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SciREXセミナー標準化ビジネス戦略大全大解剖
-江藤学教授が答える標準化についての8問8答-

2021年10月14日に開催したSciREXセミナー『標準化ビジネス戦略大全』大解剖 では、江藤学 一橋大学イノベーション研究センター教授の近著を取り上げました。自転車やAKB48、抗菌といった身近な事例や計量、通信といったトピックによる違いを通じて、ビジネスツールとして標準化をどのように使うことができるか解説。標準化の使われ方が仲間作り、エコシステムの為のものになってきている点、技術進歩が速くなってきている為「柔らかい標準化」が重要になっている点を強調しました。加えて、日本には標準化を教える大学教員が延べ18人しかいない、標準化の国際会議に参加している日本人の95%以上が50歳以上である一方で中国は60%が50歳以下、といった日本の実態も取り上げご好評いただきました。本の内容は手に取り確かめていただくこととして、今回はセミナーでいただいたご質問を抜粋してお届けします。

江藤学 教授

Q1. 製品のライフサイクルの中で、どのタイミングで標準化されるのが望ましいのでしょうか。

江藤: 標準化するためには2~3年かかるので、その準備をいつやるかという判断が非常に難しいですね。製品ができてからでは絶対に間に合わないので、早いタイミングからどこを標準化するのか検討が必要です。どこを標準化するかで、誰がもうかるかが決まるので、そこを早く見抜いてどういう標準にするか、という議論を並行してやらなきゃいけない。多くの場合この点がうまくできていなくて、製品化されてから標準化の議論をし始めてしまいます。そうして間に合わないというパターンになるので、可能な限り早くから計画を練っていただきたいと思います。

Q2. JR東海などがアジア等向けに鉄道の国際「規格」化をしようとしていますが、これも「標準」化の一部と考えていいのでしょうか?

江藤: 鉄道は標準化の視点からも本当に面白い世界です。鉄道を運営するためには、線路と信号と車両の三つの技術が全部分かってなきゃいけないのに、全部分かってるのはJRだけです。車体や信号を作る企業もありますが、システムとして全体のノウハウを持っているのはユーザーのJRで基本的には自分たちの鉄道が運行できればいいので、国際標準には興味がない印象があります。
他にも電力や放送、通信はユーザーがノウハウを押さえてる世界で、標準化のメーカー側がすごく苦労をします。ユーザーが標準化や規格戦略に加わっていただくのが一番良いのですが、なかなかユーザーの方々にそのメリットを理解していただけない。鉄道システムを海外に売りたいと思わない限り、国際標準をやるメリットってないんですよね。
標準化はサプライチェーンの各層によって、利害が全く異なります。サプライチェーンを横断して議論ができるかどうかというのが、これからの一番のポイントです。サプライチェーンの上流や下流まで一緒に考えるエコシステム思考を、ぜひ持ってほしい。そうすると、エコシステム全体でどう儲けるかという議論ができるようになるので。

Q3. 行政では特定のメーカーに大きく依存しないようシステム標準化を目指していますが、どのようなプロセスで、どの部分を標準化していけば良いのでしょうか?

江藤: 今日の話は儲けるための標準が中心でしたが、標準には当然ながら、社会安全のため、社会構想のため、福祉のため、そういった行政が進めなきゃいけない標準もたくさんあります。行政システムの標準化、システム化の中で儲かる企業と、儲からない企業が出てくるのは間違いないです。しかし企業に任せておくと標準化は進まないので、企業ではなく行政がやらなきゃいけない部分は間違いなくあるわけです。結局リーダーシップをとるべきなのが誰か、リーダーシップをとった人が最も自らの利益を上げることができるわけです。この本ではビジネスでリーダーシップを取っていかに儲けるかという話をしましたが、当然そうではない標準がたくさんあります。この部分のリーダーシップは行政や公益的な立場のプレーヤーがとるということはぜひ考えて欲しいと思っています。

Q4. 標準化に若手が携わる意義はなんでしょうか?

江藤: 当然ながら、若手に限らず標準を知っている人が企業の中にたくさん、あちこちにいてほしいんです。若手は異動しますので、いったん標準に入って、また出ていって、他の部署に就くわけですね。この循環が欲しいんです。一方である程度の年齢になってから標準化の部署に入った人は二度と出ていかず、ずっと個人的にノウハウを溜めていきます。これでは標準を知っている人が、会社の中に広がらない。だから若いうちに、一度標準化を経験して欲しいと思っています。標準化を知った上で、他の部署に広がっていくことで標準を戦略的に使うことができるようになる、というのが意義だと思います。

Q5. 標準化を外部に委託、というやり方がお話の中で出てきましたが、そのイメージをもう少し教えてください。

江藤: 標準化のプロセス、国際会議での戦い方はノウハウの塊です。また、分野横断的なノウハウなので、企業としては規格の原案をつくり、この規格を国際標準にしてくださいと外部へ委託する、ということは可能だと思っています。こういう役割の方を各企業がそれぞれ育てるのは、おそらく無駄でしょう。各企業は、どこを標準化すれば自分の企業にとって有利かっていう戦略をつくった上で、標準化すべきものが決まったらあとは外部委託するというイメージです。
ヨーロッパにはそういう標準化コンサルタントがたくさんいるのですが日本にはまだないので作ろうとしています。委託できる先が増えてくれば外注化が可能になり、企業の方は標準の戦略作りに全力が投入できるんじゃないかと期待しています。規模としては、国内に800人もいれば十分でしょう。
企業で経験を積んだ方々が国際会議に関するノウハウをいっぱい持ってるので、是非彼らが横断的に働けるようになってほしいと考えています。

Q6. 標準化を組み込んだビジネスデザインをきちんと行なっている事例があれば教えてください。

江藤: 日本だとキヤノンさんぐらいで、本当にまだまだ少ないと思います。私は10年ぐらい前から標準化について話してきていますが、電機業界ではかなり認識されていると期待をしています。深くなってきているので、入ってきてるんじゃないかと期待をしています。というのは、私が講演を頼まれる先が電機業界、自動車業界、化学業界と移り変わって来ています。それを考えると電機が一番進んでるだろうなと予想します。もともと通信は標準が命の世界なので、そこから派生している電機業界も自然と標準化についての認識が深まっているのでしょう。

Q7. 標準化戦略での国と民間の役割分担についてご意見があればお願いします。

江藤: 国が音頭を取らなければ駄目な部分と、国が音頭を取り過ぎると民間の利益が全部なくなってしまう部分があるので、国に全て任せるのはいけません。一番理想的なのは、民間が国をたきつけて動かす形です。民間企業が理想の絵を描いて、実現には国が動かないと無理だということを国にちゃんと訴え、国に主導でやらせるというプロセスを踏むとビジネスとしてもおいしい標準化になると思います。待ってちゃ駄目だっていうのが最大のポイントです。国がルールをつくるのを待ってたら負けです。絶対に民間から焚き付けなきゃいけない。

Q8. 最近はシステム標準と称してなんでも標準化が行われつつあると思います。今後乱立しそうな気がするのですが、どういったスタンスでウォッチしたら良いでしょうか?

江藤: 乱立すると思います。既にあらゆる標準が乱立していますよね。90年代の日本企業は、あらゆる標準の会合に参加していましたが、今ではとても無理です。結局は自分でリーダーシップとるしかないと考えていただくのが一番いいと思います。もちろん流れをフォローしつつポジショニングを考えるのが現実的なんですが、理想的には自分でリーダーシップを取り、自分にとって一番価値のある標準きちんとつくっていくのが望ましいです。現実的には、見極めてポジショニングという戦略でいかざるを得ないとは思います。その判断はケースバイケースの使い分けだと思います。

セミナーではこれらの他にも10数問のご質問をいただき、全て江藤教授にご回答いただきました。ビジネスでの標準化利用についてまとめた『標準化ビジネス戦略大全』、是非一度手にお取りください。

プロフィール

江藤学 教授(えとう まなぶ)

一橋大学イノベーション研究センター
1985年大阪大学基礎工学部修士課程修了後、通商産業省に入省し産業技術政策の立案に従事、その間米国ニューメキシコ大学客員研究員、筑波大学社会科学系専任講師などを経験。2004年に在仏OECD代表部から帰国後、産業技術総合研究所、経済産業省で基準認証政策を推進。2008年東北大学工学研究科博士後期課程を修了し、一橋大学イノベーション研究センター教授。2011~2013年にJETROジュネーブ事務所長としてスイス赴任した後、2013年よりイノベーション研究センター特任教授、2016年より現職。経済産業省行政官の経験を生かし、「技術移転」に着目した知財・標準化戦略の研究や、産業技術・イノベーション政策の研究を進めている。

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