SciREX ウェビナーハイライト 変わりゆく世界での科学技術と国際関係
日米共通の課題:自然災害への対応
ホルドレン博士の講演を受け、上山隆大 CSTI議員は、2016年以後はアメリカの科学に対する姿勢の変化を肌で感じていたと語りました。
上山議員「科学のオープン性、研究成果に対するリスペクト、研究の公正性、国際研究で互恵を与えることなど、日本がアメリカと共有していた理念がアメリカから消えてきたと感じていました。カーネギーグループ会合に出席した際も、アメリカは国際的な共同研究のリードを取ろうとしませんでした。このような状況の中、日本はEUとの連携を強めてきましたが、今回政権が変わることにより、アメリカと再び深く対話できるようになることを期待します。」
続けて上山議員は、第6期科学技術基本計画について言及しました。第6期科学技術基本計画は、不確実性に溢れる次の10年で、世界における日本の立ち位置を示すものだと説明しました。中でも自然災害に強い耐性をもつ社会インフラを確立することが主要なテーマの一つであると述べ、社会へのインパクトを最小限に留めるための戦略が必須だと強調しました。
これに対してホルドレン博士は、米国でもバイデン氏が「より良い形での再建(build back better)」というキャッチフレーズを元に、自然災害や気候変動に耐性の強い社会を目指しているとコメントしました。
ホルドレン博士「自然災害や気候変動に関して一定程度以上のレジリエンスを確保する必要があり、そのためには困難な状況に陥ったとしても持続可能なインフラが必ず必要になります。これまでの政策は気候変動の緩和にフォーカスしてきた背景があり、重要な一面であり続けることには変わりありません。しかし気候変動の影響が確実に見えるようになってきた今、レジリエンスの重要性も増しています。」
質疑応答:安全保障とオープンな科学
気候変動をはじめ、世界全体に関わる課題を解決するためには国際協力が不可欠です。一方で、防衛機密の流出を背景に科学のオープン化に対して慎重になるべきだとの意見もあります。
質疑応答でホルドレン氏は、オープンサイエンスと安全保障のバランスについて質問された際、科学のオープン性を損なうことで失われるものの方が大きいとの考えを述べました。
「例えば科学者の中にスパイがいて、安全保障に大きな影響が出てしまう懸念は確かにあります。しかし科学とは本質的に、コラボレーションによって発展するものなのです。つまり、コラボレーションが停滞することにより、そもそも防衛機密となる先端技術を発明する能力を失ってしまうこと方がより大きな問題だと感じています。(安全保障だけを重視していると)盗むに値する特許や知識は生まれなくなってしまうでしょう。」(ホルドレン博士)
最後にホルドレン博士は、バイデン政権下で求められる科学顧問像について語り、ウェビナーを締めくくりました。
ホルドレン博士「バイデン氏とハリス氏は 『人間性のあるサイエンス (science with a human face)』を追求しています。人間性のあるサイエンスとは、例えば貧困層、農業や漁業の従事者、肉体労働をする人々などあらゆる人に恩恵をもたらす科学のことです。バイデン氏自身が裕福ではない環境で育った時期もあることから、政策で全ての社会層の人が恩恵を得るべきだと彼は常に心得ています。将来科学顧問を務める人は、このような背景を考慮し、全ての国民に関係性のある政策に貢献できるか否かが成功の鍵になるでしょう。」