SciREXオープンフォーラム2022 シリーズ第2回
バイデン政権の科学技術イノベーション政策
―Science Integrityの視点—
質疑応答と議論-投資の優先順位の決め方について
最後の質疑応答は、モデレーターである角南 篤 SciREXセンター センター長の司会で進められました。
Q1: 基礎研究は重要ですが、その範囲は広く、どの研究に将来性があるのかを見極めるのは難しいと思います。誰がどのように評価して、研究資金を分配するのが適切でしょうか?
A: トゥレキアン博士:資本主義社会では、政府だけが資金の分配を行っているわけではないため、資金分配の問題は非常に複雑です。また、そもそも科学の発展には、資金だけでなく、必要な知識やスキルをどう分配するのか、人々が科学や技術の成果にどうアクセスできるようにするのか、若い人たちの科学技術への理解がどのぐらいかなども大きく寄与します。時間はかかりますが、包括的なアプローチが必要だと考えています。
大野副大臣:論文数などを見ても、近年、日本の基礎研究力が弱まっていることは疑いようのない事実です。こうした日本の現状を踏まえると、研究資金をどう分配するかは重要ではありますが、それ以前に国がその分野をどう育成したいかという基軸を明確にする必要があるのではないかと思います。その上で、資金分配の議論ができるようになるでしょう。
Q2: AI、量子科学、ロボティクスなどの新興技術に優先順位をつけるとすれば、どのような観点で行うのでしょうか?あるいは、そもそもそういうことは可能なのでしょうか?
A: トゥレキアン博士:優先順位をつける際には諮問委員会を開くこともあります。ただ、そもそも科学大臣を置かない米国では、20ほどある省庁がそれぞれ関心のある分野に投資しています。例えば、ヒトゲノム解析計画には、当時NIH(国立保健研究所)は興味をもっておらず、DOE(エネルギー省)が投資をしていました。こうした状況である上に民間も加わりますから、資金分配は実に多様なのです。
大野副大臣;資金分配の多様性は非常に重要です。第4期科学技術基本計画(平成23~27年度)で、ロボティクスやライフサイエンスなどに重点分野を絞り過ぎたことが、基礎研究力の低下を招いたという反省があります。優先順位を決めるのに、政治の意思は重要ですが、科学コミュニティの意思もあります。私は「2つのセイトウ性」と呼んでいるのですが、科学コミュニティの意思は正しい結論を出せるという「正当性(rightness)」を、一方、政治の意思は民主的に決めたという「正統性(legitimacy)」をそれぞれもっています。この「正当性」と「正統性」をバランスさせるのが重要で、私は両者の関係を構築し直し最終的な意思決定の仕組みを確立する必要があると考えています。