研究開発投資や情報処理投資などの無形固定資本としての知的資産の蓄積が関連する財・サービス部門の生産効率に影響する構造を分析する論理的な枠組を投入・産出表を用いて提示し、1995年以降の我が国低成長の背景を探る。
2004年、 (Kuroda-Nomura (2004))において、商品生産の静学的ならび動学的な技術の構造的リンケイジを通じた技術進歩の波及効果の測定の枠組みを提示した。そこでは、静学的ならびに動学的技術波及が及ぼす影響を伝統的な全要素生産性の測定量を「静学的ユニットTFP(static unit TFP)」と「動学的ユニットTFP(dynamic unit TFP)」の二つの測定量に分化して評価することを提案した。技術の波及が単に中間原材料の波及を通じて生ずるばかりではなく。有形固定資産投資として蓄積された有形の資本ストックを通して動学的に波及するかを示した。
21世紀に入って、科学技術の深化は、知識の蓄積という無形の固定資産の蓄積を通じて、有形無形の資産に体化されることによって、社会構造を大きく変化させているといわれている。情報技術の進歩が、研究開発投資の効率性を高め、さらに、その知的知識の集積が情報通信の進歩を通じて、トランス・サイエンスを生み、その功罪両面でグローバル社会の構造を大きく変移させているのは、われわれがまさに、日々実感しているところである。
研究開発投資や情報処理投資などの無形固定資本としての知的資産の蓄積が、それが関連する財・サービス部門の生産効率に影響する論理的な枠組みを提示し、それが生産部門の投入の構造に影響するメカニズムを投入産出表に陽表的に組み込み、その技術的な波及効果を測定する枠組みを呈示する。研究開発投資を政府および民間非営利団体の公的研究開発投資、民間産業としての研究開発部門の研究開発投資、ならびに各産業部門内の企業内研究開発投資に区別して、それぞれが関連産業部門の生産活動に係わる構造を投入産出表に組み込む。また、情報処理活動によるソフトウェアーやシステム開発などの情報処理関連の無形固定資産の蓄積を、それを推進する情報処理産業やインターネット等の通信関連産業および各産業部門の企業内情報処理活動など情報関連の無形固定資産の開発投資として体系に組み込む。この分析手法が、科学技術政策の将来シナリオを描くために役立つことを期待している。 |