座談会 小林信一×小野山吾郎×安藤二香
共進化実現プログラム(第IIIフェーズ)
開始にあたって
プログラム運営・評価側は
SciREX事業最後の研究プログラムをどう捉えるか
2023年10月、計7件のプロジェクトを抱える共進化実現プログラム第IIIフェーズが始まりました。本プログラムの「共進化」とはSciREX事業の掲げるコンセプトであり、科学技術イノベーション(STI)政策におけるエビデンスに基づく政策形成(EBPM)の推進に向けて、行政官と研究者が研究課題を考えるところから共に取り組んでいく実践を指します。その実現を目指して2019年4月より始まった研究プログラムこそが共進化実現プログラム。第Iフェーズ・2年、第IIフェーズ・2年を経て、第IIIフェーズで大詰めを迎えます。
そこで今回、SciREX事業アドバイザリー委員会の委員であり第IIIフェーズのプロジェクトの選考プロセスで審査委員長を務められた小林信一氏と、文部科学省でSciREX事業を担当する小野山吾郎氏をお招きし、これまでの取り組みを踏まえて第IIIフェーズをどのように設計したのか、ねらいや期待について伺いました。進行役は、SciREXセンターで同プログラムに初期から関与していた安藤二香氏です。
「共進化」というチャレンジ、その変遷を振り返る
安藤:このあとの議論のために、まずは共進化実現プログラム発足の経緯やフェーズごとの特徴を簡単に振り返らせていただきます。
SciREX事業の拠点大学では発足当初、各拠点における人材育成を中心に取り組みを進めてきましたが、研究も大事であるということで、2016年度より「重点課題に基づく研究プロジェクト」「共進化実現プロジェクト(共進化実現プログラム第Iフェーズ)」「共進化実現プログラム(第IIフェーズ)」を実施してきました。重点課題に基づく研究プロジェクトは、第5期科学技術基本計画で提示された課題に対して拠点大学が連携して取り組むものです。行政官への継続的な参画を求めなかったこともあり、研究者の発意に基づくシーズプッシュ型、リニアモデル型のアプローチになりました。それでは政策形成の現場での効果をなかなか得られないということで、2019年度より始まったのが共進化実現プログラム第Iフェーズです。行政官と研究者が課題設定段階からプロジェクトの実施まで連携して進めることを求めたもので、共創型のアプローチへの転換と捉えることができるのではないかと思います。2021年度からの第IIフェーズでは、第Iフェーズの基本的な設計を踏襲しつつ、プログラムとして共進化を育むような仕組みも導入しました。課題や協働先が明確でないものを「準備ステージ」という形で採択し、行政部局の担当課室が見つかったプロジェクトを翌年に「実現ステージ」として継続するという形です。
以上が第IIIフェーズまでの流れですが、お二人からはいかがでしょうか。
小野山:SciREX事業は当初、経済や社会と科学技術の関係性といったマクロな議論からスタートしました。ご説明のあった重点課題に基づく研究プロジェクトなど、メタなところを意識したプログラムにも取り組んできましたが、政策や事業といった行政との接点において、当時はなかなかうまくつながらなかったという認識です。共進化実現プログラムは、政策自体が研究の対象であるというSTI政策研究分野の基本に立ち返った逆アプローチを試みたものだったと思います。また、変化が一層激しくなった世の中における、未来社会デザインやバックキャストといったアプローチ、そうした中での協働性や共創性といった考え、客観的なエビデンスやその分析などの必要性を捉えたものでもあったのではないでしょうか。
小林:初期のプログラムでは、「政策の為に研究者が何か良い分析・提案をしてくれるのではないか」というような期待感がすごくあったように思います。個人的には、それは難しいだろうという印象でした。SciREX事業が当初から共進化を意識していたという意味では、共進化実現プログラムが始まったことは、ある意味で初めから想定していた方向に戻ったともいえます。これが一つの大きな感想です。
正直に言うと、共進化をどう実践するかに関して、やはり最初のうちはよくわかりませんでした。どちらかというと行政側が待ちの体制になっているところがあり、第IIIフェーズになってようやくそれらしくなってきたなと。変化を感じています。
安藤:科学技術基本計画(現・科学技術・イノベーション基本計画)で「共創的科学技術イノベーション」という言葉が初めて登場したのは第5期。ちょうど重点課題に基づく研究プロジェクトが始まった2016年のことでしたね。SciREXに限らず、共創のイメージをつかめずに手探りでやっていた方も多かったように記憶していて、プログラムの変遷は時代の流れでもあったように思います。小林先生は1997年に『現代社会と知の創造-モード論とは何か』を翻訳され、共創的、トランスディシプリナリー的なアプローチについて以前より検討されてきたかと思いますが、この変遷についてはどのようにお考えでしょうか。
小林:誰もが明らかにターゲットだと思える問題は必ずしもなくて、むしろみんなで課題そのものを探しながら進めていくという時代になったと思うのです。そういう点はモード2的です。小野山さんのおっしゃるように変化が大きく、不確定要素も多すぎるといいますか……。社会も行政も研究者も、お互いにいろいろな情報を公開しながらやっていかないと、どうしようもないだろうなという気はします。
共進化実現プログラムでは何が達成できたのか