科学技術イノベーション政策の科学教育プログラム(STIG)
これからの政策ガバナンスに必要な
問題設定力・アセスメント力を
異分野・異領域融合による学びの
相互作用で養成
―もし教員側が教えたいこととのギャップがあれば合わせて教えてください。
城山: 教えたいこととは少し話がズレるかもしれませんが、留学生比率の増加、多言語対応があります。もともとは、日本語で用意していた教育プログラムを、留学生に対してどう提供するのかは、結構チャレンジングな課題です。これは必ずしも、STIG特有なことではなくて、公共政策大学院でも在学生の半分ほどが留学生になっています。日本語と同時に英語でできるプログラムが必要とかなり努力してきましたが、まだ不十分なところはあります。必修科目のケーススタディは日本人学生・留学生一緒に行い、必要な場合は同時通訳を入れる形で講義しています。
―SciREX全体での取り組みがSTIGの教育プログラムに影響を与えた事例はありますか?
城山: 科学技術イノベーション政策研究センターがSciREX拠点大学及び関係機関で構成されたコア・カリキュラム編集委員会が作成・提供する、STI政策の科学を理解する上で基本的に必要な知識、コアコンテンツの利用があります。①STIのダイナミズム、②STIのガバナンス及び政策形成プロセス、③STIと社会、④STI政策の社会経済的インパクト評価、⑤STI政策の歴史・海外情報の5つで構成されており、STIGはガバナンス及び政策形成プロセスへの編集に貢献しました。ワークショップなどで用いています。
―サマーキャンプに限らず、今後教育面での拠点間の取り組みで何か考えられることはあるでしょうか?
城山: SciREX事業とのさまざまな関わり合いの中で、オン・ザ・ジョブ・トレーニング的な経験をすることでしょうか。
例えば、共進化実現プロジェクト。これに実質的に関与してくれたフランス人のヴェルスピレン・カンタンさんが事例になると思います。彼は、工学系修士課程を修了したため技術も分かり、政策についてもちょうど公共政策大学院の後期課程の学生として勉強していたので、リサーチアシスタント(RA)をしながらSTIGを履修しました。STIG在籍中に共進化実現プロジェクトに関わり始め、その体験を経て、東大公共政策特任研究員職に就いています。
共進化実現プロジェクトは、今まで行政官と個々の大学とで取り組んでいましたが、今後は複数の拠点間連携で実施して、かつ、そこにおそらく博士課程になると思いますが、大学院生も加わるやり方があり得るように思います。サマーキャンプのようにアドホック、単発の教育というよりは、もう少し長期的な教育ですね。博士課程の人たちを育てていくことが1つの課題になると思っています。
―今後のSTIGの方向性について、現在の構想を教えてください。
城山: 長期的なプログラムのあり方を構想しています。
これまで公共政策大学院は、専門職を目指す修士レベルの学生を対象としていましたが、2016年から博士課程を設けました。STIGも、博士レベルの需要に今後どう応えていくかが1つの課題になると考えています。ここは、教育の前提となるような研究基盤といったものをより強化していくことにもつながっていくと思います。
もう1つの課題として、補助金に頼らず運営できる新たな財源確保です。社会人向けのエグゼクティブ・トレーニングに需要はあると思いますので、例えば理系の人たちと連携してデジタライゼーションのマネジメントをされる方々向けの再教育プログラム提供などが考えられます。学位ではなくてサーティフィケートを出すようなものを用意して、ある程度収入を得ることも重要かと思っています。
この点とも重なりますが、内部資金で雇う教員を少しずつ増やしながら、STIGの取り組みに巻き込み、総合大学のメリット、特に多様な人的リソースを活用しながら内部連携していくことで学内に根を広げ、(教育の)テーマの幅を広げたいとも思っています。
―ありがとうございました。
プロフィール
城山 英明(しろやま ひであき)
1989年に東京大学法学部を卒業。同大学法学部 助手、同大学大学院法学政治学研究科 講師、助教授を経て、2006年より同大学大学院法学政治学研究科 教授(公共政策大学院教授を兼務)。2021年度より未来ビジョン研究センター センター長。専門は、行政学、国際行政論、科学技術と公共政策。