第3回SciREXオープンフォーラム シリーズ第7回
政策と科学の共進化
-その望ましい姿と現実、次のステージに向けて-
「SciREXで教育すべきこととは?」
続くパネルディスカッションでは城山英明 STIG拠点長をモデレーターに、5拠点6大学の教育プログラム修了生と文部科学省でSciREX事業立ち上げに関わった行政官が参加し、それぞれが受けたプログラムを通じた体験や修了後に振り返って改めて考えたことについて議論しました。
まずはプログラムで教えるべき内容です。大阪大学のプログラムを修了した吉田さんはプログラムでの経験を、「もともと理系の基礎研究をやっていて、私の周りにはそのまま博士課程へ進学し研究者になる方もかなり多い状況でした。その中で、実際に研究成果は社会とどのようにつながっているのだろうというもやもやとした疑問を取り除くいい機会だった」と話します。広い視野で自分のやっている研究をどう位置付けるかが、SciREXのプログラムで学ぶことができる重要な要素だと言えるでしょう。
東京大学のプログラムを修了した見田さんは、「文系と理系の学生が両方参加することで、論理的な思考やデータの読み方、科学的とはどういうことか、科学と価値観の関係性など、科学技術を扱う上での基礎知識」を得られたと語り、科学技術を社会の中で俯瞰する視点を持つことができたといいます。一方で今後の課題として「ダイナミックな現場感」を挙げ、より踏み込んだ話も聞きたかったと振り返ります。
政策研究大学院大学を修了した嶋田さんは「もう少し系統立った政策科学の理論や政策科学の研究の先行例、歴史的背景、文献の情報、どこを当たればいいのか、というある種の土地勘を植え付けるのが非常に重要」だと述べ、後から実務に当たる際に迷わないようなしっかりとした知識もまた重要だと指摘しました。
モデレータの城山教授も「現場に触れるということ大学だけにいた学生にとっては、それを見せることも大事かもしれませんが、社会人はあえてそれを見て何になるのだということもあるので、対象により全然違ってくる」と、現場と教育との距離感についてコメント。学生の属性によるニーズの違いが際立つ瞬間でした。
「SciREXのネットワークをどう使う?これまでに何ができ、何ができなかったのか。」
フォーラムの後半では話題はネットワークの活用へ。城山教授が話を向けると、一橋大学のプログラムを修了した六田さんは「現場の人間にとって日常的な出来事でも、社会科学の研究の視点から見るとこういうことが面白いのだな、と分かるようになりました。なので、現場の知識を大学へインプットができるようになりました。もう一つは異業種の方と知り合いになり、「今度、こういうことをやろうと思っているけれども、どう思う?」という同業者には出来ない話をする相手ができたことです。」と、教員も学生も多様な分野、背景の方が参加するネットワークで得た体験とその重要性を訴えます。
修了生であり、現在は教員としてプログラムに関わる祐野さんは「京大の場合、最初は研究者を多く輩出していき、最近は行政官になる方も出てきている状況です。一方で行政官の方は年次が上がらなければ、なかなか責任ある立場として政策を形成するところまで至らないので、実際に行政に対し共進化をはかっていくことは、これから期待したいと思います。ユニットを修了された方も含め、行政との共進化という形でネットワークを築いていくことが必要ではないかと感じています。」と、単に教員と修了生の間だけではなく、様々な形で関わる行政官も含んだネットワークが必要だと述べます。また、単なる修了生の同窓会から一歩前進し、何か新しいものを生み出していくにはなんらかの仕掛けが要るといいます。
九州大学のプログラムを修了し、現在は熊本大学で主任URAを務める藤山さんは、「EBPMという言葉がたくさん出てきますが、大学にいる者だけでEBPMを実行するには限界があると思います。その点、SciREXのプログラムはバックグラウンドの方が集まっており、一つのイシューについてきちんと議論できるのが良い点です。また、PDCAサイクルを回すことがよく言われますが、科学技術の場においてそのサイクルを回すことで問題が解決されているかというと、個人的には非常に疑問があります。」と、ネットワークの意味と大学で業務をしていて感じる課題を指摘します。
これに対し文部科学省の西條さんも「行政がよく指摘されるのは、一度決めたらなかなか変えないという点です。今後は政策として打っていく上で柔軟性をもって、アジャイルな形で軌道修正できるというところが重要です。その微修正を現場とアカデミアで出来れば良いのですが。」と応じ、政策という共通関心を持つ人たちのコミュニティがあると助かる面があると述べました。
最後にモデレーターの城山教授が、「SciREXとしてある種の体系はちゃんと考えていかなければいけません。それは教科書をつくるということよりは、現場のいろいろな活動をベースに、きちんとそれを抽象化していき、体系化していき、また現場に戻ってくるような、そういう意味でのサイクルをつくるきっかけになるようなものだと思います。また、現場を見せるという点についても、現場のある断面を見せるだけではなく多様なものであればいろいろな経験を持った方にも刺激になるのではないか」と述べパネルディスカッションを終えました。
各拠点で整備されてきたSciREXの教育プログラムがどのような変化や発展を見せていくのか、新たな取り組みを今後も紹介していきますので是非ご注目ください。