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第49回SciREXセミナー科学技術外交の近年の動向と今後の課題

科学技術・イノベーション政策のsecuritisationを踏まえて

2024年6⽉20⽇、第49回SciREXセミナー「科学技術外交の近年の動向と今後の課題 〜我が国の学術研究や産業界とのつながりを事例から考える〜」を、オンライン(Zoomウェビナー)で開催しました。科学技術外交とは「科学と外交の両⽅の推進を動機とする取り組み」を指す⾔葉です。近年、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流⾏やロシアによるウクライナ侵攻など、世界情勢は⽬まぐるしい変化に⾒舞われています。⼀⽅で、AI(⼈⼯知能)分野に代表される先端科学技術は、⽇進⽉歩の勢いで発展を続けています。科学技術外交の今⽇的な意味、そして今後の展望とは? SciREXコアコンテンツ『科学技術外交の近年の動向』※1の執筆者である有本建男⽒と浅野佳那⽒に加え、内閣官房より岩渕秀樹⽒、外務省在アメリカ合衆国⼤使館より岡村圭祐⽒をお招きし、計117⼈の参加者と共に考えました。
※本記事での登壇者の所属は開催当時のものです。

加納寛之氏

左からファシリテーターの岩渕秀樹⽒、話題提供者の浅野佳那⽒、ディスカッサントの有本建男⽒(政策研究⼤学院⼤学の会議室にて参加)、岡村圭祐⽒(⽶国ワシントンD.C.からオンライン参加)

セミナーの冒頭では、ファシリテーターの岩渕秀樹⽒(内閣官房副⻑官補室 内閣参事官)が挨拶を⾏いました。岩渕⽒は⽂部科学省に勤務していた2004年前後の⽇本の科学技術外交について「中国に対する⾒⽅が現在とは異なっていた」と回想。「当時は⽇中韓3か国の枠組みを前提として、科学技術外交が中国を包摂するツールになるとも思われていた。今⽇は、それから20年を経た変化についても感じていただける場になれば」と所感を述べました。

岩渕秀樹(いわぶち・ひでき)⽒。⽂部科学省⼊省後、欧州連合⽇本政府代表部参事官、⾼等教育局国際企画室⻑、在韓国⽇本⼤使館⼀等書記官などを歴任。

科学外交の3要素

続いて浅野佳那⽒(JST-研究開発戦略センター(CRDS)フェロー/科学技術国際動向調査室調査役)が、「近年の科学技術外交の動向」と題して話題提供を⾏いました。2010年、⽶国科学振興協会(AAAS)と英国王⽴協会が、科学と外交の両⽅の推進を動機とする取り組みを、「science in diplomacy(科学技術の助⾔による外交能⼒の向上)」「diplomacy for science(外交による科学技術国際協⼒の促進)」「science for diplomacy(科学技術による2国間・多国間の外交関係の向上)」の3要素として初めて分類し概念化。この概念を我が国では「科学技術外交」という⽤語で導⼊しました。浅野⽒は、この時期から科学技術外交に関する実践が進展し、研究論⽂の数も増加し続けていることを紹介しました。

浅野佳那(あさの・かな)⽒。2009年に科学技術振興機構(JST)に⼊職。国際業務、ファンディング制度の⽴ち上げ・運営、外務省における外務⼤⾂科学技術顧問の補佐業務を経験し、2022年より現職。

各国の科学技術外交の取り組み

話は各国の科学技術外交の実践例に移ります。まず取り上げられたのは、世界屈指の科学技術⼤国である⽶国です。⽶国で科学技術外交が本格化したのは、2000年の国務⻑官科学技術顧問と科学技術顧問室の設置がきっかけでした。各分野の著名な科学者を途上国に定期的に派遣する「⽶国科学特使プログラム」など、他国との間で⼈材ネットワークの構築などを⽬指す取り組みも継続的に実施されています。

⽶国の科学技術外交に関する取組の⼀例(浅野⽒発表資料より)〈提供:浅野佳那⽒〉

また、浅野⽒は⽶国の科学技術外交のもう1つの特徴として、⾮政府組織による活動を挙げました。たとえば⽶国科学振興協会(AAAS)は、キューバや北朝鮮など、⽶国政府が関係を構築するのが困難な国家との科学連携に関与し、現在は中国との連携を重視しているといいます。このように政府と⺠間がそれぞれ異なる外交のチャンネルとして機能していることが、⽶国の科学技術政策の強みといえそうです。

続いて紹介されたのは英国の事例です。英国は『安全保障、防衛、開発、外交政策の統合レビュー』(2021)において、科学技術を「英国の能⼒の基礎であり、またその国際的地位を維持するもの」と位置づけました。その翌年に更新されたポリシーペーパーでも「科学は共通の価値観をもつグローバルな取り組みであり、国際関係の促進に適している」としつつ「国家の威信を確保するための基本である」という⾔及があります。こうした点を踏まえ、浅野⽒は英国の科学技術政策の特徴について、科学と安全保障や重要インフラの距離が近く、両者を⼀体として推進する点にあると考察しました。また、政府省庁に科学的アドバイスを提供する主席科学顧問が置かれ、そのネットワークが発達していることも指摘しました。

EUでは、2012年ごろから政策としての科学技術外交の重要性が⾼まっているといいます。2017年にはEUの外交・安全保障戦略を⽀えることを念頭に、欧州全域を対象とする研究枠組み計画「ホライズン2020」において3つの研究プログラムが進められました。さらに、これらを通じて形成されたネットワークや影響⼒を維持・拡⼤する共同イニシアチブとして、2021年に「EU科学外交同盟」が設⽴されました。これは欧州の科学外交の枠組みの再定義を⽬的とするもので、科学外交に関する対話を持続させ、理論と実践を進展させる場となっています。

では、⽇本の科学技術外交はどのように導⼊され、推進されてきたのでしょうか。政府の公式⽂書で「科学技術外交」の⾔葉が初めて登場したのは2007年4⽉の総合科学技術会議(当時)の提⾔書でした。第4期以降の科学技術基本計画(第6期からは科学技術・イノベーション基本計画)においても科学技術外交に関する内容が盛り込まれるようになっています。
さらに、2015年には外務省に外務⼤⾂科学技術顧問が設置されました※2。実践⾯での取り組みとしては、政府開発援助(ODA)と連携して⾏われる「地球規模課題対応国際科学技術協⼒プログラム(SATREPS)」や、国際頭脳循環を⽀援する「先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)」などが⾏われています。

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