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第45回SciREXセミナー 博士人材が活躍し続けるために
産官学と当事者に求められる姿勢の洗い出し

SciREXセミナー初のハイブリッド方式

日本でのジョブ型雇用導入の難しさ

吉岡(小林)氏に続き、民間企業で博士人材の活用を積極的に取り組む立場として、官公庁や民間企業向けのコンサルティングなどを手がける株式会社三菱総合研究所前人事部長の榎本亮氏が登壇しました。会社説明のなかで、ジョブ型雇用を意識した制度改革を手がけたことを紹介。その上で、年功序列の終身雇用を前提に労働法制ができている日本ではジョブ型雇用を導入するのは難しいと指摘しました。

榎本亮氏

榎本亮(えのもと・あきら)氏。株式会社三菱総合研究所 全社連携事業推進本部VCP総括 ヘルスケアVM参与。大学卒業後に同社へ入社。これまでに戦略コンサルティング本部長、金融イノベーション本部長、ヘルスケア・ウェルネス事業本部長、人事部長を歴任。2023年より現職

専門外の分野も学び続けられる学び方の習得を

会場からの質問も交えたディスカッションでは、司会進行役を文部科学省人材政策課課長補佐の對崎真楠氏が務め、吉岡(小林) 氏と榎本氏で、今後日本で博士人材が健やかに活躍できるために必要なことついての議論を深めました。特に、人材が多角的な視点を持ち、専門外の分野でも学び続けるために必要な施策や考え方に焦点が当てられました。

對崎真楠氏

對崎真楠(ついざき・まくす)氏。文部科学省 科学技術・学術政策局人材政策課 課長補佐。博士号(農学)を取得後、同省に入省。宇宙開発利用、環境エネルギー、量子科学技術などの研究開発に関する政策に従事。この間、米国ジョージ・ワシントン大学宇宙政策研究所客員研究員等を歴任。2022年より現職

会場から採用現場の変化について質問があり、榎本氏は「近年は学位や卒業校よりも、人材の専門性や経験が企業のニーズとマッチするかどうかがますます重要になってきています。そういう意味ではジョブ型に近づいている。一方で市場自体も変化しているので、入社後も多角的な視点をもち、自己研鑽をし、市場のニーズに合わせてピポット(方向転換)していくことが必要です」と話しました。

続いて對崎氏は人材に多角的な視点を身につけさせるためにアカデミアに求められることを質問。吉岡(小林) 氏は「自らの分野に限界が来たことを悟った時に、そこで燃え尽きてしまうと問題。他の分野は学びたくないと思わせるような教育方法は避けてほしい。将来的に違う分野に出たとしても学び続けられるような学習法を学ぶことがより大事です」と回答。さらに「汎用性の高い研究力を身につけられるコースワークを設けている大学もある。学生が進路を選択しやすくすることが重要」と話しました。

個々人がキャリアを主体的に選んでいく時代に

議論の内容は博士人材のキャリアの築き方へと移っていきます。對崎氏から「企業としてはどういう人材が望ましいか」と問われた榎本氏は、「そもそも、我々、企業側が採用するという発想では人材は確保できない」と強調。「近年は企業側の情報開示が進み、入っていただく方に選んでもらうようになってきた。戦略に沿った人材をどう確保し、どう育成していくのか。そういう情報を開示しなければ選ばれないようになってきている。一方で、入社後は成長を促すためにジョブローテーションを組むが、社員がやりたいことがすぐにはできないことを丁寧に説明しないと離脱してしまう。従来と比較して、お互い理解して納得したうえで進めていくことが重要になっている」と説明しました。

以上の話を踏まえて、對崎氏は「これからの時代は一つの分野を極めていれば生きていける時代ではない。リニアなキャリアモデルではなく、いろいろな分岐点があり、主体的に選べることが理想なのかと考えた」と話しました。

對崎氏から博士人材がキャリアを主体的に拓くために大事なことを問われた吉岡(小林) 氏は「今の時代は機械学習が物理や経営学の分野にも及んでいるように、研究の世界はチーム化が進んでおり、個人にできる範囲が狭くなってきている」と指摘。「専門家ならば、いろいろな専門分野の人と繋がらなくてはいけない」と話しました。

企業として「個人のキャリア開発にどう携わってきたか」と問われた榎本氏は、「日々悩みながらやっているのが実情。型にはめるようなやり方はやめたほうがいい。それぞれに違うキャリアをどう組み上げるか、ビジネスとのマッチングを考えなくてはならない」と回答。そのうえで行政に「民間企業は短期的な視点になりがち。基礎研究やリスキリングが求められている分野など、中長期的な支援が必要な分野については政策側で主導して支援してほしい」と指摘しました。

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