研究・イノベーション学会
2019年次学術大会シンポジウム
第6期科学技術基本計画へ向け、
政策研究者ら議論
2019年10月26日、研究・イノベーション学会の2019年次学術大会シンポジウムが政策研究大学院大学にて開催されました。「第6期科学技術基本計画へ向けた政策研究からの視座~科学技術イノベーション政策の未来へ~」と題された本シンポジウムでは、多角的な視点から第6期科学技術基本計画に向けての提言や、次の時代のイノベーションについて議論が交わされ、政策研究に対する期待感が示されました。
冒頭では広島大学高等教育研究開発センター長・特任教授の小林信一氏が、シンポジウムの趣旨を説明。研究・イノベーション学会が第6期科学技術基本計画に向けた提言として刊行した学会誌特集号やこれまで行ってきた様々な政策レビューに触れ、政策研究コミュニティと基本計画策定の担当者とがエビデンスに基づいてフラットに議論する場の意義を強調しました。
1.「科学技術基本計画とは何だろう?」
続いて、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)議員の上山隆大氏による基調講演が行われました。CSTI唯一の有識者常勤議員として基本計画の策定に携わる中で、基本計画とは何か、誰がどのように受け止めているのか、どのような影響力があるのか、という大きな問いを投げかけました。第5期で打ち出したコンセプト「Society5.0」があまり国民へ浸透していない状況にも言及し、基本計画がステークホルダーごとに与える影響を整理していきます。特に、行政官は理念より文言や指標を重視する傾向があることに触れ、政府の中では少なくとも、実際に政策立案の実務を担う行政官にアピールできるような基本計画にすることが大事であるという見解を述べました。
ここで、基本計画がカバーする範囲はどこまでか、そしてイノベーションをどう定義するかという問題が提起されます。第3期で初めてイノベーションという言葉が加わって以降、第4期で東日本大震災復興の下の社会課題、そして第5期にSociety5.0と、研究開発に留まらない課題が基本計画へ盛り込まれてきました。そもそも、イノベーションとは「幅広く社会の変換を生み出すプロセス」のこと。科学技術政策の取り組むべき射程が広がり、科学技術イノベーション政策へと広がっていくなかで、基本計画がカバーする範囲も拡がっていくべき。これまでの基本計画では、科学と社会の間に位置する民間の役割や大学、高等教育行政に関しての記述は少なく、大きな欠落があると指摘します。そして基本計画の根拠となる科学技術基本法の対象範囲についても、人文科学やイノベーションを追加するなど、改正が必要であると訴えます。
第6期の基本計画に寄せて「2021年から5年間、新しい秩序形成の基盤となるものであってほしい」と述べ、5つのポイントを挙げました。1つ目は「自由と信頼」による秩序の構築、2つ目に2030年・2050年の国家像からバックキャストした国家戦略として基本計画を考えること。3つ目は人的資源への国家的な投資です。4つ目はアジア太平洋経済圏において、自由と信頼によって日本の立ち位置を見出すべきであること。最後にデジタル・トランスフォーメーションの進展の中で日本の科学技術やリアルデータへの信頼性を梃子にポジションを確保すること。これらを総合してジャパンモデルを提示することの重要性を訴えます。データ、研究力、社会実装の実行力、幸福感、倫理観といったものへの信頼性を中心に、第6期の基本計画策定を目指す議論をしていきたいと締めくくりました。
2.次期基本計画へ向けた政策研究コミュニティからの論点