SciREX ウェビナーハイライト 変わりゆく世界での科学技術と国際関係
2020年の米大統領選でジョー・バイデン氏が勝利して以来、世界各国の科学者が米科学技術政策の方針転換に期待を寄せています。本学が11月10日に主催したウェビナーでは、オバマ政権下で科学技術政策局(OSTP)局長及び大統領補佐官を務めたジョン・ホルドレン博士による講演が行われました。ホルドレン博士は、オバマ政権からトランプ政権に移る過程で変化した科学技術政策や日米関係への影響、そして2021年から発足するバイデン政権に期待できる進展について語りました。
以下、ハイライトをお届けします。
登壇者
スピーカー
ハーバード大学教授、元米国政府科学 技術政策局 局長
ジョン・ホルドレン博士
コメンテーター
自由民主党 国防部会長、前内閣府副 大臣
大塚 拓 衆議院議員
コメンテーター
総合科学技術・イノベーション会議 常勤議員、GRIPS客員教授
上山 隆大 CSTI議員
モデレーター
SciREXセンター センター長、 GRIPS 特別学長補佐、 笹川平和財団理事長
角南 篤 センター長
モデレーター
日立アジア社シニアエグゼクティブ、1GRIPS客員研究員
ジェラルド・ハネ氏
オバマ政権とトランプ政権下における科学技術政策
ホルドレン氏が局長を務めた科学技術政策局(OSTP)はホワイトハウス直属の組織で、局長は大統領に直接助言を与える大統領補佐官を兼務することもあります。ホルドレン氏はオバマ大統領に対し様々な政策に関する科学的助言を与え、国内外の科学技術関連の会合で政府を代表する立場として活動してきたと言います。
オバマ元大統領は、政権発足時から科学技術政策の重要性を強調し、以下のような前例のない行動をとりました。
- 5人のノーベル賞受賞者と全米科学アカデミーのメンバー25人を政権の重要ポストに起用
- 大統領令などを通し、科学者が自由に発言できるよう各機関に求め、政策の意思決定につながったデータは公開することを義務化
- 米国の大きな課題を解決するためには科学技術が不可欠とのビジョンを大臣たちと共有し、各自科学顧問を任命することを要求
また、ホルドレン博士に対しては、日本を始め主要パートナー国と科学技術の協働を再活性化させるよう求めたと言います。2008年以前のアメリカでは、ブッシュ政権がES細胞研究の助成を拒否し続け、環境対策からも背を向けていました。一方でオバマ元大統領は再生医療や気候変動研究などの方針を180度転換させ、国際共同研究を通じたイノベーションを促進したのです。
さらにオバマ元大統領は、在任中に以下の成果を挙げました。
- 研究開発予算の大幅増額に成功(特に生物医学、クリーンエネルギー、気候科学の分野)
- 脳科学、精密医療、先端製造技術、先進コンピューティング、STEM教育などの分野で、革新的なイニシアチブを始動
- 大統領令や規制を活用し、エネルギー効率化、温室効果ガスの削減、自国の気候変動対策、気候変動で影響される国への支援に注力
- 外交力を発揮し、パリ協定の合意を達成
一方で、ポピュリズムの台頭や権威主義的な政権の成長が目立つ今、世界情勢は複雑化の一途を辿り、冷静な外交が難しい状況となりました。ホルドレン氏は、トランプ政権はオバマ政権が積み上げてきた成果を台無しにする政策を取り続けたと説明しました。具体例として以下の点を挙げます。
- 科学技術の主要ポストに(ファクトよりも)政治的信条を元に意思決定を行う人や気候変動否定主義者を任命し、そうでない場合でもトランプ氏の意向に沿わない際は罷免した
- 政権発足して2年経ってもOSTP局長を任命できず、任命後も大統領補佐官には任命しなかった(OSTP局長は科学技術担当の大統領補佐官に任命されるのが通例)
- 連邦の研究機関の大幅な予算削減を繰り返し提案
- 移民やビザの規制を変えたことで留学生に様々な不都合が生じ、アメリカの大学の魅力が落ちた。アメリカで開催される学会も外国からの参加が困難になった
- パリ協定から脱退すると宣言し、温暖化対策に関連するすべての政策を停止。他にも、オバマ政権が気候変動に関して取り組んできた内容をほぼすべて覆した
- コロナウイルスの大流行に関して、公衆衛生局や外部専門家の助言と矛盾する行動をとり、国として具体策を講じることを拒否した。さらに、世界保健機関(WHO)からも脱退した
- 連邦政府機関の科学に基づいた政策に対し政治的介入を行った
- 国際的な科学技術協調のプログラムを停止したり、無視した
バイデン政権から期待できること、期待したいこと
ホルドレン氏は、次期大統領のジョー・バイデン氏と次期副大統領のカマラ・ハリス氏はファクトを重要視するスタンスを持ち、科学技術がアメリカ国内、そして世界的な問題と深く関連していることを理解していると評価しました。実際に、政権の正式発足以前からコロナウイルス感染拡大防止に対して詳細な国家戦略策定を進めており、地球温暖化政策の再建・拡大プランも組み立てていると語りました。
さらに、以下のようにオバマ政権時の路線を踏襲させるであろうと期待を示しました。
- オバマ政権時のように、科学技術政策の意思決定がなされる際は公平性と透明性を担保
- 科学技術に関する国際協力を推進するため主要パートナー国との取り組みを再び活発化
- 政権発足後は直ちにパリ協定を再締結し、世界保健機関(WHO)にも残留
日米共通の課題:自然災害への対応