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共進化実現プログラム(第IIフェーズ) 行政官と研究者が共に政策課題の解決に
挑戦した2年間の成果報告会(前編)

初日は7プロジェクトが取り組みや成果を示す

【B-3:平川PJ】未来社会をかたち作る研究開発戦略の策定マニュアルを開発

平川氏

平川氏

初日の最後は「「将来社会」を見据えた研究開発戦略の策定における官・学の共創」プロジェクト(平川PJ)による発表が行われました。冒頭、平川秀幸氏(大阪大学 教授)は、ミッション誘発型の研究開発戦略の策定におけるミッションの社会的妥当性の担保と研究成果の最大化を行うための理論的基盤を構築することを目的としたプロジェクトであり、研究開発戦略の策定を支援するツールキットの開発を行ったことを説明。

平川PJの全体イメージ。ある種のアクションリサーチ的に行政の戦略策定プロセスと並走する形で研究に取り組んだ〈図版提供:平川秀幸氏〉

平川PJの全体イメージ。ある種のアクションリサーチ的に行政の戦略策定プロセスと並走する形で研究に取り組んだ〈図版提供:平川秀幸氏〉

平川PJではまず、国際的なミッション志向型STI政策の潮流の中、文部科学省の大きな役割として将来的にミッション達成の基礎となる研究開発シーズを育てることがあるとし、ミッション達成に誘発されつつ研究開発の自由度確保を重視する「ミッション誘発型(mission-inspired)」の戦略を提案しました。ミッション設定の手法設計などを担う大阪大学のチームでは、国内外の将来社会課題に関する文献調査より将来社会問題の俯瞰図を作成。さらには、その中から詳細に検討する5つのテーマを設定し、科学技術の専門家へのアンケート、市民を対象としたワークショップ、社会課題専門家を対象としたワークショップを実施。このマルチステークホルダー・エンゲージメントの実践を通じて、「社会テーマ」「社会テーマ群」「解決課題区分」「解決すべき課題」の4層で課題を細分化し、ツリー構造化した「ミッション体系図」を作成する方法論の開発に成功しました。また、評価指標の調査やアルゴリズムの開発を担う東京大学のチームでは、各社会課題の解決に資する研究シーズを特定するなどし、社会課題と注目の研究領域との対応関係を決定したといいます。両チームの成果を基に出来上がったのが、「研究開発戦略策定マニュアル」です。文部科学省の政策形成プロセスに実装できる形を目指し、来期以降も引き続き取り組みたいと平川氏が言及し、質疑応答に移りました。

半谷氏

半谷氏

アドバイザリー委員会委員の有信氏が行政側の担当課室からの意見を求めると、半谷政毅氏(研究開発戦略課)が応答。現在、開発したマニュアルを基に、社会課題を分解して、それらを研究シーズと結びつける活動を行っている状況であり、わからないことは研究者側と対話をしながら進めていきたいと、補足しました。

続いてアドバイザリー委員会委員の小林氏より挙がったのは、ワークショップ参加者の選定方法の妥当性に関する質問です。平川氏は、社会課題専門家はその社会課題に通暁した方を広く集め、市民はある民間企業に登録しているモニターへの声がけなどを通じて集めたことを説明。市民参加型ワークショップの目的は専門家とは異なる立場から出てくる意見を積極的にくみ上げることであり、数による正当化などまでは狙っていなかったと補足し、平川PJの発表を終えました。

【ディスカッション】研究者と行政官の共働によってもたらされることは?②

セッションBでも「行政官と研究者の共働による研究プログラムの良かった点と改善点を振り返る」をテーマに発表者間でのディスカッションが行われました。

隅藏氏は、行政官との連携により総務省の科学技術研究調査(科調統計)といった複雑な申請を要する統計データが入手しやすくなったこと、異動後も継続して議論に参加してくれる行政官がいたことなどを良かった点の一例として紹介。池内氏は、STI政策の経済社会効果に関する調査を行う上では、研究者と行政官の共働に加え、異なるセクターとの接点をどのように作るかが課題と指摘します。平川氏は第IIフェーズの2年間を振り返りながら、「戦略は作るだけではだめで、JSTの研究開発プログラムなどへの実装を最初から見据えて、実務的な観点からも一緒に考えながら進めていくことが重要。特に、従来と異なる戦略を実装する上ではさまざまなコミュニケーションの課題があることに気づいた。次につなげていきたい」と振り返りました。

平川氏 池内氏 隅藏氏 永田氏

研究者からのコメントを受け、座長の田辺氏は「新しい方法論などの開発にあたっては、行政側が本当に使えるかどうかを行政側とよく議論しなくてはいけない」と指摘。行政側の意欲も重要とし、行政官からのコメントを求めました。

川端氏

川端氏

隅藏PJの與座丈仁氏(産業連携・地域振興課)は、「産学連携活動の副次的な効果が見えてきたことがありがたかった」と応答。産学連携活動は、研究者の研究の幅の広がりや競争的資金獲得への意欲向上などに寄与し、結果として大学の基盤改善につながるといいます。学問の流れでは川下とされる産学連携活動が川上にもなりうるという示唆です。今後は、外部資金獲得の兆候が顕著に見られる大学を対象とした調査などから、大学の機能強化・研究力強化に何が効果的なのかを明らかにしたいと意気込みを語りました。池内PJの赤池氏は「社会と科学技術の関係性をよりインタラクティブに捉え、政策立案もバックキャスティング的に考えることが求められている。モデルの改善だけでなく、議論の仕方も変えていく必要がある」と指摘。平川PJからは半谷氏と川端正憲氏(人材政策課)が発言。半谷氏は「成果をマニュアルにまで落とし込めたことが素晴らしかった」とプロジェクトを評価する一方で、「マニュアルさえあれば行政官がすぐに実行に移せるわけではない。どういう形でマニュアルを行政官に移管するかといった点まで設計できていれば良かった」と反省点もあげました。川端氏は、プロジェクトの成果を今後使うにあたり、社会的側面からの研究プログラムに取り組んでいるJST 社会技術研究開発センター(RISTEX)との連携なども考えられるのではないかとし、ディスカッションは終了しました。

初日総括

最後に、セッションAとBの座長を務めた伊地知氏と田辺氏より成果発表会初日の総括が行われました。まずはセッションAの発表に対して伊地知氏。プロジェクトの過程での研究者と行政官の密な相互作用の重要性への言及です。リサーチクエスチョンの設定段階から研究者と行政官が対話を重ねてお互いの視点を持ちよることで、より発展的な取り組みにつながったプロジェクトも見られたといいます。行政側の文脈に組み込みやすい形の研究成果を目指す上では、プロジェクトの途中で行政側に意見を求める場をつくることも有効だろうとしました。また、行政側の数年毎の異動を巡る議論については、行政官にとって研究者との共同研究の経験は異動後も活かされるものであり、中長期的な人材育成につながる側面も伺えたとコメントしました。

田辺氏は、セッションBのプロジェクトの発表から「研究者と行政官がデータも分析手法もない段階から共同研究に取り組むことも、このプログラムの重要な点ではないかと思った」と感想を述べました。プロジェクト中のメンバーの異動には否定的な意見を示しつつも、そうした共働を通して行政官が成長することは、文部科学省全体として動的に政策形成を取り組むことができるようになる効果をもたらしうると共進化実現プログラムへの期待を込め、報告会の初日の幕は降りました。

報告会初日の座長を務めたアドバイザリー委員会委員の伊地知氏(左)と田辺氏(右)

報告会初日の座長を務めたアドバイザリー委員会委員の伊地知氏(左)と田辺氏(右)

文:宮田 龍(サイエンスコミュニケーター)
編集:梶井 宏樹(SciREXセンター 専門職)

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