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第3回SciREXオープンフォーラム「科学技術イノベーション政策の新展開」 政策立案機能の更なる高度化に向けて、
EBPMが果たす役割

2021年1月18日、第3回SciREXオープンフォーラム「科学技術イノベーション政策の新展開」シリーズ第三回『科学技術イノベーション政策におけるEBPM実現の展望』をオンラインにて開催しました。

第3回SciREXオープンフォーラム「科学技術イノベーション政策の新展開」

登壇者

宮本 岩男

パネリスト

内閣府 政策統括官(科学技術・イノベーション担当)付参事官

宮本 岩男(みやもと いわお)

菱山 豊

パネリスト

文部科学省 科学技術・学術政策研究所長

菱山 豊(ひしやま ゆたか)

亀井 善太郎

パネリスト

PHP総研主席研究員、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任教授

亀井 善太郎(かめい ぜんたろう)

林 隆之

モデレータ

政策研究大学院大学 教授

林 隆之(はやし たかゆき)

林 隆之 氏

林 隆之 氏

本セッションのモデレータを務めた政策研究大学院大学教授の林 隆之 氏は、今回の議論に臨むにあたって、人によってEBPM(Evidence-Based Policy Making)の捉え方や認識が異なる現状があると話しました。それを踏まえて今回の検討事項として、①科学技術イノベーション政策における「EBPM」とは何か、②現在の制度や仕組みの中にEBPMをオペレーションとしてどのように落とし込めるか、③EBPMを実現する体制とは、の3つを挙げました。政策形成には、行政とアカデミアが緊張関係を持ちながらも共に課題設定し、調査・分析した結果(エビデンス)を活かすことが重要です。今回は、科学技術イノベーション政策においてあるべきEBPMの姿や推進における課題の一端を探るべく、政策形成を担う行政府側、エビデンスを作成し提供する側、EBPM等の政策形成・執行の仕組みを検討する側にある3名のパネリストが話題提供や意見を述べた後、パネルディスカッションを行いました。

エビデンス共有システム構築で、科学技術政策立案機能の強化に貢献

宮本 岩男 氏

宮本 岩男 氏

はじめに、内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)付参事官の宮本 岩男 氏が、政策立案機能等に資する各種データを連結・提供して関係者間で共有する意義と、「科学技術政策の見える化」を実現するための内閣府の取り組みについて説明しました。宮本氏は、研究力を高めるさまざまな政策を実施しているにも関わらずなぜ日本は他国と比べて研究力が下がっていくのか、「どのようなアクション(政策)が効いているか・効いていないかを、しっかり客観的なエビデンスをもって確認したかった。」と、「e-CSTI(Evidence data platform constructed by Council for Science, Technology and Innovation)」構築に至った理由を述べました。
e-CSTIは、科学技術イノベーション関連データを収集し、データ分析機能を提供するシステム(エビデンスシステム)で、日本の研究者十数万人を結節点としてインプットデータ(予算執行データや研究者の属性に関するデータ、内閣府が入手した書誌情報データベースなど)とアウトプットデータ(論文マスタや特許マスタ)を紐づけして見える化しています。指標を選択して異なる分野・機関・時系列間の比較を可能にすることで、エビデンス創出のためのデータ共有と分析のためのプラットフォームにしました。宮本氏は、「例えば、投入資金当たりの論文数に対する効果から、どういった種類の資金が、効果が高そうに見えるかを分析できます。総論文数だけでなく、トップ1%論文の輩出に関してフォーカスして見ることもできる。」と説明。「このように、マクロの状態を見える化し、その後、ミクロの状態も見える化していく。そして、内閣府だけではなく関係省庁のEBPMに使えるようなデータにして関係者間で共有する。」とし、「これらを達成することで、政策立案機能の強化、あるいは大学・研究開発法人における法人経営の高度化を達成していこうと取り組んでいる。」と、展望を語りました。

既存データの限界を知り、リアルデータをエビデンスとして活用する時代へ

菱山 豊 氏

菱山 豊 氏

次に文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)所長の菱山 豊 氏が意見を述べました。
菱山氏は、NISTEPによるデータ・情報基盤の構築や整備、サイエンスマップによる研究活動領域の抽出・可視化いった成果を交えながら、ライフサイエンス政策や生命倫理の専門家としての経験も踏まえ、既存のデータや情報は客観的なエビデンスとして全てを語るものではないこと、また、それらを活用する上での利点や限界を知る必要性を強調しました。
「国会議員や財務省へ研究の政策を説明する際に、宮本さんが説明されたような詳しい分析結果があれば、より強固な証拠・根拠になりえます。しかし、ちょうどライフサイエンス課長だった時ですが、Cell誌に掲載された、たった1本の iPS 細胞研究の論文が、世界的に、そして政策に大きなインパクトを与えました。このインパクトは(論文)数だけでは測れないものです。また、生命倫理に関してはさまざまな議論がありますが、色々な価値にも関わる問題であり、すぐに客観的なエビデンスを示すことが難しいというのが私の経験です。」と、行政官としての経験や実感を交えて語りました。また、今、世の中がどのような科学や技術を必要としているかのニーズを知るには別の情報把握が求められること、RCT(Randomized Controlled Trial)は統計解析手法として完璧であると認めながらも「実社会では理想的な環境はなかなかないのではないか。EBM(evidence-based medicine)の方で考えられているように、リアルデータの活用も考えていかなければならない。」と言及し、政策現場でEBPMを推進していく上での課題を示しました。

今、行政府に求められるエビデンスの分析・理解・活用能力

亀井 善太郎 氏

亀井 善太郎 氏

最後に、PHP総研 主席研究員/立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科 特任教授の亀井 善太郎 氏は、EBPM をめぐる誤解、EBPMが求められる政策的な文脈、EBPMを政策に活かすためにエビデンスデータの相関・因果の論理関係をしっかり読み解きロジックモデルで共有することの重要性を語りました。
亀井氏は、EBPM をめぐる誤解として、1つ目に官僚機構でEBPMが評価だと思われがちであることを挙げました。2つ目に、純然たるデータ比較ができない、倫理的な問題などからRCTの設計が難しい現状があると語りました。3つ目に、ロジックに合った適切なエビデンスデータを使うこと、そのために自分がどのデータをエビデンスとして用いているか承知しておく必要があると語りました。
次に亀井氏は、EBPMが求められる政策的な文脈として、①平成の統治機構改革による課題の克服、②デジタル社会に対応した政府の2つを挙げ、①について、平成の統治機構改革がLegitimacy(正統性、みんなで選んだという正しさ)のアクセル(推進力)である内閣をとても強くする改革であったため、相対的にRightness(正当性、専門性や合理性に基づく正しさ)のアクセルの担い手である官僚機構が弱くなってしまったと指摘。さらに官僚機構がRightnessではなくLegitimacyの説明をするようになってしまったのではないかと考察しました。
②については、デジタル化する社会において、今までのようにインプットベースで政策を考えるのではなく、目指す社会という合意されたゴールベースで、どこをレバーにしてインプットしていくかのオプション案を考えることが行政機構の大きな仕事になっていくだろうと述べました。また、リアルタイムでのモニタリングを可能にすることが社会や政府にとって重要だとも加えました。
その上で「相関関係ではなく因果関係を読み取るのはまさに人間の力であり、人間が考えたことを他者に共有するものとしてロジックモデルがある。」と、ロジックモデルが政策立案のためのコミュニケーションツールであることを強調しました。官僚機構では供給者思考が強く因果関係の説明が十分になっていないとして、インプットからだけでなくありたい姿(インパクト)から逆算した自分の戦略や着眼点を表現すべきだとまとめました。

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パネルディスカッション:
いかにエビデンスに基づく政策形成の
サイクルを回すか?
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