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共進化実現プログラム(第IIフェーズ) 行政官と研究者が共に政策課題の解決に
挑戦した2年間の成果報告会(前編)

初日は7プロジェクトが取り組みや成果を示す

行政官と研究者が共に政策課題の解決に挑戦した2年間の成果報告会(前編)(初日は7プロジェクトが取り組みや成果を示す)

共進化実現プログラム第IIフェーズの成果報告会を、2023年6月2日(金)、8日(木)の二日間にわたりZoomで開催しました。同プログラムは、SciREX事業が2019年度から進める研究プログラムで、科学技術イノベーション(STI)政策におけるEBPM(エビデンスに基づく政策形成)の新しい実践の形です。国の具体的な政策課題に基づき、政策担当者と研究者とが対話をしながら課題設定の段階から政策研究に取り組みます。

報告会初日では、第IIフェーズ(2021年6月~2022年3月)に実施された全11プロジェクトの内、7プロジェクトが2年間の取り組みや成果を報告しました。本記事ではその様子をダイジェストで報告します。2日目の内容は、次号のSciREX Quarterlyで後編をご覧ください。

※なお、登壇者の所属は共進化実現プログラム第IIフェーズ終了時のものです。

成果報告会のプログラム

1日目(本記事)

開会

セッションA(座長:伊地知 寛博 氏)

セッションB(座長:田辺 孝二 氏)

1日目総括

第IIフェーズの成果から「共進化」のこの先を考える2日間に

小野山氏

小野山氏

成果報告会の幕は、文部科学省でSciREX事業を所掌する研究開発戦略課政策科学推進室長の小野山吾郎氏からの挨拶で開けました。小野山氏は、共進化実現プログラムの成果の一部が政策形成につながっていることや、直接的な成果としては見えづらくとも方法論として非常に有用な取り組みも多いことなど同プログラムの意義に言及した上で、SciREX事業や科学技術行政への一層の関心を呼びかけます。

【A-1:林PJ】STI政策に適した新たなロジックモデルを開発

林氏

林氏

トップバッターを務めたのは「研究開発プログラムの開発・評価に資するエビデンス構築の研究」プロジェクト(林PJ)。代表の林隆之氏(政策研究大学院大学 教授)はその目的を、海外のSTI政策におけるプログラム評価の現状と最新の学術的な知見に基づき、プログラムの立案・評価に資するエビデンスとして考えられる分析を検討・試行することと説明。ナノテクノロジー・材料分野、特に「元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>」(2012年4月~22年3月)の分析を通じて、新たな評価手法を探求しました。

代表的な成果の1つとして紹介されたのは、STI政策に適した新しいロジックモデルの枠組みと、それを用いたセオリー評価についてです。よく描かれがちな単線的なモデル(研究開発による成果が使用され経済社会効果が生まれるとするもの)では、短期的に効果が生まれない事業は低く評価される可能性があります。そこで林氏らは、「科学技術・学術的価値」「研究基盤・エコシステム(の構築)」「社会経済的価値」という複数の項目のロジックモデルを並行で作るという新たな枠組みを考案しました。

〈図版提供:林隆之氏〉

〈図版提供:林隆之氏〉

元素戦略プロジェクトを対象にこのモデルの作成を試みたところ、議論の過程で「異分野連携だからこその効果や成果はあったか」「材料科学分野にどのような影響があったか」といった行政側の知りたい「問い」が明確になり、それらに応える適切な手法が選べるようになったといいます。例えば、元素戦略拠点の研究者と同じ分野の科研費をとっている研究者との間で、複数の分野の研究者による共著論文がどの程度あるかを比較したところ、一目瞭然で前者の方が多く、異分野との連携が強くできているという結果が得られました。林氏からはこの他に、材料分野の事業群をテキスト分析で二次元的に可視化した結果として事業間の橋渡し構造の必要性が見えてきたことなど、個別プログラムの開発・評価のみにとどまらない、林PJの2年間の取り組みが紹介されました。

佐野氏

佐野氏

行政側の担当課室である文部科学省研究開発戦略課評価・研究開発法人支援室からは、佐野多紀子氏(報告会当時の所属は理化学研究所)が登壇。このような成果を行政でより活かしていくためにも、取り組みをしっかりと説明して意見を募る場を創ることの重要性を訴えました。

発表を受け、アドバイザリー委員会委員の田辺孝二氏(東京工業大学名誉教授)が行政側の貢献について尋ねたところ、林氏は「行政官との議論を通し、プログラム評価をEBPMの枠組みにどう入れていくかは、方法論というよりも、それを法律上どこにどう位置づければ良いかという話が難しいといったことが非常に良く見えてきた」と、自身に生まれた変化の一端を伝えた上で、今後の制度の検討における共進化の意義を示唆しました。

【A-2:川上PJ】教育データの利活用による、より具体的な公衆衛生政策を模索

「児童生徒の心と体の健康の保持増進に向けた教育データの活用」プロジェクト(川上PJ)からは、3名の研究者が登壇しました。代表の川上浩司氏(京都大学 教授)は、プロジェクトの発足経緯や概要を簡潔に説明した上で、「新型コロナウイルスの発生による生活様式の変化が学童に与える影響」と「データの利活用に向けた自治体における個人情報保護条例への対応」の2つの研究課題に取り組んだことを説明。それぞれのテーマの詳細について吉田都美氏(京都大学特定 講師)と祐野恵氏(京都大学 特定助教)に引き継ぎました。

川上PJの報告者。川上氏(左上)、吉田氏(右上)、祐野氏(下)

川上PJの報告者。川上氏(左上)、吉田氏(右上)、祐野氏(下)

吉田氏は、コロナ禍の活動制限が子供の健康に与えた影響を検討しました。全国の学校で実施されている学校健診に着目し、44自治体の約12万人分の子供の学校検診情報を取得。肥満度とBMIスコアの解析から肥満を評価したところ、2020年度においては、男女ともに肥満傾向が有意に増加しており、特に男子において大きな影響が見られました(下図)。「約12万人の子供のデータからはっきりとした傾向が得られることはとても重要、価値が大きい」と、吉田氏は研究の意義を強調します。また、やせの割合は男子でわずかに増加した可能性があるという結果なども示しました。これらの分析では2020年の一斉休校の影響、家庭の経済状況が子供に与える影響などを考慮し切れていないことに言及しつつ、今後のパンデミックに備え、肥満をはじめとした子供の健康をどのように守るかの方策の必要性を訴えました。

〈図版提供:吉田都美氏〉

〈図版提供:吉田都美氏〉

続いて祐野氏が、学校健診情報を自治体から集積する際の課題に関する調査・研究結果を報告しました。1年目には学校健診情報の集積を外部機関と連携している74自治体を対象に個人情報の取扱いに関してどのような検討がなされたのかを調査し、2年目にはこうした集積に個人情報保護条例における規定が及ぼす影響について207自治体を対象に分析。その結果、データの利活用に関しては、先行研究で焦点の当てられてきた条例による規定の影響よりも、むしろ各自治体の個別の状況や利活用に関する懸念の影響が大きいことがわかったといいます。市町村の教育委員会等に対して集積のメリットを説明することで道が拓けるのではないかと、政策側への提言を示しました。

外部機関との学校健診情報集積事業の連携に関する、74自治体の検討過程コーディングの結果〈図版提供:祐野恵氏〉

外部機関との学校健診情報集積事業の連携に関する、74自治体の検討過程コーディングの結果〈図版提供:祐野恵氏〉

発表後、座長の伊地知寛博氏(成城大学大学院社会イノベーション研究科長・教授)が行政側との共働に関して質問。川上氏からは、行政側独自の視点を最初から盛り込んだプロジェクトの進行の意義が示唆されました。公衆衛生学的な観点から肥満にはもともと着目していた中で、文部科学省からのコメントを受け、やせのデータの検討を細かく行うことができたことなどが紹介されました。

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【A-3:永田PJ】支援終了後も自立的・持続的な
拠点をつくるための要件とは
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