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第47回SciREXセミナー 開催報告 日本の女子生徒の理系進学を阻む
要因に迫る
「行きたくても行けない」を
なくすために
必要な社会風土づくりとは

まずは基礎的なパネルデータを

藤原氏からは2つの質問が投げかけられました。まずは政策立案に携わる立場として「どんなデータをどのように取っておくのがいいでしょうか」と質問。横山氏は「まずは基礎的データの整備を」と応じます。例えば情報科学は新しい分野のためか、分野ごとの男女比を調べている文部科学省の学校基本調査の調査項目になく、男女比率がわからないといいます。加えて同じ項目の経年変化を確認するために「基礎データを追跡できるパネルデータが欲しい。きっちり設計され、長年使える追跡調査のデータが必要」と話しました。

藤原氏はさらに、今回のテーマに関するアファーマティブアクション(積極的差別是正措置)、つまり男女格差の是正のために大学や会社の選考で女性専用の優先枠を設けるといった対応への見解を尋ねました。横山氏は「今まさに悩んでいるところ」としたうえで、「今は女子枠が注目を集め、政策としても大きなうねりになっている。各大学の学長が動くのは素晴らしいことだと思うのですが、一般的に大学入学時のアファーマティブアクションはいろんな問題がある」と言葉を選びながら話しました。

アメリカでは一部の州でマイノリティであることを理由に大学入学を優遇することはすでに違法として認知されているといいます。「大学が女性を歓迎しているわかりやすいメッセージになるが、女性の能力を信じ応援する態度とは真逆に見える。女子学生は、ステレオタイプを思い起こすジェンダーを意識させるとパフォーマンスが下がることも知られている。このダイバーシティの時代に、女性だから使える入り口というのは歪んだ入り口になってしまわないか。海外の歴史を知って議論することも重要」と心配していると打ち明けました。

「これは人権問題」 質疑応答で課題意識を共有

残り約15分で参加者との質疑応答が行われました。最初に会場から上がった質問は「プロジェクトの成果にどんな反響があったのか」。横山氏は、「中学や高校の先生、メディアや研究者などから、毎週いくつかのペースで講演依頼をいただいている。対応しきれず、お断りしている数も少なくなく申し訳ない」と明かしました。

オンライン会場の参加者との質疑応答もはさみ、再び会場から「理系の女子が増えると社会にどんなメリットがあるのか。イノベーションが生まれるとか国力が上がるとか」という質問が上がりました。

会場とオンラインの参加者と横山氏との間では活発な質疑応答が交わされました。

横山氏は「経済系の論文ではそうした報告がたくさんある。女性が入った方が、イノベーションが進むという結果も出ています」として、ウーマノミクスやフェムテックの広がりがもたらす経済効果についても言及。

経済学的な議論も重要としつつ、一方で「私の視点では、これは人権問題です。行きたいところに行ける自由が確保されてないのが大きな問題。理系に進学したくても親や先生に反対されたので行けないという声を実際にたくさん聞く」と、研究プロジェクトの根底にある課題意識を共有。藤原氏は「『女性だから』という理由で希望の道に行けないことがあるのであれば、改善していくことが必要」と質疑応答をまとめました。

最後に、藤原氏は「長い視点で社会をどう作っていくか、一人一人が活躍できるようにするにはどういう環境を作っていくかという壮大なお話。答えは一つではなく、今日は発散して終わってしまうけれど、みなさんと一緒に考えていければ」と総括。横山氏は「この問題には、まだまだ謎が続いている。なにかしらの解決策を見つけていかないといけないので、みなさんと一緒に考え続けていい動き方を模索していきたいです」と締め括りました。

執筆:天野 彩(サイエンスライター)
撮影:SciREXセンター 広報・アウトリーチ担当

参考
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