共進化実現プログラム(第IIフェーズ)
行政官と研究者が共に政策課題の解決に
挑戦した2年間の成果報告会(後編)
2日目は4プロジェクトが取り組みや成果を示す
共進化実現プログラム第IIフェーズ(2021年6月~2023年3月)の成果報告会を、2023年6月2日(金)、8日(木)の二日間にわたりZoomで開催しました。同プログラムは、SciREX事業が2019年度から進める研究プログラムで、科学技術イノベーション(STI)政策におけるEBPM(エビデンスに基づく政策形成)の新しい実践の形です。国の具体的な政策課題に基づき、政策担当者と研究者とが対話をしながら課題設定の段階から政策研究に取り組みます。
本記事では2日目の様子をダイジェストで報告します(初日の様子はこちらの記事をご覧ください)。第IIフェーズに実施された全11プロジェクトの内、4プロジェクトが2年間の取り組みや成果を報告しました。
成果報告会のプログラム
1日目(こちらの記事からご確認いただけます)
開会
セッションA(座長:伊地知 寛博 氏)
- ①研究開発プログラムの開発・評価に資するエビデンス構築の研究(代表:林 隆之 氏、担当課室:研究開発戦略課評価・研究開発法人支援室)
- ②児童生徒の心と体の健康の保持増進に向けた教育データの活用(代表:川上 浩司 氏、担当課室:健康教育・食育課)
- ③イノベーション・エコシステムのハブ拠点が有する自立性・持続可能性の要件に関する調査研究(代表:永田 晃也 氏、担当課室:産業連携・地域振興課)
- ④我が国の大学等による宇宙分野の人材育成支援活動のための国内枠組みと展開可能性(代表:Verspieren Quentin 氏、担当課室:宇宙開発利用課)
- ⑤ディスカッション「研究者と行政官の共働によるプロジェクトの研究方法や課題へのアプローチについて①」
セッションB(座長:田辺 孝二 氏)
- ①レジリエントな産学連携とイノベーション・システムのためのエビデンスの収集と分析(代表:隅藏 康一 氏、担当課室:産業連携・地域振興課)
- ②科学技術・イノベーション政策の経済社会効果分析の政策形成プロセスへの実装(代表:池内 健太 氏、担当課室:研究開発戦略課)
- ③「将来社会」を見据えた研究開発戦略の策定における官・学の共創(代表:平川 秀幸 氏、担当課室:研究開発戦略課戦略研究推進室/人材政策課)
- ④ディスカッション「研究者と行政官の共働によるプロジェクトの研究方法や課題へのアプローチについて②」
1日目総括
2日目(本記事)
セッションC(座長:吉本 陽子 氏)
- ①我が国の宇宙デブリ関連の国際ルール形成・標準化のための官民連携に関する研究 (代表:鈴木 一人 氏、担当課室:宇宙開発利用課)
- ②博士等に関する情報基盤の充実・強化及び人材政策と大学院教育の改革に向けた事例研究(代表:渡邊 英一郎 氏、担当課室:人材政策課)
- ③ディスカッション「研究者と行政官の共働によるプロジェクトの研究方法や課題へのアプローチについて③」
セッションD(座長:下田 隆二 氏)
- ①自然科学と文化芸術、人文学・社会科学の多様な連携の社会的価値の可視化と実践的手法(代表:城山 英明 氏、担当課室:大臣官房政策課政策推進室/文化庁企画調整課)
- ②新型コロナウイルス感染症による暮らしへの影響分析-オントロジー工学による接近(代表:諸賀 加奈 氏、担当課室:高等教育企画課)
- ③ディスカッション「研究者と行政官の共働によるプロジェクトの研究方法や課題へのアプローチについて④」
2日目総括
閉会
【C-1:鈴木PJ】宇宙デブリの国際規範形成に向けた日本のこれからのアプローチを検討
2日目は、鈴木一人氏(東京大学 教授)が代表を務める「我が国の宇宙デブリ関連の国際ルール形成・標準化のための官民連携に関する研究」プロジェクト(鈴木PJ)の報告から始まりました。鈴木氏は、プロジェクトの目的が宇宙デブリ関連の国際ルールを作っていくこと、さらにはこの分野における日本の技術を国際標準化していくことであったと説明。①日本が優位性を有する可能性のある技術・サービスの識別、②宇宙デブリ関係の規範に関する日本の国内意思決定プロセスの評価、③日本の国際規範策定・促進に向けた戦略の評価、④米国および欧州を含む国際的な比較研究の順で研究を進め、⑤規範の策定と促進のために日本政府がとるべきアプローチの特定を行ったといい、それぞれのステップの具体的な内容についても報告をしました。プロジェクトのこうした成果や日本の取り組みについては、国連総会第一委員会のオープン・エンド作業部会や国際宇宙会議などで紹介する機会に恵まれたといいます。
さらに、鈴木PJでは研究者と行政官が発見や課題を随時共有しながらプロジェクトを進めたこと、博士前期課程の学生を研究協力者として採用するなど人材育成にも力を入れたことにも言及。共進化実現プログラムを通じてさまざまなことが可能になったと感謝の意を表し、行政側の担当課室である文部科学省宇宙開発利用課の栗林俊輔氏にコメントを求めました。
栗林氏は、行政側の人事異動に研究者側が上手く対応してくれたことに謝意を示し、鈴木PJの取り組みや提案が「非常に示唆に富んだものであった」とコメント。今年広島で開催された主要国首脳会議(G7サミット)の首脳宣言においても宇宙利用に関する内容が含まれるなど、宇宙利用をめぐる状況が大きく変わる中、鈴木PJに関わることができたことは幸運だったと述べました。
報告後、4名の参加者と鈴木氏とのディスカッションが行われました。アドバイザリー委員会委員の有信睦弘氏(広島県立叡啓大学 学長)からの「国連等での発表時の鈴木氏の立場」に関する質問には、「専門家として招待され、国の代表ではなく研究者として発表した」と回答。同委員会委員の長岡貞男氏(東京経済大学 教授)が鈴木PJの研究内容や宇宙デブリ処分の最終的な負担者について尋ねると、「国際規範を作ることが極めて困難な近年の国際情勢の中、これまでの規範形成理論が有効かどうか、有効でない場合はどのように克服すればよいのかという点が今回の研究の中心としてあった」と応じ、後者については今後の検討課題であり、10月より始まる共進化実現プログラム第IIIフェーズで採択された際にはぜひ取り組みたいと答えました。これを受けて有本建男氏(政策研究大学院大学 客員教授)が「鈴木PJの課題や取り組みは非常に具体的な段階にあり、共進化実現プログラム以外の選択肢もあるのではないか」とコメント。鈴木氏は共進化の枠組みで研究をさらに突き詰めたいとし、第IIIフェーズ採択への意気込みを示しました。最後に、進行役の吉本陽子氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 主席研究員)による「宇宙利用に関する規範形成時のカウンターパートはどこか」との質問に対し、鈴木氏は宇宙のガバナンスに関しては宇宙条約に基づき民間企業ではなく政府が責任を持つことになっている点などを補足した上で、「カウンターパートは政府や規制機関である」と答え、鈴木PJの発表を締めくくりました。
【C-2:須藤PJ】博士人材がますます活躍できる
環境整備のための基盤を