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第45回SciREXセミナー 博士人材が活躍し続けるために
産官学と当事者に求められる姿勢の洗い出し

SciREXセミナー初のハイブリッド方式

博士人材が活躍し続けるために産官学と当事者に求められる姿勢の洗い出し

2023年5月22日、第45回SciREXセミナー「博士人材が生き生きと活躍しやすくなる日本へ! 〜誰が何をどうマネジメントすべきか〜」を霞が関ナレッジスクエアにて開催しました。SciREXセミナーはここ3年間コロナ禍のためオンラインで開催してきました。今回は3年半ぶりに会場に参加者14人を招き、オンライン参加者96人を含む計110人で、初めて会場とZoomウェビナーのハイブリッド形式で開催しました。

90分間にわたるセミナーでは、博士人材(博士課程の修了者)が活躍し続けるために必要な考え方や施策について産官学それぞれの立場から登壇した3人が議論し、活発な質疑応答が繰り広げられました。

永田 晃也 氏

左から司会進行を務めた對崎真楠氏、話題提供者の吉岡(小林)徹氏、対談相手の榎本亮氏

博士号を取るとキャリア形成は難しい?

今回のセミナーではまず、SciREX事業で実施した共進化実現プログラム(第Ⅱフェーズ)の「博士等に関する情報基盤の充実・強化及び人材政策と大学院教育の改革に向けた事例研究」プロジェクトの成果について、同プロジェクトメンバーである一橋大学イノベーション研究センター講師の吉岡(小林)徹氏からアカデミアの立場で話題提供がありました。吉岡(小林)氏は「博士修了者のキャリア満足度の決定要因ーー博士人材追跡調査からのエビデンス」と題して、共同研究者と合意形成前の個人的な見解として成果を報告しました。

吉岡(小林)徹 氏

吉岡(小林)徹(よしおか(こばやし)・とおる)氏。一橋大学 イノベーション研究センター 講師。大学院修了後、株式会社三菱総合研究所に入社。社会人博士として技術経営に関する学位を取得。一橋大学イノベーションマネジメント・政策プログラムIMPPでの特任講師、東京大学科学技術イノベーション政策の科学教育プログラム(STIG)での特任助教を経て2019年より現職

プロジェクトの背景には、日本では毎年約1万5千人が大学院の博士課程を修了しているものの、他の先進諸国に比べて専門性を生かしたキャリア形成が困難であり、こうした状況から博士課程への進学を諦める学生が一定数いるという課題がありました。
文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、博士人材の研究・雇用環境の改善を目指し、2014年より博士人材追跡調査(JD-Pro)を実施しています。その結果をつぶさに見ると、例えば修了時35歳以下の博士人材は修了3.5年後時点では9割以上が就職しているなど「博士課程に進むとキャリア形成が難しくなる」という従来の固定観念とは必ずしも一致しない結果となっていると、吉岡(小林)氏は冒頭に説明しました。

そこで吉岡(小林)氏は、博士人材のキャリア形成の本質は、職務内容や処遇に満足していないことにあるのではないかと仮説を立てた上で「本当に満足していないのか」「満足度を高められる要因は何か」を調べたいと考えたといいます。

キャリアの満足度と収入の決定要因は何か

吉岡(小林)氏はJD-Proの個票に基づき、博士号取得後5年ほどでのキャリアに影響を与える要因を探求。2012年度に博士課程を修了し修了時に35歳以下だった博士人材を対象に、職務内容の満足度や収入に関連する要因を重回帰分析により推計しました。

分析結果のうち「満足度に極めて大きなインパクトを持つ」と強調されたのは、博士研究の内容との関連性です。関連度が高い仕事に従事している博士人材ほど職務内容への満足度が顕著に高くなる傾向が見られたといいます。また、論文や特許生産への関与がある博士人材も満足度が高い傾向が示されました。
一方で、民間企業や非営利組織などの勤務先のセクターや任期の有無など、雇用条件については大きな関連性はみられませんでした。また博士号の取得時期や執筆した論文数は、職務内容の満足度と直接の関連性はみられませんでした。

博士研究の内容と仕事との関連性が高いほど、職務内容への満足度が高かった)〈図版提供:吉岡(小林)徹氏

博士研究の内容と仕事との関連性が高いほど、職務内容への満足度が高かった〈図版提供:吉岡(小林)徹氏〉

収入については、博士研究の内容との関連性が高い仕事に従事している人材ほど収入が高い傾向がみられました。また勤務先が民間企業のほうが行政・非営利組織よりも年収が100万円近く高く、任期付きやパートタイムの仕事に従事したり、自ら起業したりした場合は収入が低くなる傾向にあることなどがわかりました。
追加分析として博士研究の内容との関連性の決定要因を調べたところ、勤務先のセクターが影響し、民間企業や行政・非営利組織に勤めている人材は学術組織に勤務する人材と比べて関連性が低くなりやすいことがわかりました。

以上の結果から、博士研究の内容と職務との関連性が職務満足度や収入を決める大きな要因になっていること、民間企業では博士研究の知識・技術や専門性を活かしにくい傾向があること、学位取得時期と職務内容の満足度との関連性は小さいことがわかったと吉岡(小林)氏は結論づけました。
また、今回の結果から得られる示唆として、博士研究を生かせるキャリアパス開拓が望ましいこと、汎用性が高く研究室に閉じない知識や技術の習得が望ましいこと、民間企業でジョブ型雇用を広げたりイノベーション創出力を上げたりする必要があることなどを挙げました。

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日本でのジョブ型雇用導入の難しさ
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