共進化実現プログラム(第IIフェーズ) 行政官と研究者が共に政策課題の解決に
挑戦した2年間の成果報告会(前編)
初日は7プロジェクトが取り組みや成果を示す
【A-3:永田PJ】支援終了後も自立的・持続的な拠点をつくるための要件とは
「イノベーション・エコシステムのハブ拠点が有する自立性・持続可能性の要件に関する調査研究」プロジェクト(永田PJ)からは、研究代表の永田晃也氏(九州大学 教授)が登壇。イノベーション・エコシステムの創成を目的に政府の支援を受けた事業が支援終了後も自立性と持続可能性を保持する上での要件を明らかにし、今後の支援施策に資することを目指したプロジェクトであることを説明しました。
初年度には4事例を対象としたインタビュー調査と85拠点を対象とした質問票調査(回答47件)を実施し、自立的な存続を可能にする一般的な要件を分析。拠点が継続的に運営されるためには、初期段階で継続方針を検討して学内でのコンセンサスを形成すること、その方針を中期目標等に組み込むことが重要であるという結論に至りました。2年目にはこの成果を具体的な施策に落とし込むべく、センター・オブ・イノベーション(COI)プログラムの終了事業を対象とするインタビュー調査と、地域イノベーション・エコシステム形成プログラムの終了評価調査委員会への参与調査により、計8事例を分析。拠点の機能を「人材の結集」「協働の促進」「資金の獲得・管理」「ガバナンス」の4つに、拠点の活動を「研究開発」「教育・人材育成」「社会連携」の3つに分類し、機能-活動連携(ネクサス)と名付けたフレームワーク(下図)を作成しました。さらに、拠点機能の存続形態を「機能埋め込み型」「機能分散型」「機能統合型」の3パターンに分けられることも見出し、それぞれどのような事業に適合するかを整理。プロジェクトの目標としているテーマの新規性は高いのか、大規模なリソースの獲得を必要とするのかといったような特性に応じて、存続形態というのは異なると述べました。
最後に、「こうした議論で得られた提言を評価シートの中に随時組み込んでいったことは、端的に事業評価のプロセスに研究成果を実装できたと言える」とし、プロジェクトの成果を強調。永田PJ担当課室である産業連携・地域振興課の齊藤大地氏に行政側からの意見を求めました。
齊藤氏は、行政官が経験則から考えていた部分の整理や、大学の状況に応じた伴走支援をするためにも永田PJで得られた成果は重要とした上で、行政側の人事異動を念頭に、本プロジェクトで得られた知見などを継承していく仕組みの必要性を述べました。
発表を受けてアドバイザリー委員会委員の田辺氏は、当初想定していなかった有用な知見が共進化の枠組みによって得られたかどうかを齊藤氏に質問。齊藤氏は、事業の継続方針を中期目標・中期計画へ早期に位置づけること、事業の違いによる伴走支援の在り方が違うことに関する知見を挙げ、今後は拠点を採択したタイミングや目標を変更できるタイミングで拠点側と事業継続方針に関する議論ができるだろうとコメントしました。
【A-4:Quentin PJ】産学にも拡がる、宇宙開発分野でのアカデミアによる人材育成支援の効果
セッションAの最後は、「我が国の大学等による宇宙分野の人材育成支援活動のための国内枠組みと展開可能性」プロジェクト(Quentin PJ)です。研究代表のVerspieren Quentin氏(東京大学 客員研究員)が2年間の活動と成果を英語で報告しました。
Quentin氏はまず、宇宙技術の開発および利用の分野における新興国への人材育成支援活動において日本の大学が果たす役割とは何か、そしてそれが新興国の宇宙技術開発能力にどのように貢献し、被支援国と日本の外交関係や通商関係の結びつきをどう強化するのか、ということを明らかにすることがプロジェクトの目的であったことを説明。「大学による人材育成支援への取り組みは、日本の宇宙技術の輸出や海外市場の開拓にどう貢献するか」「諸外国の事例から得られる教訓は何か」「国際的な学術交流は、政府間の外交関係にどう貢献するか」といったリサーチクエスチョンを立て、上述の支援活動を行うことで日本の大学が受ける利益、その活動が両国間の外交・貿易に及ぼす影響を評価する枠組、そして産学官の包括的な人材育成支援活動のパッケージの在り方を検討しました。
例えば、ベトナムとアラブ首長国連邦(UAE)での事例を対象としたケーススタディからは、日本の大学による人材支援活動が外交関係や通商関係の強化にも貢献したことが明らかになりました。宇宙分野における新興国は多くの場合、自国の技術レベルが足りずに政府レベルで有意義な宇宙関係を築くことができなかったり、先進国から購入した衛星を持て余したりするため、まずは自分たちの能力を開発することに集中したいと考えています。能力が向上すれば、より高いレベルの政府間関係や衛星の活用などが可能になるためです。実際に、UAEとの協力においてはH-IIAロケットによる宇宙輸送の受注にもつながりました。アカデミアによる支援により、両国は産官の面からも良きパートナーになりうるといいます。
Quentin氏は最後に、いくつかの報告書や出版物を成果として出したこと、文部科学省と緊密な関係を築きながらプロジェクトを進めてきたこと、そしてワークショップの開催といったネットワーキングにも力を入れたことを示して発表を終えました。
プロジェクト担当課室の宇宙開発利用課からは、濱野怜氏がコメント。プロジェクトで制作した評価フレームを宇宙航空人材育成プログラムに活用できないか検討していることと、今年5月に国会で承認された「日・米宇宙協力に関する枠組協定」(略称)に基づく宇宙教育・人材育成の部分を今後つくる上でプロジェクトの成果が参考になることなどに言及しました。
座長の伊地知氏は、プロジェクトに取り組んだからこそわかったことがあるかを質問。濱野氏は、アカデミックの支援が日本の国産ロケットによる宇宙輸送の受注につながっていることなどを事例としてうまくまとめられた点などに触れ、今後、他省庁に協力を呼びかけやすくなると述べました。
【ディスカッション】研究者と行政官の共働によって
もたらされることは?①