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  4. 共進化実現プログラム(第IIフェーズ)「行政官と研究者が共に政策課題の解決に挑戦した2年間の成果報告会(後編)」

共進化実現プログラム(第IIフェーズ) 行政官と研究者が共に政策課題の解決に
挑戦した2年間の成果報告会(後編)

2日目は4プロジェクトが取り組みや成果を示す

【C-2:須藤PJ】博士人材がますます活躍できる環境整備のための基盤を

渡邊氏

「博士等に関する情報基盤の充実・強化及び人材政策と大学院教育の改革に向けた事例研究」プロジェクト(須藤PJ)からは、今年4月より代表を務めた渡邊英一郎氏(科学技術・学術政策研究所(NISTEP)総括上席研究官)が登壇。本PJの目的は、優秀な博士人材が多様な分野において正規の職を得てリーダーとして活躍する展望を描ける環境整備、そのために必要な政策群の立案根拠となるエビデンスの提供であり、6つの調査研究課題(下図)から取り組んだことを説明しました。具体的には、修士課程在籍者、博士課程修了者をそれぞれ対象としたアンケート調査を実施し、そこで得られた個票データを元に大学院研究環境と進学動向の因果関係などを分析。さらには人材データ活用や海外比較に係る調査研究も実施したといいます。また、事前に行政側の担当である人材政策課人材政策推進室との相談や議論を行うことで政策側のニーズを取り込んだこと、プロジェクト進行中も互いの進捗を密に共有し合ったことなど、共進化を意識した点も強調しました。

須藤PJのプロジェクトスタート時の全体像。なお、③の成果の一端を、共同代表者の吉岡(小林)徹氏が登壇した第46回SciREXセミナーの報告記事よりご覧いただけます 〈図版提供:渡邊英一郎氏〉

本PJの研究活動の結果、博士課程修了者の雇用先、修士課程在籍者が進学ではなく就職を選択した理由、博士課程修了後の職務に対する満足度に博士課程時代のテーマとの関連性が影響していることなど、博士人材が活躍していくための環境を整備する上で重要なさまざまなエビデンスが得られ、すでに新規事業におけるロジックモデル策定や審議会等でも活用されているといいます。社会人博士の割合が多い現状を踏まえ、修士課程を修了してから数年後に社会人博士として大学院に戻るというキャリアパスにも注目していきたいと、今後の展望についても言及しました。

高見氏

本PJの行政側からは人材政策課の高見暁子氏が発言。節目節目での研究者と行政官との意見交換が活きていることを感じるような内容であり、今後の政策形成上の判断を大いに助けるだろうと述べ、本PJの報告をまとめました。

川村氏

質疑応答では4名の参加者から手が挙がり、博士人材に関する大規模アンケート調査などを担った川村真理氏(NSITEP 上席研究員)が応じました。アドバイザリー委員会委員の狩野氏(岡山大学副理事 教授・薬学部長)は「NISTEPの規模を活かした調査であり、因果的な推論にまで踏み込んだ非常に良い内容」とプロジェクトの活動を評価した上で、専門分野別のサブグループ解析の実施に関して尋ねました。川村氏は、社会人かどうかということ以外にも、国公立大学と私立大学に分けたデータなども取っていると回答。また、属性によってデータの振る舞いが異なることにも触れました。続いて、アドバイザリー委員会の長岡氏が、論文博士が減少している状況を踏まえた全体としての博士号取得者数について質問。川村氏は、博士課程に直接進学する学生が3分の1程度に減っている影響が大きく、深刻な事態であると答えました。アドバイザリー委員会委員の小林信一氏(広島大学 副学長・大学院人間社会科学研究科長)は、かねて心配されることもあった博士人材追跡調査(JD-Pro)の回答率に関して質問。川村氏は、パネル調査である以上回答率の低下は避けられないものの、統計手法的に問題のない水準での調査が続けられていることを報告しました。最後の質問者は博士人材のキャリア支援に携わる一般参加者です。キャリア志向性と実際の進路の関係を分析することが可能かという質問に対し、川村氏は、在学中のキャリアの志望と実際の就職先のデータも収集していることを紹介した上で、「分析をすれば多少はわかる部分もあるのではないか」と回答しました。質問者からは今後の分析への期待が伝わるコメントが寄せられ、本PJの発表は終了しました。

【ディスカッション】研究者と行政官の共働によってもたらされることは?③

初日に引き続き、セッション後はプロジェクトメンバーと参加者によるディスカッションが行われました。進行役は座長の吉本氏、テーマは「行政官と研究者の共働による研究プログラムの良かった点と改善点を振り返る」です。鈴木氏は開口一番に行政側の人事異動によるプロジェクト進行上の苦労を指摘しました。「研究やモノの考え方というのは、どうしても人に付くもの。いかに申し送りがあったとしても最初からまた始めるということになってしまうし、行政官によって関心も理解も異なる。これを所与の問題として織り込んで、研究者側でいかに継続できるような体制を組むかが重要」とコメント。これを受け渡邊氏は、自身のプロジェクトの研究主体がNISTEPであったからこそできた面はあると断りつつ、「人事異動の影響をなるべく抑えるために、行政側と研究側の日ごろのコミュニケーションを密にすることが重要」と述べました。また、「政策に非常に近接したテーマとして実施することに加えて、研究として何か新しいことをやる必要がある。人的エフォートもそれほど多く割けない中で、このバランスをどうとっていくかがプロジェクトを運営する上での課題になるだろう」と、共進化実現プログラムの今後の改善点にも言及しました。

對崎氏

アドバイザリー委員会委員の狩野氏が博士号を有する行政官に意見を求めたところ、人材政策課の對崎真楠氏が応答。より深い分析結果を政策にうまく結び付けることへの興味や意欲を示した上で、「研究者との日ごろからのコミュニケーションや議論を通し、機動的にデータを出すところは出し、長期的な研究が必要な課題があればそれはそれで一緒にやらせていただきたい」と、第IIIフェーズへの意気込みを語りました。

最後に、アドバイザリー委員会委員の有信氏がコメント。報告会初日でも行政側の人事異動が問題として大きく取り上げられたことに触れた上で、文部科学省内での評価がきちんとなされているのかという点、属人的でない部分の枠組みを作ることが可能かどうかという点についての検討があると良いのではないかとし、ディスカッションをまとめました。

鈴木氏(左上)、渡邊氏(中央)、吉本氏(右上)、有信氏(左下)、狩野氏(右下)

【D-1:城山PJ】異分野の連携が進む博物館ではどのような価値が生まれ得るか

「自然科学と文化芸術、人文学・社会科学の多様な連携の社会的価値の可視化と実践的手法」プロジェクト(城山PJ)からは、3名の研究者と1名の行政官が報告を行いました。まずは代表の城山英明氏(東京大学 教授)が概要を説明。文化芸術、自然科学、人文学・社会科学の連携事例を収集・分析し、それらの社会的価値の評価手法と連携を実現するための実践的手法・体制について検証することを目的としたプロジェクトであったこと、初年度には連携の類型化とそこから生じる社会貢献の整理を行い、2年目には文化芸術・科学技術の連携に向けた試行的なアクションリサーチを博物館等において実施したといいます。アクションリサーチの説明を金間大介氏(金沢大学 教授)に、連携評価から生まれるアウトカム評価の課題に関する説明を松尾真紀子氏(東京大学 特任准教授)に、そして行政側からの意見を中尾智行氏(文化庁博物館振興室)に引き継ぎました。

城山PJの発表者。城山氏(左上)、金間氏(右上)、松尾氏(左下)、中尾氏(右下)

金間氏は、初年度の取り組みで浮かび上がった問題意識をイノベーションや社会的価値の文脈から取り出し、豊田市美術館、大阪市立自然史博物館、理科ハウスでのアクションリサーチによる検証を行ったことを説明。その結果、対話型鑑賞法によって表現力、創造性といった能力が滋養される可能性、キュレーションスキルのマーケティング活用への展開の可能性、主体性醸成要因としての環境要因とコミュニケーション要因の重要性などの多くの示唆が得られたことを報告しました。

3つの文化施設を対象にしたアクションリサーチの結果得られた主な成果〈図版提供:金間大介氏〉

続いては松尾氏。「自然科学と文化芸術、社会科学の連携を進めると社会貢献・価値が創造されることはわかるが、これまで十分に評価されてこなかった」とアウトカム評価の現状と課題を指摘します。定量化や因果関係の立証、影響範囲の明確化、画一的な基準の設定が困難なことが主な理由です。今後は、生産的相互作用も評価の対象としていくことや、評価指標を所与のものとしないこと(評価する側とされる側による事前の議論の場を設けた上での指標設定)、「場」や「空間」を作る「つなぐ人」の活動が評価されることなどが重要ではないかと、改善に向けた方策を提示しました。

中尾氏は、博物館の社会的価値や便益がまだまだ可視化されていない状況に警鐘を鳴らします。2000年代に入ってから博物館予算の減少が特に著しく、全国で約5700ある博物館などのほとんどは経営面で逼迫しているといいます。この状況を打破するためにも、城山PJの取り組みは博物館の価値を社会に示していく一つの新しいアプローチであり、こうした成果を社会に提示し続けることが重要とし、城山PJの報告をまとめました。

続く質疑応答では、アドバイザリー委員会の狩野氏と有信氏より手が挙がりました。狩野氏は、学芸員や科学コミュニケーターといったつなぐ人材の育成方法と、活躍の場の創出方法、その評価指標について質問。金間氏は学会での発表において城山PJの成果に対して多くの学芸員から質問が寄せられたことを紹介し、「ようやく対話が始まった段階。少しずつ活動を広げていければ」とコメントしました。後者については松尾氏が応答。「ワンフィッツオールのような基準はなかなかない。評価する側とされる側による事前の議論を通して、その研究から何を成果として生み出したいのかという点の相互理解を深めることで、評価の仕方が検討できるように思う」と意見を述べました。有信氏は、科学技術のブレイクスルーとイノベーションが離れ離れになっているケースも多い中で、人文学・社会科学が果たす役割に関する一層の議論に期待を寄せました。城山氏が「分断されているものをつなぐ一要素としてアートは一定の役割を持っているが、どのような役割を果たしているのかを可視化することが第一歩として重要だろう」と応じ、城山PJの発表は終わりました。

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【D-2:諸賀PJ】大学生はコロナ禍をどう捉えた?
オントロジー工学が示す感染症対策への示唆
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