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SciREX オープンフォーラム2022 シリーズ第1回 第6期科学技術・イノベーション基本計画を
支える宇宙技術

「みちびき」が作り出した需要

では、宇宙産業でイノベーションを起こすための政府の役割は何かー。内閣府宇宙開発戦略推進事務局長などを歴任した高田上席特任教授は、政府側からの貢献の事例を紹介しました。

高田修三氏

高田修三氏

まず、2018年に準天頂衛星システム(みちびき)を4機体制としサービスを開始したことで、下流の産業分野で新たな市場が生まれたことです。サービス開始で日本では24時間、センチメートルレベルの高精度な位置情報が得られるようになり、ゴルフショップには当たり前のようにみちびきの測位信号を利用したスポーツウオッチが並べられ、カーナビやドライブレコーダーでも使われるようになりました。「イノベーションには現場の需要が大事」という原則の好例となった、といいます。

また、内閣府と経済産業省が連携して産業開発機構や日本政策投資銀行を通じて中長期のリスクマネーを提供し、また「良いアイデア」を積極的に表彰して「イノベーションの種を蒔いた」といいます。 

アークエッジの福代氏は、まさに「こうした東大のオープン・イノベーションの活動や政府の政策を活用して生まれてきたのが当社」と語りました。同社は10cmx10cmx10cmのキューブ衛星を6つ(6U)または3つ(3U)重ねて規格化することでコストを下げ、複数の衛星を使って宇宙データを活用する様々なサービスを提供しようとしています。

森林管理や環境開発など、元々は宇宙技術のユーザーサイドにいた福代氏が中須賀研究室と連携することになったのは、どうしたら宇宙からのデータを使って地球の問題を解決できるかという議論を続けてきたためだといいます。「そこには工学部のみならず、異分野から色々な人が入っていて、そこから会社が生まれたのは重要なことだと思っている」と話しました。

新興国との連携も

新興国との連携も

中須賀教授は、オープンな研究機関である大学は各国大学との緩やかな連携を通じて世界で宇宙分野でのイノベーションを加速できる立場にあるといいます。超小型衛星は開発コストが安く、オープンデータプラットフォームなども使えるようになっているので、大学が宇宙技術を手掛ける敷居は以前と比べて格段に低くなっています。

中須賀教授が設立した、小型衛星の開発を支援するための大学生の組織「UNISECグローバル(大学宇宙工学コンソーシアム)」にはすでに世界の188大学が参加。ドイツなど21カ国に支部、その他55カ国に連絡窓口があります。国内の大学が打ち上げた衛星はすでに58機に上ります。今後はさらに各国大学との協力関係を深め、共同の衛星プロジェクトを始めたい、といいます。

こうした活動を通じて宇宙産業を立ち上げようとしている新興国と日本の緊密な関係が続けば、将来外交や経済関係で良好な関係が築かれる可能性がある、とも述べ、政府は、こうした「将来につながるプロジェクトに安定的な資金の供給をするべきだ」と中須賀教授は訴えました。

一方で、「日本の技術力は米国、ロシア、中国に遅れ、将来はインドにも抜かれるのではないか」という参加者からの質問に対し、高田氏は「セクター別に見れば、強い分野」があるとし、「ほどよし」が発掘した部品のサプライチェーンや、小型の衛星群、特に合成開口レーダ(SAR)搭載の小型衛星は「世界最先端」だとし、今後の楽しみな分野としてスペースデブリの回収やキューブ衛星を挙げました。

中須賀教授は、日本が得意なやり方でチャレンジを続ければ「日本にもう一回チャンスが来る」と考えています。JAXAの「はやぶさ2」プロジェクトは、「少人数で現場にこだわって徹底的に良いものを作る」という日本的なプロジェクトマネジメントが成功に結びついた例だとし、小型衛星をたくさん打ち上げてサービスを提供する「小型コンステレーション」の分野は日本が得意な「改善」の手法が活かせると指摘、「この勝負の場に宇宙開発を持ってこなければいけない」と話しました。

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ユニークな要素を育てる大学の役割
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