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  4. 第6期科学技術基本計画へ向け、政策研究者ら議論

研究・イノベーション学会
2019年次学術大会シンポジウム
第6期科学技術基本計画へ向け、
政策研究者ら議論

4.将来の国家像を盛り込んだ基本計画を追求

さまざまな論点が提示された中で、改めて「そもそも基本計画とは何か」「世の中にどういう価値を与えるか」という論点に立ち返り、熱い議論が交わされます。その議論において帰着するのは、世界の中で日本はどういう立ち位置でイノベーションを捉えるかということ。

将来の国家像を盛り込んだ基本計画を追求

青島氏は「今後デジタル化が進む中で、リアルデータの安全性やセキュアなネットワークを日本でどう構築するかが重要」と述べます。産業界を牽引する企業はこのデジタライゼーションをどう進めるのでしょうか。城石氏は「ポストGAFAを目指す原動力として、現場に根差したデータを大事する企業がリードしていく。そこに5Gが大きく関わり加速していく時代が来ると期待している」と語り、企業間の競争はもちろん、今後の社会をつくる上で協調できるデジタライゼーションは大きな役割を果たすという考えを示しました。「デジタルテクノロジーは格差を生むが、機会も生み出す」と語るのは飯塚氏。新しいビジネスの可能性が出てきている途上国や新興国ではデータの安全性などが問題となり、そこで一緒にルールを形成していく支援を行っていくことは共創につながると、ここまでの話を受けて独自の考えを語りました。
デジタライゼーションに話題が及ぶ中で、別の視点から科学技術イノベーション政策の問題点を挙げるのは神里氏。「日本の社会の信頼は自動的に形成されていくわけでない。特に2000年頃から、相対的に弱い企業や人材を切り捨て始めており、現在の社会は既に信頼によって下支えされてはいないのではないか。今まさにセーフティーネットを整え、人を育てることを考えなければいけない」と警鐘を発します。人材育成に関しては玉城氏も「研究者のキャリアは非常にリスキー。特にアカデミアでしか専門性が生かせない分野では修士や博士へ進んだ後にサポート無しで放り出されてしまうため、名誉と好奇心で成り立っている世界。基礎研究も応用研究も人が滞っている」と同調します。

デジタルにおけるセキュリティ、安定した社会、研究者間のつながりなど、そのさまざまな階層には「信頼」というキーワードが潜在しています。この「信頼」を、上山氏は第6期の基本計画に盛り込みたいとの見解を示します。「それは最初に話したように、科学技術基本計画ではなく科学技術イノベーション計画となる。そのときキーワードとして“トラスト”を盛り込む。そもそものイノベーションという概念自体を変えて、科学技術基本法を根本的に変えていきたい。」との展望を語りました。

上山氏

日本という国が培ってきた価値観、人生観、倫理観を理念として基本計画に盛り込む。それは、これから国際的な競争がより激化する時代に、日本がアピールするべき、大きな魅力となる国家像だと語ります。「信頼に根差した国家像を書いていくことで第6期の基本計画をつくっていきたい」との考えが示されました。

原山優子

最後に来場者とパネリストとの間で「大学へ産業界からの投資を呼び込むにはどのように働きかければいいのか」、「若手の研究人材が減る中で多様性を確保するにはどうすべきか」、といった活発な質疑応答が交わされ、パネルディスカッションは締めくくられました。本シンポジウムは、科学技術イノベーション政策に関する議論の場の必要性を各々に感じさせる第一歩になりました。会長総括として登壇した研究・イノベーション学会会長の原山優子氏も「議論する場を継続させる必要があり、進化させることに期待したい」と述べ、閉会となりました。第6期科学技術基本計画の確かな道筋が示されるとともに、政策提言やイノベーションの研究における活動の機運が高まったシンポジウムとなりました。

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