1. HOME
  2. SciREXクオータリーTOP
  3. 19号トップ
  4. SciREXオープンフォーラム2022 シリーズ第3回

SciREXオープンフォーラム2022 シリーズ第3回 持続可能な社会システム実現のための
科学技術イノベーション政策をどう設計していくか
〜アフターコロナ時代に向けて〜

持続可能な社会システム実現のための科学技術イノベーション政策をどう設計していくか 〜アフターコロナ時代に向けて〜

開催報告

SciREXオープンフォーラム2022 シリーズ第3回では、「持続可能な社会システム実現のための科学技術イノベーション政策をどう設計していくか〜アフターコロナ時代に向けて〜」と題したウェビナーを開催しました。行政・アカデミア・産業界の有識者が集い、それぞれの立場からの話題提供後、パネルディスカッションを行いました。

冒頭、モデレーターで科学技術政策の研究者でもある政策研究大学院大学特任フェローの池内健太氏が自身の問題意識として、以下3点を共有しました。

池内 健太氏
  • 科学技術・イノベーション(STI)を取り巻く環境は、グローバル化、デジタル革命、気候変動問題、格差拡大、多様性と「総合知」といった潮流に加え、コロナショックの影響で急激に変化している。
  • 日本の科学技術力やイノベーション創出力は、戦後の高度経済成長、「ジャパンアズNo.1」と言われた1980年代、その後の失われた30年を経て、今、どのように評価、認識されるべきか。
  • 近年のSTI推進のために政府は何をすべきか。政策・制度設計、大学の役割と政府の大学への関与、研究資金の流れ、大学や公的研究機関の組織・システム・マネジメントはどうあるべきか。

これらの問題の答えを探るべく、各界から4つの話題提供が行われました。慶應義塾大学名誉教授の黒田昌裕氏は科学技術と経済の歴史を総括し、株式会社経営共創基盤 IGPIグループ会長の冨山和彦氏は産業界からの提言、文部科学省大臣官房審議官の坂本修一氏は行政の取り組み、東京工業大学戦略的経営オフィス教授の江端新吾氏は大学の研究マネジメントの取り組みを話しました。

有形資産投資から無形資産投資の時代へ−黒田氏

黒田 昌裕氏

科学技術振興機構・研究開発戦略センターの特任フェローも務める黒田氏は、初めに、STI政策自体をエビデンスベースで議論し、社会をデザインする「政策の科学」を構築することの重要性に触れました。

続いて黒田氏は歴史の中で日本の科学技術と社会の関係を振り返りました。日本は第二次世界大戦後に経済・社会の仕組みの大改革を経て、高度経済成長を遂げました。その後、経済のグローバル市場化とともに、為替制度改革(1970年)、オイルショック(1973年)、プラザ合意(1985年)といった局面を経て、1991年にバブルの崩壊を迎えました。現在の日本は、2000年からの長期経済停滞から未だ抜け出せずにいると黒田氏は捉えています。

黒田氏は、「戦後の経済成長は主に有形の固定資産に対する設備投資主導だったが、現在は無形資産(情報や研究開発)への投資の時代に変わっている。『研究開発への投資をどう社会に活かし、所得の不平等や格差を縮小し、民主主義をいかにして守るか』が全世界、とくに自由主義圏の社会に突きつけられている」と指摘しました。

成長のメインエンジンは大学・研究機関・スタートアップ−冨山氏

冨山 和彦氏

冨山氏は、長年、大企業・中小企業のコンサルティング、大学発ベンチャーの育成・経営支援に携わり、内閣府総合科学技術・イノベーション会議基本計画専門調査会委員など政府の委員会に有識者として参画しています。

1990年代以降は、「デジタル革命×グローバル化」により「破壊的イノベーションの時代」になったと冨山氏は表現します。「大量生産工業化社会の設備集約産業から情報化社会の知識集約産業の時代へと移り変わったが、日本企業はこの流れについていけなかった。一方で、この流れをうまく掴んだ米国も、中産階級層が成長の恩恵を受けられず、知識集約産業で活躍できた一部のエリート層とそこに投資家として関与できた富裕層のみが富み、相対的に貧困化している」と指摘します。

今後の「DX(デジタル化)×GX(脱炭素化)」時代もまた「破壊的なイノベーションの時代」になり、ここでも成長のメインエンジンは大学・研究機関とその周辺のスタートアップになり、そこに大企業が絡んでいくと冨山氏は予想します。そして、これらの成長を経済に還元するイノベーションエコシステムをデザインすることは必須だと指摘しました。そして、その好例として、mRNAワクチンを開発したスタートアップ ビオンテック社とそれを共同開発、製造販売したファイザー社を挙げました。

「日本は、世界中のイノベーターが集まってくるような場を用意し、社会を包摂するイノベーションエコシステムを考えなくてはならない。その際、GX時代を見据えて、電池や液晶の開発製造といった有形資産の延長線に進むと経済成長は期待できない。無形の新しい社会問題解決のための技術モデルを創造する方向に進むべきだ」と強調しました。

Society 5.0時代の研究開発DXプラットフォーム−坂本氏

坂本 修一氏

坂本氏からは、現在、文部科学省が取り組む、Society 5.0(サイバー空間とフィジカル空間が融合した社会)時代の研究開発のためのDXプラットフォーム構想の紹介がありました。大型の研究施設「SPring-8」やスーパーコンピュータ「富岳」などはビッグデータを生み出します。これらを利活用する基盤を整備し、そこで得られた価値を社会問題解決につなげるべく、産業界も利用できる研究開発DXプラットフォームの構築を検討・推進しています。

そして、坂本氏はサイエンスとイノベーションの関係についてのストークスの4象限を紹介しました(Donald E. Stokes, Pasteur’s Quadrant – Basic Science and Technological Innovation, Brookings Institution Press, 1997.)。1980年代の米国では、研究成果が海外で実用化され、基礎研究への投資の回収機会が減っていること(基礎研究タダ乗り)が問題となっていました。ストークスは「こうした時代に基礎研究への支持を強めるには、パスツールの象限(根本原理を追求し、用途を考慮する研究)の重要性を社会と共有すべき」と主張しました。これは今の日本にも通じていると坂本氏は捉えています。

次ページ 
「大学経営マネジメントの取り組み−江端氏」
ページの先頭へ