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SciREX インタビュー現場の課題にアカデミックな
アプローチができる人材を育成

一橋大学の学生に限らず、発足時から広く社会人の学生も受け入れてきた一橋大学イノベーションマネジメント・政策プログラム。独自にサマースクールを開催して学生の研究発表機会を確保し、修了には2本以上の研究論文掲載を課すなど、SciREXの人材育成拠点の中でも研究人材育成に重点を置いたカリキュラムを持っています。学外で5人程度、学内でも3人程度の定員と、少数精鋭で鍛え上げるIMPPの現在と今後の展望をお伺いしました。

現場の課題にアカデミックなアプローチができる人材を育成
青島矢一さん

IMPP拠点長
青島矢一さん
(あおしま やいち)

―他の拠点と比較して、修了基準の厳しさに驚きました。

青島: 発足当初から、審議会に呼ばれるような「有識者」の育成に焦点を当ててきました。そのためには実際に研究ができるレベルの人材でなければなりません。きちんと指導をして2本の論文を仕上げてもらうには教員の側もかなり労力を割く必要があるので、それを念頭に募集人数を決めています。定員に比べて毎年かなり志望者が多いので、若干受講人数の多い年もありますね。

―学生を集めるために何か宣伝はしていますか?

青島: いえ、定員も学外からは5名程度と少ないので、ほぼみなさんウェブサイトや受講生からの口コミです。あとは教員の講演を聞いてプログラムを知る方も多いようです。私がMBAコースで講義を持っているので、そこの学生に紹介することもあります。MBAコースを修了してからIMPPで研究を続けている人もいます。
たくさん受講してもらうのも一つの手ではあるんですが、修了できない人が毎年溜まっていくことは避けたいのでこの人数にしています。学外から受講している方のうち修了できるのは半分程度です。一応2年間で修了できるプログラムなんですが、この期間内で修了するのはかなり難易度が高いようです。

―対象が博士後期課程以上というのも他のプログラムと比べて特徴的な点ですね。何か課題はありますか?

青島: 学位プログラムの場合は勤務先に承認されて業務も多少免除してもらい、研究に集中する体制が作れるんだと思いますが、基本的に個人で受講するサーティフィケートプログラムなので環境面のサポートが乏しいことですね。職場が繁忙期に入ると研究に手が回らなくなってしまう受講生が多いように見えます。そうした中でもなんとか修了できるようにこちらからアプローチしています。
また、開講当初は単著で2本の論文執筆を求めていましたが、全く別の分野で修士課程を修了していたり、研究からはしばらく離れていた受講生もいたので難しい面がありました。現在は教員もより積極的に研究へ関わり、共著論文を仕上げることを目指すという方針に変わっています。論文指導へかなり労力を割くので、主指導を行うのは教員1人当たり1学年で2人が限界だと感じています。

―設立当初は文理融合が課題だったようですが。

青島: はい、その通りです。ただ、実際に来ている社会人学生のうち半分以上が理系のバックグラウンドがあり、企業の研究所所長クラスも来ています。彼らから技術的な知見が入ってきているので、結果的に十分文理融合のプログラムになっていますね。

―学生の進路はいかがでしょうか。

青島: 大学に残る人、大学のTLOに入ったり、自治体のテクノロジーオフィサーのような役職についた方もいます。企業に戻って新規事業推進を任され、イノベーションを起こす役割を担う方もいます。プログラムで身につけたことが所属先で評価されているようでいい傾向です。あえていうと中央省庁の方が少ないのが課題でしょうか。イノベーションを起こす側へは人材を輩出しているんですが、若干政策からは遠いのかもしれません。

―修了後のネットワークづくりにはどのように取り組んでいますか?

青島: 50人以上修了生がいることもあり、2年前にOB会を立ち上げました。ただ、設立以来ずっとパンデミックが続いているのでオンラインでしか会合ができていません。どこかで対面の総会でも開く頃ができれば、在籍期間が重なっていない修了生同士のネットワークも広がってくると期待しています。SNSではみなさん交流しているようですし。

―学内でのプログラムの位置付けはどう変わってきましたか?

青島: 大学側もかなり工夫してくれています。例えばIMPPの講義は基本的に夜やるわけですが、これは大学の中ではかなり変則的なものです。これを認めてもらい,大学のカリキュラムの中に「IMPP科目」という枠をつくってくれました。また,イノベーション研究センターという一定の独立性を持った組織を母体にしているので比較的に自由にやれています.一橋大学は社会科学の研究者の層が厚いのも助かる点です。定性分析,定量分析、特許分析など、イノベーション関連の研究方法はほぼ網羅できます。

―改めて、IMPPに来て欲しいのはどのような学生でしょうか。

青島: 実務的な課題を持ち込みながら、それをアカデミックに処理したいという人が一番向いていると思います。ちゃんと自分の課題を持ってきてくれる人です。もちろんアカデミックな課題でも良いのですが、アカデミックな問いをアカデミックに分析するのであれば普通の博士課程に行くことをお勧めします。

プロフィール

青島 矢一(あおしま やいち)

IMPP拠点長、一橋大学イノベーション研究センター センター長
1965年静岡県生まれ。1987年一橋大学商学部卒業。1989年同大学大学院商学研究科修士課程修了。1996年マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院博士課程修了(Ph.D.)。一橋大学産業経営研究所専任講師、一橋大学イノベーション研究センター准教授等を経て、2012年より同教授。2018年4月より同センター長。

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