  

5.人口ボーナスと、迫る人口オーナス

 次に、人口構造の中身に着目してみる。従属人口指数(年少人口と老年人口の和を生産年齢人口で割ったもの)は、働き手が自分以外に平均して何人扶養しなければいけないかという社会全体の扶養負担を表す指標である。日本の従属人口指数は、戦前において約0.7(1人で0.7人を扶養)であったが、戦後は出生率の低下と若年死亡の低下による生産年齢人口の増加とによって、0.4~5人程度まで下がった。これによって高度経済成長期に、労働力増加率が人口増加率よりも高くなる「人口ボ-ナス」を迎えた。人口ボーナスは、近代化の過程でどの国にも一度だけ訪れるとされており、経済成長を強力に後押しする。

 現在の日本は、人口ボーナスの逆、「人口オーナス」の状態に入りつつある。人口オーナスとは、生産年齢人口が減少し老年人口が増えたことにより、従属人口指数が高くなる現象である(スライドP14)。

 世界に目を転じれば、現在、中国と韓国は人口ボーナス時期で、続いてインドネシアが人口ボーナス期を迎える。世界の発展途上国が次々とボーナス期を迎える中、日本は世界の先頭を切って人口オーナス期を迎えていくのである(スライドP15)。

  

6.人口転換について

 長期的な人口構造をみるには、人口転換を見る必要がある。人口転換とは経済社会の発展に伴い、多産多死から多産少死を経て、やがて少産少死に至る過程のことである。

 地域別毎に合計特殊出生率の推移を時系列でグラフにしたものを観ると、2000年を超えたあたりで、はっきり2つの方向性に分かれる。一方は合計特殊出生率が回復する国、他方が低迷し続ける国である。米、仏、スウェーデン、英、は回復する国にあたるが、独、伊、西、ギリシャ、東アジア、日は低迷が続く国である(スライドP21)。

 かつて経済社会の発展段階と合計特殊出生率との関係について、人間開発指数から経済社会的発展段階が進むと合計特殊出生率は下がると言われてきた。しかし述べたとおり米、仏、英などを見ると2000年を超えたあたりから合計特殊出生率が上がっている。これによって人間開発指標が高くても合計特殊出生率が上がることが分かってきた。ではなぜ合計特殊出生率が回復する国としない国とに二極化したのだろうか。原因については現在も研究されているところだが、家族制度の違いが指摘されている。

 合計特殊出生率が上がる国と下がる国とで、それぞれ何が起こるのか。2050年の米、仏、独、日の4カ国を比較してみると合計特殊出生率の違いによって、人口構造が大きく変わってくることが分かる(スライドP23)。独は世界で2番目に移民を受け入れているが、人口構造そのものに変化に影響を与えているとは見受けられず、人口構造においては出生率の上昇が最も影響を与える。







7.移民の受け入れに可能性はあるのか?

 このような深刻な人口減少問題に対して、海外から移民を受け入れるべきだという議論もある。確かに移民を受け入れた場合、人口高齢化をある程度緩和できると考えられる。しかし、2060年までに日本の生産年齢人口は約3,300万人減少すると予測されおり、それを移民で代替するとなると毎年非現実的な規模の移民受け入れが必要となり、社会的影響も甚大なものとなる。また、世界の将来人口推計を見ても、若年人口が増え続けるのはアフリカぐらいで、今後はどの地域も高齢化が進むため若年人口が貴重となる。移民の争奪戦が起きた場合、移民は経済規模に応じて移動することを考えると、日本に定住するだけの経済的メリットがないと移民を受け入れることすらできなくなる(スライドP24~31)。

 

8.少子高齢化、人口減少社会への処方箋

 このような少子高齢化、人口減少時代において、われわれは何を持っているのか。それは、まさに「健康」と「長寿」である。

 1960年の男性65歳の余命と2010年の男性65歳の余命を比較すると7.1歳伸びている。また余命に関して1960年の65歳の余命11.6年を基準とすると、2010年時点では74.8歳に相当し、健康寿命が延びていることが伺える。1960年の65歳以上を「高齢者」という定義に当てはめると、現在だと75歳以上を「高齢者」にすることが妥当となる。

 このように平均余命と健康度を加味した計算によって「高齢者」を定義し直すと、通常の定義で約40%であった2060年の高齢化率は、約20%にまで下がる。また従属人口指数についても2060年には従来定義で96.3%のところ、新たな「高齢者」定義に基づくと、40.7%にまで下がる(スライドP42~44)。

 健康と長寿を活かすことができれば、高齢化社会は扶養負担が重くのしかかるだけの社会とは限らない。ただし高齢者が健康になっているから、たとえば年金支給開始年齢を引き上げようという単純な話ではない。そのことを踏まえ、本当の意味でお年寄りの経験と知識を活用する社会をつくることができれば、少子高齢化の抱える課題を乗り越える可能性は十分にあるだろう。そしてそのような社会システムを世界に先駆けて日本が作ることが出来るのならば、それは「21世紀モデル」として世界へ発信できるものになるだろう。このように技術革新だけでなく、技術革新を最大限に活かせる社会イノベーションの実現が最も重要であり、実は最も難しい。

 

(文責 SciREXセンター事務局)

アーカイブ