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成果・資料

【CRDS】第4回「科学技術イノベーション政策の科学」構造化研究会議事録

第4回「科学技術イノベーション政策の科学」構造化研究会
 
平成24年11月22日(木)

○己斐 そろそろ定刻ですので始めたいと思います。
 では、これから第4回「科学技術イノベーション政策の科学」構造化研究会を開始させていただきます。
 私はCRDSの己斐です。司会を務めます。よろしくお願いします。
 それでは、早速ですけれども、CRDSの黒田上席より開会のご挨拶をしていただきます。
○黒田 皆様、こんにちは、黒田でございます。最初にごく短くきょうの趣旨と今までやってきたことをサマライズしたいと思います。
 前回この構造化研究会をやったのは8月2日でございましたけれども、「科学技術イノベーション政策の科学」の成果を政策実装にどう結びつけるかということで、「政策オプション」と我々が呼んでいるものの具体的な検討をいただいたというのが前回のこの研究会の課題でございました。そのとき、政策オプションとは一体何かということを初めてお聞きになる方もいらっしゃっていろいろな形で議論が紛糾しました。
 政策課題と言ったときでも、その課題を発見すること、もしくは、課題を特定化すること自身、選択の余地があるわけで、いろいろな価値観を持った方々がその課題をどう選択するか、そこにもまた何らかの課題が及ぼす影響、それを解決することの難しさ等々のいろいろなオプション、選択の余地があるわけで、政策を考えるときには、当然のこととしてどういうことを課題とするかということは一つの重要なテーマであると思っています。
 その次に、ある課題を設定したときに、その課題を解決するために、ここで考えている科学技術、そして、科学技術によって起こるであろうイノベーションを、どういう政策手段でどういう形でやるかという、もう少し具体的な政策の設定ができることになるんだろうと思っています。前回はかなり前広に政策オプションを言っていましたので、若干議論が発散した傾向もありまして、今回はもう少し絞らせていただきました。政策の課題としてはある程度粒度を決めて、こういう課題に向かってやろうと。
 例えば、私どもが今考えておりますのは、どの程度の粒度かというのは考え方によっていろいろあると思いますけれども、予知予防医学によって健康長寿社会を実現するという社会的課題が仮に与えられたとしよう。そうしたときに、その予知予防の科学技術を、現在の水準がどうなっていて、将来どういうふうに発展していって、それを発展させるにはどういう政策をどういう形で用いればいいかということについて、政策手段の選択のオルタナティブが出てくるであろうと。そのオルタナティブを示せるような形のものを、仮に「政策オプション」と言わせていただきますと、そういう政策オプションをつくって、その中から何かのオプションを選択して政策を実行する。
 その選択するプロセスは社会全体として合意形成の場が必要ですから、非常に問題が大きいわけで、課題を選択するほうと、特定の課題について示されたオプションの中から政策手段をどのオプションにするかという形で選択すること、その両方についてはもっと大きなフレームの中での合意形成の場が必要だろうと考えています。SciSIPの拠点校の中には、そういう社会的課題を問題にしている、もしくは社会学的な見地からそういうことを問題にする拠点校もおありですので、そういう知見を借りながら、そちらにも話を将来広げていかなければいけないと考えているところでございます。
 そういう意味で今回は比較的粒度を限った形で、少し狭い範囲の政策オプションと言ったときに、その政策オプションのフレームワークは一体どういうものになるんだろうかということを考えてみましたので、塩崎さんのほうから、課題を練って、我々の考え方を説明いただきながら、きょうご出席の先生方からいろいろとお知恵を拝借したいと思っています。その部分については大きく分けて2つあります。
 1つは、ある粒度で定まった政策課題と、科学技述等々を結びつけるというのはどういうことなのか。現実の政策課題の問題は何なのかという意味で、その定まった粒度の中での政策課題の内容を明確にすること。これもいろいろな方法があり得ると思いますので、それがまず第一にやらなければいけないこと。2つ目の課題としては、ある種の粒度を持った政策課題に対応した政策のインスツルメントが、オルタナティブが並んできたときに、その組み合わせによって、その実行が経済社会にどういう影響を及ぼすかということを評価するシステムをつくること。これが2つ目の課題だと思っていまして、2つ大きく分かれた課題がきょうは議論されることになると思います。
 今申し上げました順序でオプションづくりは進むと思うんですけれども、セッションは先生方のご都合もあって逆になっていまして、最初に2つ目の課題からスタートさせていただいて、1つ目の課題に移っていくということにさせていただきたいと思います。大変にお忙しい中、たくさんの先生方にお集まりいただきまして、ぜひ活発なご議論をいただければと考えています。どうかよろしくお願いいたします。
○己斐 それでは、早速、セッション1、「政策オプション作成のためのフレームワークの検討」と題したセッションに入らせていただきます。
 まず、CRDSの塩崎フェローよりこれまでの計画オプションの検討内容についてのご紹介を差し上げます。
○塩崎 ただいまご紹介にあずかりましたCRDSの塩崎です。今、ほとんど黒田先生から口頭で話をさせていただいたと思いますけれども、きょうのテーマでの議論を円滑に進めるために、事前に頭に入れていただければということで、CRDSのほうで考えているフレームワークの提案について、再度ご説明をさせていただきたいと思います。
 これは、これまでも何回か出ていることだと思いますけれども、科学技術イノベーション政策の科学をきちんと回すためにはどうするのかということで、普通、社会資源のほうから始まると考えておりますけれども、社会とか自然をきちんとエビデンスベースで俯瞰し、それで政策課題の発見・発掘を行うと。それをきちんとエビデンスを分析して、どういった政策手段でやれば解決できるのかというところを考えて、第2回の検討会でも議論があったと聞いておりますけれども、政策オプションを立案すると。
 それを合意形成などの手段によって政策を決定し、実施する。それを実施したことをもって政策評価を改めてやって、また社会・自然を見てというような形でぐるっと一回回す。これを回して行くことによってよりよく政策を進めていくという考え方に基づいている。その中でも、合意形成の手法というのは非常に重要な話ではあるんですが、先ほど黒田先生からも話がありましたように、今回は、社会・自然を見て政策オプションを立案するまでの、政策オプションの作成というところに着目して議論を深めていただきたいと考えているものでございます。
 前回、政策オプションはどういうものなのかという話も出たと聞いておりますけれども、ビジョンが決まりまして、政策課題という形、通常、政策目標と書いてあるところもあります。こちらはちょっと文字が小さいので配布した資料でごらんいただければと思いますけれども、ビジョン実現のために抽出された政策課題の解決に向けて時系列に、特に研究開発の場合には今現存しなくても、将来、研究開発投資をすることによって実現可能な技術として発現してくるものがある。
 そういったところも含めて時系列を考慮しつつ、とり得る実行可能な政策手段の組み合わせと、その社会的・経済的影響、そういった評価の結果を合わせて政策オプションと。ただし、達成目標に対して必ずしも1つだけのオプションではないという可能性もありますので、複数の選択肢で示されるものと、こういう形で政策オプションを定義してはどうかと考えているということでございます。
 政策オプション作成のフレームワークですけれども、これも先ほど黒田上席から話がありましたように、実際には先ほどのぐるっと回す一連の作業の中ではあるんですが、頭を整理するために政策課題の設定、達成目標の設定が出るまでの段階と出た後の段階という二段階に分けてみようと。実際の作業では複数に分けられるかもしれませんけれども、ここでは二段に分けて考えてみたらどうかということでございます。
 まず左側のほうですけれども、政策課題設定の構造というところでどういうことを行うかということでございます。エビデンスによる現状を把握して、2×××年、ターゲットとする年代でどういった望ましい社会を描けるのか。そういうのを「将来ビジョン」とここでは書いておりますけれども、そういう議論。それからもう一つは、このエビデンスから将来トレンドを考えていったときに、ターゲットとするところでどの程度の、このままでいくとどういった社会になるのかというものが出てくる。そこをそれぞれ突き合わせて、どういった望ましい社会にしていくのか、そこを接合させる。その接合した目標を達成するためには、どういう達成目標を置いて進めていかなければいけないのかというところを議論するという形になるわけでございます。
 ただし、ここにまたループが入っておりますけれども、ここは例えば政策ビジョンが非常に大きい場合、粗い場合と言ったほうがいいでしょうか、実際にここで求めるのがもっと細かいものであった場合には、ここで何度かループをさせることも考えられるのではないかということで、ここに1つ矢印を置いてグルグル回すというループも考えているということでございます。
 ここで将来ビジョンが決まりますと、次に、先ほど申しましたように達成目標を設定することが必要になるわけです。将来ビジョン、これが望ましい社会の姿として、その社会をどう見ればいいのかという、見るための指標が達成目標という形になるわけですけれども、その目標1つで見ることはなかなか難しいだろうということで、ここに3つぐらい書いてありますけれども、複数の達成目標を立てて多面的に社会を見ることが必要になるのではないか。
 その達成目標の設定に当たっては、具体的にどんな手段があり得るのかというのを、エビデンス、それから、将来トレンドの把握の中から、どんな手段があるのかということを、ここに「政策手段俯瞰」と書いてありますけれども、そういった作業を行って、どういう形で達成目標を設定したらいいのかということを次に議論するという作業が入ってくることになります。
 実際にこちらのほうに移る過程になるんですけれども、ここで複数設定された目標がすべて達成されれば望ましい社会が実現されるとは必ずしも言えない。例えば、ある1つの目標が達成されても、2つ目の目標はトレードオフで別な部分が悪くなる可能性もある。そういった複数の達成目標を全体的にどう評価するかと、そういった指標も併せて設定する必要が出てくるのではないかと考えております。その指標というのは、後ほどお話しする政策オプションの社会的経済影響評価の達成のところで、その指標を用いて見ていくという形になるのではないかと考えています。
 そういう形で達成目標と指標を同時に設定し、それが設定されると、いよいよこちらの政策オプションの作成という段階に移ってくると思っております。ここで重要なのは、あくまでもここは科学技術政策のイノベーションによる科学ということですので、ここの中には恐らく科学技術的なもの、制度的なもの、いろいろなものが入ってくると思いますけれども、こちらのほうで政策手段として選択していく場合には、科学技術的なものを主に考えていく必要があるのではないかと考えております。
 ここの政策手段の中が、一枚前のスライドでご紹介いたしましたけれども、実際にはいろいろな政策手段がある中で、どういった組み合わせでつくっていけば、それは時間的なことも考えなければいけませんけれども、それを組み合わせたらこういった目標を達成できる。そういったオプションを幾つか考える。そして、考えられたものについて、それぞれ社会的経済影響の評価を実施する。そのオプションについて社会的影響評価の結果を、この指標と比べてみてどうなのかというところを見ると、ここに複数の組み合わせができて、社会的な影響評価が行われるわけですが、それぞれのものについてトレードオフするものが違ったもので政策オプションが出されてくるだろうと。
 それをどういうもので実現するかということについては、次の段階の合意形成のプロセスで、こういったトレードオフがあるけれども、こういったものをとるのではないかといった議論が行われて、実際の政策決定につながる。政策決定につながればぐるっと回ってまたこちらのほうに戻ってくると、そういった流れの中で政策手段、政策オプションを考えていったらいいのではないかというふうに考えているわけです。
 今回、ぱっと考えただけでも幾つか論点が出てくるだろうと思っていますし、これから紹介されるいろいろな取組みをうまく活用していったら、よりよい検討ができるのではないかと思っておりますけれども、白地から議論するのではなくて、そういったものをベースとして、先ほど黒田先生からもありましたけれども、一回とにかく回してみて、どういうところが足りないのか、どういうところを工夫したらいいのかということを洗い出していくという作業が必要なのではないかと思っております。
 今回は、そういう意味でテーマ1のほうで政策オプションを、テーマ2のほうで政策課題の構造について、議論を深めさせていただければと考えております。前回、議論を受けて政策のアクションについてどうなのかということを問われましたので、ここの説明はちょっと省きますけれども、こんなふうに考えてはどうかと考えている次第でございます。
 以上でございます。
○己斐 CRDSからの検討の紹介は以上でございまして、早速ですけれども、塩崎より説明がありましたテーマ1の政策オプションの作成の構造、社会経済影響評価についてのディスカッションに移らせていただきます。
 申しおくれましたけれども、先ほどからベルが鳴っておりますが、これから有識者の先生方にコメントをいただくときに持ち時間があると思うんですけれども、終了の1分前に一度予鈴を、終了時に2回鳴らさせていただきます。
 では、テーマ1の導入を、CRDSの岡村から差し上げます。
○岡村 CRDSの政策ユニットの岡村です。よろしくお願いします。
 テーマ1のほうは、科学技術と社会経済の連関をいかに描き出し、政策につなげるかというところで議論をしていただきたいと思います。
 構成としては、お手元のプログラムにあるとおり、まず4名の先生方に様々なアプローチから視点を提供していただきます。その後、GRIPSの後藤先生よりコメントをいただきたいと思います。その後、モデレーターを黒田先生にお願いして、フロアも交えましてディスカッションを行いたいと思います。
 先ほど来この絵が出ておりますが、テーマ1はこちらのほうだということですね。いろいろな政策課題をテーマ2のほうで議論しますので、そこが設定された後の話だというふうにご理解いただきたいと思います。その後に政策の手段を決めていって、実際に政策を講じたときにどういう社会経済影響が起こるのかということを導き出すときには、科学技術と経済がどういうふうに結びついているのか。それは経済的にも社会的にもどういう影響があるのかというのは当然考えていかなくてはいけないので、その関係づけを詳細に研究していく必要があると思います。その観点からきょうは4名の先生方にお話しいただきたいと思います。
 これはCRDSのほうで簡単に描いた科学技術と社会経済の関係図でして、非常に雑駁な大きな図なんですが、いろいろな政策があって、政策と関係ないところもあっての科学技術があって、それがイノベーションであったり、そのままの形で経済社会に影響を与えていくという姿があると思います。いろいろな要素があっていろいろなパスがあると思います。経済の中では生産というパスもあるし、雇用関係とかいろいろなパスがあると思います。もちろん、経済活動だけではなくて、非営利的な活動であったり、社会・文化的価値を創出するという形で影響を与えていくこともあると思います。
 いろいろな側面がありますので、きょうすべての側面を網羅することは当然できませんので、それぞれの先生方がやっていただいたアプローチを紹介していただくという形で議論をしたいと思います。いろいろなアプローチがありますということをここに少し、これもあまり網羅的な整理ではありませんが、政策に注目したアプローチとか、科学技術イノベーションシステムの中を見るアプローチ、あるいは、それが社会経済全体に及ぼすところを見ようとしているアプローチとか、いろいろなアプローチがありまして、これはどれか一つやればいいというものではなくて、統合的に使えるところを使っていくべきではないか。もう一つは負の影響とか、社会的な影響が非常に注目されておりますので、リスクを見る分析も併せて行っていく必要があるのではないかと考えております。
 最後にディスカッションをするのですけれども、そのときの論点として少し挙げさせていただきますと、科学技術と社会経済との関係といっても、科学技術をどのレベルでとらえるか。ミクロ・レベルなのか、マクロ・レベルなのかということを、それぞれの先生がいろいろなフェーズでご研究されていますので、その辺を今後どうしていくのかということも論点の一つだと思います。もう一つは、ミクロ・レベルをマクロ・レベルにどうつなげていくのかということも一つの論点だと思います。
 もう一つは、モデルに含むことが難しい要素ですね、社会的・文化的価値の創出であったり、定性的なリスク評価をどうとらえていくかということがもう一つの論点。あとは、きょう議論に出てこなかったその他の必要な視点・アプローチなどあると思いますので、そういったことを議論していただければなと思います。
 以上で、私のほうの導入は終わります。
○己斐 それでは、順番に有識者の先生方からコメントというか視点の提供をしていただきたいと思います。
 まず、慶應義塾大学の野村先生、よろしくお願いします。
○野村 野村と申します。この研究会に参加させていただくのは今回が初めてですので、ターミノロジーも含めまして、いろいろとロジックとか、皆様の議論の蓄積を反映していないとか、そういう部分でトンチンカンな部分もあるかもしれませんが、私に期待されている役割としまして、エネルギーのモデルで20年近くやってきておりましたので、そういうものの経験から経済と科学技術との接合をどう描くかということについて、もう少し一般化した話をしたらどうかということを期待されていると思いますので、最初、導入部分でエネルギーの話から初めまして、ライフで考えてきた部分を少しお話させていただきたいと思います。
 まず、エネルギーの政策評価が環境政策の経済モデル評価をやってきたわけですが、20年前ぐらいに黒田先生と一緒に経済モデルをつくろうと。そうしたときに、課題は地球温暖化の緩和政策をしようとしたときに経済的な影響をどう評価するかということでございました。そういう問題の認識に始まって、実際に必要になるものは物量との対応、経済変数と物量というものがしっかりと接合していなければいけない。物流とプライス、単価及び経済変量、名目値もそうですし、そういうものが整合していないと経済としては描けない。また、COの排出量もございますので、そういうものとの対応をどう描くかということが一つの大きな課題でございました。
 もう一つは、それを経済現象としてどういう課題として受け取るか。経済学として、経済モデルとしてどういうふうに描写する必要があるのか、それが社会構造的にどんな意味を持つのかということを考えて、それを表現するモデル構造が必要になると。そのためのデータ構造をつくると、データベースを開発するということが90年代初めの課題でございました。
 2000年代の初めになりまして、その10年後ぐらいにやっておりますと、経産省のほうで長期エネルギー需給見通しというのがございまして、その中で、エネルギーですので、工学モデル、技術モデルとか要素積み上げモデルとか非常に細かいものを積み上げるアプローチも一方であるわけです。それとの整合性の問題が非常に大きな課題になっておりました。その中で、ハイブリッド型の変換と言いますか、電源構成モデルとか、家計エネルギー消費とかいう部分について、より詳細な狭義の経済学のシミュレーションの中ではなかなか描けない部分の構造的な改革をしてきた。
 2011年の震災を受けまして、今回、2カ月ぐらいの予定であったのですが、結果として4~5カ月時間が伸びまして、寿命が縮まるような思いだったのですが、エネルギー環境会議の夏の議論まで含めて、春から長い議論とシミュレーションの繰り返しがございました。そういう中での課題は、ご承知のとおり低原発とか脱原発、あるいは、再エネ推進、電力価格の上昇、そういうものを経済の中でどう描くかと。
 再エネ推進は非常に大きなコストでございますし、負担と受益というものが、今、負担して将来に受益をするとか、あるいは、将来のプライスは下がることが見通されていますので、そういうものをどうとらえるか。あるいは、FITという外部的な政策がない限り何も入らないわけですが、そういうものに関して、その政策手段をとった場合にどんな影響があるかということを経済上どう描くか。
 原発を止めた場合には未回収のコストも生じますし、あるいは、再稼働するとすれば、それにはもちろん保険等のコストがかかる。そういう部分に関してどのようなシミュレーションをすべきかという議論がずっと行われておりました。これの背景においては、去年の年末からずっとやっていたわけですが、今度はグリーングロースというものの中での特定化をどう描くかということが課題になってきています。
 ちょっと図式しましたけれども、問題の認識から始まって、経済モデルとして、やや粗いけれども、網をかけていくと。その中からモデルの構造を改造し、政策シミュレーションを行い、また、問題の認識は進化するとというサイエンスのプロセスをたどってきているのだと思います。
 グリーングロースに関しまして、経済データとの接合はどうなっているかということですが、まず第3象限と言いますか、政策課題の左側で省エネを推進する、再エネを普及させるとか推進すると。低炭素社会をつくるという課題があって、それを実現する政策手段が、下のほうのY軸のマイナスのほうにあります。これはサンプルでありますが、そういうものがいろいろある。
 それぞれの政策課題に対して寄与するものがある。その寄与するものが具体的にどんな政策効果を持つのかという形で、今度はX軸の右側のほうになりますけれども、第4象限ですか、グリーンのところで、例えば家計の動力の節電につながるとか、冷房につながるとか、省エネにつながるとか、PV、太陽電池の普及につながるとか、経済的手段もあれば、直接規制みたいなものもありますし、あるいは、公的なR&D、バイオの話とか、従来の公共投資で道路を改善したことによって立体交差することでCOの排出量を減らすというものもございますし、森林保全もありますし、CCSというカーボンのキャプチャーをする、直接的にカーボンをとってしまえという話も長期的には出てまいります。
 そういうものによっていろいろな政策効果がある。その政策効果を描くための経済モデルですので、経済モデルの構造上、経済主体と生産物というものに大きく分けていますが、経済の分類を決めなければいけない。分類というのは先に与えられて所与であるかのようなイメージが通常あるわけですが、我々のモデルにおいては、本来それ自身がどう設計するかということで非常に重要な意義があるわけです。そういう意味では、それを描写するに十分な生産物とか経済主体の定義がまず必要になる。そこでは新素材とか、あるいは、資本財で言えば蓄電池とか、イングラムCCS、そういうものの評価も必要になってくる。
 もう一つは目的分類というもの。財ではないんだけれども、財をセットとして集めたときに目的分類という、エネルギーで言いますとエネルギーの用途、家計の消費用途みたいなものがございます。冷房とか暖房用途、動力とか、そういうものの用途という目的分類も必要になります。それから、自然資産、自然という分類、経済からと外れた部分の分類も必要になる。そういう形の中で構造を描くための拡張が必要になってくる。
 これをライフに拡張したものが次の図でございます。ターミノロジーもいろいろおかしい部分もあるかもしれません。私はナレッジか全くないわけですけれども、知る範囲で思いつくままにイメージとして書いてまいりました。治療とか診療、予防医療と介護・福祉というものがあって、それがどんな政策手段をとり得るかというのが下のほうにあります。中にはたばこの課税というのも書いておきましたが、経済的手段もあるでしょうし、介護のロボットとかいう資本財のものもあるでしょうし、医療機器とか新薬の開発とか、R&D関係、ヘルスケア産業の育成等もあると。
 それがどんな政策効果を持つかということで、健康のX軸の右側ですが、心臓疾患とか病気別のいろいろなものに対しての影響を持つと。これを非常に細かく描くことが、右側の四角に書いてありますけれども、イノベーションの評価ができるように十分に細分化した、この緑の体系をつくることが重要になるだろうと思われます。
 それを受けて、それを表現するためのモデル構造なり、各種の分類がまた必要になる。そして、経済主体としては、家計部門も、性別・年齢階層別生活習慣とか、所得別に分解しなければいけませんし、医療機関は細かく描かなければいけませんし、保険・介護サービス、あるいは、医療周辺サービスもございます。
 生産物に関してもいろいろなもののサービスを分類しなければいけない。生産物は目的と書きましたが、目的分類というのは、経済の場合はサービス産業、サービスというのは目的分類も含めて生産物として定義されますので、生産物分類として入ってもいいかもしれません。
 あるいは、非経済活動という部分も少しあると。少しというよりはかなりあるかもしれません。通常の場合には、ヒューマン・キャピタルの改善につながるとか、ヒューマン・キャピタルの蓄積につながるという形で、健康とか治療というものを評価するんでしょうけれども、高齢者の治療に関しては、ヒューマン・キャピタルというメジャーで見ますと、将来の労働力ではございませんので、余暇時間の増加とか、あるいは、いろいろなケータビリティとか余暇時間の質みたいなものを評価する必要があるのだろうという形で、第1象限の設計が必要になる。こういうものを先に見通して経済モデルの姿をつくっておく必要があるのだろうと。
 もう少し具体的に見たときに、現行の経済統計における産業連関の分類でいきますと、医療サービスに関してはは左側の分類ぐらいしか主体としてはございません。これを、ICHAという保険勘定の国際分類がありますけれども、それの中での供給者分類というもので見れば、3桁までが存在していますけれども、それもまだまだ非常に粗い。もう少し拡張していかない限り、ライフのイノベーションにおける産業における経済活動、医療の活動における技術進歩を評価できませんなので、さらなる細分化が必要である。それによって投入表等が得られて、例えば新しい医療機械とか技術の開発が、医療サービスの質の向上とか、生産費の低下というものを描けるものになるだろうと思っています。
 時間がないので次のほうにいきまして、生産物部門でも同様に、現行の経済統計では生産物分類はほとんど主体分類そのものですので、ほとんど意味がないという感じがございますが、それを財・サービスとして4桁から5桁、さらに治療というものに関しても、治療法は複数あると思いますので、そういうものに関しての細分化をしていかないといけないというイメージでございます。それによって、医療のサプライ表と言いますが、どんないい治療がどの主体によってつくられているかということを考えなければいけない。
 それを受けて、そういうサービスを誰が買っているかというところで性別・年齢別所得・階層別生活習慣とか、あるいは、地域別の特性もあると思いますが、そういうものの消費の構造をとらえることによって、医療サービスの価格低下が、他の家計消費を増大させるかもしれませんし、医療サービスの人的資産を上げて労働供給に変えるとか、あるいは、外生的な要因が先ほどの社会構造の変化から問題を抽出するという意味での描写が可能になるという構造になるかと思います。
 駆け足でしたが、失礼いたします。
○己斐 ありがとうございました。
 それでは、続きまして、一橋大学の楡井誠先生、よろしくお願いします。
○楡井 一橋大学イノベーション研究センターの楡井でございます。よろしくお願いします。私も、構造化研究会に参加するのは初めになりますので、貢献できるか心もとないですが、一つの視点の提供として、今、私が始めているプロジェクトを紹介させていただきたいと思います。
 この秋からJST/RISTEXの委託をいただきまして、「科学技術イノベーション政策の経済成長分析・評価」という3年間のプロジェクトを始めているところです。このプロジェクトは基本的に現在標準的に使われている経済学理論を下敷きにして、特に成長理論を下敷きにして、それに科学技術イノベーション政策を導入すると。それによって、国民経済構成への効果を測定するモデルを開発し、個別の政策でどのような政策が望ましいのかという立案に寄与するような検討を行いたいと思っています。
 この基本的な成果としては、経済学的には、一言で言えば、経済成長理論の定量的な研究に科学技術セクターを明示的に取り込み、その政策効果を評価するものであるということだと思うんですが、その学術的な研究に関心を集中させるのではなくて、このプロジェクトの成果としては、経済学を専門としないような、特に政策立案に携わる方々あるいはステークホルダーに理解され、また使われるような成果を出していくということを目的にしています。そのためにウェブサイトも立ち上げましたし、いずれはポリシーブリーフや書籍等を書いて還元していきたいと思っています。
 また、政府の中で似たようなモデル、経済政策にかかわる分野で研究がされていますので、そことの連携を図る。あるいは、科学技術分野でNISTEPなど政府機関が研究していますから、そことの関係を有機的につないでいくということを目的にしています。
 最後にこの分野は経済学の中ではそれほど層の厚い分野ではありませんので、なるべく若くて元気のある、アイデアのある人たちをリクルートしてチームをつくりまして、その人たちにこの研究をどんどんやってもらうと。その際には、この分野の政策における経験のある行政官の方々、あるいは、研究に携わってきた方々と活発に議論を交換して、なるべくレリバンシーのある研究をしていく、そういうようなコミュニティをつくるということを大きな目標にしております。
 科学技術イノベーション政策に役立つような研究をするということですが、この研究は、左下の部分、理論を明示的に提示し、仮説を提示して、データを使ってそれを検証する、そして、予測するというタイプの研究になると思います。これよりもよりデータに寄り添った研究、例えばナガオカ先生が定性的なケーススタディをなさっていますし、データ間の相関関係で言いますと、深尾先生が精力的になさっている。それらの先生方の研究と補完性のある研究プロジェクトなのではないかと思っています。
 政府の中での経済モデルというのは戦後ずっとあります。特に内閣府を中心に開発しているモデルがありますし、それも国民経済計算体系のデータ収集・構築と両輪になってやっているものですから、今後もずっとあり続けるし、それを発展させていかなければいけない。その枠組みの中での科学技術セクターの取り込みという努力も進んでいるところです。私が提案するのは、従来型のモデルから、学会のほうは次に進んでいるところがありまして、動学一般均衡モデルと総称されますけれども、そういうものが最近学会で使われております。それを政府の中でインプリメントしていこうというのが日本や欧米で進んでおりますので、その中で科学技術イノベーション政策に特化したモデルという特色を持つというふうに位置づけられるかと思います。
 旧来型のモデルと新しいモデルの違いは何かと言いますと、旧来型のモデルはデータを構築するんだと、全くない状態から始めてどのように整合的にデータを集めることができるのか、どのように概念づけすることができるのか、どのように分類することができるのか。そして、基本的なそれらの関係はどうなのかというところに関心を集中してきたモデルだと思います。そこから次に行ったときに、そのデータを使って政策に役立てようと。こういうことをやったらこういうふうに変わるんじゃないだろうかということの推測にこのデータを用いようとするわけですが、政策に用いるためには、単にデータがあるだけではなくて、あるいは、単に相関関係がわかっているだけではなくて、どこを動かすとどう変わるのかという因果性がわかっていなければいけないのではないだろうかという批判がありました。それで学会のほうが新しいタイプのモデルに移行したという事情があります。私たちもその因果関係を仮説として明示するタイプのモデルに関心を集中しています。
 これはざっくりとした絵ですけれども、日本の経済成長をプロットしたものです。長らく経済成長論では、経済成長の3要因として資本の蓄積、労働力、生産性の向上、その3ファクターに注目してきました。この3ファクターをそれぞれ正しく計量する、それぞれに対して効果のある政策を考えるというふうに問題をブレークダウンすることができると思います。科学技術イノベーション政策の対象としてはやはり生産性の向上が一番大きいだろうと。だけど、資本の質あるいは労働の質の向上にも大きく関与するのではないだろうかということで、私たちのプロジェクトの中で3つの班に分けまして、それぞれに対応する政策を研究しているところであります。
 そのアウトプットとしましては今後の予測ですね。このまま何もしなかったらどのような成長が見込めるのか。もしこれこれこういう政策を打ったらば成長率がどのように変わるのか。我々の推測は我々がモデルの中で考えてどれぐらいの推定エラーを持つものであるのか、こういう要素について定量的な答えを出していく。多分推測エラーが非常に大きいものになるとは思いますけれども、そういうモデルを開発するんだ、それをみんなに提示するのだということを目的にしています。
 その中身は何をやるのか、特にいかにして科学セクターをモデルに導入していくのというところが一番の頭の使いどころだし、おもしろいところだと思います。ここも今後ずっと考え続けるところでありますが、科学と経済成長。ご存じのように半導体の成長においてムーア法則というのが知られています。ムーア法則の何がおもしろいかというと、これは低成長なんですね。半導体の密度が年々同じ率で成長していくと。低率成長というのは何で起こるのかということを考えますと、単純に考えるとXの増加分がXに比例するというときに低率成長が起きるわけですね。それはどういう状態かというと、つくった成果物がつくるための生産要素になる場合に低率成長になるわけですね。そう考えるとムーア法則というのはわかりやすい。要するに半導体の密度が上がっていくと。そうすると半導体をつくるために必要な製造機器あるいはデザイン機器の性能が上がる、それによって半導体の性能がまた上がるというフィードバックが働いているんだろうなと。こういうのが一つの成長メカニズムと考えることができます。
 同じような発想が経済成長に関しても言われてきています。経済成長というのはいつか終わるんじゃないだろうかというのが1950年代以前、あるいは、戦後もかなり長い間、人々のおそれでした。従来の経済学では科学的な知識の発展というのが外生的に起こっていて、なぜか知らんけれども、それは無限に続くから、経済も無限に発展するんだろうということだったのだけれども、そうでもないでしょうねと。
 特に現在のように科学技術を発展させるために相当リソースが必要な場合、もしもリソースが枯渇したら科学技術も発展しなくなって、経済が成長しなくなるというふうに考えられます。ここでも、先ほど言ったようなフィードインメカニズムが働いていて、科学と経済成長というのはお互いがお互いのリソース、インプットになることで低率的に成長しているんだろうなと考えるのが内生的経済政治理論です。
 なので、経済学の考えからすると、科学技術セクターを中に取り込んでいくときに大きてインセンティブがあるわけで、それが内生的成長ですし、財政政策というのが今までは経済の安定化ということを目的としていたんですが、最近は経済成長へ目的が世界的にシフトしております。特に日本ではキャッチアップが終わったということがありましたし、90年代は随分財政刺激をやったんだけれども、うまくいかなかった、あるいは、今後は負債が大きくて少子化があって未来が暗い。なので、教育あるいは科学政策を経済政策として、成長政策としてやっていかなければいけないというコンセンサスができつつあるかと思います。
 時間がなくなっちゃいましたが、そのような枠組みで研究開発をしているところです。このアプローチだけがすべてだと言うつもりは全くありませんが、一つの科学技術イノベーション政策を考える上で役に立つフレームワークになるのではないかと期待しています。
 以上です。
○己斐 どうもありがとうございました。
 続きまして、GRIPSの鈴木先生、どうぞよろしくお願いします。
○鈴木 鈴木でございます。この研究会とかNISTEPでやられているいろいろなミーティングなどでも、同じような話を何回かさせていただいたので、どこかで見たことがあるようなスライドかもしれませんけれども、少し違った視点でお話してみたいと思います。
 先ほどの塩崎さんとか、今の野村先生もおっしゃっていたのは、科学技術イノベーション政策と言っている中で、重点分野とかポートフォリオをどうやって決めていくのかということにかなり着目されたお話だと思うんですけれども、科学技術イノベーション政策とぱっと考えただけでもこんなにいろいろあるわけですね。そういうポートフォリオ重点化の話に目をとらわれ過ぎるのもあまりよろしくないのではないかと私は思っています。
 これは経済をやっておられる方には普通の話だと思うんですけれども、政策をやる目的、科学技術政策だけではなくて、例えば高効率のモーターを開発するというプロジェクトにお金を出すというような政策は、直接的なアウトプットをどうやって社会の価値に結びつけるかというお話だと思うんですけれども、政策がなぜ必要なのか、なぜ政府の介入がやられるのかというのは、かなり広い視点があると思うんですね。直接的なアウトプットの話だけではなくて、スピルオーバーというのも経済学では非常に重視しますし、技術を開発した企業の利益から税収が返ってくるというのは財務省などは非常に気にしますし。
 経済学でよく言う投資の視点から言うと、本来は市場に任せておくべきなんだけれども、市場が失敗するようなことが明白なときに限って政府が介入するのが許されるという視点もあります。右側に赤字で書いたのは、正当化の理論に対してこういう反論があるということで書いています。だから、政策オプションを考えるときはこういうことを全般的に考えなければいけないのではないかと私は思っているということです。この辺は細かいので飛ばします、あまり時間がありませんので。
 私自身の興味を話してくださいということなのでお話しますけれども、きょうの私の話のタイトルになっている「ブラックボックス」という話です。先ほど楡井先生も因果関係に着目した分析をやらなければいけないというお話をされていましたけれども、私もまさにその点が非常に足りないところだと思っていて、イノベーションにはいろいろなブラックボックスがまだまだあるということをずっと考えています。
 ここでは大きくアカデミアとインダストリーと分けましたけれども、政府の政策、お金とか制度というのは全体にかかってくるわけです。アカデミア、研究開発をやるようなセクターについてもこの中はほとんどわかっていない。なおかつ、産業側の内部の因果関係、何が起こって、何がどう同影響するかというのもほとんどわかっていない。そういうところで、外側から見ているだけでは政策オプションのつくり方に限界があると思っています。だから、私の中心的な興味はブラックボックスの中の構造をデータとか事例から明らかにしていくというのをやりたいとずっと思っているということです。
 あまり事例の話をしている時間がないと思いますが、もうちょっと全般的なお話をしますと、もう一つこういう政策を考えるときに気をつけておかなければいけないのは、日本の全体的な政策とか構造の中でどのぐらいの話をしているのかというのは常に心にとめておかなければいけないと思っています。例えば、企業に政府から直接補助金、委託金などが行きますけれども、ちょっと古いデータですけれども、これを見ていただくと、政府が支出するお金全体の中で、産業に行っている研究開発費は産業の使用額全体から見ると1.5%にすぎない。これは科調統計のデータです。米国ではこれが産業から見ると11%ぐらいの比重を占めている。そういう意味では、日本では産業界から見ると政府からくるお金というのは米国ほど大きなものではないというような感じだと思います。
 もう一つ、GDPの話を先ほど楡井先生などもされたんですけれども、これも科調統計を「エイ、ヤー」と集計しただけであまり精密なものではありません。日本のGDP540兆ぐらいのうち、科調統計によると研究開発を実施している企業から生まれている付加価値というのは、このくらいしかないと。だから、研究開発のことを中心的に取り上げて日本のGDP全体を論じるというのはかなり難しい話かなと思っています。
 研究費だとこれですし、その中でも政府の関与とか産学連携が重要だと言われている、基礎研究費を使っている企業のGDPへの寄与というのはこのぐらいしかない。政府からの研究開発の補助金をもらっている企業の寄与はもっともっと少ない。これはもちろん直接的な付加価値の計算です。それに対して、「産学連携のお金を使っていますよ」と報告している企業の寄与というのは割と大きいかなというのが私の感想です。ですから、我々は研究開発を取り上げて分析するときは、直接的な関与というのはこのくらいのものなんだというのは常に考えておかなければいけないということです。
 逆に、直接的な関与意外にもあるのではないかと、それが私がブラックボックスを考える中での非常に重要なことだと思っています。例えば、こういうポンチ絵を描くと、お金をもらって、それがイノベーションに直接つながるというのはかなり限られた見方でしかないと思います。これは、NISTEPの全国イノベーション調査のデータを使って、構造方程式モデリングというのでやってみた結果ですけれども、政府の研究開発の補助金をもらった企業単位の分析だと思ってください。こういう補助金をもらうということは、アウトプットをイノベーション実現だというふうにしてモデルをつくってみると、直接的な関係は全く見えてこないです。
 要するに、イノベーションをやってもらおうと思って企業に政府がお金を出しても、直接的にはイノベーションに結びつかない、外から観察する限り。では、意味がないのかというとそうではなくて、いろいろな間接的なルートを経由して、イノベーション能力にプラスに作用しているだろうということが何となくわかるということです。こういうのもあまり精密な分析ではないですけれども。
 こういうブラックボックスの中がどうなっているのかというのをちゃんと調べていくというのは、我々、イノベーション研究をやっている者としての中心的な課題でもあるんですけれども、何がしかの影響は絶対にあるわけです。でも、そこで満足していると政策オプションの選択には役に立たなくて、本当に最適な選択対象が選択されているのか。これはよく政府の失敗の好例として言われていますけれども、ウィナーピッキングをやっているのではないかとか。
 それから、ほかの手段と比較した場合の効果でこれは考えられるべきだと。何かをやれば、何かのプラスの効果が出るというのは当たり前なので、そのお金をほかの手段に使ったときの効果と比べて本当に優れていたのかと。本当はそういう比較をやらなければいけないということですね。それから、もちろんPDCAの中でモデルとか指標の妥当性も検討していかなければいけないというようなことを考えているということです。
 すみません、短い話ですが。
○己斐 ありがとうございました。
 では、最後の視点提供者ですが、大阪大学の神里先生、よろしくお願いします。
○神里 大阪大学の神里でございます。きょうの資料を事前にお送りしなければいけないと私理解していなくて、新幹線の中でバタバタつくったものでございまして、軽い話題提供をするというふうに思っていたんですけれども、かなり大きな会でびっくりしております。きょう初めて構造化研究会に出席させていただきました。
 私は大阪大学・京都大学共同の拠点に所属しておりまして、そこでの活動から見えてくるところから視点を提供させていただければと思います。私どもの拠点は、どちらかというとこのプロジェクトの一番外側にあるフロンティアというか辺境というか、中心でイノベーション研究をするというよりは、その外側の体制づくりとか、社会とのコミュニケーションとか、そういうところがテーマということもありまして、私自身の専門も科学技術社会論ということで、少し大雑把な話をさせていただきたいと思います。
 こういうことをやろうとしたときに番重要なのが、恐らく学際的な研究体制だと思います。非常に大きな話ですが、「社会科学」という言葉がありますが、これは一体何をやっているのかということですが、やっているそれぞれの先生方は当たり前なんでけれども、これを外側から見ると実はこんなふうになっていると。主として政治学者は政府の動向を研究し、経済学者というのは主として企業、お金の動向を研究するわけですね。社会学というものがありまして、どうやらそれ以外であると定義されそうだということです。
 それぞれの分野を超えて、社会科学といっても越境するのがなかなか難しいということが現実にはございます。個別にそういう研究をやられている方もいっぱいいらっしゃいますけれども、オブジェクト指向でこういう社会科学の知恵を使って結集していくというのは非常に難しい。科学技術をある種社会科学的に扱うといった研究のイメージはいろいろございますけれども、例えば科学技術政策論、科学の政治学といった分野は当然そうです。それから、今回のものを含めてですけれども、科学技術のイノベーション論。それから、私の専門に近いところでは科学技術の社会学、それから、科学技術社会論といった分野があります。
 科学技術の社会学と科学技術社会論というのは、外側の方から見ると同じように見えるかもしれないんですが、これは学問の中でちょっとした流派の違いがあったり、歴史的な経緯が違ったりということがあっていろいろなことがある。実際、自分の分野でもそうですが、全体として分野越境、学際的なテーマ、本当の学際というのはなかなか難しいということをずっと感じております。私は10年ほど前から社会技術研究に携わってまいりまして、そこでも学際をやってきたわけですが、本当に学際をやるというのは難しいというのを感じています。できたときはすごく実りがあるんですけれども。今回のプロジェクトはそこはすごく重要だろうと感じています。
 そこは本質的には何がつながるということなんですが、それは他者とつながるということです。この他者はいろいろあって、専門家同士もそうだし、専門家といわゆる専門家と言われる人ではない人もそうなんですけれども、現代を生きる多くの人は何らかの意味で専門家ですから、人間同士をつなぐのは結構大変だということで、分野の違う人をつなぐことは簡単にできることではない。私のここ10年の感じでは人と人をつなぐ、分野と分野をつなぐプロというのもいていいのかもしれない。そのぐらい難しいことだと感じています。
 釈迦に説法でございますけれども、イノベーションというのは、シュンペーター的には再配置というか、ものを組み上げて新しい組み合わせを考えることが本質であるということになると、このつなぐということは非常に重要になる。その中で、これまでだとある種の専門の知識みたいなもの、専門家の持っている知識がイノベーションにつながるというイメージですけれども、これから私どもが考えるのは社会との様々なコミュニケーション自体がイノベーションにつながるのではないかという考え方です。
 幾つか並べましたけれども、テクノロジー・アセスメント、あるいは、パブリック・エンゲージメント、あるいは、エルザ、エルシーですね、倫理的法定社会リスク面の配慮、こういったものが科学技術社会論ではずっと言われてきておりますけれども、従来こういったテクノロジー・アセスメントとか公共的関与とか、LCに配慮するとかということは、どちらかというと科学技術の発展に対してブレーキをかける、つまり社会から倫理とかリスクの問題でクレームがついて、それに対応するというような流れ、そういうふうに理解されてきた面が多いと思います。
 実際そういう面がこれからもあると思いますし、決してそれがないということではないんですけれども、こういった活動自体が今後イノベーションにつながる可能性があるのてはないかということも私たちは考えて、そういう方向の研究をしていきたいと考えています。例えば、ユニバーサルデザインというのがございますけれども、これはまさに社会の側からクレームがきて、それに対応することによって新しいものが出てくるわけですね。
 それから、iPodと書きましたけれども、これは技術者の技術的な興味のドライブでものを開発してきた結果出てきたものではないわけですね。有名な話ですけれども、コンパクトディスクの情報の密度よりも圧縮をかけて、情報的には劣化しているんだけれども、情報量が軽くなったことによってiPodみたいなものが出てきたわけですね。これは技術者から見ると性能が落ちるものだったわけです。だけれども、社会の側からはそこがポイントではなかったわけですね。ポータブルであることとか、ネットで音楽情報が流れるとかいうことが大きかった。スティーブ・ジョブズという人がコンシューマのマインドを持っていたということが大きいんだと思うんですけれども、こういうものはこれから莫大な冨を生み出しそうになってきている、そういう時代であると思います。
 つまり、要素技術自体は、あるいは知恵自体は、世界のどこかにあるんだけれども、それをつなぎ合わせること自体が価値を生むと。音楽で言うと、作曲自体ではなくてDJみたいな、音楽と音楽をつなぎ合わせる、コンピレーション自体が価値を生むとか。芸術の分野ではかなりそうですけれども、そういうものがあるだろうと。
 それから、環境イノベーションというのはなかなかあれなんですけれども、環境規制自体がイノベーションを加速する例というのも一部ございます。こういうある種の社会の側からのクレームのようなものがイノベーションのキーになり得る。これはメインではないんですけれども、こういう部分も配慮していきたいということを考えて、私どもはこのあたりに興味を持っているということがございます。PEもTAもエルザも社会と専門家をつなぐ仕組み自体が重要であるということで、こういったことを検討していきたいと考えております。
 一点だけ、エビデンスに基づくということがこのプロジェクトのみならず、最近、政府関係のいろいろなものがいっぱい出てまいります。もちろん非常に重要なことだと理解しておりますが、エビデンスベースだけだと具合の悪いものも出てくるのではないかということを、私どもの拠点ではよく議論しております。どうしてエビデンスというものが最近非常に強く求められるようになったかということを考えますと、財政難なのかわかりませんけれども、科学技術、文教政策などを含めて説明責任の圧力が社会から高まってきたということが大きいのだろうとと思います。
 それにプラスして3.11以降は、政治とか科学、あるいは、政府や専門家に対する不信が歴然とあると言えると思います。こういった時代において血税を使って何かをするというのは、すべてエビデンスが必要であるということは理解できるんですけれども、そのエビデンスというものが定量可能なものだけに限定されるとすると、それは危うさがあるだろうということは感じております。つまり、エビデンスは重要だけれども、それは何を指すのかということに対して、私たちは常に注意を払っていく必要があるのではないかということです。定量は非常に重要なんですけれども、それだけではどうだろうか。
 例えば、多くの安全性論争というのは定量的なエビデンスに基づいて議論することを、専門家と言われる人たちはやりたいし、それだけが唯一の誠実な対応ではないかと考えられる場合もあると思うんです。現実にそういうシーンを幾つか私も経験しておりますけれども、社会の側は定量的な安全性のリスクの計算とか分析というよりは、むしろその分析をする人に対する信頼の問題を話題にしているということで、簡単に言えば、現在の低線量被ばくの問題で言えば線量が低いか高いかということではなくて、その人たちに対する信頼の問題を訴えている側は一番問うているのだということがあったりする。これはいわゆるフレーミングが違うということで、水掛け論になりやすい。これは今回のプロジェクトとはずれる話ですけれども、こういうこともあるので、定量も重要だけれども、それ以外も重要だろうということです。
 また、これは参考ですけれども、最近、民主主義自体が政治学者の中でいろいろな議論がございます。単なる多数決を超えた熟議といったものの重要性に各国で関心が集まっております。これはある種ポピュリズム的なものとパブリック・オピニオンとの違いみたいなところの議論にもつながっていくんですけれども、わかりやすいことが我々にとって一番重要だとは必ずしも限らない。わかりやすさの落とし穴みたいなものにも少し注意をする必要もあるのではないかというようなことを考えつつやっております。
 ということで、非常に雑駁ですが、以上でございます。ありがとうございました。
○己斐 ありがとうございました。
 それでは、全体議論に入る前に、GRIPSの後藤先生より全体的なコメントをいただきたいと思います。
○後藤 時間も限られておりますし、4人の方の大変立派なご発表で、私が一つひとつの発表について細かく立ち入ってコメントするよりも、むしろ少し違った観点から、今、発表のありましたような立派な研究と、ポリシーメーキングというところの場と関係について、お話をしたいと思います。分析とか研究とポリシーメーキングとか政策を行うということの間でどういう関係があるか、あるいは、どういう問題があるかということについて、今までのお話も踏まえながらお話したい。特に私は最後の神里先生の発表を非常に興味深く伺いました。
 私の話は、分析・研究と政策の関係ということですが、2つに分かれておりまして、前半は前にこの会を仕切っていたナガノさんから「いつか話せ」とずっと言われていたことでありますけれども、私自身が経済学をずっと勉強しておりまして、その後、この春まで行政と言いますか、準司法機関に勤めておりましたので、経済学の分析側とポリシーメーキングの両方を経験した者として、その両者の関係についてどう考えるかということを話すようにとずっとナガノさんから言われていましたので、きょうはもういなくなっちゃったと思いますけれども、自分の経験も踏まえて前半に話をします。後半は、少し一般的に分析と政策ということについて話したいと思っております。
 私は産業組織論あるいは産業経済学という分野の経済学を勉強しておりましたが、5年ほど前に独占禁止法の執行を行っています公正取引委員会の委員になりまして、個別の事件の審査とか、あるいは、競争法の改正という問題にかかわってきたわけであります。私が実務をやっていて経済学がどういうふうに役に立ったか、あるいは、もう少し一般的に経済分析は独禁法の行政あるいは執行にどう役に立ったかということですけれども、1つは、経済分析というのは行政あるいは事件の判断に対して様々な分析のツールを提供してくれるということがあります。
 実際に世界中そうなんですけれども、競争政策の現場では、経済学の分析ツールというのは広く使われておりまして、例えば合併を審査するときはスニップテストという市場を確定するときのやり方がありまして、これは世界中の競争当局では既に使われていて、公正取引委員会でも、例えばカップヌードルの会社が2つ合併するときに市場の確定というのをまずやるわけですけれども、そのスニップテストを使って公正取引委員会でもやります。つまり、インスタントラーメンというふうに市場を考えるのか、あるいは、もう少し狭くカップヌードルというところで市場を確定するのか。あるいは、もう少し大きくめん類というところで市場を確定するのか。市場をどう確定するかによって審査のやり方は全く変わってきますので、これは決定的に重要なわけですけれども、そこで経済学の分析を使う。
 それから、合併シミュレーションということも広く行われていまして、例えばカナダの競争当局は、彼らの合併シミュレーションのモデルをネットで公開していて、誰でも自分の担当している事件についてパラメータを入れれば、この会社が合併したらどのぐらい価格が上がるかということが大体予測できるようになっております。ただし、これは追試をした人がいて、全然当たらないというので非常に評判が悪く、あまり使われているわけではありません。
 あるいは、カルテルや談合の審査でも、価格がある一時期に異常に上がったというときに、それが例えば原材料の値上げによって起こった、あるいは、為替レートの変化によって起こったというようなこと、価格関数みたいなものを推定して、右辺に原料価格とか為替レートを入れて、そういうもので説明できない理由で価格がある時期非常に上がったということになりますと、それはカルテルか談合をやっていたのではないかと。そういうのはプラスファクターと呼ばれますけれども、裁判ないし審判のときでも傍証的な形に使うことが可能になっていくわけであります。ですから、こういうアナリティカルなツールが実際に用いられることがある。
 もう一つは、こっちのほうが重要かもしれませんけれども、個別の事件あるいは個別の問題を文脈の中で解釈することが分析的な作業を行うことによって可能になるということがあります。その例として、適切かどうかわかりませんけれども、課徴金というのをカルテルなどには科しているわけです。もともと課徴金を導入したときは産業界から非常に反発が強かったこともありまして、カルテルでもうけた不当利得を取り上げるという設計になっていたわけですけれども、カルテルというのは100%見つかるわけではありませんので、不当利得だけを取り上げるということになりますと、バレたときにもうけを返せばいいということでしかないわけなので、全く抑止力がないということになります。アメリカは不当利得の3倍というふうになっていますけれども、日本では最初抵抗が強かったこともあって、不当利得を取り上げるという設計になっている。
 そのとき私はまだ経済学者をやっておりましたけれども、経済学者はみんな、日本のように不当利得の額をそのまま取り上げるのでは不十分だから、もっと高くすべきだというようなことを言って、何回やったうちに何回見つかるかという見つかる確率の逆数を不当利得に掛けて、それプラス1円ぐらいの課徴金にすれば、合理的な企業であれば違法行為を行わないであろうということを言った。そういう議論は法律家にはものすごい抵抗があった。法律家は一つひとの事件を審査して、幾ら不当利得があったから返させるという判断するわけですが、経済学的にルールメーキングというふうに考えますと、それでは全く不十分だということになるわけですね。
 結果的には、不当利得を取り上げるだけでは余りにも抑止力がなさ過ぎるということで、例えば大手の製造業であれば売上の10%を課徴金で取り上げる。これはかなり大きな額になりまして、最近の自動車部品のカルテルのケースでは、ある会社が96億円という課徴金を科されています。日本では96億円ですけれども、外国はもっと高いですから、同じ会社はアメリカでは多分400億円ぐらいの罰金が科される。アメリカはカルテル、談合は全部刑事罰ですから、400億円ぐらいアメリカでとられた上に、その会社の人はアメリカの刑務所に入っているわけですね。さらに、ヨーロッパはもっと高くいですから、400億円とかとられるかもしれない。その会社は1,000億円近くとられるかもしれないという状況になっています。
 ちょっと話がそれましたけれども、物事を、個別の法律家的な判断と違って、ルールメーキングとして考えるときに、経済額的な分析は役立つろうということであります。多くの独禁当局には、チームエコノミストという人がいます。特許庁もそうなんですけれども、日本以外の独禁当局とか特許庁には最近チーフエコノミストという人がいて、その下にスタッフがいて、非常に大きな権限を持ってやっているわけであります。ですから、分析が政策の現場に直結しているということであります。
 時間がなくなりましたけれども、後半の少し一般的な話を二点だけ短く申し上げます。分析と政策決定の間のギャップは非常に大きいということをまず認識する必要がある。これは非常に大変な問題であると思います。先週、東大のシロヤマさんのところにデビット・ゴウというロンドン大学の先生が来て、「エビデンス・ベーシスト・ポリシーメーキング」という話をされていましたけれども、彼も、政策形成と分析の間は極めてギャップが大きいので、それをどう埋めていくかというのが非常に難しいんだと。彼は間をつなぐような仲介機関とかブローカーというものが必要だということを盛んに主張して、アメリカのワシントン州などではそういう組織を設けて、両者を埋めるべく努力しているというような話がありました。
 ちょっと時間が過ぎましたけれども、2点目を簡単にお話させていただきます。分析のポリシーメーキングに対する貢献ということで言いますと、先ほどからも話がありますけれども、政策のオプションを提示して、オプションのそれぞれの帰結を予測して、それをポリシーメーカーに提示して、ポリシーメーカーはそれをそれぞれ固有の価値判断の中から選択していくというイメージがあるんですけれども、そういうオプションを提示して帰結を予測するだけが分析の役割ではなくて、分析の役割というのはほかにもまだいろいろ重要なことがある。例えば、価値判断のところにまで分析が踏み込むことは、普通は泥沼化するということでやらないわけですけれども、一見価値判断に見えるようなことで、実はファクトやエビデンスにかかわることはたくさんあるわけですから、価値判断のところまで踏み込んでいって、分析が役割を果たすということも必要ではないかと思っております。
 時間が過ぎましたので、以上で私の話を終わらせていただきます。どうもご清聴ありがとうございました。
○己斐 どうもありがとうございました。
 それでは、フロアも交えて全体議論に入りたいと思います。ファシリテーターは、CRDSの黒田上席フェローが務めます。
 このディスカッションの内容は、推進委員会でのインプットとか報告書の作成など、今後活用させていただく場合には、チャタンのハウスルールを適用しますが、ご発言の際には必ずマイクを通して、ご所属とお名前をおっしゃってから発言してください。よろしくお願いします。
○黒田 それでは、第1セッションのモデレーターを務めさせていただきます。
 4人の先生方からのご報告、それから、後藤先生からのコメント、非常に大きな課題を提起されていると思いますが、ここに出席の先生方の多くはお役所関係の方、そして、自然科学のバックグラウンドの方が非常に多いのではないかと思うんです。そういう観点から見たときに、4人の先生方の話を聞かれて経済学というのは何ができるのかなという疑問を持たれたような気がするんですけれども、そういうことから素朴な疑問で結構ですけれども、フロアの方々で、「先生はこの点についてどう考えていらっしゃるのですか」というようなご質問を最初にいただけるとありがたいと思うんですが、いかがでしょうか。どなたでも結構です。
 それでは、私のほうから、楡井先生、鈴木先生、野村先生にそれぞれ伺いたいと思います。今までの経済学の中で科学とか技術というものを自然科学者も納得する形で経済学は本当にとらえてきたんだろうか。いつも僕はそこに疑問がありまして、経済学の中での科学、技術というのは、生産関数でとらえたり、投入構造でとらえたり、一つの生産関数ですから、いろいろあるんですけれども、例えばトータル・ファクター・プロダクティビティという生産性の話を、このCRDSに来て私が自然科学の多くの先生方に話したときに、みんなどこがどうしてトータル・ファクター・プロダクティビティが科学技術と結びついているんだろうかというのがものすごく疑問を持たれるんですね。
 そこに対して経済学は何ができるのか、何をすれば自然科学の方々も納得いくような形で科学技術と経済学の構造を結びつけることをできるかということに対して、まさに分析としてやらないと、政策的な提言はなかなかそこから出てこないのではないかという気がしているんですか、その辺、楡井先生、どうでしょうかね。
○楡井 非常に難しいですね。一つあるのは、科学技術が日々のGDP、年々のGDPに貢献しているというよりは、科学技術は年々のGDPの成長に貢献するんだということをまずはっきりさせたほうがいいと思います。鈴木さんのスライドで非常に印象的だったんですけれども、R&Dのインテンシィブな企業が貢献するGDPは1割ちょっとにすぎないと。そう聞くと、そんなものなんだと確かにびっくりするんですが、ちょっと見方を変えると、普通GDP、国民所得と言う場合、私たちはルーチンワークをしているわけですね、学生がおむつを替えるとか、そういうことをやって日々の賃金を得ているわけですから。
 それに対して科学技術というのはそんなに大事じゃないかもしれないんだけれども、どうやって年々経済が発展するんだろう、その発展部分はどこからくるんだろうということを考えると、新知識、新技術が背景にあるんだろうなというふうに考えざるを得ない。それを考えると、R&Dインテンシィブな企業が70兆円もつくっていると考えると、それは多分日本経済の成長、1%成長するために5兆円ぐらい必要ですから、それには大きく貢献していると考えることができるかもしれないと思います。
 もう一つ、黒田先生が今、科学技術の経済への影響というときに主に生産性とおっしゃって、そのとおりなんですけれども、生産性がいかにして産業に伝わるのかというのは、鈴木先生がおっしゃるとおりいまだにブラックボックスであって、ひょっとしたら特許のような明示的な形で見えるかもしれないけれども、特に労働を通じた知識の伝播というのはあまり明示的に見えていなくて、なかなかとらえられていないところなのではないかと思います。だけど、日本経済がどこで成長しているのかということを考えると、新しい知識を持った人材が新しく生まれてくる、そういう人が経済に入っていく、そういう人たちがやり方を変えていって生産性が高まる、新しい財が生まれるというふうになっているのかなと思い至ると、科学技術セクターと経済成長とのつながりというのが考えやすくなるかなと思います。
○黒田 ありがとうございました。
 鈴木先生、どうでしょうね。
○鈴木 すみません、私は経済学者でも何でもないので、外からかじっているだけで。今のご質問に関連する感想を申し上げますと、経済学というのは、神里さんがおっしゃったのかな、企業のお金の話を扱うのが本質ではなくて、社会の全体最適を追求するのが経済学であって、企業の個別最適を追求するのは経営学のほうだと思っているんですね。それで、政策オプションをかなり緻密にいろいろなモデルを使って仮定から考えられるというのは、経済学というよりは経営学を政策の場面に持ち込もうとされているような気がしていて。それは経済と経営が対立しているというわけではないと思いますけれども、全体最適的な視点が少し薄くなるのではないかというような懸念があるような気がします。いわゆるマイクロマネジメントでウィナーピッキングというのは本当に政府ができるのかということは常に疑問があると思うんですけれども、そういう意味で正当のマクロ的な視点を持てる経済学の考え方というのもかなり重要ではないかという気がします。
 すみません、生意気を言いました。
○後藤 経済学が科学技術をきちんととらえてきたかという黒田先生のお尋ねですけれども、経済学にもいろいろな経済学がありまして、例えば、ネルソンなどが提唱しているような進化経済学というのは、まさにシュンペーターの考え方をそのまま採り入れて理論体系をつくっている。今、例えばリサーチポリシーによっているような論文を書いている人の思い浮かべる経済学というのは、新古典派の経済学ではなくて、エボリューショナリー・エコノミックスのほうだと、少なくともベン・マーチンなどはそういうふうに書いていますよね。
 私は最後の踏ん切りがつかなくて、どちらにも踏み込めないというところもあるんですけれども、新古典派の経済学は往々にして科学技術の問題を投資の問題と考える。投資という観点から、科学技術投資で、それが経済にどうインパクトを与えるかと考えると思うんですけれども、進化経済学の場合はむしろ知識をどうやってつくり出して、それがどういうふうに広がっていくかというようなことに焦点を当てて研究をしていると思うんですね。ですから、経済学の中でもいろいろな経済学があって、科学技術の経済社会に与えるインパクトを正面から取り組んで、体系を築いているのは進化経済学のほうかもしれない。ただ、それはまだかなり未熟なところがあって、曖昧なところもたくさん残っているということではないかと思います。
○黒田 皆さん、どうですかね。野村さん、どうですか。
○野村 黒田先生はよくご存じなんですけれども、ほかの方もいらっしゃると思いますので、少しご紹介させていただきたいと思います。
 経済学の中にも非常に抽象度の高い議論もあれば、もう少し細かくすることもできるのではないかという形でブレークダウンしていく議論もあるかと思います。ウンチェフの有名なたとえがあるわけですが、経済学は、エンジンフッドを開けずに、エンジンの計器と回転数というものと、どこから聞こえてくる音を通じて、中にあるエンジンのメカニズムを再現しているようなものであるという話を七、八十年ぐらい前にしているわけですけれども、もしエンジンフッドを開けることができるならば、直接的に見てデザインなりメカニズム、エンジニアリングを再現することができるのではないかと、問題に対する解決がより容易になるのではないかということが指摘されたわけです。
 そういうものがまだ絵に描いた餅であったかもしれませんけれども、例えば環境分野で見ますと、日本で言いますと、1980年代の後半だと思うんですけれども、そういう中でCOの排出量を推計しようと。経済学者は経済のデータからCOを推計しようとしたわけです。そのときに私はまだ学生だったり、横で議論を聞いていた程度でしたけれども、理系の先生方がいらっしゃる中で、そんなことはできるわけないと、その試みは失敗するという形で評価されていたと思います。
 それが5年か6年やってみて、理系的なボトムアップと経済的なトップダウンのアプローチを見ますと、そういう形の試算結果がかなり近づいてきた。彼らが限界だと感じていたものが、むしろ経済データから再現することもできたと。今の話は、「環境分析用産業連関表」と我々は呼んでおりますが、経済からのデータベースとかアプローチが一つの標準的なツールになったということがあるかと思います。
 エネルギーの分析も、この20年ぐらいの経験を見ておりますと、もはや理系の研究所も含めて経済学の役割を重要に思っておりますし、そのハイブリッド化は進んでおりますので、我々にとってサイエンスのエンジンフッドを開けるということは無駄な試みではないのではないかなと。いろいろなアプローチがあって、視点があると、抽象度の違いもある、粒度という解像度の違いもあると思いますが、そういうアプローチも並行してやっていけば有意義ではないかなと私は思います。
○黒田 どうもありがとうございました。
 神里さん、いかがでしょうかね。社会学の立場から経済学をごらんになったときに。
○神里 すみません、先ほど鈴木先生からご指摘ございました、最初の私が書いた社会科学の構造みたいなものは、何のためにあれを出したかということを私は多分言い忘れていて、申しわけございません。自分の対象としている領域は主にどういうことかというので、社会を対象にしていると言ったときに、法学・政治学は主として政府や権力を扱い、経済学は主として企業やお金の動きを扱いということで、それ以外がいわゆる社会学、あるいは私の分野もそうですけれども、対象にしていますという説明をするためだったので、決して経済学の定義は何であるかとかいう意味で申し上げたわけではございません。
 これは私の個人的な感想ですけれども、経済学はいろいろな分野があるのであれなんですが、少なくとも自分の知り合いの経済学者、分野によるんでしょうけれども、非常に精緻な議論ができちゃうというか、実証的なデータに基づいて数学的な処理をすることが可能な分野もありますし、割ときれいな、それこそ社会科学のクイーンと言われますから、数学的な処理ができる。いわば物理学に向かって近づいていくというか、フランスの思想家のオーギュスト・コントが昔そういうふうに言ったそうです。
 自然科学の方向に近づいていくことはできるし、やろうという志向が経済学は結構強いように私からは見えるんですけれども、処理が可能な粒度というか解像度がまちまちだと思うんですね。つまり、物理学のような予測可能性を持つために大量のデータといろいろな前提が必要だと思うんですが、その辺のギャップがあって、ある種の限定的なところで非常にきれいな解が出たりすることが、学問的にはおもしろいことがあると思うんですけれども、そこと先ほどおっしゃった政策とどうつなぐかというところの難しさというのはあるんだろうと思います。
 それから、ちょっと歴史的なことを忘れがちなので申し上げたいのは、経済学みたいに社会科学を政治に直結しようとした勢力と、それはそう簡単にはできないだろうという勢力の緊張感の中で、20世紀は東西対立があったわけですね。それが90年代ぐらいに一つの結果が出たと思われている。だから、その次のレベルで我々は科学と社会どうつなぐかという議論をしているという意識は歴史的に持っていてもいいのかなということを感じました。
○黒田 フロアから何かご意見ありますか、いかがでしょう、何でも結構です。かなり経済学の本質的な問題だと思うんですけれども。
○東條 難しいですけれども、基本的にはモデルというのは何でもそうですが、目的とする何を説明しにいくかというのが単純な構造をしていないとモデルというのはうまくいかないんですね。経済学で皆さんが考えた経済学の成功例は幾つかあるんですけれども、マクロ経済学というのは最後はGDPないしGNPという、経済のアウトプット全体を説明しにいくという非常に単純なアウトプットをつくる。それでもケインジアンとかマネタリスト、あるいは、楡井さんのように将来の予測を織り込んだようなダイナミックなモデルとか、いろいろな流派があって。ここに入ると神学論争になりますけれども、それでも結構いろいろあると。
 そういう抽象度のところで科学技術を生産性で扱うというのは、いわゆる自然科学者が考えている科学技術とはやや別物、ある意味ではアグリゲートできないものをアグリゲートしているか、逆に経済学のほうがこれを科学技術と呼ぶというものと、自然言語で言うところの科学技術を何とか点線でつないでいるので、この点線は鈴木先生が言われたようにブラックボックスでよくわからないと。その間に企業活動というよくわからないものも挟まっているし、楡井先生の言う人間の質というのは、労働者がどう行動するかというビヘイビアは全くわからないので、相当無茶くちゃな置きをやって、アグリゲートしてマクロ経済学というのはできているというのが私の理解です。
 神里先生が粒度とおっしゃったけれども、どういう粒度で問題設定をするかというところを押さえないと、一般論で経済学的なアプローチで科学技術が解けるかどうかといっても、あまりせんがないような気がします。最後は経済成長にどう効くんだというところにいくのであれば、相当大胆な捨象をしなければいけなくて、そのときに材料工学に入るのか、あるいは、ITに入るのかという議論はそこでは捨象するしかない。
 もうちょっとニュアンスをつけにいって、ストーリーメーキングはできると思いますけれども、それをエビデンスというか、データを持って検証しにいくというのは、今の経済学のフレームワークだとやや荷が重いのではないかと。逆に、例えば野村先生が言われたようにCO削減とかいう話になると、基本的にはCOはエネルギーで燃料でと化石燃料に落としていって、価格である程度変動させてという、黒田先生あるいは野村先生がやっておられたようなスタイルで、少なくともある程度のベンチマークはつくれる。
 したがって、元に戻ってきょうのテーマで言うところの構造化ということで言うと、何を説明しにいくモデルをつくるんですかと。そして、それはどれぐらいの時間軸で説明しにいくモデルをつくるんですか。一体、操作変数は何にするんですかと、こういうところを固めにいかないと、提言になるようなコンバージェンスは起こらない。ただ、この会のテーマはそういうものをコンバージェンスさせにいくという、政策者に訳に立つようなモデルを提供しにいくというのと同時に、そういうものにインプットとしてやられているような、今、4先生がいろいろなアプローチをされましたけれども、こういう様々なアプローチをそこにマッピングしていって、今は使えないけれども、将来そういうコンバージェンスしたような、使えるようなツールに役に立つような研究をその周りで整除すると、こういう2つの目的を持ってやっておられるんだと思います。
 そういう意味で言うと、1個に絞りにいくという、ツールをつくりにいくという話と、これから将来にわたっていろいろなツールがつくられるであろう、そういうものにどういうふうにいろいろな分野の研究がインプットするのか、そこをつないでいくという、この2つの話は両方ねらってもいいのだろうとは思います。戻りまして、経済学が自然科学をどう扱っているかという話について言うと、知識の伝播を説明しにいった経済学、進化性経済学もそうですが、それは結構真っ当に扱っていると思いますが、マクロ経済学とかいうとこれは真っ当に扱っていない。それはそういうものとして割り切ったということなので、そこを一色で考えてもしょうがないのではないかという気が、僣越ですけれども。
○黒田 ありがとうございました。
 ほかに何かご意見。どうぞ奥和田さん。
○奥和田 今のお話と関係があるかと思うんですけれども、こういうことをしているときに気をつけなければいけないがあると思っていて。「科学技術」という言葉の持つイメージが、学本体系によってかなり違うということを意識しなければいけないと思うんですね。経済学で扱われているのは、科学技術の成果なり何なりが経済的な意味を持つというフェーズまで達した部分を使って何かさせようと思っている。社会学とか経営学の方たちはもう少しその手前の部分と言いますか、知を生み出す部分でも何か社会とのインパクトを持つことがあるのではないかというところまで、鈴木先生とか大阪大学の先生たちは考えようとして、価値を求めようとされているのではないかなと思われるところがあります。
 ただし、自然科学系の人のほとんどが考えている部分が、そこに至るまでのプロセスというか経緯みたいなものというか、簡単に言っちゃうとR&Dの部分というか、そういうものを科学技術と称している。つまり、知を生み出しているプロセス自身を科学技術というふうに、9割方のところを科学技術へ持っていっているような節がありますね。この辺の意識の違いを、政策のための科学のディスカッションのときにものすごく感じるんですね。
 この辺の意識合わせと言いますか、今はどういう意味で科学技術ということを言っているんだということを明確にしておかないと議論が発散してしまうというか、今、東條さんがおっしゃったのはその辺も含んでいらっしゃるのではないかと思いまして、その辺の意識の違いというか、簡単に科学技術と言ってしまうことに対するみんなの意識が余りに違うことに、私はこれをやることの難しさをすごく感じているところなんですね。そこは構造化という意味では明確にお考えいただいてやられないといけないのかと思います。
○黒田 政治課題そのものの設定のところで……。あ、どうぞ。
○能見 よろしいですか。後藤先生、黒田先生という大御所の前で大変僣越なんですけれども、例えば、昔の通産省が産業政策というか産業ビジョンみたいなものをつくっていくときのツールでは、非常にプリミティブなやり方を積み重ねながらやっていって、先端の経済理論を公取のようには必ずしも使えていなかったのではないか。
 それから、現在の状況でも経済と研究開発あるいは科学技術というと、結局、TFPのところになっちゃうんですけれども、そこには非常に誤差が多いというのは昔から指摘されているところだし、私の理解が誤っていなければ、マクロ経済学からイノベーションを測定するときに、その以外のメジャメントの手法はまだ出てきていないのではないか。少なくともオーソライズされた方法というのはまだ私の耳学問で入ってきていないなと。だから、多分に問題があるけれども、現時点ではTFPを使わざるを得ない。しかし、問題は非常に多い。こういうところで悩んでいる。
 また、現在の経産省の中でのイノベーションの議論でも、ある局は研究開発みたいなことばかり言っているし、そのときに本当は資本の配分が妥当か、労働力の配分が妥当かということまで含めてやらなければいけないんだけれども、省内的にそれが本当にきっちりとできているかというと、ミクロとマクロの関係が必ずしもできていない。
 それから、経済学がどこまで信頼できるかというときに、過去200年の経済学についての信頼度のことでしょうか、今後200年の経済学の信頼度のことでしょうか。今非常に大きく変わりつつあると思いますし、特にイノベーションに関しては、世界中の経済学者はきっと相当あれされているから、プリミティブなところしかはっきりしたことは言えなくても、今後はっきりしたことがたくさん言えてくるのではないか。
 そういう意味では、私もバックグラウンドは工学で、後から経済学を勉強したものですから、専門家の方々に教えてほしいのは、経済学的にどこまでは正しいんだと、どこははっきりわからないんだと、その間のグレーゾーンはどうなっているんだと、この3つの区分を教えていただけると非常に役に立つんですけれども、まるでグレーのところが全部わかっているようなことをおっしゃられる先生方もおられるので、我々としてはついつい混乱が生じてしまうという状況でございます。
○黒田 どうもありがとうございました。
 今、皆さんからいただいた課題は非常に大きな課題と思っていて、私も経済学をかれこれ40年以上やっているんですけれども、答えはなかなか出ない。ただ、経済学が本当に役に立つ、もしくは、政策ツールとして使えるような経済学になるためには、もう少しオートルマスな体系ができないと、なかなか役に立つところまでいかないのではないかという反省をずっとしていまして、そういう意味で一歩ずつでも前進させていかざるを得ない。実験ができるような科学と違って、社会全体が動くものですから、実験科学としてコントロールした形ではなかなか法則が見つからないという大きな要素があって、今、先生方が悩んでいらっしゃるのはそこに尽きるんじゃないかと思うんですね。
 そういう意味で、どの粒度で問題を設定して、この粒度ならばこの形のエビデンスでやらざるを得ないとか、このエビデンスのレベルであればこの粒度のことまで話ができるとかいうことが、今の経済学でどこまで話すことができるかというのが、おっしゃる何がわかって何がわからないかということだろうと思うんですね。残念ながら、経済学がそういう方向に向いているかということになると、僕は年寄りだからいささか心配をしていて、何かしらソフィスケートされた数学的なモデルでもって解が出れば、それで事足れりというようなペーパーでは、政策にコミットするわけにはいかないという心配が片方であるんですけれども、どうでしょうかね。多分わからないことだらけなんですよね。
 どうぞ。
○赤池 フロアから恐縮ですけれども、一橋大学の赤池です。楡井先生のプロジェクトをお手伝いさせていただいております。
 黒田先生がTFPを経済学の象徴として挙げられたのは適切だと思っていて、TFPはブラックボックスの象徴として、ブラックボックスの総和を言っているにすぎないので、それの腑分けの仕方が、一次元で丁寧に腑分けする人もいれば、メカニズムで説明する人もいる。メカニズムの中でそれを細かく分けた箱の相関関係を説明する者もあれば、理論を持って説明する人もいる。多分そういう仕分けでなっていくと。これは私の仕分けですけれども、経済学の体系の相互関係が、一つTFPに対してどうアプローチできるのかを整理するというのも一つの整理学ではないかという意味で、黒田先生の議論をサポートしたいというのがあります。
 もう一つは、楡井先生のプレゼンの補足なんですけれども、ほかのプロジェクトとの補完とか政策当局との連携と簡単に1行で書いたんですけれども、これはコミットメントというよりもチャレンジで、これはものすごく幅があって、例えば研究者というのは、ほかの人と違うデータを使うこと、あるいは、違うモデルを使うことでオリジナリティがあるわけだから、これを政策と連携するとか、それを補完するということ自体にものすごく大きなコンフリクトがある、ものすごくエネルギーが要る知的営みだと。
 だけれども、これを解決するのは、私も大学と行政と両方いましたけれども、多分これはやりながら考えると言いますか、簡単な枠組みでも提示して、それを使いながらさらにフィードバックしていく。例えば、最初のうちは基本設計であっても、使いながら詳細設計に変えていくとか、そこのメカニズムがわかってくると次はシミュレーションに出ていくとか。そういう形でやっていく、むしろエンジニアリングというか工学的なアプローチではないのか。そうでないと、先生方のお話で私がちょっと心配になったのは、非常に細かく要素に分けていくというアプローチとか、あるいは、理論、多分これはどれも全部は説明できなくて、使いながらエンジニアリング的に改善していくプロセスがものすごく大切なのではないのかという印象を持ちました。
○黒田 どうもありがとうございます。
 何かほかにご意見ございますか。どうぞ。
○後藤 アメリカのトルーマンという大統領が「片腕のない経済学者を連れてこい」と、これはお聞きになったことがあると思いますけれども、大統領が政策の助言を求めるために経済学者に意見を求めると、「こういうふうにしたらいいですよ」と言って、その後で「オン・ディ・アザーハンド」と言って、全然違うことで「しかし、こういうこともありますよ」ということを言うので、オン・ディ・アザーハンドのない経済学者を連れてこいと言ったという有名な、うそか本当か知りませんけれども、経済学の本でよく見る話です。
 そういう意味で、1人の人でもいろいろなことを言いますし、違う経済学者を連れてくるとまた違うことを言うということはありますので、政策が分析に頼ると言いますか、分析を活用するといっても、分析の中でもいろいろ意見が分かれていて、必ずしも一つにまとまっているものではないので、そう簡単に利用できるというものでもない。これもまた非常に大きな問題であろうと思います。
 経済学入門のテキストで今一番広く使われているマンキューという人のテキストがありますけれども、あの人のテキストの一番最初のところに、いろいろな問題について経済学者の意見の意見がいかに違うことを言っているかというのがずっと書いてある。彼は最後に「でも、経済学はやっぱり大事なんですよ」というようなことを書いていますから、そういうことも頭に入れる必要があるのかなと思います。
 ちょっとネガティブな話になって申しわけないです。
○東條 一点だけ、若干補足すると、全体の体系を書きにきて、その部分を整合的な形で全部書きにいくということよりも、いろいろなフェーズのものを重ねてモザイクにしていくという、パッチワーク的なもののほうが今の我々が持っているツールよりも正しいような気がします。一番最初の全体で描かれた大きな絵を細部まで全部整合的な形で1つのモデルとして組み上げるというのはあまり現実的ではないと思っていて、すごく粗い絵が、それは経済以外の目的変数も入れると社会学的なアプローチになるんだと思うんですが、そういうものの中で、経済のところに着目したマクロアプローチは楡井先生のようなアプローチになるか、あるいは、野村先生のような需要サイドを含めたアプローチになると思いますけれども、こういうものがあって、その中のパーツのこの部分を切り出すとこういうアプローチがあって、それがこう重なっている。
 ただ、小さな部分について説明するモデルは、大きなモデルにはきれいな形でははまらない、それはしょうがないと思います。その中で、例えばCO排出を何とかしたい、あるいは、エネルギーをというと、その部分のモデルを使っていって、そのままの形ではうまくいかないけれども、それを大きな別のモデルにどういうふうに解釈してはめ込むかというのはインターアプリテーションが要るんだと思いますけれども、そういうものがこの中で重ね絵のようにでき上がって、それが研究者に対する一つのガイダンスになり、政策担当者にすればある種のツールセットみたいなものができてきて、何でもかんでも1つのトンカチでやるという話ではなくて、デッカいドライバーもあれば、小さなピンセットもあればというようなものができて、それが鳥瞰できるような形であるということが出てくる。だから、こういう枠組みをするときの一つのアプローチのあり方かもしれないと思います。
 すみません、それが今目指している方向と同じかどうかはわかりません。
○黒田 これは私見ですけれども、課題によって分析の粒度は違ってくるわけで、その課題のところでどういうふうに技術を描けばいいかということが、経済学者と自然科学者との対話の中でコンセンサスが得られないと、出た結果はなかなか納得のいくものが得られない。ただ、何でもかんでもディテールがいいというわけではなくて、コントロールできない部分がいっぱいあるわけですから、そういうモデルなり何なりのアプローチが万能だとは言い切れないと思いますね。
 課題はよく実験の計画だと言うんですけれども、経済学は実験ができないんですが、片方で実験計画が要るんですよね。そうしないと、データの粒度も決まらないし、エビデンスの粒度も決まらないし、課題の粒度も決まらないという気がするんですね。
 経済学者ばかりの話になっちゃって恐縮ですが、何かありましたら。
○伊藤(宗) 経済学者ではない立場で、ほとんど素人なんですけれども、経済学で将来を語れるのかという質問なんです。と言いますのは、特に計量経済学を中心にしまして、過去のデータなり過去の環境の中でどういうことが起きてきたのかということをベースにしながら将来を語る、あるいは、将来のある種の計量的な予測をするというのがベースになっているのではないかなと思います。そうなると、これほど世の中が変わり、かつ、我々が直接扱っている科学技術というものが、新しい技術が出てきたときにそれの価値もよくわからない、あるいは、社会的なインパクトもよくわからないという中において、経済がどこまで有効性を持っているのかということなんです。
 ということになりますと、COのような問題はある程度技術が予見されていて、経済的な価値がどうなっているのかというような、かなり詳細な技術的な予測なり見通しが立っているものについては、経済モデルに乗るかもしれないんですが、我々が取り扱っている科学技術というもの、特に15年先とか20年先をねらって今の政策を打っていくといったときに、どこまで経済学が有効であり、かつ、仮にそれが制限があるとするならば、その幅をどういうふうに示せるのかというあたりがはっきりしませんと、科学技術政策にエビデンスを持って語るというのは難しい面があるのではないかなと素人ながら思います。
○黒田 今、伊藤さんのおっしゃったことは経済学だけに限らないと思うんですね。すべての科学はそういうステップを踏みながら進化してきたというのがあって、経済学はまだものすごくプリミティブな段階にあるんですけれども、それでも100年前から比べればかなりわかってきていることが多い。それをどう積み上げるか。それがもっと将来動くでしょうから、今のパラメータだけでは語れないかもしれない。そこはいろいろな条件が当然要るわけです。
 それは科学の進歩、例えば天気予報が最近比較的当たるようになってきたのは、観測点がものすごく多くて方向がわかってきているということが大きな要素だと思いますけれども、そういうものになれば経済学も一歩進んだ形で何かのサジェストができるという形だろうと思うんです。ただ、今の経済学が全部できるということは到底言えないので、そこの進歩は繰り返すよりしょうがないという気はします。
 どうぞ。
○奥和田 一つ前の粒度のお話に戻らせていただくと、これは経済学でも自然科学でも両方で起こっていることではないか、もしかしたら社会学もそうなのかもしれません。わかるところはやたらと細かくわかっているような、あるいは、細かく分かれているような節がありまして、わからないところが大雑把過ぎるみたいなところがあって。一番最初の野村先生のお話にもありましたけれども、ああいう経済分析をするときに、マテリアルに落とすみたいなところはやたら細かくわかるけれども、サービスみたいなものの分析になるととてつもなくラフになってしまって、何かに分かれている、なっていないみたいなところが経済学にもあるらしいんですね。
 実は科学技術のほうはまさにそういう状態に完全になっておりまして、細かいところはやたらと細かく、不必要にとは言いませんけれども、細部に分かれちゃって、タコツボ状態になっていて、ラフなところはとてつもなくラフみたいな、あるいは、ないという状態にかなりなっていて。そういうものが浮かび上がるような形の持っていき方をしないと、できるところが細かくなっちゃう、必要なところが細かくではなくてというふうになりがちだと私は思っていて、今の状態、例えばこうやって日本人だけで話していると、そういう方向へいきがちな可能性があって、とても危険があると思います。
 粒度というのは、語るに必要な、あるいは分析するに必要な粒度というものをある程度示さなくてはいけなくて、例えば野村先生みたいにやっていると、こうやってやるとここのところがアバウト過ぎるよねということがわかってくることが重要だと思っているんですね。そういうふうな粒度という意識を持たないといけないかなと思っています。
○黒田 それはおっしゃるとおりだと思いますね。
 笠木先生、どうぞ。
○笠木 CRDSの笠木でございます。私も自然科学系というか、バックグラウンドは工学なんですね。散々モデリングとかシミュレーションでやってきたので、そういう観点からちょっとお話をします。
 既にご指摘あったように粒度というのは確かに大事で、我々のモデリングの分野で言うと、むしろ素子化ということをやるんですね、限られた計算機のリソースの中で膨大な計算をしなくてはいけないとすると、できるだけ粗く見ないと大局が見えない。一方で、おっしゃるように微視化のプロセスがあって、原子、分子まで計算しないと原理がわからないし特性がわからないということもある。少なくともエンジニアリングの分野ではそれ全部使っていくんですが、それはニーズに応じて使うんです。
 私は経済学はわかりませんけれども、工学以外の社会科学系でもある種のモデリング、あるいはシミュレーションをやろうとすれば、結局同じことではないかと。だから、私は経済学が格別悪いとは思わないんですね。モデルというのは基本的には限定整合性なんですよね。ある前提を置いてある因果関係を数式で書けば、誰がやっても必ず同じ答えが出ますというのが限定整合性であって。ただし、それが真実の姿をあらわしているかどうかわからない。
 CRDSでも「エネルギー政策のための科学」というレポートを出して、野村先生には随分アドバイスをいただいたプロセスがございます。黒田先生にもご意見をいただきました。逆に我々工学のほうから見てよくわからないのは、経済学で出てくるモデルは何をファクターとして、数式関係はわかるんですけれども、前提とかどういうパラメータを取り上げてやりますかという、そこの判断は我々には全くわからないんですね。
 実際に経済学者の中で、あるいは、工学部でもエネルギー計算をやっている方がおられるので、そういう方々の間でどういうパラメータとか、どういう前提を置くかということに関しては随分違っておられるんです。したがって、出てくる結果が変わるのは当たり前で、それは全然不思議に思わないんです。ところが、その前提とかどういうパラメータを取り上げるかというところを合わせてお互いの結果を比較してみるとか、あるいは、そのこと自身についての議論がどれぐらい進んでいるのかということは我々にはわからなくて、そういうことがすごく手間ひまかかるんだと思うんですね。
 我々の提言では、この分野というか、エネルギー政策の科学と言ったときには、技術モデル、物理モデル、経済モデルを統合するようなモデリングをして、そういう技術を、科学と言えるかどうかわかりませんが、開発すべきだということを申し上げた提言なんですね。徹底的に我々が感じたのは、この分野の人と投入されるリソースが余りにも少ないがために、そもそもそういう議論をするコミュニティが育っていないのではないかと。先ほどいろいろな大きなギャップがあるというお話もありましたけれども、まさしくそのとおりで、小さいコミュニティにもかかわらず非常に大きなギャップがあったり。
 そういうわけで、この科学はきちっと詰めて進めていくことができれば相当な進展があり得るのではないか。10年前と比べても計算機のリソースというのは大変な勢いで進んでいるわけですね。ですから、あとは地道に積み上げるという努力が続けられるかどうかで、そういう意味では、我々が自然科学系でやっていること、モデリング、シミュレーションと、経済学でやっておられることは本質的に変わりなくて、物理モデル、我々のいろいろな現象とか物質を相手にしたものでも前提は相当あやしいです。そのこと自身を疑い始めたらそれは同じ程度にあやしいんです。
 ただ、「皆さん、そこはいいですよね」という合意があるからやっていて。それから、素子化ということから言えば、目的があれば、目的ということは空間的にどれぐらい見るかということと、時間的にどれぐらい見るかということですから、モデルによっては天気予報と一緒かもしれないし、気候モデルで言えば、明日の天気はわからないけれども、50年後の気候はおよそこんな形ですということは言えますということになるわけですね。それはニーズによって決まるのではないかという気がします。
○黒田 最後、非常に貴重なご意見で締めていただきました。
 どうぞ。
○有本 さっきアメリカから帰ったばかりで、ちょっと黙っておこうと思ったんだけれども、全く素人ですから、建設的な話ではないんですが、経験だけ申します。
 総合科学技術会議ができたときに、経済財政諮問会議というのがものすごく勢いがついていて、総合科学技術会議というようなものが内閣府というか総理に極めて近いところにできて、この連中は何かと。前も申し上げたと思うんですけれども、なかなかなじまない。こちらの側が、科学技術というのはこういうふうに経済政策あるいは経済成長に役に立ちますよということを証明する側に立たされた。だから、いつもばかにされて、この連中は3兆5,000億円を確保するための単なる陳情集団だと。多分いまだにそうなっているんじゃないかと思うんですが、経済政策の側が科学とか技術はこれだけ大事なんだから、どういう具合に扱うべきかということを、経済学会も含めて本気で。
 今も同じ構造ですよね。科学技術政策をやっている側が経済学者が集まって、少し多様化し出した。この構造を変えない限り、いつまでたっても、今みたいに本当のところは科学技術よりも経済政策、経済分析のほうがいい加減だというぐらいの構造で、さっき笠木先生が言われた議論する空間、落ちついて両方が議論するような空間がほとんどなくて、あまり広がろうとしてもいないというところ。私が否定する側に回るとまずいんだけれども、どうやったらいいのか。特にあの固い経済学会を何とか科学技術のほうに、半分ぐらいはそれを考えるような、後藤先生などはものすごく苦労されているんじゃないかな。
 私は一遍、経済学会に頼みに行ったことがあるんだけれども、「おまえら来るに及ばず」という感じで門前払いになったこともあるんです、総合科学技術会議のときに。これを私は恨みに思っているぐらいで。総合科学技術会議へ頼みに行ったわけですよ、経済学者と一緒にこういうのを議論していこうじゃないですかと。どうも反転しないと空間が広がらないような気がして。だからこそ、楡井先生とか野村先生とか若い人たちに頑張っていただくタイミングかな。
 感想で申しわけないですけれども、どうやったらいいんですか、先生。
○黒田 おっしゃることはよくわかるんですが、若い先生に頑張っていただきたいですね。経済学者が果たすべき役割と責任というのはあると思うんですね、これからの社会構造なり政策を考える上で。科学技術をどうとらえるかということそのものが、経済学の中で試行錯誤は当然ありますし、粒度の問題もありますから、一通りではないと思いますけれども、経済学者がこれでいけるという何かを持つことが一つの貢献になるのではないかなと思っております。
 笠木先生のおっしゃったようなモデルにおけるファクターとかパラメータというのは、僕も前々から言っていることなんですけれども、粒度が問題なんですね。どの粒度でそのパラメータを測るかというのが非常に問題で、ある粒度がある時点で測ったものと次の時点で測ったものが違っているとしたら、一体どういう構造的な変化がそこにあったんだということをさらに詰めなければいけない。その繰り返しをやっていかない限りはギャップは埋まらないだろうと思うんですね。
 マクロで測ったTFPと成長の関係と、セクトラルで測ったTFPと成長の関係を、パラメータをいい加減にそれぞれ測ってモデルの中にぶち込んでも、当然、結果は全然違うと思いますし、大きな問題が出てくると思うんですが、経済学としては、そこに市場メカニズムから規範的帰結が出てくればそれで事足れりという時代ではなくなってきているだろうという気はしています。
 大分予定時間を超過していますので最後に一つだけ。神里さんが指摘されたエビデンスですけれども、我々はエビデンスというのは広い意味で考えているんです。必ずしも定量的なエビデンスだけがエビデンスではない。先ほどのサイクルが回る過程の中で、熟議しているプロセスも含めてエビデンスがだんだん固まっていくということを考えていますので、そちらも非常に重要だすうと思っています。
 それでは、長時間になりましたけれども、第1番目のセッションを終わりたいと思います。どうもありがとうございました。(拍手)
○己斐 以上で全体議論は終わります。
 これから10分間ほど休憩をとらせていただいて、テーマ2に入らせていただきたいと思います。コーヒーも後ろにございますので、ご自由にお飲みになってください。お手荒いは出口を出られて右手の奥にございます。
(休    憩)
○己斐 それでは、テーマ2のディスカッションに入りたいと思います。テーマ2は「科学技術イノベーション政策で取り組むべき課題をいかに設定できるか」というタイトルにさせていただきました。
 テーマ2の構成はテーマ1と基本的には一緒です。ただ、ここでは政策課題について、その抽出に関連する取組みの先行事例に学ぶという趣旨になっておりますので、関連する取組みについて、これまで関係機関で行ってこられたことを順番に紹介していただいた後で、奥和田さんからコメントをいただき、フロアに開いたディスカッションという形になります。
 この絵が出るのは3回目なんですけれども、テーマ2では、左側の政策課題の設定ということで、オプションに対応する政策課題を設定するところについても非常に難しい、検討するべき課題だと考えているのですが、我々が現在考えているやり方というのが、人口動態とか科学技術水準というような様々なデータに基づいて、現状の研究開発努力ないしは社会経済活動が行われた場合に、このままいくと将来どういった社会になるかということをある程度描いた上で、それと本来目指すべきビジョンというか社会の姿との、到達するところの差と言いますか、その違いをどうすり合わせるかというところが問題なんですけれども、その2つを見た上で、このビジョンを実現するためにはどういった課題が存在するのかというようなところから課題が出てくると考えております。
 先ほどから何回も議論に出ていますけれども、適切な課題の設定のレベル、粒度をどこに置くかと。ここは何度もビジョンとのサイクルの中で適切な粒度を見定める必要があるのではないかということと同時に、課題の達成の指標となるような目標を設定する際に、どういう指標で測っていくべきかというようなところも問題になるかと思っております。その将来像を描いた上でビジョンとのすり合わせの中で課題を出していかなければいけないんですけれども、将来像の描写については現在でも関連する各種取組みがあるので、そこと切断するのではなくて、これまでの取組みをいかに生かす形で政策オプションをつくっていけるかというところも検討する必要があると考えております。
 全体議論で論点になると思うのが、現在及び将来の科学技術水準の把握のために既存の事例から何が学べるか、将来像をどのように描いていくかということですね。もう一つが、達成目標をどのように設定するか。ここに社会的な価値観というものをどうやって入れていくか。必ずしも定量的に表現できるだけのものではないと思います。3つ目に既存の事例を政策オプションにいかに活用できるか。別の政策領域ではオプションに近いようなものも存在すると思いますので、そういった既存の事例をどうやって活用するかというようなところが議論の論点になると思います。
 それでは、先行事例の紹介に移らせていただきます。まず、文部科学省における政策課題の設定に関する現時点での検討について、政策科学推進室長の山下さんよりご紹介していただきます。よろしくお願いします。
○山下 文部科学省の政策科学推進室長をしております山下でございます。今、CRDSの己斐さんからご紹介いただきました、課題をどう設定していくのかというカテゴリーに入らない説明というか話になってしまうんですが、前回の構造化研究会でもご紹介申し上げましたとおり、文部科学省では来年度に向けて政策形成実践プログラムというプログラムを開始しようとしておりまして、ここで政策オプションを具体的につくってみることにトライしようということで、その準備をしている状況をご説明したいと思います。
 ちょっとページを飛ばします。お手元の資料ですと4ページになるんですが、ここでは将来の状況をきちんと見ていくフォアキャストの視点と、きちんと将来ビジョンを見据えてバックキャストからとらえていくという、両方から政策課題を煮詰めていくのが正論的には望ましいのかなと思いつつも、このフレームワーク自体がきちんと整合をとって仕組みができているわけではないので、我々のほうでは政策課題をギブンと、与えた形でトライアルできないかと考えております。
 その一例でございますが、健康長寿社会というのをとらえてみたらどうかなと。それもどちらかというと対処療法の発想ではなくて、予知予防ということを前提とした健康長寿社会を考えてみてはどうかということで整理した図がこちらでございます。ここの黄色のところをごらんいただければと思います。特に高齢者を中心に見ていますけれども、今、団塊の世代をはじめ65歳以上の高齢者の数が飛躍的に増えてきて、2050年には40%ぐらいになるという人口推計もあります。
 一方で、生産人口が急激に減っていくということで、人口の動態だけを見ても、大変失礼な言い方になるかもしれませんけれども、高齢者がお荷物になるというよりも、社会の中で一定の役割を果たし、かつ、生き生きと働いていく、あるいは、地域で活躍する、ご自身で何とか生きていくと。そういう価値観が重要ではないかというところを幾つか表現しているのが右の2つでございます。
 そういうことに加えて、医療、介護という側面で見ると、管轄に関しては厚労省になってしまうので、我が省がどうのこうの言う話ではないかもしれませんが、非常に増大が見込まれる中で、医療、介護というところにかからなくて、日常生活でできるだけそういうことをケアするような社会をつくっていくということも加えて考えていくことで、健康長寿社会をとらえてみてはどうかということでつくった図でございます。
 こういういろいろな価値、あるいは、将来の姿をどういう組み合わせ、あるいは、どういう比重でとらえて手立てを打っていくかということを、これも網羅的ではないんですが、仮に整理したのが真ん中の水色の部分でございます。例えばR&Dですと、生活習慣病発症のメカニズムとかもろもろ書いていますが、糖尿病になるのは膵臓の膵頭のインスリンをコントロールする機能が失われる、あるいは、そこが欠損になるということが根本的にわかっていますが、実態面のメカニズムは難しくてなかなかとらえきれていなくて、ここは科学の中でも研究者がいろいろな側面からご研究されているところであります。この辺がわかると生活習慣病というものを予防できるのではないかということにもつながっていくのかなと思います。
 それから、真ん中のところにありますのは、ちょっと書きぶりが難しいところがありますが、医療現場のみならず介護も含めて情報の共有が十分できていないところに非効率があるんだというようなご指摘もございますので、そういったところの制度改革みたいなことも、健康長寿社会を考えていく上で重要なのではないかと。
 一番右側のエリアですと、健康食品とかサプリメントといった、健康にいいというもので実際世の中に普及しているものはたくさんございます。一方、使い方を誤ったりすると弊害が起こったりリスクもあるだろうと。そういうところで、評価という視点で官が検証するような仕組みできちんとした形で普及・導入が図られるとより望ましい社会に近くなるのかなと。これに限らないと思いますが、いろいろな手立てがあると思うんです。
 そういう手立てに対して、上にある黄色の部分の社会というものをとらえた際に、施策の重点をどこに置くかとか、タイムスケールをどう置くかで、その効果は随分変わってくると思うんですが、その効果を、一番下にありますような経済的なインパクトですと、産業動態がどうなる、雇用がどうなる、あるいは、生産性がどうなるといった視点はトラディショナルに、経済学でいろいろな視点で、お知恵もあるし、先ほどご議論もあったように難しい面もあろうかと思いますが、とらえつつ、こういう課題になりますと、国民QOLと言いますか、生活のあり方と言いますか、働き方、余暇の過ごし方、いろいろな側面、あるいは、リスクの面もあると思いますけれども、様々な社会インパクトが生じてきます。これは、数字だけではあらわせない、定量的なものではない、定性的なものももちろん含まれると思いますが、こういったことをわかる範囲でトータルに把握できないかということを模式した図です。
 我々は、10月の半ばぐらいに、非公開だったんですが、グラフィックファシリテーションという手法と、熟議によるスタイルによってディスカッションしてみようというトライアルな試みをやりました。メンバーはここにありますような予防医学とかスポーツ医学、高齢者ケア、ヘルスケア、民間の方にも入っていただいてディスカッションをしました。その結果をこういう形でまとめているんですが、現場視点、あるいは、高齢者あるいは介護者をごらんになられている方からすると、我々が気づかなかったような視点をいろいろいただきました。
 例えば、真ん中にありますようなモラルハザードを防ぐと。薬漬け医療からの脱却とか、無料サービスに対する倫理観、これは救急車が無料で使えるということを言っているんですが、そういった視点。あるいは、主体性を持つべきだと。今、介護者の実態というのは、一度介護認定を受けますと、どんどん深みにはまっていって、補助されるのでそのほうが楽だということになるんですけれども、そうならないような、自立していける仕組みを、インセンティブという形なのか、どういう形かは別として考えていくべきだとか、様々Nなご意見をいただきました。
 ただ、非常にたくさん視点をいただいたので、まだ整理しきれていないんですが、今思っていますのは、例えばこういうものを一番最初の図とも近い形で、左側にありますように、病気や介護の状態であっても安心して暮らせる未来、あるいは、同じような状況ですけれども、自立を取り戻せるというような未来、あるいは、健常者のままできるだけきちん、医療とか介護の厄介にならないような立場の人はそれをできるだけ継続できるようにすると。
 そういった視点で見たときに、現状どういう課題があり、ここでどういうエビデンスをとっていくのかということを考えていく必要があると思うんですが、一番下の実現したいことというのはまだ施策に落としきれていないんですが、より公的な手段というか手立てみたいなものを考えていく。あるいは、自発的な、あるいは民間が頑張って取り組むようなものを幾つかレイヤーで並べてみる、今こういった整理をしておりまして、まだまだ課題がたくさんあると思っています。
 きょうの議論との接点で言いますと、これは正直言いまして粒度がかなり大きいので、まずはきちんと構造としてとらえて、もしこれをモデルにするなり、分析をしていくということになると、もうちょっと簡便なものにして、何かそぎ落とさないといけない。そぎ落とした後で重要なものが出てきたら付加できるような柔軟性を持たせるという取組みを考えていく必要もありましょうし、政策オプションと言うからには、グラデーションが見えないといけないので、政府だけの取組みかどうかは別として、トレードオフがきちんと見られるようなモデルをつくっていく、あるいは、エビデンスを整えていくということも重要だと思っております。
 もう一つ重要なのは、科学技術イノベーションですので、一番下に科学が貢献できるレイヤーを設けて、それぞれがどういう因果関係があるのかをつくっていますが、科学技術がベースとなるような取組みとして考えていけるというところに絞って、政策オプションをつくれる構造を考えていきたいということを検討しているという現状でございます。
○己斐 ありがとうございました。
 それでは、NISTEPにおける予測調査活動について、伊藤総務研究官から紹介していただきます。
○伊藤(宗) それでは、我々政策科学研究所がやっております科学技術予測活動につきまして、今までの経験についてご紹介したいと思います。
 ご案内のように科学技術予測は1971年から5年ごとに約40年間の歴史を持っております。政策研究所は第5回から主担当ということで実施しております。特に近年におきましては、第8回とか第9回あたりから、初期はデルファイ調査を中心にしておりましたけれども、科学技術基本計画策定の議論といったものへの活動を意識いたしまして、複数の手法の組み合わせを行ってきております。
 また、B)の特定の政策課題に対応する予測調査ということについては後ほどご紹介いたしますが、2006年には、当時の“イノベーション25”という戦略目標の策定に当たりまして、我々としてこのような予測調査の結果を使いながら、大きな将来ビジョンの設定を行っておりますので、これについて簡単にご紹介します。
 まず、第8回予測調査のほうです。これは2005年に行われております。先ほど述べましたように、今後30年間にわたる技術の動向をベースとしておりますけれども、これがいわゆるデルファイ調査というものであります。それ以外にいろいろな調査を組み合わせておりまして、こちらのほうが社会的なインパクトが重視されたニーズの調査といったもの。それから、このような技術、ニーズをベースにいたしまして、シナリオ分析調査を行っております。また、当時は、それ以外に論文データベースを用いまして、発展領域の抽出といったような定量的な分析も行っております。こちらのほうは、その後、我々としましてはサイエンスマップ等で発展的に分析を続けております。
 まず、デルファイ調査でありますけれども、これはご案内のように専門家に対するアンケート調査をベースにいたしております。技術課題を設定いたしまして、ここでは約850程度ございますけれども、この研究課題に対しまして専門家、この場合は約2,200名の方々に対しましてアンケートを行い、個々の技術の、この場合には技術的な実現の年がどれくらいなのか、あるいは、それか社会的に実現するのはどれくらいなのか、さらにはその重要性、あるいは、そういった技術的な課題に対してどういった施策が重要なのかといったようなことについて、技術の将来動向を30年間にわたって明らかにしたというものであります。
 またこのときには同時に先ほど述べました社会経済ニーズの調査も行っております。少し詳しくご説明いたしますと、ニーズにつきましては、当時出ております各省庁の各種の白書、あるいは、いろいろな戦略等々から、我々としましてニーズの基本的なところをつくり上げる、項目立てを行うということがございます。ここで40ぐらいの社会的なニーズを浮かび上がらせた上で、インターネットによって市民に対する問題意識の調査をかけまして、どのニーズが最も市民にとって重要なのかというあたりを調べております。この場合も約4,000以上のインターネットに対する答えが集まっております。
 また、産業界からのニーズといったものも特にインタビュー等で得たと。さらには有識者とか市民、経営者の代表によるパネルといったものによって、最終的には約90のニーズ項目に整理すると、こういったニーズ調査を行っております。また、そのニーズ項目と、先ほど述べました800ぐらいの項目の上に約130領域がございますけれども、それとのニーズとシーズのクロスの関係づけを行ったということでございます。
 これは具体的なニーズの大項目の12の例であります。
 次に第9回の調査であります。こちらにつきましても同じように、第4期の科学技術基本計画策定の議論に対して貢献を行うといったようなことをねらっておりまして、我々としましては、第8回と同じようなデルファイの調査をベースにしながら、将来シナリオの設定、議論を行っております。このデルファイも同じように800課題以上ございますけれども、ここに書いてありますように第8回と第9回は基本的な違いがございます。
 それは、この調査の前に予備調査を行っておりまして、第8回においては分野別と言うんでしょうか、情報工学あるいはライフといった形で課題を分類し、委員会を構成しておりますけれども、我々は予備調査の段階で幾つかの共通的な視点という形で、例えば国際的な競争とか協調等々の、最初から分野という形に入らずに議論をしていただきまして、そこから幾つかの問題意識を基にこのような800以上の課題を抽出しております。
 デルファイにつきましてはさっきの第8回で説明しておりますので、将来シナリオのほうでありますけれども、将来シナリオにつきましては、特に約12のシナリオを定めるテーマを設定しております。このテーマにつきましても、できるだけ分野別という概念を排して、将来の大きな課題をとらえながら分野別を構成し、5名程度の専門家にシナリオを書いていただいたということです。シナリオに必要な記述内容といたしましては、私どもから、例えばそのシナリオを実現する際の重要な研究課題とか、ほかの政策との関係であるとか、あるいは、国際的な観点からの問題とか、必要な社会的な需要といったようなものについても書き込んでいただきたいということで将来シナリオを書いたということであります。
 これが例でございます。先ほど山下さんからもお話がありましたが、我々としましても少子高齢化時代の健康維持・増進といったようなテーマについても、ここはポンチ絵状になっておりますけれども、必要な研究課題とか、それを支える基礎研究、あるいは、他省庁との政策的な連携の必要性、あるいは、人材育成施策、さらには大きな国際的な枠組みとか、改革・導入が必要な社会的なシステム、概念といったようなことで、総合的にこのような問題を解決する際のシナリオを、技術をベースにしながら書き上げているということであります。
 すみません、これは図が抜けてしまったんですが、同時にデルファイの結果から生活シーンといったものを幾つか抽出いたしまして、そのシーンについても記述を行っております。
 次に、先ほどちょっと述べました「2025年に目指すべき社会像」ということで、2006年に安倍政権が誕生いたしましたときに、“イノベーション25”戦略本部というのが立ち上がりまして、そこから急遽、その戦略のための2025年に目指す社会の姿を、特に科学技術システムの観点から明確化してほしいといった依頼がございました。検討期間として約3カ月ほどしかなかったわけでありますが、我々としては、そのとき第8回の技術予測が済んでおりましたので、事務局とご相談しながら、そこの中から、ここにありますような6つの分野を設定いたしまして、最終的には約300名がこの議論に参加して将来像を描いたということであります。例えば、生涯健康の時代ということで、このようないろいろな観点からの将来像を描いたということであります。
 ここで簡単に我々の提案を一言だけさせていただきたいと思います。今申し上げましたように、かつての技術予測、現在は第9回のいろいろな知見を持っております。そこでは社会将来像とか、あるいは、当然ながら実現に要するいろいろな関連技術の動向も把握しております。ということで、先ほど山下さんが言っておられました政策の目標をまずはJSTさんとご一緒に設定しながら、JSTのほうは技術俯瞰等がお得意でありますので、そこでさらにそれを構造化し、ギャップ分析を行うと。
 さらには、SciREXのチームの中で政策オプションを組み上げていくというような、一連のシステムとして我々のデータもご利用いただけるのではないかと。さらには、来年以降同じようなシステムが動くということでありますならば、この技術予測なりシナリオ分析といったものをいろいろな観点から繰り返しをして、その中から共同でこういった大目標をつくっていくということに、我々としても今までの知見を活用できるのではないかと考えております。
 あと、日本-フィンランドの共同プロジェクトを参考として出ておりますが、特に欧州におきましては科学技術というよりも社会的な観点からの技術予測活動が活発でありまして、そういったことから2008年において共同研究を行っておりますので、それについてもご参考につけております。
 以上です。
○己斐 ありがとうございました。
 それでは、次に、研究開発戦略センターの中で社会的期待・邂逅について検討を行っているグループの検討について、前田フェローから説明していただきます。
○前田 前田でございます。お手元の資料に従いながら、こちらのスライドで説明してまいります。
 ご存じの方も多いとは思いますが、CRDSではこういった図で示されているような研究開発戦略の立案プロセスをとっております。科学技術の分野と社会的期待を邂逅させて、戦略プロポーザルというCRDSでの一番メインのアウトプットになります、どういう研究開発領域に国としてファンディングすべきかという提案を出していくわけですけれども、この中の社会的期待の側の検討と邂逅の側の検討を進めております。
 特に社会的期待というものをどういう枠組みで我々は今検討しているかと言いますと、社会的期待はそもそも潜在的なものがあるから発見しなければいけないという考え方に基づく吉川センター長の提案で検討する部分と、政策形成のための方法論として、最終目的としてはイノベーション政策が取り上げるべき社会的課題の設定方法を提案するという、まさにこのテーマ2に関連する部分も一つの柱ではあるんですけれども、本日、私が説明いたしますのは、3つ目の、先ほど見ていただいたプロセスを検討し、さらに実践するという形で、横断グループというものをつくって検討しております。
 今8名ほどのグループでやっておりますが、CRDSの体制として、センター長の下にこういった分野別のナノテクとかライフ、環境といったユニットがある横に、各ユニットから1人ずつ出まして、吉川センター長と、お帰りになってしまったんですけれども、笠木上席フェローの下に横断グループをつくりまして、この3つ目の軸の戦略立案プロセスに資するためということで検討を進めております。
 この一連の検討は一昨年から始まったんですが、ことしは少し方法を変えまして、現在試行中で検討しているところなんですが、24年度の検討の流れをご説明したいと思います。先ほどの図の上にかぶせて描いてありますけれども、社会的期待の側の検討として、「検討枠組」による議論やテーマの設定、ここが課題を選ぶという部分に該当するわけです。それと、シナリオをつくるということをこの社会的期待側ではやっています。
 それを受けて、紫色の部分ですけれども、要求分析・要件という形でやった後、先ほどの技術分野別のユニットのほうから出されてくる研究開発領域を真ん中で邂逅させるというような、①、②、③という手続をとる形でやっています。ワークショップ1、2、3、4という形で、それぞれの部分に該当するところでワークショップを4回開いています。私どもではこれをあくまでも試行という形でとらえまして、こういう形で4回、8月、9月、10月、今ちょうどここの「邂逅」の途中まできているところですけれども、基本的にはCRDSの人間でやっています。この方法で一通りやってみて、参加者が変わると結果がどういうふうに変わるかという形で結びつけていく予定にしております。
 この社会的課題の側の検討ですけれども、第1回目のワークショップでファクト、トレンド、ビジョンを議論する、2回目でこれらを踏まえてデザインの議論を開始するということをやっています。このファクト、トレンド、デザインというのはどういうことかというと、お手元の図にもあると思いますが、こういった検討枠組を設けまして、現在の問題点をファクトとしてとらえて、これが10年後までに高い確率で発展する社会状況、それがトレンドとして10年後までにどういう変化の方向性があるか。そして、あるべき社会の姿に向かってどのような対処が可能かというような枠組みで考えるというふうにしまして、この枠組みに沿って検討してまいりました。
 具体的には、社会的期待のうち、顕在化して言語化されているものを「社会課題」と呼んで、報告書や白書、あるいは、過去のワークショップなどで上がったものから、環境とか健康とかいろいろなカテゴリーでまず俯瞰的な整理をいたしました。これをここのファクトとトレンドのところのインプットにしてあげまして、これを基に1回目のワークショップで、特に10年後にどれが問題として大きくなりそうですかというような話を聞き、さらにそれが解決された後のビジョンを出してもらいました。その結果として、3つぐらいのフレームでとらえられるように課題が上がってきているということで、ボーダレスな世界の中での国家にかかわるもの、国という枠組みの中で認識されるもの、そして、個人に関するものという形で、ファクト、トレンド、ビジョンの視点を整理するという形をとりました。
 次に、ちょっと前後して恐縮ですが、図の両側で挟んでいる真ん中の、先ほどご説明があったフレームですと、ギャップを埋めるという意味でデザインというところを進めていくという形で、ここでシナリオプランニングの方法を参考に検討いたしました。トレンドからシナリオの軸をつくり、将来の社会の姿ということでシナリオを書くと。このシナリオに基づいて要求分析・要件の定義をし、要件を充足する研究開発課題を分野別のユニットからもらってきて、それの両方での要件群と課題/領域ごとのセットをつくると、こういった流れでデザインの部分をやろうとしています。今、ちょうど分野別ユニットからの課題/領域の提案を待っている状態まで来ております。
 ここで「シナリオプランニング」と言っているのは、将来起こり得る社会の姿をシナリオとして複数描き出すことによって、戦略への対処力を高める方法といった理解で、これを参考にしてシナリオ作成をしております。
 そのシナリオのテーマとして具体的に何が上がったかというと、それぞれ3つの枠の中で、真ん中のところに3つテーマが上がる形で、ここでごらんいただいているような内容のものが選ばれてきました。
 さらに、これに対してどういう軸を設定したかというのも、お手元の資料で併せてごらんいただきたいんですけれども、例えば国際連携という形に関しては、国としての戦略行動が強いか弱いか、人や組織が国際志向か国内志向かということでつくりました。あるいは、社会インフラという点に関しては、ストック強化か運用重視か、画一か多様かというような形で、5種類のシナリオを出して作成するという形をとりました。
 これに対して、要求分析・要件定義ということをやっていくわけですけれども、1と5は参考的な共通シナリオとして、具体的にこのプロセスは科学技術の領域との邂逅を視野に入れておりますので、真ん中の3つについて要求分析、何々を何々したい、要件の定義としてこの要求に対して●●を●●できることというような形で、かなり詳しくブレークダウンをして分析していくということをやっていきました。
 具体的にどんなものかということを見ていただきますと、例えば、社会インフラに関しては、ストック強化/運用重視、画一/多様というような軸を設定しましたので、それに対してこういったシナリオプランニングの方法を使う形で、それぞれの象限に対してストック強化であり画一であれば高機能なインフラでコストを削減するというような発想、そして、ストック強化で多様であれば地域に応じてカスタマイズ可能というような形で、キーワードを最初に割り当てます。
 これに対応して、実際はもう少し長いんですけれども、各象限ごとにストック強化とか多様であればどういったイメージかということで、これだと新しくインフラをつくるけれども、こちらは標準化していく、これは地域に合わせて多様にしていくというところが変わってきますし、あるいは、こちらはなるべく新しくつくらないで運用でいく、そしてそれは同じパターンでいく、こっちは運用でいくけれども、地域に合わせるといったような、価値観が少し入るような形でやっていきまして、これに対してどういう要求があるかということを上げていきます。
 これは一つひとつのシナリオについて、70行から百何行ぐらいずつこういうのが出てくるんですけれども、例えば、この中でシナリオの象限に特徴的なものも出てくるんですけれども、見えないところにあるインフラの状況を把握したいというのが共通のものとして出てきます。
 こういったそれぞれの要求分析に対してどういう要件が出てくるかというと、例えば、共通のものであればモニタリングとか管理みたいなものが出てきて、この辺で技術の言葉に置き換えられて、分野別ユニットから出てきた課題との邂逅が行われつつあるところまできています。今、模式的に合わせると要件に対してこういう領域が結びつけられて、これを構造化俯瞰図というループの中で検証して、これの中で説明できるものを戦略プロポーザルとして考えていこうという構想でおります。
 説明としては以上です。ありがとうございました。
○己斐 では、最後の事例といたしまして、経済産業省における関連する取組みの経緯と課題について、産官学連携研究推進官の能見様よりご紹介していただきます。よろしくお願いします。
○能見 能見でございます。日ごろ大変お世話になっています。どうもありがとうございます。技術ロードマップについてということでテーマをいただいたのですけれども、技術ロードマップを何のために使っているかと言いますと、ナショナルプロジェクトあるいはNEDOプロジェクトの立案のためでございまして、そのあたりの歴史を踏まえて、なぜこれが必要になったのかということを含めて説明させていただこうかと思います。これは全く個人的なものという理解で。というのも、技術ロードマップの担当課は別途ございまして、ここ15年ぐらいイノベーション絡みをいろいろとやってきた関係で私に話がきたものと思っていますけれども、担当の責任課ではないもので、個人的な見解ということでご理解いただければと。
 まず、通産省のナショナルプロジェクトはかなりの歴史がございまして、大型プロジェクトが代表的なのですが、1966年からです。50年ぐらい前からこれを始めております。このナショナルプロジェクトというのはどういうものかというと、反対概念は提案公募型のものになるわけで、こちらのほうは企業が計画を立てて公募したときに手を挙げてくる。それに対してこちらのほうは国が基本計画をつくる。これは大プロの後、1974年のサンシャイン、その後、ムーンライト、それから、80年代に次世代云々となって、現在、NEDOプロジェクトにつながっていると、こういうふうな流れで。
 こういうふうなナショプロの中からいろいろな産業が生まれてきましたよということで、中の人間も再びこういうふうなことをやりたいという哀愁みたいなものはございますし、外からもこういうことをやれという圧力はあるんですけれども、結構それは難しいんですよと。昔と状況は違って、そういう中で技術ロードマップが必要になってきたりという話を説明させていただこうかと思います。
 ナショプロのマネジメントは省略いたします。大切なのは、研究チームと役所だけで議論していたのではありませんと。企業の本社と相談しながら、プロジェクトフォーメーションをやっていたんですと。このプロジェクトフォーメーションを1社とだけやっていてもブラッシュアップできません。業界の何社かと議論する中で業界共通の課題を摘出して、10年後、20年後の業界の姿を考えてプロジェクトをつくっていた。
 あるいは、役所の中でしたら、部長さん方あるいは研究所長さんなどと相談しながら、これは重要だと思ったら、局長・課長が社長さん方と話をするときに会社の方針とすり合わせていたわけですね。そうすると、会社の中でも部長さん方が考えていたことが社長まで、トップまで上がる。まるでボトムアップのワンプロセスを役所が肩代わりしているような側面もあって、お金だけではないんですと、先ほどお話がありましたけれども、実際に現場ではお金だけではございません。
 これは業界との詰めだけではなくて、役所サイドは役所サイドで産構審などを動かして産業ビジョンをつくっていた。それは、産業技術政策というのが単独であったのではなくて、我々はあくまでも産業政策をやっていたんで、そのツールとして技術開発をやっていたわけです。現状問題点、将来ビジョンをつくって、対応の中で特に前向きの話は技術開発になった。将来ビジョンをつくるときには、こういうふうな情報を使ってやっていた。
 しかしながら、これが現時点で本当にできるのかと、業界で足並みをそろえて共通のビジョンというのは今の時代とても合いません。要するに護送船団方式ではない。そういうふうなときに、国主導で産業ビジョンを本当につくれるのかと。つくるとしたら、1社1社のビジョンを我が省がつくるのかねと。ビジョンをつくって、これは日立さん、これは東芝さんと別々のビジョンを提示する、そんなことが本当にできるんだろうかと。
 1社ずつ別々の方向を目指すのであれば、そのための技術開発のあり方というのを本当にできるんだろうかということで、こういう流れの中でプロジェクト立案の方法、複数企業を相手にせずに、1社1社別々ですよと言った瞬間にこれが難しくなってくる。そこは技術ロードマップという別のツールを使いましょうというので、2004年ぐらいから始めたわけですが、これは海外で事例があって、スイスとかイギリスなどでやられていて、それを亡くなられましたカメオカ先生が非常に詳しかったので、その先生の知見を踏まえてやりました。
 もう一つは、公的ファンディングのリーズニングというのは過去ずっと変化してきているんですけれども、これがこのあたりからはっきりしなくなった。だから、ここのところも経済学上の問題として残されています。
 こういうことで技術ロードマップというのはスタートしているんですが、技術ロードマップというとムーアの法則では半導体の国際技術ロードマップだというのが有名な事例で、線幅がどういうふうになっていたら、要素技術としてどうなっていくと。その要素技術ごとの何年にどれだけのスペックが必要ということで、半導体の製造装置メーカーとか材料メーカーなどに目標だけ示す。目標を示してそれを実現するのは各社実現して、実現したところからインテルが買いますよと、ショッピングリストで。そういう意味ではマーケットがないというもので、普通の技術ロードマップとは違います。
 技術ロードマップの普通のパターンはこういう格好になりまして、大切なのは市場と製品と要素技術、この3つを時系列上に並べてやる。それによって将来のニーズと現在スタートすべき研究開発を結びつける。このタイムラグというのが10年とか20年とか出てくるわけでございます。したがって、この2つが大切ということと、実際にはこれのつくり方、技術ロードマッピングという言い方もありますが、技術ロードマップのでき上がったものよりも、これをつくる過程が非常に重要であるとよく言われております。これは準備段階、それから、4回のワークショップをやる。
 ワークショップというのは、アバウトに半日かけて十数人が議論するもの。1回目は市場、2回目がプロダクト、3回目が要素技術、最終的に時系列的にそれらを整理していくと、こういう流れになっていくわけです。この中のプランニングで一番重要なのはメンバーの選定です。技術者だけ集めても仕方がなくて、市場のプロとか、企業でつくる場合であればマネジメント層を一緒に入れて、意思決定できる人を入れておく。それによって部門間の意思疎通とか、マネジメントと現場の意思疎通、あるいは、この中でほかのシナリオとしてどういう候補があったのか、状況が変わったらどういうふうに変化させればいいのか、こういうことを考えていくわけです。
 この議論の中ではこういうふうな丸いテーブルで議論するということ以外に、KJ法を使って、この2つを併用しながらやっていく。KJ法ですから、こういうふうな通常のやり方で、したがって、アイデアの創出を大切にしていくわけです。そういう意味では、すべて客観的なものかというと、必ずしもそうでもない。NEDOがつくっているバージョンもあれば、企業が自社でつくるやつもありますと。
 悪い使い方というのは、NEDOがつくったやつを各社がそのとおりやって、でき上がったときは競合して、コモデティになって値段が下がる、これは一番ばかなやり方で。しかも、NEDOがつくったやつはオープンにしていますので、韓国の企業もじっくり研究しています。したがって、うちの中でつくっているときから「こんな使い方するなよ」と私も注意していて、そのときの答えも、企業さんは決してそんなにばかじゃありません、自分の会社用にちゃんとモデュファイしますと。したがって、ナショナルプロジェクトをあれするときもそういうモデュファイしたベースでやるんですと。
 では、これがエビデンスベースかというときに、マーケットの見方というのは、どうセグメントできるかと。トレンドとして何をトレンドとみなすか。というのは、必ずしもエビデンスだけではありません、アイデアもあります。技術の分析というのは、かなりの程度専門的に共通の理解がある。しかしながら、プロダクトというのは戦略そのものです。市場の中でどこをねらうのかと、その選択ですから。これは別にエビデンスベースではありません。そういうふうなもので成り立っています。
 したがって、技術ロードマップというのは客観的な事実だ思われたら、実はそうではなくて、その中には多分に戦略とか意思決定が入り込んだものと理解していただかないといけないし、それは固まったものというよりは、こういうことをきちっとマネジメント層まで含めてやっていれば、状況が変わったときにすぐパーンとどういうふうに変えるかという意思決定もスムーズにできるはずです。そういうものと理解すべきだと思います。
 それから、これは一般論になりますけれども、政策を講じていくときは現状分析と将来ビジョン、それをつなげるプロセスが大切なわけですけれども、ここはある程度エビデンスベースでできても、ここがまさに意思決定のところであり、夢が大切だとか、絶対これを実現するんだという意思が大切だと。かつ、それをどうやったら実現できるかというのは理論が必要で、事実だけ幾ら並べてもシミュレーションは難しかろうと。私が18のときに習ったことを古い記憶で書いているので自信ありませんが、マックスウエーバーの価値自由の問題、あるいは、技術的批判みたいなことがここで必要になってくるだろうと。
 これは全くの参考で、昔のターゲティング政策においても、いろいろとデータを調べていたんですよと。ただ、こういうふうな統計データは全く新しい産業には当然ないわけで、どうするんですかというのがあります。それから、公共経済学、私はスティグリッツの教科書からこれを書きましたけれども、こういうふうな議論は今後見直しというかレビジョンがなされていくんだろうなと思っております。
 以上でございます。
○己斐 どうもありがとうございました。
 では、全体議論に入る前に、JSTの奥和田シニアフェローより全体へのコメントをいただきたいと思います。
○奥和田 高い席から失礼します。いろいろな方法があり、それぞれに実績もありで、ちょっとおこがましいんですが、方法論的なものはいろいろあり皆さんも検討されてきて、例えば一番最後の経済産業省さんのやつなどは産業界には最も知名度が高く有効にきただろうし、最後から2番目の科学技術予測などは、古いというか歴史があるという点で改善は一番されてきたのかなと。また、邂逅のプロセスというのは、それらを学んでまた新たにやろうということで、リバイズされているものだろうかなと。
 私がこんなことを言うのはおこがましくて失礼なんですが、方法論から言うと既に多くの試みがあり、それぞれに有効性も弱点もあるかなと。技術ロードマップ全般的に言うと、こういう有効性があるけれども、目標が定まっていないとちょっと難しいのかなというところがあるし、予測も今までいろいろやってきたものの中ではできてないことがわかってきつつあるかなと。また、邂逅のプロセスも社会との関係という点では一番強いんでしょうけれども、自己完結型になっていないかなというところがちょっと心配かなと。
 こんなことを言って失礼ですけれども、いろいろやってきているので、こういうことを同じように繰り返しても違った答えというのが、本当に必要なことかどうかわかりませんけれども、今後違った答えが出てくる可能性は低いかなと思っています。それぞれがこれからまだまだ改善されていく余地があってされていくと思うんですけれども、これが、例えば黒田先生たちがおっしゃるようなイノベーションギャップを埋めるような作業につながるのかなということは、組み合わせたり、単に足すということでは済まないのかなと思われる節があります。それはこれからこういうものが変わっていく過程でもう少し考えていっていただければいいかなと思っています。
 既に総合科学技術会議の俯瞰図もこんな形になっておりまして、昔と違って機能の要求とか、必要な技術領域とか、中長期的に必要となる技術領域だとか、将来の技術発展はどうだとか、基本計画との関係はどうだとか、既にこういう形になっているわけですね。今までの知見でこういうものは既にできていると。こういうことではイノベーションギャップが埋まらなくて、今後は科学技術投資の根拠にはもうなり得ないかなと思っているからこそ、皆さんがもっとやろうと思っているんじゃないかと。
 科学技術イノベーション政策の立案の過程に多くバックキャスティングが入ってきていると、要するに技術の積み上げだけではなくバックキャスティングになってきているという例があって、どういう目指すべき社会がほしいのかというのから入るということは定着しつつあるのかなという感じがあります。ただ、それでもイノベーションが生まれる構造が示せないのはなぜかというところを変えていくか、考えていかないと、足す要素としては足りないかなと。
 研究推進のリニアモデルというのが皆さんの頭の中に深く根づいちゃっていて、こういうことで今まで科学技術の推進が行われていて、こういうところにファンドとかいろいろなものが入ってきていると。きょうは森田先生がいらっしゃっていないんですが、私が森田先生から言われているのは、日本のイノベーションの発想自身が既に基本的におくれていて、こういう日本の現状を外国人や海外に説明してもインパクトがあまりないと、彼らにとっては当然だということができていないのが今の日本で、それを新たに海外に説明しても全然インパクトがないんだということを森田先生がおっしゃっていて、確かにこういうものが頭にこびりついていて、それを発想しているかなと思っているところもあります。
 これはよく言われますけれども、我々は変曲点にいるのであって、これからどんどん変わって、これは単に人口が変わるという問題だけではなくて、過去の経験が、無駄とは言わないまでも、あだになる可能性が高いという時代がやってきて、全然違う時代がやってくるということをかなり意識しないといけないと思っています。それを思うと、今起きつつある現象が、これを見てどうなるかというと、こういういろいろな問題が起きてきて、結局は科学技術のシーズ側も矮小化が起きたり偏りが起きたり、現実逃避っぽいところが起きていて、こちらのものも従来の事業目的が倒れちゃったり、消失しちゃったりということが、もう既に起きつつありますが、今後はもっと起こるかもしれなくて、このプッシュが無効になりつつあるかもしれないということを意識する必要がある。
 そこで起きがちなのが、こっちのシーズ側としては、目的が何だかわからない研究がたくさんになったり、先端と言いながら末端になったり、重箱の隅とかドーデス研究がいろいろありますけれども、そんなものが増えてきている可能性もあることを頭に入れなければいけない。こちらの産業界の言うことを聞くとか、社会のことを聞くとかありますけれども、それがかつての夢だったり、事業化見込みのない要求だったりする可能性があって、そこはすごく気をつけなければいけないと。
 こういうところに競争的資金とかマッチングファンドが入れられると、もはや必要ないとか、効果の小さいイノベーションの推進が行われ続けて、一方でこれから必要になることが推進されないという可能性、懸念が結構ある時期にきているということを強く認識する必要があると思うんですね。それが今までやってきた蓄積でなくて、これからやらなければいけないことのモチベーションだということを強く意識しないと、全く同じような結論がまた出てくるだけという気がするんですね。
 ここから先は私見なのであれなんですけれども、新たに生まれる価値の発見や、消えていく価値が何であるかということをより明確にする必要があるし、今までのあるものから探すというよりは、欠落の発見や優位順位の変更とか、今まであるもののシステム化ということを今まで以上に意識しなければいけないかと。恐らくここの構造化でやりたいことは、真ん中の2つあたりであって、先ほど経済とかいろいろおっしゃいましたけれども、オプションの提示であり、効果や価値創出の、定量的なのか社会的なのかわかりませんけれども、そういうシミュレーションを出さなければいけなくて。
 こちら側の、皆さんの言葉で言うと将来のニーズというか、そういうような価値ということからは必須なシステムと必須の要素をもっと明確に出すという、この下のこれをしないと駄目だろうなと。そこが第3の科学と第4の科学とよく言いますけれども、ここの入る余地かなと思っています。当たり前のことを言いますけれども、1は理論で、2が実験・実証ですね。3はいわゆるシミュレーションというか、こうなったらどうなるだろうという部分です。4の科学というのは、ごく最近言われていますけれども、何も意識していないところから情報なり何なりを集めて何か出していくと。
 こういうところでないと将来のイノベーションが起きないのではないか。今までのイメージのイノベーションを形にするだけという形に陥ってしまう可能性もあると。基本的に科学技術イノベーション政策が、例えば厚労省がやっているような人口推計とか、いわゆるエネルギーの単純な見通しの計算とか、あるいは、ほかの政策と何が違うかと言えば、受動的とか対照的な提案でないところが科学技術イノベーションの特徴だと思うんですね。つまり、本質的に科学技術の成果が社会とか経済に対して能動的や変革的でなくてはならないと。何か加えたりすることによる提案によって、起こった場合と起こらなかった場合の違いというのは何かというのを示さなくてはいけなくて、起こったあるいはやった場合はどうなのか、なかった場合はどうなのかと、この差みたいなものをシミュレーションしていく必要が、基本的に科学技術イノベーションではあると思っています。
 あとは余談ですけれども、今までのリニアモデルは常にシーズが多くなくてはいけないという呪縛みたいな、先入観みたいなものがあったと思うんです。これが有効な国というのはこれから伸びるような国であって、企業で言いますと、赤字が続く構造なんですよね。つまり、売上が上がればというか、たくさん売ればそれに比例して利益が上がると考えて大きな赤字を出し続けている企業と同じ状態なんですよね。これはそろそろやめなくてはいけなくて、少なくともこちらの将来のやみくもなセレンディピティよりも、社会の中にキュリスティを抱くという方向へのシーズ側への誘導とか。過去や現在のニーズでなくて、将来の変化の方向性に対するニーズを出していかないと。
 あとは蛇足です。恐らくこういうものはやっちゃ駄目だなということを描くと、既存概念からなるニーズと、シーズから都合のいいような科学技術の俯瞰をマッチングさせるようなことはもうやってはいけないと思うんですよ。シーズ側の任意の軸設定と既存のニーズのマッチングをして、あったら何なの、なかったら何なのという議論を、むしろ欠落を無視したり、こういうまとめたもので何ができるのということを示さないという状態を続けてはいけない。
 あるいは、既にあるものをつなぐというネットワークとか、まず融合してから何かを考えるという融合はやめたほうがよくて、例えば、欠落しているところ、何もないところがより重要なのではないかとか、あるところを強みと考えて本当にいいのかとか、目標を明示して必要になる要素のネットワークづくりをしたり、ないところも含めて、ない要素を開拓する融合みたいなものが必要で、こういうものを示すような形の提案をしていかなければいけないのかなと思っています。そうしないとこんな世の中になってしまうと考えている節があります。これは蛇足なので、こういうことを加味していろいろやっていただけるといいかなと。
○己斐 ありがとうございました。
 それでは、全体議論に入りたいと思います。モデレーターはCRDSの塩崎が務めます。
 また、発言の際にお名前と所属先をおっしゃるようにしてください。
 では、よろしくお願いします。
○塩崎 CRDSの塩崎です。今、奥和田さんから非常に手厳しい指摘があったと思いますが、今聞いていまして、NISTEPさんの取組み、CRDSの邂逅の取組み、それからMETIさんのロードマップの取組み、いろいろな取組みがある。それは先ほど奥和田さんも言われておりましたように、ある程度認知もされ、確立されてきていると。我々としては、先ほどの最初の図、将来ビジョンと将来像を接合させていくというところでは、白紙から議論するのではなくて、今あるものをどうやってうまく活用したらいいかというところで考えていく必要があるんだと思うんです。
 先ほど奥和田さんからの話にありましたように、いかにイノベーションを見出していくための価値を見出すか、課題を見出すかといったときに、新たに生まれる価値の発見とか、消えていく価値の見通しというところも非常に重要なんですけれども、そういったものが見出せるような予測になっているのかと。非常に抽象的な話になるんですけれども、例えば、技術的な課題という形で設定されてきていますので、あまり議論を広げないために、科学技術の技術的なところだけで考えるといったときに、今の取組みの中で現存していない、新たに生まれるような価値を発見できるような取組みになっているのか、なっていないのか、その辺、非常に難しい話なんですが、もしなっていないとすれば、何か工夫の仕方があるのかどうかというところをお聞きできればと思っているんですが。
 どうぞ。
○前田 奥和田さんから目からウロコが落ちるようなわかりやすいフレーム出していただいて、幾つか気づいた点があるのでお話したいと思います。
 今、塩崎フェローから言っていただいた価値を新しく生むような取組みをしているかということに関しては、先ほど説明したCRDSの方法だとまだ未知数だなというのが正直なところです。なぜかというと、何が問題ですかと、10年後までにどういうことをしないと深刻な問題になりますかという、ネガから始めていたんです、課題のとらえ方を。何でそうしたかというと、新しい価値が生めるようなビジョンとか共通認識が得られればいいんだけれども、先ほどもどなたかがおっしゃっていたようにそれはそんなに簡単ではないんですね。
 そんなに簡単ではないから、逆にこのまま何をしないと問題になるよということで、幾つかカテゴライズをしていけば、ネガのほうがしょうがないなという面もあって、ある程度共通認識が得られるからということで、CRDSの取組みの場合はネガティブなものをやりました。なので、ある方に説明をしたら、「これは暗い話ばかりで明るいビジョンが出てこないね」と言われた。でも、それはあえてそうした面もあります。では、どうやって明るいところを出していったらいいかといったときに、明るい未来を考えましょうという問いかけを今しても、なかなか乗ってきにくいところがあります。CRDSでやっているものもかなり暗いねとおっしゃる方もいるんですけれども、これでもまだ問題の深刻さが足りないというコメントもいただいたりしています。
 なので、どちらからいくのがいいのかというのは、ポジでとらえるのか、ネガでとらえるべきなのかというのが、ちょっとわからない面があるんですが。先ほど奥和田シニアフェローの最後の図を出していただいたときに、マトリックスをつくってマッチングをさせるというところで、うちのやり方で邂逅しているというので一瞬ドキッとしたんですけれども、今見込まれているのはマトリックスで空白のところが出てきてしまう。逆に、ネガから出発しても、空白のところを何とかすることを考えていることによって、価値を生める部分が、やや消極的ながらも、現実的なアプローチとして出せるのではないかということを思っていて。
 これから邂逅して技術とのマッチングを行うときにある要求や要件に対して、ない部分というのをどうつくっていくか、あるいは、必要と思われる組み合わせが想定されるのに、できていないところをどうするかということを考えていくことが、もしかすると新しい価値につながるのではないかなと、伺っていて思った次第です。どうもありがとうございました。
○塩崎 どうぞ、楡井さん。
○楡井 最後の奥和田さんのコメントを聞いて共感することが多かったです。私なりの理解で言えばこうなります。日本経済、特に製造業が言われているのは技術水準が高いと。技術者のモチベーションも高い、これは非常にいいところで日本の強みであると。これは強みであったままでいてほしい。だけれども、なぜかそれが価値づくりに反映されていない。それは社会的な価値でもそうかもしれないし、経済的な価値において非常に強い。
 どうも消費者がおもしろいとか買いたいと思えるようなものをつくれていない。だから、技術の側から、サプライの側からのプッシュ型の提案があまりうまくいっていないのかもしれないという問題意識があるんだと思います。それを踏まえて、その前の幾つかの発表でされていたのは、価値のほう、ニーズのほうを探らなければいけない、これを積極的に探っていこう、様々な手法がありますということをなさっているんだと思います。
 そこで、新しい価値を探すということを本当に政府ができるんだろうかという問題なんだと思うんですね。私はこれは2つあると思います。1つは、強烈なインスピレーションを与えるようなプロジェクトというのはあり得ると思います。例えば、アポロ計画がそうだと言われますし、エジプトのピラミッドでもそうかもしれません。そこの市民に強烈なインスピレーションを与えるような大きなプロジェクトがあって、それが結果的にその国の価値づくり、経済的・社会的に資するという経験があったように思います。ただ、これが政府の問題なのかどうかは僕はちょっとわからない。
 それを置いておくと、そのほかに政府ができることがあるのかというと、僕はちょっとわからない。むしろスティーブ・ジョブズみたいな話なのではないか。非常に個性的な人がいると、多大なリスクを負うつもりがあると、それを継続的にやる意思がある、そういう人が社会の中に何パーセントかいると、その何パーセントの中の誰かが見つけるような、そういったクレージーな企画なのではないか。そういうのを制度的に整備するほうがイノベーション政策なのではないかと経済学者としては発想します。
 政府はなかなかクレージーな発想はできませんから、それは難しいのかもしれないなと感じました。難しいながらもやることに意義はあると思うんですけれども、その中で一つ気がついたことは、市民のニーズを探る、こういうことがあったらいいな、ドラえもんに何をお願いしようと、そういうのはあっていいと思うんですが、もう一つ、幾らだったらやっていいかなという面が、要するにコスト面の意識調査もないと、希望は高いんだけれども、非常にお金がかかるから、結局できなかったというような計画が出てくるんじゃないのかなと。
 経済学でこういうことを聞くときは、幾らだったらやってもいいと思うよ、“ウィリングネス・ツー・ペイ”と言いますけれども、そういう調査をすると思うんですね。それを政府がやらなくてもやってくれるのが企業という存在なわけですが、政府がやるんだったら、コスト面にもある程度気を払うようなアンケート調査のやり方というのはあるかもしれないなと思いました。
○塩崎 ありがとうございました。
 ほかに何かございますか。伊藤研究官、例えば、NISTEPのほうでもいろいろとされていますけれども、1つ目のテーマの課題が利点と限界ということなんですが、今までNISTEPさんのほうで取り組まれている技術予測とかデルファイ、第8回のほうではいろいろな取組みをされているようですけれども、そういう中でこういう工夫を重ねていけばもっと近づけるとか、こういうところはある程度限界があるのではないかといったようなところがもしあれば、ぜひご見解を教えていただきたいなと思います。
○伊藤(宗) 所長にお話しいただいたほうがよろしいんですけれども、今ニーズというお話も出ましたけれども、我々がやっております第8回と第9回それぞれ、ある種の将来ビジョンを描くとか、政策的な課題、ニーズを基にしたものということもあります。ただ、第8回と第9回で少しシナリオなりニーズ分析のところが違っております。
 第8回のときの将来シナリオは卓越した個人にお任せするような形で将来を描いていただきます。よって、卓越した個人を選ぶときの選び方の正当性をいかにきちっと担保しておくかということが重要になります。その方が選ばれれば、かなり自由な発想で将来を見越して大胆なこともシナリオとしてはあり得ると。
 ただ、第9回においてやった方法はそうではなくて、5人とか10人ぐらいの合議体によって、皆さんのある種の共通項としての将来ビジョンを描くということでありますので、それぞれ一長一短はありますけれども、将来をどういうふうに描くのかというのが、まずは入口としての、我々としても試行錯誤しておりますけれども、やり方の一つだと思います。
 もう一つ大きな問題は、こういった大きな調査をやって、それをいかに具体的な政策の中で反映していくのかということが設計の段階から見えておりますと、その手法のやり方なり絞り方といったものもはっきりするわけでありますけれども、その辺がはっきりしませんと、きょう前半の経済的なところの議論と同じでありまして、粒度の問題とか、手法自身が悪いわけではないですけれども、どうしても限界があると個人的には感じております。
○塩崎 ありがとうございました。
 適宜、フロアのほうもご質問なりご意見ある方はぜひお願いしたいと思います。
 同じような流れで今度はMETIの能見さんにお聞きするんですけれども、先ほど鈴木先生が科学技術イノベーションの関連を、政府とか企業を見たときに、政府の投資が直接は関与していないんだと。間接的にいろいろな企業を回ったりという形で出てきていると、政府としてとり得る政策は、企業なり労働なりいろいろなところを経て出てくるという意味では、ロードマップを検討されている中で企業のニーズを把握して、ロードマップをつくるという考え方だったと思うんですけれども、企業側のニーズが国民のニーズとうまく結びついていないのではないかというところも見え隠れするような気もするんですね。
 ロードマップをつくる際の目標の設定、市場ニーズの設定というところで何か工夫ができそうなものかどうかということについてご見解があれば。
○能見 幾つか間違いを訂正したいと思います。技術ロードマップの中で私が言ったのはマーケット、市場ニーズをしっかりつかまえましょうということであり、企業が何をするのかというのは戦略ですと。
 それから、鈴木先生だったかな、図の中で出た科調統計に基づいて政府のお金がどうのこうのという、科調統計で政府から企業に流れたお金は正確につかまえられていないと私は思っています。細かいことはここではやめておきますが、ああいうふうな形では必ずしも効果についての計測ができないだろうと思っています。何回もいろいろなときに予算で言われるんです。これまでも研究開発で日本の経済はどれだけ増えたのかと、その計測はできていない。TFPについての議論は繰り返しません。
 では、市場ニーズをあれするためにどうしたらいいかということについての一般論はないと思います。ただ、フェルミ推測というんですか、思考をバーンと飛ばしていろいろな観点で見ていく、こういうふうなことは大切だろうと思います。市場というのも、セグメントをどうするかによって見方は全然変わるし、トレンドと一言で言いましても、これも見方は様々です。通常の見方で通常のやり方で新しいことをやろうと思うのが通常じゃないんですよというのを理解していただける人が増えるといいですねと。新しいことをしようと思うと考えを深めなくてはいけないんです。それはオリジナリティが重要で、日本語に直すと独創性と言うんです、1人で考えろと。1人で考えることと少人数で考えることと幅広く考える、この3つの組み合わせが重要なんです。
 その次に、考えたことが組織の意思決定にできるか、これは極めて難しいんです。例えば、松下幸之助の例を言いますと、経営の神様と今では言われていますが、一番最初は二股ソケットが売れると思ったわけです。上に説明しても納得は得られなかったんです。だから、自分の会社をつくったんです。彼では上を説得できなかった。そういうものなんです。コンセンサスというのを考えている以上は難しいと思う。日本の代表的なイノベーションというのはインスタントラーメンであったり、テレビゲームであったり、そういうふうなところから出てくる。
 そういう土壌をどうやってつくるのか。その土壌のつくり方はよくわからないですけれども、最近、私が思っているのは、世界全体ではナレッジベースド・エコノミーと言われている。しかし、日本の中ではドクターをとった人の就職がないとか。日本の中は言葉だけ浮ついているけれども、現実はナレッジベースド・エコノミーにはなっていない。そこのところを日本もそうなるようにするというのは、市場ニーズに合った製品が出て、イノベーションが起こるというきっかけになるかもしれないなと思います。
○塩崎 ありがとうございました。
○黒田 能見さんのお話、非常におもしろかったんですけれども、最初やられた時代の護送船団方式が今はもう成り立たないということで、新しいやり方でロードマップを使われているということですが、結果的には護送船団的な思考に集約されることはないですか。
○能見 多分にそのおそれはあると思います。それから、技術ロードマップを導入したときに、いろいろな関係者が言ったことの重要な点は、あれを魔法の杖だと思うなと。あれを使えばすべて問題が解決するようなものでないんですというあれなんです。あくまでもツールにすぎないと思います。
○黒田 例えば、一つの戦略、ロードマップを描くときに要素技術まで下りていったときに、見方によって幅が出てくるのではないかという気がするんですが、それも含めてロードマップは考えられているんですか。
○能見 現在それができているかどうかという話は別に置きまして、準備をするプロセスでスコープをどこに置くのか。そういうのは選択の問題なんですけれども、誰が何のために技術ロードマップをつくりたいのかをしっかり定義しておかないと、わけのわからないものができる、そういうことだろうと思います。
○黒田 そこはデルファイでも同じですよね。
○東條 よろしいですか。イノベーションも幾つかのフェーズがあって、あるいは、研究開発からイノベーションにわたる幾つかのフェーズがあって、楡井先生がおっしゃったような、独創的なビジネスマンが技術をインテグレートして、新しいプロダクトサービス、あるいは、市場をつくるというのももちろんありますけれども、科学技術政策がねらっているところはそのタネをつくるようなところもあるので、ここの部分は設計主義的にできるところと、それぞれ実際に研究開発でやっている研究者のイナーシアとか、あるいは、もっと大げさに言えばライフプランみたいな話がある。
 独創的なビジネスマンがビジネスプランをつくるというか、マーケットをつくりにいくという話と、もう少し地道な研究開発活動というのは、どこかで合わせ鏡しなければいけなくて、バックキャスティングでこういうものと、あるいは、イノベーターの新しいビジネスモデルというところに突っ込んでいって、あとは市場でそれをサポートするような環境を整えるという話と、もう少し中長期な研究開発活動をどうリテインしていくかという話と、両方目配りしなければいけないような気がします。
 日本はビジネス・オリエンテッドで成功したものもありますし、それは成功であったかどうかは別にして、また、今どうなっているかは別にして、例えば新エネルギーの分野の基礎技術開発というのは、ほかの国が石油の価格が下がったときに日本はずっと投資を続けたんですね。これがうまくいったかどうか評価はまた別ですけれども、その結果ある種の素材技術について相当な蓄積ができて、それがいろいろなところに応用されているという部分ももちろんあって。
 こういうところを、設計主義的なやつを全部放棄しましょうという話にはならないし、政府がそこはやらなくてよい、あるいは、公的なファンディングは要らないということにもならない。ただ、奥和田さんの難しいところは、それのエグジットをどう考えるか。新陳代謝をどう考えるという話は、研究者のモチベーションのインセンティブづけとか、あるいは、その人が属する組織のリボードメカニズムをどう設計していくかということにもかかわると思うんです。
 もう一つ、余計なことを言うと、最近はサイエンスのデモクラタイゼーションみたいなことが言われて、データもアベイラブルになってきて、研究開発資源も比較的安価にいろいろな人に開かれるようになっている。したがって、今、私が申し上げたオーソドックスな、ある研究開発機関の中でしっかり専業としての研究開発をしている人と、そういう人の成果をスクープしながら何か新しいことを考える、もう少しノーマット的なイノベーター、あるいは、これはもしかするとサイエンティフィック・ディスカルという形で行われるかもしれなくて、こういったファクターをどういうふうに入れていくかというのは、今の2つの間をつなぐミッシングになるかもしれない。
 すみません、ここは私が考え始めているところなので、何とも申し上げられないけれども、ここら辺の新しい可能性というのはあるかなと。神里先生のネットワーキングとか、ソーシャルネットワーク、新しいネットワーキングとかインセンティブづけとか、社会設計にかかわるのかもしれません。すみません、問題提起だけ。
○神里 よろしいですか。今のお話で、私、もともと科学史が専門なのものですから、科学技術とか知識をつくり出して、世に問うという仕事のスタイルが、今のような形になったのはつい最近であると、歴史的に見れば。いつも言うとおり、ニュートンという人は財務省の印刷局の局長のような人で役人だったと。同時にオカルティストであって、今の我々からするとおよそ知的には見えないようなことに人生の後半を費やした人です。
 科学者がそうやって、仕事のスタイルが、科学と技術がくっつくのも20世紀ですし、我々がイノベーション、新しいものを生み出すというのは、人類にとって非常に普遍的な活動なわけですけれども、それがここ100年ぐらいのスタイルにとらわれ過ぎているのは一番もったいないことであるということも感じています。きょうのお話は全部、奥和田先生の話も楡井先生の話も全く同感で、プロジェクトとして最もすごいイノベーションを生む人間というのは、恐らく政策とかいうものの外にいる人であるということを考えたときに、政策に何ができるのかということはみんなあまり口に出さない、この空間でもタブーなみたいなところがあるかもしれないので、言っていないと思うんです。
 ただ、私はそんなにネガティブに考えていなくて、ひとつ大きいのは教育なんですね。スティーブ・ジョブズというのは本当に変な男で、若いころはつき合いにくい、ここにいたら本当に嫌なやつで。そういう人が最終的にそういうところまできたと。でも、それも途中でわからないなわけですね。わからないときにどうするか、我々はそういう人たちがいたときに、つき合い方というのを、例えば空気により支配とか、同調圧力とか、そういうものが強いと言われている我が国ですから、そこをどうやったらゆるめることができるか。
 あるいは、放っておいたらなかなか社会のいいところに接続できないようなことになりやすい人たちを、どこかで救うプラットフォームはないのかとか、それこそノマドなサイエンティストとかノマドな技術者、年が多くても、大きな企業の研究所の中でボスと意見が合わないために干されているけれども、天才みたいな人がいるわけですね。そういう人をどうやってうまいこと社会のアウトプットにつないでいくかということは、どこかで考えておく必要はあると思う。でも、それはある種の政策になり得ると、いわゆる計画ではないんですけれども、メタレベルの計画としてはあり得るのだろうと思っています。
 そういうところで。
○塩崎 ありがとうございました。
 今までの話を私なりにまとめてしまうというか、感じたのは、先ほど奥和田さんから初めに話がありましたように、社会のいろいろなニーズをいろいろな考え方で取り組んでくるんだけれども、きっと変わらないものが出てくるのではないかというようなところ……。
 あ、どうぞ、先に。
○合志 余計なことかもしれませんけれども、全体として考えたときに、こういうパブリックな場で議論して決まってくるファンディングと、極端なことを言えばまさに個人ベースにいくようなファンディングとが、全部一緒になる必要はないと思うんですよね。企業のほうで大いにやる、しかしやや二流のテーマというようなものはパブリックに支援して十分意味があると思うんですね。
 そのかわり、本当に大事に思っているお金は、自分たちでこれと思うことに投資をしなさいという、全体としてのバランスを考えれば、そういうことであっても十分意味はあると思いますね。そういう少し広いスタンスで議論をしながら、ヒューマンリソースの問題も考えていく必要があるのではないかなと思いましたので、加えさせてください。
○塩崎 ありがとうございました。
 ちょっと時間も押してきているので、あまり時間はとれないんですが、テーマ2のディスカッションの論点でありました「達成目標をどう設定するか」の中で、価値観を反映しないといけないのではないかというような論点もあるんですが、そういうところについてどう考えるか。価値観というのは人それぞれですから、そういったものを達成目標に入れるというのは非常に難しいのではないかとか、もし入れるんだとしてもどういう指標で見るんだとか、そんな話も出てくるんだと思います。
 達成目標を設定する際に価値観をどう扱ったらいいかとったようなことについて、最後になるんですけれども、ご意見なりご主張があればぜひお願いしたいと思います。特に神里先生、その辺をどう考えられるか、もしご示唆があればお願いしたいと思いますが。
○神里 今しゃべったばかりでまたしゃべるのは申しわけない。貴重な時間を食ってしまって。価値観の問題は、一言で言うと先ほどの奥和田先生の話だと空白ができると、つまり何かまだないところがあるというところ、だけどもしかしたら社会からニーズがあるようなところがあって、そこを技術的に開発できないときに、だけどニーズがあるようなことは、専門家に対処できないのですから、デモクラシーを入れざるを得ないということになるわけですね。
 その領域のつき合い方というのが、今、ヨーロッパにしてもアメリカにもここ20年ぐらいで急速に発展してきているんだけれども、日本では3.11以降初めてそういう問題にまじめに、社会が「これはヤバいんだな」と気づいたというフェーズだと思います。私どもはパブリックエンバイロメントみたいなもの、エンゲージメントみたいものがどういうふうにやれるかということを、10年ぐらいやってきているんですけれども、そういうところで価値の問題というのは出てくるわけです。などなど、そんな……。それだけでも2時間、3時間できる話で。
○合志 今の問題は非常に大事だと思うんですけれども、不用意に入れてしまうと見えないところを発見することがかえって非常に難しくなってしまうので、そこが新しい技術をつくっていく上での難しさというんでしょうか、そういうような感じがいたしますね。
○塩崎 ありがとうございました。
 お願いいたします。
○能見 先ほどの議論でちょっと補足しておかなくちゃいけないのは、先ほどは一般の産業技術を念頭に置いた議論をやっていて、環境とかエネルギーというのは通常の外部経済の議論だとか何かで、別途、国としてやっていかなくちゃいけないという問題があって、そういうのは別の議論になります。あるいは、医療とか別の分野でもそういう議論はあろうかと思います。
 一応補足だけ。
○塩崎 ありがとうございました。
 はい、どうぞ。
○桑原 価値観の話には直つながらないかもしれないんですけれども、私はこのプロセスの中で課題の設定というのは最も重要だと思うんですね。そこがきちっとよいテーマ設定がなされれば、あとは努力すれば必ず前へ進むと。そこが出来が悪いとあとの努力はほとんど無駄になるんですよね、元のを繰り返しと。
 ただ、問題は、きょうの議論で、私の印象としてまだ少しぼやっとしているなと思うのは、この課題設定の大きさとレベルなんですよ。それはいろいろなレベルがあり得て、個別、例えばJSTがおやりになるようなプロジェクトの前提となる課題は何なのか、こういう議論も当然あり得るでしょう。それはそれで重要だと思いますけれども、もっと高位の政策、行政官はみんなお帰りになっちゃいましたけれども、例えば次の第5期基本計画にちゃんとしたメッセージを入れ込まなかったら行政は動かないので、そこに入れ込もうとするといろいろなことを考えなくてはいけない。
 いろいろなことを考えなくてはいけないというのは、4期基本計画で科学技術基本計画の重点がどういうふうに決まったかというと、再生戦略でライフとグリーンをやるということは事前に決まっていたんですね。科学技術基本計画は個別実施計画であるとCSTPがそう宣言したわけです。だとすると、根本政策で出すべきメッセージは、次のどの政権がいつごろ何をやるのかはまだわかりませんけれども、もっと根っこの国家戦略の議論が起こるときにあるメッセージを出せるかどうかが勝負になる。そうすると、5期基本計画がいつごろから始まるか、それに向けて準備すればいいやと思っていたのは間に合わないんですね。
 それから、誰に言うか。CSTPの議員に言わんとするのか、それとも国家戦略会議、あるいは、ポスト国家戦略会議のメンバーに言わんとするのかで、コンテキストは変わってくるんですよ。フォーサイトでコンテキストを読まないと何も立たないんです。だから、そういうところも議論して、全体枠組みを考えていかないと、一生懸命やっても、肝心なときには間に合わなかったということになりかねない。
 かつ、今後のスケジュールを考えると、残っている時間はあまりないですよね。じっくり2~3年練っているとも5期ができてしまうので。だから、そういうのも考えながら詰めていく必要があるかなと思います。私の感じでは、そういう枠組みを設定すると先ほどの価値観もある程度見えてくると。それが是かどうかわかりませんけれども、固まってくる部分があるかなという感じがいたします。
○合志 その点が日本の中のヒューマンリソースを非常に無駄に使っている面だと思うんですね。ほとんど決まっていて、あとセレモニーが続くという格好で認証していくというプロセスですね。本当に大事な問題だと感じます。
○塩崎 ありがとうございました。
 もうまとめに入っております。先ほどの議論もそうだったのですが、粒度という問題をどう見るのかというところが重要なポイントなのかなと。そこを見てどういう形で価値観なり、新しいところの価値をどう見ていくかと。それもレベルによって随分変わるということなので。文部科学省さんはお帰りになってしまいましたけれども、先ほど具体的な事例で取り組み始めていると。そういう中でレベルもある程度見えてくるところもあると思うので、その辺も含めて今後また具体的な事例で実際に一回やってみると。
 そういう中で、第5期科学技術基本計画の策定のスパンを念頭に置きながら、粒度を見ていくということで今後も続けて検討していくということかなと。きちんとまとめていないんですが、そんなことかなというところで、このディスカッションは終わりにさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
○己斐 では、テーマ2の全体議論ということで、セッション1のテーマ1とテーマ2で議論された内容について、主要な論点を岡村フェローからまとめて報告させていただきます。
○岡村 あまり時間もないので読み上げませんが、幾つか議論に出た点をリストアップしましたので、ザッピングという形で見ていただければと思います。
 テーマ1では、今までの主に経済学を主体とした議論がされましたが、科学や技術を本当に自然科学者が納得できるような形でとらえてきたのかというような議論もされました。あと、取組みの方向性としては、非常に詳細な、全体と細部が整合的なものを最初から目指すというのは現実的ではないので、いろいろなものを積み上げていきながらということが必要ではないかとか、あるいは、課題の粒度の設定はどこにするのかというのをきちっと決めて議論していく必要があるというようなことが議論されました。
 テーマ2は、今議論されましたが、新たな価値の発見、あるいは、消えていく価値の発見を、これまでの技術予測とかいろいろな手法でできるだろうかとか、そういった点で政府の役割はどういうものであろうかなどといった話がいろいろ出ました。ということで、時間がないので飛ばせていただきますが、このような議論を今後も続けていきたいと思います。
○己斐 では、セッション1は以上ということで、時間も非常に押しておりますが、もう少しお時間をいただいて、セッション2の「科学技術イノベーション政策に関する最新動向」ということで、9月に米国のNSFのSciSIPプログラムの研究代表者会議PIカンファレンスに参加した際の報告をさせていただきます。
○岡村 再び申しわけございませんが、すぐ終わりますので、少しだけお時間をいただければと思います。米国のNSFでSciSIPという研究開発プログラムが2005年以降に走っておりまして、それのプリンシパル・インベストゲーターの会議が9月にありまして、その紹介であります。
 これが概要でありまして、2日間、米国科学アカデミーで150名ぐらいが参加して行われました。プログラムはこういった形になります。
 ここに何枚か米国SciSIPの動向に関するスライドを入れております。時間がないので省略しますが、大きくはSciSIPの研究開発のプログラムと、省庁連携でタスクグループがOSTPの下につくられているということ。もう一つはスター・メトリックスという大きなデータベースのプロジェクトが走っているということをご紹介したいと思います。タイムラインはこういう形で進んでおりました。
 ここの一つの特徴は、省庁連携のタスクグループのほうで、この科学をつくっていくに当たってどういったことをサイエンスクエスチョンとして取り上げていくべきかということで、科学とイノベーションを理解するとか、投資について理解する、あるいは、国家優先課題へ「科学政策の科学」をどう活用していくべきか、こういったことを解明していくべきというようなロードマップをかなり初期の段階でつくり上げたということであります。
 NSFのほうで既に123件のグラントが採択されており、現在、研究が進行中であります。
 会議の概要ですが、プレナリ2つのラウンド・テーブルがあって、あとは同時進行セッションで9つのセッションで33報告あったという状況であります。
 特にSciSIPでは学際的な研究をうたっておりまして、傑出した成果を出している研究としては、経済学、社会学、心理学といったところから研究成果が報告されました。
 それから、研究開発投資の効果測定をテーマにした報告がありまして、1つは米国の取組み、もう一つは、日本の取組みを紹介してほしいということで紹介してまいりました。
 あと、ラウンド・テーブルとして政策担当者との対話が必要だということは繰り返し述べられていますので、こういうテーマを設定したラウンド・テーブルをしておりました。日本でも米国でも同じですけれども、研究者と政策担当者の間をつなぐことが必要だということが強く言われておりまして、何が必要なのかというのを政策担当者ははっきり言っていくべきであるとか、継続的に議論をしていく場をつくっていくべきではないかといった議論がされました。
 もう一つ、自然科学者、工学者との連携ということも言われておりまして、それに関して、こういったメンバーでのラウンド・テーブルが行われました。
 あと、同時進行セッションという形で、9つのテーマにおいての各研究発表が行われました。
 全体を通して、繰り返しになりますが、SciSIPの研究を政策につなげていくことが必要であるし、そういったことを研究者、政策担当者は認識を共有してやっていくべきであるとか、自然科学者、工学者をもう少し巻き込んでいくべきではないかということが議論されました。
 感じたことですが、日本でも学際的な議論が必要ということが言われていますが、日本以上にもう既に経済学、経営学、心理学、社会学、STSとか、コンピュータサイエンスの人たちが集まって議論しているというのが非常に特徴的であったと思います。
 もう一つ、いろいろなところでよく言われていますが、ビッグデータへの対応がSciSIPでも必要であって、そのためにコンピュータ・サイエンティストをもっと取り込んでいくべきではないかという議論もされておりました。
 あと、日本との大きな違いは、省庁連携でスタートしたというところがあるので、先ほどのラウンド・テーブルで政策担当者のラウンド・テーブルがありましたが、環境系の人であったり総務省の人だったり、様々な政策担当者が集まって議論していました。実際に本当の連携というのが進んでいるかどうかというのはわからないところもありますが、そういう人たちが同じところに集まって議論をしている。そこは相当日本と違う点だと思いました。
 以上です。
○己斐 長らくおつき合いいただき、ありがとうございました。それでは、お時間がまいりましたので、最後にNISTEPの桑原輝隆所長よりご挨拶をいただきたいと思います。
○桑原 皆様、きょうは、午後、議論にも参加いただいてありがとうございました。私は途中おくれてまいりましたので、前半の先生方の議論を聞けなかったのですけれども、政策オプションをどういうフレームワークでつくっていくか、あるいは、我々が取り組む課題設定をどういう設定をしたらいいのかと。その文脈には、社会ニーズをどうとらえるかとか、技術のロードマップをどう考えるか、フォーサイトをどう考えるかと、こういうご議論をいただいたと思います。
 特に経済との絡みの部分については、きょうも若干出ましたけれども、昔と同じ議論がまた繰り返されていると。そういうふうに見える部分もあるんですけれども、私は必ずしもそうではないと思っています。科学技術イノベーション政策をめぐる大きな背景として、さっきもちょっと申しましたけれども、科学技術政策が以前は特別扱いの、悪く言えば継子だったんですよね、それが普通の政策になったと。こういうふうに位置づけが大きく変わった。その結果として様々な他の政策分野との議論が当然必要になってきたと。今一番おくれていて問題になっているのが経済・社会的な効果をどうとらえるのかという枠組みなのだろうと思います。
 今起こっていることは、さっきもどなたかおっしゃいましたけれども、若い経済学者がこういうジャンルに関心を持っていただくようになるということで、多くのステークホルダーに入っていただけるようになっているということ。それから、今はプロセスが始まったところで、どういう方々にこれから入っていただくのかということを、我々は今試行錯誤しなからやっているんだと思います。
 特に重要なことは、きょうも少し出ましたけれども、議論をしていても、20年前にやっていたタームと今のタームは多分変わっていると。そこをクリアにしていけば、外形的には同じような議論をしていても、実は質的に全然変わった議論になっているということはあると思うんですね。
 それは、例えば「技術」という言葉一つとらえても、日本語の「技術」は割と固いものに指向して、逆に、「ソフト技術」という変な言葉が過去ありましたけれども、欧米人がテクノロジーで考えるときには、ハードサイエンス的なものだけではないと。そういうある種のずれがあって。ずれがあっても別によくて、それがよく働いているときは全然構わないんですけれども、必ずしも十分働くなったらそれは見直さなければいけないと。そういうタームをきちっと見直すということ。
 それから、イノベーションという言葉一つにしても、政策研の調査でもいろいろな例を示して、日本の人、アメリカ人、ドイツ人、「以下の例をイノベーションと思いますか」と言うと、一番からいのが日本人、アメリカ人は相当なものまでイノベーションと思うと。パーセプションが違うわけですね。非常に高度で難しいものでなければイノベーションじゃないと思っているとハードルは高くなるんですけれども、もうちょっと簡単なものだってイノベーションなんだというカルチャーになれば話は変わってくると。そういうことで、タームも含めた見直しをしつつの議論が今進みつつあって、それは大変大事なことだと思っております。
 きょうはご参加いただいてありがとうございました。今後もどうぞよろしくお願いいたします。(拍手)
○己斐 ありがとうございました。
 皆さん、長時間おつき合いいただきありがとうございました。また、たくさんの皆さんにご参集いただきありがとうございました。構造化研究会を終了させていただきます。気をつけてお帰りください。
 
 
 

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