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第45回SciREXセミナー 博士人材が活躍し続けるために
産官学と当事者に求められる姿勢の洗い出し

SciREXセミナー初のハイブリッド方式

多様な能力を身につけ伝えるために

セミナー開始から1時間経過し、残り30分となったタイミングでオンラインも含めた会場からの質疑応答に入りました。

会場では活発な質疑応答が行われた

会場では活発な質疑応答が行われた

最初に会場でマイクを握ったのは、直近まで博士課程に在籍していたという社会人。「学生がトランスファラブルスキル(別の分野にも転用可能な能力や技術)の習得の重要性を十分に把握していないことと、雇用がジョブ型に変わりつつある中で、求める人材要件を企業が十分に明文化できていないことが問題だと考えている」として、登壇者にコメントを求めました。

吉岡(小林) 氏はアカデミアと企業とのミスマッチングについて「今は博士人材にキャリアへの不安があるために、専門性だけではだめだという共通認識があるはず。突破口としては、アントレプレナーシップ(起業家精神)教育を大学で受けておくと研究にも役立つ。(アカデミアと企業の)両者の中間となるような教育プログラムがあるといいかもしれません」とコメントしました。

對崎氏は「行政としては、博士人材の能力の可視化はこれまでも議論してきた。ただ、企業が博士人材の能力をどう評価するのか、どう示されると企業と博士人材の両方にとってわかりやすいのかは明確にはできていない」と打ち明けました。

このコメントを受けて榎本氏は「企業がジョブ・ディスクリプション(以下JD。「職務記述書」。企業が採用活動などの際に用いる、職務内容を記載した文書)を書けていないのではないかという指摘があったが、ご指摘のように現段階では十分に書けていない」と認めた上で、「大企業になると社内の実績に応じて配置を決めており、外から人材を確保するという考え方が希薄。一方で米国では人材の入れ替えが前提になっているので、JDをベースにしながら求人する。そうすると雇われる側には、自分に何ができるか書き下すことが求められる。そのマッチングができないと、ジョブ型雇用にはなかなか移行せず、人材の流動化も進まないだろう」と応じました。

先ほどの質問者から続けて「能力を指標化し、その指標に紐づいた形で企業とマッチングできるといい。そういう議論は文科省内でしているか」と問われた對崎氏は「国内の複数の拠点で博士人材の能力を可視化したうえでキャリア開発に活かす取り組みを進めてはいるが、活用範囲がまだそれぞれの拠点周辺に留まっている。指標や能力開発の手法などを汎用化して企業とアカデミアの双方が使えるようにしたい」と回答しました。

次にマイクを握ったのは、博士人材と面談する機会が多いというスタートアップ企業のメンバー。「近年の学生は産学連携の授業を受けたり、リーディング大学院で自分の研究をメタ的に俯瞰したりと、学生時代の経験の生かし方が変わってきている印象を受ける。学生時代の経験とキャリア感の相関はあるか」「大学院教育が変わってきている中で、世代によって博士人材のキャリア観に変化はあるか。それは政策とリンクしているか」と2つの質問を投げかけました。

この質問には吉岡(小林) 氏が回答し、「学生時代にインターンシップをしたかどうかについては目立った変化はない。特許をとった学生にはキャリア指向に少しいい影響がありそう。世代間の意識の違いについては、肌感覚でいうと今の学生の方がどうしたら社会に役立つかという意識をもっているように見える」と話しました。

オンラインでの参加者からも多数の質問があがりました。對崎氏は質問を選ぶのに苦慮しつつも、アカデミアと企業の双方に関わる内容の「ジョブ型雇用とアカデミア人材の組み合わせについての考えを聞かせてほしい」という質問をピックアップ。榎本氏は「ジョブ型雇用といっても、社員として採用して、育てて、終身雇用で雇う方法も、外部の方と連携してまかなう方法もある。いずれにせよ、必要な機能や要件をいかに明確にできるかが新規事業を興すときには重要になってくる」と回答しました。

さらにオンライン参加者から産学連携研究の取り組みの改善点を問われた吉岡(小林) 氏は「この10年で産学連携研究の委託額が増えている一方で、特に中小企業で産学連携に取り組む企業が減っている。学生のコンタクト先が限られているために視野を広げることには寄与していないのかも」と答えました。

会場では多数の手が挙がり、オンラインでも質問が飛び交うなか、残念ながら予定の時間を過ぎてしまいました。對崎氏は「本日は密度の濃い示唆を多数いただいた。政策担当者、アカデミア、企業サイドのそれぞれで議論を引き続きしながらよりよいものを皆でつくっていきましょう」と締め括りました。

對崎真楠氏

セミナー終了後には、登壇者と参加者の間で盛んに名刺交換や意見交換が行われた

執筆:天野 彩(サイエンスライター)
撮影:SciREXセンター 広報・アウトリーチ担当

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