SciREX事業の成果
外務大臣科学技術顧問と
SciREX事業とのかかわり
「科学技術外交のあり方に関する有識者懇談会」の提言のポイント(報告書抜粋)
グローバル課題への対応と外交機会の活用
- 提言1:「科学技術イノベーションを通じてグローバルな諸課題の解決を主導し、望ましい国際環境の実現をはかる」との外交姿勢を確立する(科学技術外交を日本外交の新機軸として明確に位置づける)。
- 提言2:国際社会で将来的に重要になり、我が国が指導力を発揮しやすい「次なる課題」をいち早く特定する仕組みを構築する。
- 提言3:特定された課題をもとに、科学的根拠を伴う外交アジェンダを提示し、国際的取組を主導する。
外交上重要性の高いパートナー諸国や
新興国等との協力関係強化
- 提言4:外交上重要性が高いパートナー諸国との戦略的な共同研究開発を推進する。
- 提言5:日本企業の海外展開を支援するとともに、新興国等のイノベーション人材育成や科学技術イノベーションに関する政策立案能力向上を積極的に支援する。
- 提言6:地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)や第三国と連携してODAを活用する三角協力を通じた新興国・途上国との協力強化、イノベーションを重視した新興国やODA卒業国向けの戦略的共同プロジェクト立ち上げを進める。
- 提言7:人材育成協力(工学系大学支援など)を強化し、次世代のネットワーク構築を進める。
- 提言8:科学技術人材を民間交流を通じた外交活動に活用する。
外交政策の立案・実施における
科学的知見の活用強化
- 提言9:外務大臣科学技術顧問を試行的に設置する。
- 提言10: 関係府省・機関・学識経験者・産業界との連携を強化するための国内及び国外のネットワークを構築し、外務大臣科学技術顧問を補佐する体制を整備する。
- 提言11: 我が国の在外公館の科学技術担当官の能力及び人員数の増強をはかる(本省や他公館との情報共有・連携の深化、研修機会の拡充など)。
科学技術外交を支える人材の育成
- 提言12: 中堅・若手研究者を外交政策立案に参画させる(外務省内で勤務、科学技術顧問の補佐、国際機関への送り込み)。
対外発信・ネットワークの強化
- 提言13: 「科学技術イノベーションを通じてグローバルな諸課題の解決を主導し、望ましい国際環境の実現をはかる」とのメッセージを、首相や外相等のハイレベルから国際社会に対して積極的に発信する。
- 提言14: 有力な科学技術関係団体を戦略的にターゲッティングしつつ知的交流を推進し、科学技術外交ネットワークを強化する。
- 提言15: 科学者派遣や内外の展示施設など(例:ジャパン・ハウス)との連携を図り、我が国の科学技術の対外発信を強化する。
この提言には「イノベーションを重視した新興国やODA卒業国向けの戦略的共同プロジェクト立ち上げ」「科学技術顧問の試行的設置」等、SciREX研究会報告書で提唱した事項と共通する内容も盛り込まれている。あわせて、関係府省・機関・学識経験者・産業界との連携を強化するための国内・国外のネットワークを作る(科学技術顧問をハブとするネットワークにより、科学技術の専門的知見、内外の最新の動向などの専門的知見を集約して外交政策に反映させ、トップ外交、ハイレベル国際会議の機会、首脳・外相レベルの各種政策スピーチなどに活かす)ことを提言している。
外務大臣科学技術顧問の任命
2015年9月、外務省参与 (外務大臣科学技術顧問) に岸輝雄東京大学名誉教授が任命される。※7 これは、「科学技術外交のあり方に関する有識者懇談会」が外務大臣に提出した報告書の提言9(外務大臣科学技術顧問を試行的に設置する)を受けたものである。外務大臣科学技術顧問は、外務大臣の活動を科学技術面でサポートし、各国の科学技術顧問・科学技術分野の関係者との連携強化を図りながら、各種外交政策の企画・立案における科学技術の活用について外務大臣及び関係部局に対し助言を行うこととされた。
さらに、外務大臣科学技術顧問を補佐するため、2015年12月、岸田外務大臣は、科学技術の各種分野における専門的な知見を外務大臣科学技術顧問の下に集め、我が国のトップ外交やハイレベル国際会議を含む各種外交政策の企画・立案過程に活用するため、「科学技術外交アドバイザリー・ネットワーク」を構築することとし、その一環として、科学技術外交の関連分野における学識経験者に対し、「科学技術外交推進会議」の委員を委嘱した。SciREX関係者としては、白石GRIPS学長(SciREXセンター長)、有本建男GRIPS教授、角南教授が「科学技術外交推進会議」に委員として参加した。
なお、岸輝雄前科学技術顧問の任期終了とともに推進会議委員の委嘱も終了しており、現在は、松本科学技術顧問の就任後に新たに委員から構成される「科学技術外交推進会議」が開催されている。
その後
顧問の活動を支えるため、白石SciREXセンター長、有本教授、角南教授がSciREXセンター内で科学技術外交政策プロジェクトのフォローとの位置付けで、推進会議のアジェンダセッティングなどのサポートを行ってきた。
科学技術顧問が半年以上の活動をしてきた実績も踏まえつつ、2015年5月26日から伊勢志摩G7サミット会合が開催される機会を捉え、5月24日、岸田外務大臣と島尻安伊子科学技術政策担当大臣の参加も得て「科学技術外交シンポジウム:科学技術を通じた日本外交の新たな方向」が開催された。このシンポジウムの様子はSciREXセンターの広報誌SciREX Quarterlyでも取り上げている。※8
また、顧問設置から約4年が経た2019年12月には「第2回科学技術外交シンポジウム」を開催されている。同シンポジウムでは、行政、産業界、アカデミアからパネリストが集い、外務大臣科学技術顧問制度の今日までの歩みを振り返るとともに、我が国の科学技術顧問の今後の在り方について議論がなされた。※9
波及効果
2021年、自由民主党の総裁選挙に立候補した岸田前外務大臣は、その公約で「科学技術顧問を各省に設置」とうたった。※10 その後、自民党総裁に選ばれて発足した岸田政権において、2022年9月には内閣官房科学技術顧問に橋本和仁科学技術振興機構理事長が任命された。その後、2023年4月には文部大臣科学技術顧問に小安重夫量子科学技術研究開発機構理事長が※11、経済産業大臣顧問には大野英男東北大学総長が発令される※12など、各省でも科学技術顧問が置かれてきている。
岸田総理・元外務大臣に外務大臣科学技術顧問の設置とその活動の重要性に対する認識があり、それが総裁選の公約での各省への科学技術顧問設置につながったと考えられる。既に記載のとおり、外務大臣科学技術顧問の創設にSciREX事業及びSciREX関係者が大きくかかわっており、外務大臣科学技術顧問の設置が各省への科学技術顧問設置につながったと考えると、SciREX事業が行政の科学化に貢献している事例といえるのではないだろうか。