「イノベーション・エコシステムの構成要件に
関する調査・分析」プロジェクト
行政と大学の共同研究で見えてきた
「意識の共有」と「コミュニケーションのプロセス」
行政官と研究者の共進化に向けた
ファーストステップ
本プロジェクトは行政側の具体的な政策ニーズ発でありながら、調査委託事業とも異なる、研究者側の意見も取り入れて十分に議論を重ねて課題設定をし、行政官と研究者が共同して進めていくところに特徴があります。九州大学側からのプロポーザル提出に至る前に、まずは両者で丁寧に議論を交わしたといいます。立ち上げ当初の思いを両者は次のように振り返ります。
文部科学省・藤井: 今回のプロジェクトは一般的な委託事業のように、私達が最初に仕様書を書いて、その通りに実施してもらうという形式では目的が達成できないと考えていました。なぜなら日本においては、イノベーション・エコシステムが確立しているという事例はまだ限られており、世の中の流れに沿って変更する要素も多いため、研究者の皆さんの専門的知見が不可欠と考えていました。
九州大学・永田: はじめに行政側の皆さんから問題意識を提案いただきまして、われわれ九州大学では地域の科学技術イノベーション政策支援などに携わっていた経緯から、ぜひ協力すべきテーマだと考えました。
「イノベーション・エコシステム」という言葉は実務的な問題意識で使われ始めたものなので、明確な概念構成ができている訳ではないのです。だからこそ生態系メタファーが通用するような地域イノベーションの仕組みというのが一体どういったものなのか、その構成要件は何だろうかっていうのは、新たな研究テーマとして挑戦するに足るものだと思い、プロポーザル提出に至りました。
ディスカッションするなかで、COI事業全体に対する政策のメタ評価というより、むしろ既存の拠点整備事業を再構成していく際に参考になるようなフレームワークを検討することに主眼があることが次第に分かってきました。
ただし既存の政策を正当化するような調査研究はするつもりはないことは伝えました。政策そのものに対するリフレクションも含めて検討の対象にしていくことが、研究者の立場から貢献できる最大のポイントだと考えたからです。
藤井: 私達も事業をより良くしていくことを目的として調査を行うこととしたため、批判的なコメントも受け入れつつ、一方で行政としては、実施中又は今後実施するプロジェクトの参考となる具体的な方策まで示して欲しいと考えていました。そのため、プロジェクトの成果として、改善提案まで含めていただくことで合意しました。
両者の視点を含めた対象事例の選定
プロジェクトは2年間かけて実施されます。まず初年度は、地域のイノベーション・エコシステムとして、特徴的な取り組みをしている5つの事例を調査しました。日本には典型的にイノベーション・エコシステムが確立していると言える地域はまだまだ少ないですが、その「萌芽」となる事例は全国に出始めています。さまざまなタイプから以下を研究対象として抽出し、インタビュー調査の調査設計、実際の調査まで研究者と行政官が一緒になって行っています。
2019年度に実施した事例調査
永田: 特徴的な事例というのは概して、その地域の企業や自治体、あるいは大学などが自主的に取り組みを始め、その後に国の補助事業の対象になるといったような形で、さらに成長を遂げていくというプロセスを辿っています。はじめから、たとえば「イノベーション・エコシステムを形成する」というような国の政策目標に沿った形で開始されたというわけでは必ずしもないわけです。
藤井: 事例選定にあたっては、必ずしも政府の補助金等の支援がある否か、また文部科学省が実施するプログラムであるか否かについては問わず、広く事例を探してもらいました。たとえば富山では大学と金融機関が中核を担って活動しているということで、もしかしたら「金融機関」というのがエコシステム構築のキーになる可能性があります。新潟の場合では、これまで新潟に根付いてない新しい産業を誘致して展開しようとしているので、他の地域でも再現可能かもしれないと考えました。また、特定の分野に焦点を当てつつ、広域的に連携しているような事例なども見られれば、特定分野のイノベーション拠点となり得るかもしれない。そういった観点で事例選定をお願いしました。
一緒に調査に出ることで、フィールドが
立体的に浮かび上がってくる