「イノベーション・エコシステムの構成要件に
関する調査・分析」プロジェクト
行政と大学の共同研究で見えてきた
「意識の共有」と「コミュニケーションのプロセス」
一緒に調査に出ることで、フィールドが
立体的に浮かび上がってくる
永田: フィールド調査では、半構造化インタビューという手法を採用し、質問項目があらかじめ全部構造的に用意されているわけではなくて、大筋の質問項目があって、適宜先方の回答によって質問項目の方向性を変えていったりしました。研究者は、このような定性的なデータを収集する際、行政の皆さんと一緒に、フィールドに出て調査をするということはまず経験がない。こうした共同研究から多くを学ばせていただきました。
私たちはどちらかというと、たとえば国の重点的な施策が入っていなくても、活発なエコシステムの形成に向けた取り組みが行われている地域がある場合、それが可能になっている要件を明らかにするところに関心がいきます。一方で行政の皆さんはさらに先と言いますか、必要な施策は何かを中心に考えます。そうした違う軸からの質問を重ねていくことで、対象が立体的に見えてくるということを経験しました。
文部科学省・中里: 行政が行くと対象者が構えてしまうこともあるのですが、先生方と一緒に行くと比較的口も開きやすくなるのも印象的でした。中には結構辛辣な意見もありましたが、それは行政単独ではなかなか引き出せない、非常に貴重な生の声だと思います。
九州大学・諸賀: 大学側としてもインタビュー調査での意見交換を通して、これまでは間接的にしか知りえなかったような行政側の考えを多層的に知ることができて、大変刺激になりました。また、今後取り組みたいこととして、事例調査の後に、お互いが感じたことや考えたことを相互にフィードバックできる場を創り出すことで、さらにプロジェクトを推し進めることにつながるのではないかと考えています。
共感と共有を生む
コミュニケーションのプロセス
プロポーザル提出前の丁寧な議論と、フィールド調査での共同研究を通して、問題意識の共有と事例への共感が生まれたと言えそうです。
藤井: やはり最初に私と永田先生で話し合いを行ったときに、お互いの問題意識を相当正直にお話したのがよかったと思います。行政として調査いただきたいことを全てお伝えし、厳しいことも含めて意見交換できたことで、その後のコミュニケーションが円滑になったと考えます。
中里: おそらく調査対象についての見方や評価の度合いというのは両者で違ってくるところもあるでしょうけれども、「あの地域のあの方は素晴らしかった」というようなエピソードを共有できたことで、先生方との距離が近づいたと感じています。
九州大学・小林: COIの拠点整備事業を受託している九州大学として、どのようにすればCOI事業を成功させられるのかという問題意識も共有しているところも個人的には大きいですね。
永田: 繰り返しになりますが、研究者としては国の政策の単なる正当化のための調査研究は絶対にできない。それをはじめにきちんとお伝えし、それをしっかり受け止めていただけた。そして一緒にフィールドを歩いているうちにワンチームになって信頼感が生まれてきましたね。行政官の皆さんは数年で異動されるということでこの関係性が続くかということも心配ですが、いまのポジションでの問題意識を持ち続けて、皆さんがその後のキャリアを積まれるということで、将来的には、行政のいろいろな部門に共同研究のパートナーがいる状況ができあがっていけばいいなと前向きに考えています。
「変革型リーダー」とイノベーション・エコシステム