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SciREXオープンフォーラム2022 シリーズ第2回 バイデン政権の科学技術イノベーション政策
―Science Integrityの視点—

SciREXオープンフォーラム2022 シリーズ第2回「バイデン政権の科学技術イノベーション政策 ―Science Integrityの視点—」

SciREXオープンフォーラム2022 シリーズ第2回では、『バイデン政権の科学技術イノベーション政策 ―Science Integrityの視点—』と題したウェビナーを開催しました。

米国科学アカデミーのヴォーン・トゥレキアン政策・国際部門エグゼクティブディレクターをお招きし、現在の米国の科学技術イノベーション(STI)政策の動向と、そこへ至る歴史的な経緯を包括的にご講演いただきました。講演を受けて、大野敬太郎内閣府副大臣から、日本のSTI政策やその課題などが話されました。最後に、視聴者の皆様からの質問を交えながら意見交換が行われ、「世界がいかに協働しながらSTI政策を進めていけるかが今後の大きな課題」として、日米間で密に協力・議論を続けていくことが約束され、閉会となりました。

米国のSTI政策の歴史を概観-守ってきた基礎研究のオープンネス

米国のSTI政策の歴史を概観-守ってきた基礎研究のオープンネス

2021年1月に始まったバイデン政権も1年余りが経過し、現在、今後の科学技術の方向性を定める重要法案の審議が進んでいます。上院では2021年6月に、約2,500億ドル規模の「米国イノベーション・競争法案(USICA、S.1260)」が可決され、下院でも2022年2月に、国内の半導体産業などを強化するために約3,500億ドル規模の投資を行う「America COMPETES Act of 2022(H.R.4521)」が可決されました。今後は、両法案のすり合わせが行われ、大統領の署名が得られれば、正式に米国連邦政府のSTI政策として動き出します。新法案は、米国が、科学分野で存在感を増す中国に対抗していくことを主眼に置いていますが、その内容からは米国のSTI政策が大きな転換点を迎えていることが見て取れます。

このように話すトゥレキアン博士は、米国国務省の科学アドバイザーや全米科学振興協会(AAAS)の科学外交センターディレクターを務めるなど、長年にわたり米国のSTI政策ならびに世界の科学技術外交をけん引してきました。「バイデン政権下のSTI政策の動向を考えるに当たっては、米国におけるSTI政策の長い歴史を振り返る必要がある」と言います。

ヴァネヴァー・ブッシュ博士

ヴァネバー・ブッシュ博士。第二次世界大戦中にOffice of Scientific Research and Developmentのディレクターを務めた。

歴史は、1945年に出された『科学―果てしなきフロンティア(Science: The Endless Frontier)』にまで遡ります。このレポートは、科学アドバイザーであったヴァネヴァー・ブッシュ博士が、当時のフランクリン・ルーズベルト大統領の求めに応じて提出したもので、「第二次世界大戦後の世界では、科学技術の進展がますます重要になり、その影響は軍事など国家の安全保障に関連するものにとどまらず、個人の健康や仕事、暮らし、さらに公共の福祉にまで及ぶ」としました。また、レポートが初めて政府による基礎研究への投資の必要性に言及したことは、連邦政府から基礎研究への投資増額につながりました。この資金供与を背景に米国の大学は、世界中から一流の科学者を集めて基礎研究を行う場となっていったのです。

「1980年代初頭に冷戦が深刻化すると、たとえ基礎研究であってもソ連に流出すれば兵器に転用されるなど、国家安全保障に関わる問題を起こすのではないかという懸念が生じました。そして、大学のようなオープンな環境下で基礎研究を実施することの是非が議論されました」とトゥレキアン博士。この議論は、「基礎研究を分類し、国家の安全保障に関わると判断されたものは制限する一方、そのほかについては従来通りオープンにすべき」という結論に至り、「国家安全保障意思決定指示書第189号(NSDD-189)」が出されました。つまり、基礎研究は基本的にオープンであるという姿勢が守られたのです。

このことは米国のSTI政策を考える上で重要なポイントですが、さらに、もう1つ重要なポリシーがあるとトゥレキアン博士は言います。それは、「政府の資金で大学が基礎研究を行った場合でも、その知的財産権は大学に帰属する」と定めたバイ・ドール法です。この法律によって、米国の基礎研究の成果は市場に直結しやすくなっており、Googleなど多くの企業を生み出しています。このように、米国のSTI政策はその時々の社会状況を受けて議論されてきたものの、基本的には1945年に出された『科学―果てしなきフロンティア』が道しるべとなってきました。

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STI政策を重視するバイデン政権―科学の
公正性の担保が必要な時代
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