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  4. 共進化実現プログラム(第IIフェーズ)「行政官と研究者が共に政策課題の解決に挑戦した2年間の成果報告会(後編)」

共進化実現プログラム(第IIフェーズ) 行政官と研究者が共に政策課題の解決に
挑戦した2年間の成果報告会(後編)

2日目は4プロジェクトが取り組みや成果を示す

【D-2:諸賀PJ】大学生はコロナ禍をどう捉えた? オントロジー工学が示す感染症対策への示唆

諸賀氏

「新型コロナウイルス感染症による暮らしへの影響分析-オントロジー工学による接近」プロジェクト(諸賀PJ)からは、代表を務めた九州大学客員助教(九州共立大学講師)の諸賀加奈氏が登壇。コロナ禍における日常生活や大学生活への影響、生活者の受け止め方を分析することによって、次なる感染症の拡大などの緊急事態が生じた際の行政及び大学の適切な対応について示唆を得ることを目的としたプロジェクトであったことを説明しました。まず、一般生活者と大学生に分けてヒアリングやプレアンケートを実施し、オントロジー工学によりコロナ禍における日常生活シーンを行為と方式に分解するなどして、日常生活の行為に関する概念体系をモデル化。行動・意識変容に関するアンケートなども実施し、それらのモデルの定量評価も行いました。プロジェクトの2年目では、大学生活または暮らし全体における充実度に影響する行動パターンモデルについて重回帰分析などを行ったといいます。その結果、充実度に関して、大学生活を対象に、それぞれの属性についてどのような行動パターンの特徴があったのかを示すことができました。例えば、コロナ禍前の大学生活を経験した学年ほど充実度が下がっていること(学部4年生が最も低く、学部2年生が最も高い)、緊急事態宣言対象地域の学生の方が充実度は高かったこと、男性の方が女性よりも充実度が高かったことなどが明らかになったといいます。

大学生活の充実度における重回帰分析の結果〈図版提供:諸賀加奈氏〉

こうした分析結果を踏まえ、「現状を前向きに捉えて行動するように促すことが対策の1つと考えられる」と諸賀氏。属性や受ける制約の違いに配慮した支援もしつつ、いかに効果的にかつ適切な情報を伝えるかが鍵になるだろうと、次なるパンデミックの際の対応を示唆しました。アンケートの設計段階での行政官との意見交換において研究者だけでは気付かないような発想を得られた点、研究がどのように政策へ活用できるのかという部分を行政官と共に進めることができた点がとても良かったと共進化の意義にも触れ、担当である高等教育局高等教育企画課の依田浩崇氏にコメントを求めました。

依田氏

依田氏は、新型コロナウイルス感染症の流行当初は、学部1年生や2年生への影響が大きいと仮定して施策を打ってきたものの、諸賀PJの研究ではその予想に反する結果が出たことに言及。新型コロナウイルス感染症と類似の危機が訪れた際の対応を今後検討する上でも有意義な研究と述べました。

古川氏

諸賀PJの発表を受け、3名のアドバイザリー委員会委員が発言。まずは、有信氏が、今回抽出した行動パターンの妥当性を尋ねました。諸賀氏はアンケートの自由記述から特に特徴的な28の行動パターンを抽出したことに言及した上で、共同研究者の古川柳蔵氏(東京都市大学 教授)に説明を求めました。古川氏は、アンケートの手法やサンプルに関する検討の余地はあるだろうとしつつ、「以前に実施したアンケート結果も踏まえると妥当と考えている」と回答。奥和田久美氏(北陸先端科学技術大学院大学 客員教授)は、分析結果の一般化やさらなる考察、提言を行うことで成果がより有意義なものになるのではないかと、今後の取り組みに期待を寄せました。続けて長岡氏が「オンライン会議システムのようなIT技術の発展による要因と感染症の影響による要因を分けて分析することはできないか。また、新型コロナウイルス感染症の影響で、学力が低下した可能性もあり得る。そうした問題とリンクした分析も意義深いように思う」とコメント。両者からの意見に対し、諸賀氏が「分析を掘り下げ、検討を進めたい」と応じ、諸賀PJの発表は終わりました。

【ディスカッション】研究者と行政官の共働によってもたらされることは?④

セッションDでも、行政官と研究者の共働による研究プログラムの良かった点と改善点を振り返る」をテーマにディスカッションが行われました。進行役は座長の下田隆二氏(政策研究大学院大学客員教授)です。

まずは城山氏がコメント。1年間の試行期間を設けた枠組みでのスタートとなった城山PJは、2年目に継続実施すべく、課題をブラッシュアップした上で適当な担当課室を探す必要があったといいます。結果としてうまくつながったものの、その過程では多くの苦労があったとし、行政側のプロジェクト担当を務めた加藤裕理氏(科学技術改革TF 戦略室ワクワク挑戦チーム/国際課→文化庁)にコメントを求めました。加藤氏は、分野横断型のテーマでは担当課室を決めることが難しく、課題として認識されたとしても解決に向かって進みにくいことがあると指摘。他のプロジェクトとの違いとして、城山PJの行政官は人事異動に左右されずに最初から最後までプロジェクトを担当できたことを挙げ、プロジェクト運営の大きなメリットをもたらしたと述べました。

諸賀氏は、行政官と研究者の共働により互いに新たな気づきを得られること、研究成果が政策に活用されやすくなることを挙げ、「共進化の場がSciREX事業以外でも増えると良いのではないか」と言及。また、諸賀PJも例に漏れず行政官の人事異動で苦労したといいます。その反面、「ポジティブに考えるとすれば、多くの行政官に私たちのプロジェクトの取り組みや研究について知っていただけた」と締め、セッションDのディスカッションは終了しました。

セッションDのディスカッションの登壇者。城山氏(左上)、加藤氏(右上)、諸賀氏(左下)、下田氏(右下)

※第IIフェーズでは、共進化実現プログラムの基本的な設計を踏襲しつつ、プログラムとして共進化を育むような仕組みを導入。課題や協働先が明確でないものに関しては「準備ステージ」という形で採択し、行政部局の担当課室が見つかったプロジェクトを翌年に「実現ステージ」として継続しました。第IIIフェーズ(2023年10月~)においてこの仕組みは導入されなかったことから、第IIフェーズの大きな特徴といえます。

2日目総括、閉会

吉本氏は、2日目の報告内容や議論から3点を振り返りました。まずは行政官の人事異動についてです。日本の行政において人事異動はなくならないことを前提に、民間企業でなされているようなガバナンスなどの仕組みづくりが重要であることを指摘。2点目は、共進化における学際領域の研究テーマについて。行政の縦割りの文化の中でその受け手をどのように見つけるかが課題としました。そして3点目は、「政策のための科学」や「共進化」の今後の在り方についてです。変化が激しい時代においてもそれらが効力を発揮していくためにはどうすれば良いか検討する必要があるだろうと述べました。

続いて下田氏は、進行役を務めたセッションDのプロジェクトについてコメント。城山PJは文化行政という従来のSTI政策の範疇を超える領域にまで踏み込んだ発展形としての共進化プロジェクトの例であろうと評し、こうした取り組みの重要性に言及。諸賀PJに対しては、収集したデータは非常に貴重なものであるとし、アドバイザリー委員会の方々からの意見なども踏まえたさらなる分析に期待を寄せました。さらに、成果報告会全体を振り返り、「行政官の人事異動への対応と、複数の行政の担当部局にまたがるようなテーマへの対応が、今後の共進化実現プログラム、あるいは類似の研究プログラムを進めるにあたって非常に重要な検討課題であると認識した」とまとめました。

最後に、文部科学省でSciREX事業を所掌する研究開発戦略課政策科学推進室長の小野山吾郎氏が2023年10月より始まる共進化実現プログラム第IIIフェーズの進捗などを簡単に報告した後、発表者や進行役、参加者への感謝、閉会の辞を述べて2日間にわたる成果報告会を締めくくりました。

セッションCの進行役を務めた吉本氏(左上)、セッションDの進行役を務めた下田氏(右上)、本成果報告会を主催した政策科学推進室の室長 小野山氏(下)

文:宮田 龍(サイエンスコミュニケーター)
編集:梶井 宏樹(SciREXセンター 専門職)

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