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論文・出版

「何が大学のベンチャー支援を難しくさせているのか」 ―効果的な支援を阻む二つのサイクル―

タイトル

「何が大学のベンチャー支援を難しくさせているのか」 ―効果的な支援を阻む二つのサイクル―

英語タイトル
著者名

森口 文博
林 侑輝
山田 仁一郎

キーワード
発行日

2024年11月

出版者

日本政策金融公庫総合研究所

シリーズ番号

第65号

URL

https://www.jfc.go.jp/n/findings/kouko_ronsyu.html
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/ronbun2411_03.pdf(PDF)

シリーズ名

日本政策金融公庫論集

概要

 教育基本法の改正以後、大学の使命として教育・研究に加えて社会貢献が求められるようになり、大学で創出した研究成果を社会に還元する手段として、産学連携が発展してきた。昨今、研究成果の実用化の主体として大学発ベンチャーが注目され、全国で設立が相次いでいる。こうした動向は新たなイノベーション・プロセスの台頭であると捉えられがちで、「複数ある産学連携の手段・領域の一つとしてのベンチャー創出」という構図から、大学発ベンチャーを支援する現場のマネジメントを描写した議論は、組織論的な観点から見るとなおざりにされている。そこで本稿は、大学内で直接的にベンチャー創出支援を行う部署ではなく、産学連携部門内で主にベンチャー創出以外の領域を担当する部署に対して調査を行い、当該部署から見た大学発ベンチャー支援の実態を調査した。
 インタビューに基づく質的分析の結果、大学における産学連携活動はマクロ(社会・政府)、メゾ(大学の経営層)、ミクロ(産学連携部門)の各次元をまたぐ二つのサイクルから影響を受け、効果的な大学発ベンチャー支援を困難にするメカニズムが生じていることが明らかになった。
 第 1 は、マクロレベルとメゾレベルの結びつきにより形成された、現場に腹落ちしない運営サイクルである。大学発ベンチャーの設立数が重視され、大学の経営層が求めるKPIと現場の実態との不整合が繰り返し生じる中で、大学発ベンチャーに関する限定的な解釈に基づき、新たな目標や期待が形成されていることが示唆された。
 第 2 は、メゾレベルとミクロレベルの結びつきにより形成された、推進力に欠ける実務サイクルである。産学連携部門では大学発ベンチャーという言葉が意味する範囲の拡張が生じており、支援業務の範囲も自ずと拡がり、人的資源や専門性が慢性的に不足している。このような実態は全学レベルで設定された計画の検証プロセスに織り込まれず、産学連携部門は経営層が求めるKPIに追従することが求められ、逐次的な対応に追われている。この状況が大学内で十分に共有されないことにより、大学全体として整合的な意思決定がますます困難になっていくことが示唆された。

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