研究・イノベーション学会
2019年次学術大会シンポジウム
第6期科学技術基本計画へ向け、
政策研究者ら議論
3.イノベーションの共創
問題提起を受け、パネルディスカッションには一橋大学イノベーション研究センター教授の青島矢一氏、政策研究大学院大学教授の飯塚倫子氏、千葉大学国際教養学部教授の神里達博氏、株式会社日立製作所研究開発グループ技術戦略室技術顧問の城石芳博氏、H2L株式会社創業者の玉城絵美氏が登壇。産官学民の異なるフィールドで活躍する6名のパネリストが議論を進めます。
青島氏は自動車やエレクトロニクスのイノベーション研究を進めてきた立場から、現在の大企業のイノベーション能力に疑問符が浮かぶと言います。90年代までの日本企業のイノベーションの特徴は長期的に花開くことにありました。それを支えたのが不確実な技術への辛抱強い投資と、ハードウェアを元にしたすり合わせ開発です。しかし現在はどちらも低調になってきており、既存の大企業は社会や株主への説明責任からの不確実性の高い活動へ手を出せないうえ、ハードウェアからソフトウェアへのシフトが遅れてきたことを問題点に挙げます。組織も流動的なありかたが適していますが、対応は不十分です。「財務的、人的、技術的な資源を、革新的な活動を起こす人にどう結合するか。大企業で解決できないのであれば、その資源を解放して社会的にどう活用していくかが鍵になる」と語りました。
破壊的インクルーシブ・イノベーションの研究に取り組む飯塚氏は、新興国で誰一人取り残さないイノベーションを模索。社会課題を扱うことは近い未来そこに市場があるということだと指摘。特に新興国は市場としてのリスクは高いが伸びしろがあり、新しい技術の社会実装を試みる、イノベーションが生まれやすい場だと語ります。シェアリングエコノミーや分散型生産など、新しい技術は参加型イノベーションの鍵です。ミレニアル世代を中心とした社会課題解決を目指した起業が大企業の参加を呼び込んでいる現状を紹介しながら、社会貢献が非常に重要であると指摘します。「競争ではなく“共創”していくことが必要になってくる」との見解を示しました。
飯塚氏の話を受けて、「そもそもイノベーションは社会を部分的に壊しながら進んでいく側面がある」と語るのは神里氏。社会を形作る国が社会を壊す要素のあるイノベーションを進めるという、科学技術イノベーション政策のアンビバレントなあり方を指摘。これまでのイノベーションにおける国の役割は、壊れた部分の「後始末」など、負の影響の緩和が多かったと振り返ります。例えば、石炭から石油へエネルギー転換を進めた際の鉱山離職者雇用促進、求職手帳の導入は代表的な事例です。今後もイノベーションに取り残される人を忘れず、共同体の中ですべての人間が生きていくための仕組みづくりという視点も、第6期の基本計画において重要だと説きました。
城石氏は、大企業の立ち位置から「基本計画と同期して業績を上げることは、企業として期待している」と語ります。その上で、ICT技術の急速な進展による社会・産業の質的変化に触れ、インターネットの台頭に産業界が付いていけなかったことを問題視。イノベーションの影の部分が格差につながり、それがデジタル化で増幅されてしまったと指摘します。今後は「5G」の登場でさらなる変化がもたらされること、公・産・民・学の連携、アカデミアの役割の重要を列挙。日本ならではの協調性や拡張技術の活用を踏まえて、「文理協創」という考えで変革に取り組むことが大事であると述べました。
研究者かつ起業家であり、イノベーションの現場で活躍している玉城氏。HCI(ハイパーコンバージドインフラ)という研究分野から、大学やスタートアップ、科学技術の現場では実際のところ基本計画が読まれていないと言います。読み込んだ結果、「明らかにビジョンが見えにくい。」と指摘。中国の科学政策に関する文書と比較し、「それぞれの分野、人、データ、企業、大学、各省庁、都市のストーリーにフォーカスした、細分化フロー構造化がこれから必要」と問題点を示します。具体的な課題では人材育成に言及し、「研究者のキャリアが魅力的なものに見えず、イノベーションに必要な研究人材が確保できていない」と語ります。また、HCIの研究分野で使われる人間中心の考え方であるヒューマンセントリックデザインを例に挙げ、今後の基本計画には「xセントリックデザイン」が必要ではないかと提案します。
4.将来の国家像を盛り込んだ基本計画を追求