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SciREX政策リエゾン インタビュー 博士人材が広く活躍できる社会を目指して

(人材政策課 生田知子課長)

博士人材に対する認識の変化を

博士人材が一層広く社会で活躍できるようにするためには、博士人材に対する社会の認識を変えることが重要と生田課長は訴える。特定の分野に特化した専門性を持っているだけでなく、高度な課題解決能力を備え新たな価値を生み出す「これからの社会の成長力の源泉」というイメージへの転換だ。

生田知子氏

「人の価値観をどう変えられるかの話にもなってくるので、一朝一夕にはできません。博士が持つ価値の可視化が難しく、どんなデータが必要かということから、明らかにしていかなければいけない段階です。ただ、やっぱりここが一番変えたいところなんですよね……」と胸の内を明かす。スタートアップ企業などから、そこで活躍する博士人材にまつわるグッドプラクティスを集めてまとめる、それらを互いに共有できる場を行政主導で創る、企業と対話しながら何が打ち手かを一緒に考えていく―― いくつものアイデアが取材中には挙げられた。「地道かもしれませんが、そういうことをしていくことが大切かなと思っています」。

基盤の整備も、共に取り組む意識の醸成も

最後に、こうした課題群に取り組む上での難しさについて伺ったところ、2つの観点からの意見が挙げられた。まずは情報基盤の整備に関して、人材政策に限らず、日本のデータベースはまだまだ使い勝手が悪いという点である。個別のデータの蓄積は各所でなされてきたものの、項目や管理体制の一元化の点で海外に遅れをとっている現状に対する言及だ。「世の中は科学技術だけで語れません。科学技術行政というバウンダリーは存在しないのではないかと思っています。特に昨今では、ソーシャルインパクトの統合的理解という意味でも、経済はもちろん、安全保障も含めた外交や地方創生などの観点とつなげて議論することが必要なのですが、その際に手軽に入手できるオール政府としてのデータがあるとないとでは大きく違います」。

2点目は、シンクタンクといった協力者と行政との関係性のあり方に関してだ。「最初の問い立てから一緒に考えていかないと、返ってくる内容が行き違いになることがあります。また、複雑化する社会のニーズに政策が対応していくためには、問い自体が途中で変化することもあり得るのではないかと考えます」とし、行政側から要求を投げれば望ましい結果を得られるはずという期待のもと進める方法はもはや難しいことを指摘。行政側の意向をきちんとわかるパートナーと対話をしながら、フレキシブルに進めることがますます重要になるであろうことを強調する。その上で、「例えば、SciREX事業の共進化実現プログラム(3)の仕組みは、カウンターパートを明確にした上でお互いが最初の課題設定の時から理解し合いながら実施する枠組みとして理にかなっているが、重要なのはその枠組みの中で、両者がそれぞれの専門家として対等の立場に立って、現状の政策課題の解決に資する真に必要なデータは何かを考えながら、タイムリーに共創していくことだと思います」と、長年SciREX事業に関与してきた立場からのコメントで締め括った。

博士人材がより広く活躍する社会創りに向けた政策形成は、一義的には博士号取得者個人の生き方に直結することであるが、現代社会における博士人材が与え得る付加価値の大きさを顧みるに、それだけに留まらない。冒頭の生田課長の発言の通り「日本をこれからどう成長させるか、どういう国に生きるか」という大きな話に究極的にはつながる。すでに打たれたさまざまな施策の目標達成に奔走する中においても、その価値の可視化を模索しつつ、エビデンスに基づく議論や多様な立場の方々との対話(4)が継続される舵取りに期待したい。

生田知子氏

社会における科学技術の役割を考えること、世の中を変えていくような科学技術に関わることの両方に携わりたいという思いから行政に飛び込んだという生田課長。多くの部局を経験してきての現職であるが、「社会との距離感の近さ」「ステークホルダーが個人であること」「他の施策と切っても切れない課としての境界のなさ」などの点で人材政策課は唯一無二と、やりがいを語る

取材・撮影・執筆:SciREXセンター 専門職 梶井宏樹

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