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第47回SciREXセミナー 開催報告 日本の女子生徒の理系進学を阻む
要因に迫る
「行きたくても行けない」を
なくすために
必要な社会風土づくりとは

2023年12月7日、第47回SciREXセミナー「日本の女子生徒の理系進学を促進する社会風土をどう作るか 」を、霞が関ナレッジスクエアにて現地とオンラインとのハイブリッド形式で開催しました。女性研究者支援や女子生徒の理系進学支援は科学技術イノベーション政策の根幹事業として行われてきた一方で、未だ理系への進学をためらう女子生徒は少なくありません。理系進学を阻む要因は何で、次なる一手として何ができるか。その背景に迫る「多様なイノベーションを支える女子生徒数物系進学要因分析」プロジェクト(JST-RISTEX、2017年10月~21年3月)の研究代表者、横山広美氏(東京大学教授)が今回の話題提供者です。

1時間半にわたるセミナーには、現地に18人、オンラインで83人の計101人が参加。約半数は文部科学省など省庁関係者が占め、行政に携わる関係者の関心が高いことがうかがえました。セミナー後、会場では名刺交換や議論が活発になされ、アンケートにおいても「論拠に基づいた議論で建設的だった」「社会風土という視点から政策提言されていて、ジェンダーバイアス解消に希望が持てた」といった前向きな声が多く寄せられました。

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 教授の横山広美氏

物理学者からの問いかけがきっかけ

横山氏は今回の議題について「いろんな角度から取り組んできたが、まだまだ謎が多い。いろんな議論に展開できたら」と会場に呼びかけ、プロジェクトに取り組んだ経緯を話しました。

素粒子実験の分野で博士号を取得した横山氏は、科学と社会の問題への強い関心から専門を科学技術社会論に変更。現在副機構長を務める東大の国際研究拠点、カブリ数物連携宇宙研究機構(通称カブリ IPMU)に着任した2017年、当時機構長だった物理学者の村山斉氏に「なぜ日本の物理学分野にはこんなに女性が少ないのだろう。ぜひ研究してほしい」と依頼されたといいます。経験のないテーマの仕事を突然言い渡され「私がする仕事なのかな」と戸惑ったものの、説得されるかたちで取り組むことになり、研究プロジェクトが始まりました。プロジェクトでは、横山氏の物理学のバックグラウンドを生かし、理系分野の研究者への訴求力を持たせるために、データに基づいた統計分析により女子生徒の理系進学を阻む日本特有の「社会風土」に迫りました。

ときおり笑顔を見せながら研究成果を報告する横山広美氏(右)と、ファシリテーターを務めた藤原志保氏

大学で女子学生の方が少ないのは「世界的には特殊」

まずは先進国のデータを確認し、横山氏は「日本特有の状況」について説明。

https://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/11kai/siryo3_2.pdf
理系分野における女性の比率は日本がOECD諸国で最も低い(当日資料より)〈図版提供:横山広美氏〉

経済協力開発機構(OECD)加盟国の高等教育機関の入学者に占める女性の割合は、自然科学・数学・統計学と工学・製造・建築の両分野で日本が最下位です。文部科学省の学校基本調査によると、理系でも分野によって女性の割合は異なり、生物学は40%前後いるものの、物理は17%程度、数学は20%程度です。アメリカでは物理やコンピュータサイエンスを専攻する学生の女性の割合は20%と日本と同程度であるものの、数学は40%程度と、日本と大きく開きがあります。

セミナーの2日前にOECDより公表された世界各国の15歳を対象とする国際学習到達度調査PISAの2022年の結果では、日本の女子生徒の数学的リテラシーと科学的リテラシーは非常に優れていることが示されました。過去のPISAの成績からも明らかで、「日本の女子の成績は大抵の国の男子女子よりもいいということを今一度確認しておきたい」と横山氏は強調しました。

次に示されたのは、男女別の大学進学率。大学を卒業する女性の割合は、日本がOECD諸国で最も低いのです。

「キャンパスの中に男子の方が多い国は珍しい。海外ではキャンパスには女子が2割くらい多い。欧米諸国では、男子の落ちこぼれが社会問題として深刻になってきている」と横山氏は話します。「高等教育機関への進学において日本はジェンダーギャップが大きい。女子の進学の方が少ないというのは世界的にみると特殊な状況」と横山氏は話します。

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「理系に進みたいけどできない」女の子をなくす
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