イベント・セミナー
イベント
2021年01月21日-
第3回SciREXオープンフォーラム「科学技術イノベーション政策の新展開」シリーズ第一回「科学と政治、政策」
GiST-科学技術イノベーションプログラム(政策研究大学院大学), SciREX-科学技術イノベーション政策研究センター
【開催報告】
スタートから10周年を迎える「科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業(SciREX事業)」。今回のSciREXオープンフォーラムでは、「科学技術イノベーション政策の新展開」というテーマを設け、全11回のセミナーシリーズを開催しています。一連のセミナーを通して、科学技術イノベーション政策には今何が求められているのか、政策と科学の関係性はどう進化すべきか、国内外の動向や事業の取り組みの紹介を通じて議論を深めていきます。
2020年12月22日に開催したシリーズ第1回では、渡海紀三朗 衆議院議員・自由民主党 科学技術・イノベーション戦略調査会長をお招きし、科学技術・イノベーション分野で現在日本が置かれている状況を打開するための今後の施策や展望についてお話しいただきました。科学技術・イノベーション分野での投資が伸び悩む中、論文数シェアや若手研究者向けのポストの減少など総合的な「研究力」が低下している現状の紹介ののち、政策を進めていく上での学術的な知見の重要性を指摘。アメリカやイギリスでの具体的な取り組みに触れ、アカデミア、政治、行政の境界を媒介する組織や取り組みが今後益々必要であるとの認識が示されました。
具体的な政策や施策に関する議論では、まず令和二年度第三次補正予算案に盛り込まれた10兆円規模の大学ファンドに触れ、今後他国に引けを取らない政府研究開発投資が必要であり、その一環としてファンドを創設する意義が強調されました。加えて、博士課程学生や若手研究者の支援事業を紹介。早期に「研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ」の目標値である約15,000人の博士課程学生への生活費相当額の支援を行うことなどを通じて、若手研究者の減少に歯止めをかけたいとの意欲が示されました。
更に講演の中では、これまでの歴史的な経緯を振り返りつつ、デジタル化やAIなど科学技術の急速な発展に伴い人間や社会の在り方が変化してきたことから、法改正により科学技術基本法上の人文・社会科学の位置づけの変更が行われた点に触れ、科学技術・イノベーションに人文・社会科学と自然科学の「知」の融合による「総合知」が必要不可欠であることが強調されました。最後に、今後の科学技術・イノベーション政策を考える上での要諦として最先端研究のオープン・クローズ戦略を整備する必要性を強調。経済安全保障の観点からも戦略的なルール整備が必要である一方で、規制ばかりでは研究の活力が失われてしまうことが懸念され、関係者間でバランスを取ることの重要性が指摘されました。結びとして、新型コロナウイルス感染症の流行を受け、改めて合理的で効果的な政策を作る上でのEBPMの重要性についての訴えがなされ、講演が終了しました。
基調講演後には、なぜ日本の政治は思い切った科学技術・イノベーション政策を取れなかったのか、なぜ今になってデュアルユースや大学ファンドなどの話が大きく進んできたのか、といったトピックについて角南篤 SciREXセンター長と議論を行い、参加者から寄せられた質問にも回答いただきました。時間の都合で触れられなかった質問についても、後日書面にて回答をいただきましたので、以下に掲載させていただきます。
【Q&A】
第一回のフォーラム終了後に渡海先生に皆様から頂いたご質問をお渡ししたところ、それぞれのご質問に対して丁寧なご回答を頂きました。
ご示唆に富む内容ですので、ホームページに掲載させて頂くこととしました。
なお、ホームページ掲載の都合上、ご質問の表現を一部修正しているもののがあります。
1.10兆円ファンド・政府投資関連
(質問①)10兆円ファンドはいつごろの完成を目指しているのでしょうか。また、政府としてはどの程度の支出を予定されているのでしょうか。
(回答)今般、当面の運用原資として財政融資資金4兆円と一般会計出資0.5兆円を合わせた4.5兆円の予算案を計上したが、今後、できるだけ早期に10兆円規模のファンドとなるよう尽力したい。ファンドの原資は当面、財政融資資金を含む国の資金を想定しているが、民間資金についても順次拡大していくこととしている。世界レベルの研究基盤の構築に向けた投資拡大の観点からは、毎年総額1,000億円を超える規模感で対象となった大学への支援、博士後期課程学生の支援(当面は補正予算で措置)を行いたい。
(質問②)10兆円のファンドは第一歩で期待しますが、日本の人口あたり大学等研究従事者と公的研究資金が、主要国に比べて1.5倍から2倍以上の差があり、科学技術への投資額そのものを現在の1.5から2倍に増やす必要があると思います。それについてはいかがでしょうか?
(回答)日本の人口当たりの研究者数や対GDP比の科学技術関係予算は各国に並ぶ規模となっていると承知している。一方で、各国が科学技術への投資を活発に行い、我が国の研究力低下が指摘されている中で、研究開発投資の充実強化は必須と考えている。次期科学技術・イノベーション基本計画の策定に向けた検討が現在政府において進められているところだが、次期計画においても政府研究開発投資目標をしっかりと掲げ、科学技術への投資を行っていくべきであり、次期科学技術・イノベーション基本計画については、自民党においても「諸外国の状況を踏まえつつ、大胆な目標設定を行うことが不可欠である」と決議している。厳しい財政状況の中でどのように予算を確保していくかが課題であるが、今回の10兆円規模の大学ファンドはその一環として考えられたものである。
※1 2018年の日本の人口1万人あたりの研究者数(FTE換算)は53.2人で、韓国(79.1人)に次ぐ規模となっている。(ドイツが52.3人、英国が46.5人、フランスが45.6人、米国が44.1人、中国が13.4人)
※2 令和元年の科学技術関係予算の対GDP比は1%を超え、米国、英国、ドイツを上回っている。
(質問③)独立行政法人化により大学や研究機関が基礎研究に使える資金が減っています。改善策はありませんか?
(回答)我が国の基礎研究力の強化は喫緊の課題であり、大学や研究機関の運営費交付金等の基盤的経費の充実に努めるとともに、学術研究・基礎研究の強化に向けた「科学研究費助成事業」、「戦略的創造研究推進事業」、「創発的研究支援事業」などの競争的資金の拡充等に努めていきたいと考えている。
(質問④)ファンドについて質問です。大変期待しております。ファンドが運用益を出すには、腕利きのファンドマネージャーが欠かせないと考えますが、そのためには多額な報酬を用意する必要があるはずです。しかし、2018年に政府は官民ファンドの産業革新投資機構の当時の社長の報酬が高いという批判を受け、経産相が報酬カットを宣言したことにより、11人いる取締役のうち民間出身の9人が辞任しました。今回のファンドは、どのようなファンドマネジャーを招聘しようと考えているのでしょうか。
(回答)大学ファンド運用の大宗は、金融業を行う者に委託して行うことになると考えているが、運用委託先の業務をしっかりと監督できる専門人材が必要であり、そのような能力を有する者を、適切な水準で雇用すべきと考えている。
2.博士課程への進学関連
(質問⑤)博士課程進学率の低下要因として、金銭面以外にも博士課程修了後の就職が難しいことが挙げられると思います。博士課程修了後の就職支援政策は検討されているのでしょうか。
(回答)博士人材を積極的に登用するよう産業界や官公庁に働きかけるとともに、大学側にも産業界や官公庁にも評価されるような博士人材を養成するよう働きかけていくことが重要と考えている。また、文部科学省の来年度予算案に、新たに「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業」が盛り込まれているが、本事業においては、博士後期課程学生の経済的支援に加えて、各大学における博士課程修了後のキャリアパス確保のための取組も支援していく予定であり、これらの事業を通じて博士課程修了後のキャリアパス確保に向けた取組を促進してまいりたい。
(質問⑥)大学院に進学する人間が少なくなった理由には、経済的側面だけではなく、自分の好きな研究ができなくなったことも大きいのではないでしょうか?
(回答)研究者の魅力の向上のためには、自由な発想で挑戦的研究に取り組める環境の整備が重要と考えている。このため、昨年度、若手研究者を中心に最長10年間支援する「創発的研究支援事業」を創設し、今年度の補正予算案においても採択件数を拡充(700件⇒850件)したところ。今後とも、若手研究者の更なる支援策を充実してまいりたい。
(質問⑦)博士在籍中の学生です。この度の施策は博士在籍者として喜ばしく思うと共に、諸外国に遅れること数十年でやっと同程度の施策が整備されたと感じているところではあります。
一点伺いたいのですが、政策と科学を繋ぐ人材が必要とおっしゃっており、まさに私も理系出身でそこをつなぎたいと考えているのですが、具体的に博士の人材育成などのプログラム等動き出していますでしょうか?
(回答)SciREX事業の一つの柱は科学技術イノベーション政策人材の育成であり、各拠点大学(政研大、東大、一橋大、阪大・京大、九大)において人材育成プログラムがあると聞いている。
3.EBPM関連
(質問⑧)EBPMを実現するためには、科学的エビデンスを要求する手続義務が必要ではないでしょうか。例えば公共事業の計画手続制度を見ても環境影響評価以外にはビルトインされておらず、計画立案の正当性も担保できない状況となっていると考えます。
(回答)EBPMの実現には科学的なエビデンスが重要であり、SciREX事業も含めた様々な取組が政府でなされていると承知している。また、現在、政府で検討されている第6期科学技術・イノベーション基本計画においても、EMPMの推進方策について議論されていると承知しており、手続きの義務化もその中で検討されるべきと考える。
(質問⑨)政治家の方々がエビデンスの重要性をどのように受け止められるかは、アカデミアの方ではコントロールできないことだとは思うのですが、そのあたりの意識は変わってきているのでしょうか?
(回答)政治家は具体的なエビデンスを示されると納得することが多いと感じている。より良い政策決定のためにも、政治とアカデミアの適切な関係構築が求められていると考える。
4.人文社会科学関連
(質問⑩)先生のお話、とても興味深く拝聴しました。質問をさせていただきますが、人文科学系の関与において法学系の研究者が少ないと思いますが、如何ですか? また、若手研究者に必要な給与をどの水準で置くことが適当とお考えですか?
(回答)遺伝子診断、自動走行技術などにみられるように、科学技術の社会実装にあたっては、倫理的・法制度的な課題に対処していくことが必要である。今回の科学技術基本法改正を契機として、法学系研究者を含め、分野横断的な研究体制の構築を進めていきたいと考えている。また、若手研究者の給与については、他の職業と比べても魅力のある職業となるよう、引き続き処遇の改善に取り組んでまいりたい。
(質問⑪)大学運営費交付金が削られる一方で、人文科学系も含めることは日本学術会議の任命問題のようにデュアルユースなどに対する思想統制に繋がりませんか?
(回答)科学技術基本法改正によって、人文社会科学が振興対象とされたのは、現代の諸課題に対峙していくためには、人間や社会の在り方に対する深い洞察が必要であり、人文社会科学自体の発展が必要と考えられたためである。基本法には「研究者等の自主性の尊重」も規定されており、思想統制につながるとは考えていない。また、任命問題とデュアルユースの問題は関連しないと考える。
5.その他
(質問⑫)研究資金の分配の権限をOISTのように現場に近いコーディネーターに下す気はありませんか?
(回答)大型の競争的資金の一部(ImPACT、ムーンショット型研究開発制度等)については、現場に近いプログラムマネージャー(PM)に資金配分権限を委ねている例もあると承知している。また、国立大学・国立研究開発法人等における研究資金の分配は、各機関の裁量に委ねられており、各機関において工夫されるべきと考える。
(質問⑬)有益なお話ありがとうございます。軍や戦争に関係するような科学技術にも投資(支援)はあるのか。優先順位はあるにしても科学技術領域を差別しない?他国と比べたら?
(回答)
我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、安全保障に関わる技術を向上していくことは重要と考える。とりわけ、防衛技術にも応用可能な先進的な民生技術、いわゆるデュアルユース技術を積極的に活用することが重要であり、例えば、防衛装備庁が、先進的な民生技術についての基礎研究を公募する「安全保障技術研究推進制度」を実施している。なお、民生用と国防用の科学技術予算の割合については、日本は約3%が国防用となっており、米(約46%)、英(約15%)、仏(約7%)などと比べると国防用の予算の割合が低い状況である。
概要 | SciREX事業10周年を記念し、第3回SciREXオープンフォーラムを開催いたします。シリーズ第1回では、科学技術総括政務次官や文部科学大臣、自民党科学技術・イノベーション戦略調査会会長等を歴任し、長年科学技術イノベーション(STI)政策へ関わってきた渡海紀三朗衆議院議員をお招きし、今後のSTI政策の論点やとるべき戦略、その中でSciREX事業やGRIPSのような政治と科学の境界を担う役割の重要性について領域の重要性について議論します。中でも2019年に改正された科学技術イノベーション基本法、研究支援ファンド、研究の国際化・オープン化に伴う国の戦略についてご発表いただき、参加者を交え議論します。 |
---|---|
講演者情報 | (ご登壇順) |
日時 |
2020年12月22日 18:30-19:30 |
場所 | オンラインにて開催いたします。 |
言語 | 日本語 |
主催 | 政策研究大学院大学 SciREXセンター |
共催 | 文部科学省、SciREX研究教育拠点・関係機関 |
参加申し込み、お問合せ | こちらのウェブサイトよりお申し込みください。 |