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SiREX インタビュー 研究と科学技術行政、
両方が分かる人材を目指して
~基礎研究をはじめとする幅広い研究活動の支援が続けられる
STI政策に貢献したい~

研究と科学技術行政、両方が分かる人材を目指して
~基礎研究をはじめとする幅広い研究活動の支援が続けられるSTI政策に貢献したい~
梶原 裕太(かじわら ゆうた)様

九州大学大学院工学府修士課程を2018年に、科学技術イノベーション政策専修コースを2017年に修了
文部科学省 総合教育政策局
調査企画課 企画係長

梶原 裕太さん
(かじわら ゆうた)

―なぜ、九州大学 科学技術イノベーション政策教育研究センター(以下、九大CSTIPS)の科学技術イノベーション(STI)政策専修コースを受講されたのですか?

梶原: 偶然、駅に貼られていた九大CSTIPSのポスターを目にしたことがきっかけです。私はその時、まだ九州大学大学院修士課程に在籍する理系の学生でした。量子物性という基礎分野の研究として繰り返し実験を行う日々で、行政や政策とは遠い世界にいました。研究生活の中で、基礎研究の研究費獲得などの課題を感じていました。これをきっかけに、科研費や拠点形成事業といった研究への政策的な支援がどのように検討・実施され、研究の成果がどのように社会実装へつながっていくのかに興味を持ち始めたことが、九大CSTIPSのSTI政策専修コースを受講した一番の理由です。また、平日の夜間や土曜日に開講され、研究活動と両立しやすかった点も、受講を大きく後押ししました。研究以外にも視野を広げたことは、研究に対してもよい影響があったと感じます。
STI政策との出会いの先に、今まで知らなかった世界が広がっていきました。これが行政官となる大きなきっかけになったと思います。

―では、当初から政策に携わる進路を目指していたわけではないのですね。

梶原: はい。当初は研究一筋で、民間企業への就職や博士課程進学を考えていました。しかし、本コースで行われた各回違う招待講師によるオムニバス形式の講義などが、進路を考えるきっかけになったと思っています。招待講師として来ていただいた元行政官などの方々から、携わった政策の事例をお聞きし、その熱意を直接感じたことで、自分もそういった仕事をしてみたいと思い始めたのです。その方々だけでなく、九大CSTIPSの先生方から感じる多くの熱意や思いによって、私のSTIへの関心が高められていきました。

長い期間をかけた積み上げが必要だという点で、政策立案・形成と研究には通ずるものがあるように個人的には思います。学生時代に行っていた実験は、比較的長いスパンで繰り返し実施するものでした。実験用サンプルのつくり方など、どこか手を抜くと良い結果が得られず、研究材料や設備を無駄にしてしまいます。こういった研究で身につけた、目的とするデータに対して、ひとつひとつ確実に積み上げていく姿勢は、行政官の業務でも活きていると思います。

―プログラムでは、どのような経験をされましたか? 興味深く感じた点などありますか?

梶原: STI政策の基礎から、経済学、統計学、政策分析などまで、本当に幅広く、丁寧に、多くを学ぶことができました。受講する前、当時の自分の専攻とはまったく異なる分野の科目として、政策論、経済、統計といった分野に対して少し苦手意識を感じていました。しかし、例えば科学や技術、イノベーションといった語句の基礎概念から、STI政策の歴史、諸外国の動向、イノベーションの創出プロセスといった、STI政策や政策論に関するごく基礎的な事柄から丁寧に教えていただいたことで、学びを進めることができました。

九大CSTIPSの講義はどれも興味深かったのですが、特に、当時助教として在籍されていた長谷川 光一先生*による「科学技術イノベーション政策立案演習」でのケーススタディは印象深かったです。受講生は興味・関心をもつテーマに関する具体的な事例を挙げて、その問題や課題に関わるデータを重回帰分析などした上で、5~10名ほどの他の受講生にプレゼンし、ディスカッションしました。
当時の受講生の中で理系学生は私1人であり、他には、九州大学のMBAや社会人経験をもつ方ばかりでした。それまでの私は、研究室や学会での発表や議論が主で、さまざまなバックグラウンドの多様性のあるメンバーが、それぞれ興味・関心をもつ分野を問わないテーマで自分の考えをアピールして議論することは、とても刺激的でした。また、他の受講生のプレゼンから、言葉使いや時間配分といった伝え方などを学ぶこともできました。

*)2018年4月に大阪工業大学 准教授として着任。

―プログラムの経験が、行政官としての仕事に活かされたことはありますか?

梶原: 政策の立案や各事業の運営・改善といったさまざまな場面で活きています。ロジックモデルを理解した上で、必要なデータをどこからどのように得るか、どうすれば得たデータを正しく多角的に読みとれるか、といった政策の基礎や分析手法を、九大CSTIPSで得られたように思います。 これまで、AIやスパコンといった情報科学技術の研究開発の振興に関する業務や、内閣府や経産省など他省庁との科学技術に関する連絡や総合調整に関する業務に従事し、現在は、教育に関わる各種調査業務に携わっています。研究力強化や若手研究者支援に関する議論を担当した際には、検討を進める上で日本の研究力がどうなっているのかを、より詳細に把握・分析する必要がありました。NISTEPの調査結果などを参照し、日本の研究力の現状や課題を検討・議論しましたが、その際にも九大CSTIPSで学んだ統計や政策分析に関する知識がとても役立ったと思います。また、現在担当している教育分野の調査でも、調査の実施や結果の分析などで活かすことができています。
SciREXサマーキャンプでの他拠点大学の学生や先生方との接点も含めて、本コースを通じて、さまざまな経験や専門性を持つ方々との出会いや議論を通して視野が広がり、多くの知識や考え方を身に着けることができました。これらが現在の行政官としての仕事にも素地として確実に役立っていると実感しています。

今、本コースで学んだ経験を、さらに実践したいという気持ちが芽生えています。その思いを抱きながら、さまざまな日々の業務の中を走り続けている感じです。基礎研究を振興し、その成果を社会実装やイノベーションにつなげるためには、例えば、研究をどのように評価・分析するかが重要であると思います。しかし、研究に関わってきた者として、特に、基礎研究は、いつ何がどのように進展していくか予見しづらいものだと感じます。でも、その予見の難しさが科学技術ならではの面白さではないでしょうか。その面から、SciREX事業の研究成果は心強く、引き続きキャッチアップしていきたいと思います。 

―今後、九大CSTIPSのSTI政策専修コースの受講を希望する方に向けて、伝えたいことはありますか?

梶原: 実際の研究開発とSTI政策、その両方が分かる人材は、今後、行政機関を含む色々なセクターで必要になってくると思います。本コースのような場で幅広く学ばれた方の活躍の裾野が広がることが、STI政策の発展への大きな一歩につながるのではないでしょうか。
九大CSTIPSのSTI政策専修コースではSTI政策に関する、政策論や経済学、統計学など幅広い知識の習得と、ケーススタディを議論する場、色々なバックグラウンドを持つ先生・受講生との出会いがあります。より多くの方にこういった特色を知っていただき、ぜひ活かしていただきたいと個人的には強く思います。

―ありがとうございました。

プロフィール

梶原 裕太(かじわら ゆうた)

2017年9月にSTI政策専修コースを修了。2018年3月に九州大学大学院工学府 エネルギー量子工学専攻の修士課程を修了後、同年4月に文部科学省入省。研究振興局 参事官(情報担当)付、科学技術・学術政策局政策課を経て、2020年2月より現職。

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