1. HOME
  2. SciREXクオータリーTOP
  3. 17号トップ
  4. セクションや立場を越えて行政官を“つなぐ”

SciREX インタビュー セクションや立場を越えて行政官を“つなぐ”
~政策リエゾンは、科学技術政策に新風を吹き込む窓に~

セクションや立場を越えて行政官を“つなぐ”
~政策リエゾンは、科学技術政策に新風を吹き込む窓に~
中川 尚志(なかがわ たかし)様

政策リエゾン
デジタル庁 企画官
(元 文部科学省大臣官房政策課政策推進室 室長 ※インタビュー当時)

中川 尚志さん
(なかがわ たかし)

―政策リエゾンとはどのような制度でしょうか?また、中川様がこの制度に参画した経緯をお聞かせください。

中川: 政策リエゾンは、現役の政策実務者で構成されています。「政策のための科学」推進事業(SciREX事業)の協力者として、SciREXセンターや拠点大学の研究活動と実際の政策形成・実施の現場のつなぎ役・先導役を担ってきました。この役割を果たすことで、研究成果と実際の政策ニーズとをマッチさせ、より良い解決策へとつなげることに貢献しています。SciREXセンターでは政策リエゾンネットワークを設置し、2021年3月までに31名を政策リエゾンとして委嘱しました。私は制度ができた初期、2014年に委嘱を受けています。おそらく、人事院留学で政策研究大学院大学修士課程に在籍し(2003年)、その後も科学技術政策や研究に従事してきた経験から、声をかけられたのだろうと思います。政策リエゾン制度が設けられた当初のことについては科学技術・学術政策研究所 上席フェローの赤池伸一さんがよくご存じです。SciREXクォータリーvol08で「これ(政策リエゾン)を作った目的は、現実的なプロジェクトと担当者をつなぐという面もありますが、自分のポストを少し離れて関心のあるところを掘り下げ、政策を扱う者として素養を深めるための機会をつくることです。」と話されています。
参加の仕方はさまざまで、最近は年代や職種を越えて多様性が生まれています。若手がイベントなどで発言しているのを見ると、アクティブで良いなと思います。

―政策リエゾンとして、どのようなご活動をされましたか?

中川: まず、行政官を対象とした科学技術イノベーション政策研修(以下、行政官研修)ですね。私自身は2015年度と2016年度、主に研修内のファシリテーターとして関わっています。
また、2015年10月に行われた「GRIPS-OECD国際ワークショップ オープンセッション“科学技術・イノベーションと社会との関わりをいかに測るか:グローバルな視座 による議論”」に政策リエゾンとして携わりました。日本側の登壇者の調整、資料作成などワークショップの事務局として準備に駆け回ったことを思い出します。このワークショップを行ったことが1つのきっかけとなり、OECD Blue Sky 2016 Forum での関連セッション(Trust, culture and citizen's engagement in science and innovation)が開催され、日本からもプロジェクト関係者が発表を行ったと聞いています。このような科学技術イノベーションと社会との関わりを測ろうとする機運の高まりも後押しして、2017年度に国内では7年ぶりの「科学技術と社会に関する世論調査」の実施が叶いました。国内で科学と社会の指標化に関心を持つ若手研究者や実務者とともに、政策レビューと指標に関する勉強会も発足し、私も参画しています。このメンバーで、SciREXオープンフォーラム(第1回)サイエンスアゴラ(2017)などの場で議論を重ねるなど、ビジョンに基づく科学と社会の参加型指標開発の検討にも継続的に関与しました(参考論文1)。また、グローバルな動きとして、研究機関のサイエンスコミュニケーション活動の実態を参加10カ国で比較する国際調査プロジェクト「MORE-PE; Mobilisation of Resources for Public Engagement With Science and Technology」への参画(2016年~、参考論文2参照)にもつながりました。科学技術振興機構(JST)の「2017年度 研究者意識調査(科学と社会のつながり)」もMORE-PEと連携して実施された調査だそうです。機関の垣根を越えた連携に携わり、この分野に新たな潮流を生み出せたのではないかと思うと、感慨深いです。また関連する取り組みとして、2018年に、SciREXに関連する3つのプロジェクトが共同で、教育・研究、企業、NGO・メディア、政策担当者・実務家、自治体などの関与者を集めて、ステークホルダーによる対話・協働に基づいた、「共創」イノベーションの実践事例の共有ワークショップを開催しました。振り返れば、政策リエゾンになったことで有意義な試みに携わることができたと感じます。
その他、2019年4月にWebサイトで一般公開した「科学技術イノベーション政策の科学」コアコンテンツ(以下、コアコンテンツ)の作成にも関わりました。こちらは、経済学、経営学、政治学、社会学などさまざまな学問領域で活躍する研究者、科学技術イノベーション政策を担当する行政官らが執筆しています。私自身は、政策リエゾンというより、当時所属していたJST 研究開発戦略センター(CRDS)のSciREX事業担当として編集委員を務めました。

―ご活動のうち、行政官研修への参画について、具体的にお聞かせください。

中川: 行政官研修において政策リエゾンは、講師やファシリテーターとして参画してきました。2015年度の行政官研修は8日間・全8回にわたって行われ、政策リエゾンは各回のファシリテーターとして、講師の研究者と共に、各研修プログラムを担当しました。私は第8回、大阪大学の八木 絵香先生を講師に迎えた「科学技術と社会」のファシリテーターを務めています。省内の配属ではこの分野を担当する機会がなかったので、この講義で一緒にお仕事できたことは嬉しかったですし、「でこなび」を知るなど自分自身の勉強にもなりました。
2016年度は、“社会が科学技術の進展やリスクとどのように向き合い、将来の科学技術に何を求めているのか”について、研究者と中堅行政官が一緒に話し合う場で、全体ファシリテーターを務めました。この研修を担当された大阪大学の渡邉 浩崇先生は、コアコンテンツ「科学技術イノベーションと社会」の執筆者です。私が内閣府宇宙戦略室出向時に審議会委員をされていたことから、ご縁を感じましたね。
私は研究者としてキャリアを積んでいるわけでなく、また、常に研究者と連絡を取り合う環境にはいません。だから、政策リエゾンとして、同じ目的に対して研究者と一緒に取り組む機会を得たことは、(自身の)研究面をアップデートする、人脈を広げる機会になったと感じています。政策リエゾンそれぞれの担当分野は決まっていないのですが、私は昔から科学技術社会論と接点が多く、積極的に関わるようにしています。

―活動を通じて、政策リエゾンに期待される役割について、どのように感じられましたか?

中川: アドバイザー的に機能することではないでしょうか。それは、当初の構想から期待されていたことだと思います。行政官自身が、セクションや立場を越えて、フランクに質問を出していけるようなものを目指そうとしていますが、実際に動こうとすると所属組織が関わってきてしまい、難しい状況があります。行政官のほとんどは、抱く問題意識に対して、直接アクションを起こせるポジションにいません。直接関与できるポジションにいる人はレアケースで、ポジションを越えて直接政策立案に結びつける活動を行うことは、現状では難しい。そのような局面に対して「政策リエゾンネットワーク」が活かされると思います。潜在的には、行政側のどこの課も自分たちだけで解決するには手に余る政策課題を持っているはずです。部・課の取り組みをうまく汲み取り、研究者へアウトリーチして知らせることで、ポジションや組織を越えた知見や協力を得ていく。そのためのアドバイス提供やつなぐ活動が、政策リエゾンにできることだと思います。ただし、残念ながら現在の政策リエゾン全員が顔見知りという訳ではありません。メンバーが増えてきて集まるタイミングを合わせることが難しく、一堂に会するのは意見交換会くらいです。

―政策リエゾンの意見交換会から端を発したブラウンバッグセミナーというものがあるようです。どういった取り組みですか?

中川: これは、行政官と研究者が気軽に議論できる場として設けられました。2020年7月の意見交換会で出された、研究プロジェクトやサマーキャンプへの参画など個々の関係はあるものの、政策リエゾンとして積極的に踏み出すきっかけがなかったとの声を受けて、設けたものです。
第二回ブラウンバッグセミナー(2020年11月24日)が実施され、セミナー当時、同じ部署に在籍していた文部科学省 大臣官房政策課 政策推進室 室長補佐の相原 恵子さんが登壇しました。エビデンスに基づく政策形成や評価は、今の文部科学省の体制で容易に導入可能か、何がボトルネックで実際にどう解消できるのかについて議論しています。行政官側も研究者側もいろいろな意見を直接聞くことができるいい機会だと感じます。今後は、意見に対する積極的な発言が促され、より多くの参加者によって議論されることを期待しています。政策リエゾン候補の若手にも関心を持って欲しいですね。 

―政策リエゾンの制度に対して、中川様が思うことをお聞かせください。

中川: 勉強の機会として政策リエゾンを活用するという面で、よい制度ではないでしょうか。この制度が継続していくことが大事だと思います。継続は力なりです。今、若手行政官がメンバーに加わり、活動も変わってきています。彼らの発想や行動力をみて、(既存の政策リエゾンの取り組みは)先入観に囚われていないか、適切なアジェンダ設定になっていたかなど、反省する場面があります。とにかく、世代や職種を超えて広がったことはすごいことです。私は想像していませんでした。若手行政官メンバーが、これまでできなかったことや科学技術政策に新風を吹き込んでくれることを期待しています。新しい若手メンバーの参画やSciREX拠点の若手研究者との接点づくりなどによって、人的ネットワークが広がるとなお良いですね。

―これからを担う若者たち(行政官・研究者)に向けて、伝えたいことはありますか?

中川: SciREXの関係者やGIST(政策研究大学院大学の科学技術イノベーション政策プログラム)の卒業生から、研究者になった人も出ています。彼らがぐるっと回って、NISTEPやRISTEXのプロジェクト研究に帰ってきた時に、行政官との付き合い方や情報の引き出し方を知る機会、政策志向の研究をしたい時に利用できる制度になると良いと思っています。
SciREX事業は文部科学省のプロジェクトなのだから、文部科学省の行政官の取り組みに直接役立つ研究を期待する人もいます。私個人としては、行政が期待するものに限らず、研究者自身がやりたい研究をやることが一番だと感じています。だからこそ、「共進化実現プロジェクト」で掲げているような、研究者と行政官が対話を行い、リサーチクエスチョンをしっかり作っていくことが重要なのだと感じます。一方で、社会実装したい、社会を変えたいという研究者には、行政側からもっと政策課題を引き出してもらいたい。そういうアプローチで対話することに価値があると思います。

―ありがとうございました。

プロフィール

中川 尚志(なかがわ たかし)

2000年3月早稲田大学卒業後、同年4月に科学技術庁に入庁。2003年4月から2004年4月まで人事院国内研究員として政策研究大学院大学修士課程に在籍。その後、文部科学省科学技術・学術政策局政策課 専門職、内閣府 経済社会総合研究所 研究官、文部科学省大臣官房会計課 専門官、海洋研究開発機構 事業推進部国際課 調査役(統合国際深海掘削計画(IODP) リエゾン)、内閣府 政策統括官(科学技術政策・イノベーション担当)付参事官補佐(宇宙戦略室)、文部科学省大臣官房総務課 課長補佐(櫻田副大臣秘書官)、文部科学省科学技術・学術政策局 研究開発基盤課 課長補佐、科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー、内閣官房、官房政策課政策推進室を経て、2021年9月より現職。

ページの先頭へ