3 これからのSciREX事業発展に資する知識と経験を結集|SciREX 科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業
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第3回SciREXオープンフォーラム「科学技術イノベーション政策の新展開」
シリーズ第九回『政策と科学の共進化 -その望ましい姿と現実、次のステージに向けて- 』
これからのSciREX事業発展に資する
知識と経験を結集

新しいステージに向けて

社会の大きな変化と科学技術の急速な発展に伴い、STI政策も変化が求められています。パネルセッション3では、SciREX事業全体の今後の取り組みの方向性について、パネリストとコメンテーター全員で意見交換がなされました。中でも大きな論点となったのは、幸せの多様化と人材の流動、人材育成の今後、エビデンスと政策決定、外部とのコミュニケーションです。

幸せの多様化と人材の流動

第6期科学技術・イノベーション基本計画の策定に携わった中澤氏は、今回の基本計画が、一人一人の多様な幸せを実現していく社会に向かう内容になっていると話しました。基本計画の流れと同様に、行政でも組織の仕事とは別に“個人として好きだからやる仕事”の重要性が出てきていると強調し、「今後、行政側の担当者は役所のポジションが変わっても引き続きそのプロジェクトをやり続けられるような、緩やかな仕組みを作ろうと思います。」と話しました。続けて、永田氏は、経営学で近年使われ始めている『個人内多様性』のコンセプトが鍵となり、個々の研究者や行政官が自分自身の中に多様性を持つことで人材の流動性が高まると述べました。これは中間人材とは別の個人が、自身の中の引き出しを糧にリエゾンとして動くことを示唆します。城山氏は、組織から離れた個人が、再び新しい組織を作ることで、トランスフォーメーションへとつなげることも大切だと指摘し、「個人が役所や社会のステークホルダーを巻き込んで新しいネットワークを作り、新しい組織化をしていくようなプロセスと共進化がつながると良い。」と話しました。

また、平川氏は、幸せやウェルフェアを追求するにあたり、従来の経済学や政治学をベースとした政策づくりの枠組みに捉われず、人文学や社会科学を生かすことが今後の重要課題だと述べました。人材を育成するにあたっては、川上氏が教育のアウトカムを慎重に検討する必要があると指摘し、「これまで教育してきた人の就職先や社会での認知はどのような状況か、また、これから教育する人は社会で本当に必要とされているのか。これを意識するチャンネルの作り方は、次のステージに向けて考える必要があります。」と話しました。これらを受けて文部科学省・藤原氏は、幸せを考えていくとカバーする範囲が大きくなるため、STI政策のための科学の中でやることと、他とのつながりでできることの棲み分けが重要になると述べ、「それにつながるのがコミュニティの多様化だと思います。STI政策の少し外側、あるいは、さらに外側にいる人たちにどのように関心を持っていただき、仲間に入ってもらうかを考えていく必要があると感じました。」と話しました。

エビデンスと政策決定

社会が変容していく中で、“エビデンスとは何か”も問われています。富澤氏は、ここ1年の間で新型コロナウイルスの研究やアドバイザーとなる専門家の扱われ方を注視してきました。その中で、ある前提の下で行われたシミュレーションが当たっている・外れていると扱われることに懸念を示し、「エビデンスと政策決定や意思決定の関係はそう単純ではありません。それを世の中にも理解してもらえないし、私たち政策研究者も時々勘違いをしているのではないかと思うこともあります。そういった点を含めて、改めて考え、整理する必要があると感じます。」と述べました。
山縣氏も、健康危機管理が急務となる時、限られた情報と時間の中で活用できる科学的エビデンスが何かを判断する手法が必要であると述べました。また、その際、政治の無謬(むびゅう)性とのコンフリクトが生じるとも指摘。「科学には限界があること、また日々蓄積される知識によって、さまざまなことが変化することを許容できるかどうかが課題です。」と語りました。

外部とのコミュニケーション

青島氏は、SciREX事業が今後の社会にとって重要な研究課題を扱う割に認知度が低く、次のステップでは活動の認知度を上げることが課題だと述べました。手法の1つとして、インパクトのある研究を出すことを挙げ、「戦略的に、『このようなことが分かれば明らかに注目が集まる』という課題にフォーカスを当てることは検討の価値があると思います。」と提案しました。倉持氏は、今まさにEBPMが強調されているとし、「本当の意味でのEBPMの姿がどのようなものかできるだけ早く、外の人たちに示していく必要があると思っています。」と述べました。最後に吉本氏は、今後SciREX事業に望むこととして、政策の受け手である国民がSTIに対する興味、関心、感度を高めて、自分ごととして捉えられるようにしていくこと、政策側がデータやエビデンスを示し、シンプルな言葉で十分国民に説明できるようにすることだとし、「それが、第6期科学技術・イノベーション基本計画が目指す、個々の幸せにつながっていくと思います。」と語りました。

このような議論を経て、モデレーターの有本氏は「オープンなコミュニティで共有されている知識や経験が非常に大事になっており、今後の活動もそのような側面が大事になる。」とまとめ、会を締めくくりました。

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