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破壊的・インクルーシブイノベーション SDGs達成のためのヒント

3 社会的インパクト投資の世界的トレンドと可能性(2019年11月開催)

続く第3回目のDIIセミナーでは、SDGsなどの社会的課題と資金との関係性に焦点を当てました。SDGs は、その前身であるMDGs(Millennium Development Goals2)が貧困や飢餓などの途上国の課題に重点を置いていたことと比較すると、先進国の抱える課題(健康福祉、ジェンダー、ディーセントワーク、気候変動、海洋等)にも対象を広げていることに特徴あります。2014年に行ったUNCTADの試算では、SDGsを達成するには、ODAに加え3兆ドルが必要だと言われており、民間企業や金融機関の関与も重要であるとされています。こういった背景から近年、ESG(Environment, Social, Governance)投資への関心も高まっているところです。

2.2000年9月にニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミットで採択された国連ミレニアム宣言を基に開発分野における国際社会共通の目標です。極度の貧困と飢餓の撲滅など、2015年までに達成すべき8つの目標を掲げられました。

この回では、広くはESG投資の1つとされている社会的インパクト投資で長年の実績があるインドのAavishkaarとシンガポールのPatamar Capitalの創設者をお招きし、どのような起業家に投資し社会・経済的インパクトを生み出してきているのか、そのメカニズムについてお話を伺いました。また、日本における現状については、INCJの佐藤哲さんにお話しいただきました。

Vineet Rai(Aavishkaar)氏

Vineet Rai(Aavishkaar)氏

Aavishkaarは世界に先駆けてインドで20年以上にわたって社会的インパクト投資を実施しています。代表のVineet Raiさんは「社会的インパクト投資という言葉ができる前から、社会課題解決をするソーシャルベンチャーに投資をしてきた」と言います。自身もインドで決して裕福な家庭では育ってこなかった彼は、インドの貧困と格差問題にチャレンジする起業家(廃棄物の処理、農村地区の生産性の向上)へ投資することで、それらの問題を解決に導こうとしてきました。投資先は、低所得者をターゲットにしたビジネスではあるものの、貧困層に直接投資するのではなく、貧困層を助けるという強い意志とそれをビジネスに変えるスキルを持つ起業家に投資をしています。また、Aavishkaar Groupとして、VC、マイクロファイナス、融資、コンサルティングなど様々な機能を持つ企業をグループ会社とし、エコシステムを形成しているところに大きな特徴があります。

Beau Seil(Patamar Capital)氏

Beau Seil(Patamar Capital)氏

Patamar Capitalは、 東南アジアを中心に15年ほど社会的インパクトファンド行っています。代表のBeau Seilさんは、「新興市場では、政府の政策や資金を待っていたら社会課題解決は進まない、民間の力が重要だ」といいます。教育やヘルスケアなど政府が担う機能を提供している起業家に投資をし、社会的インパクトを目指します。一方で、これから数十年は安定した人口増が予測されており、大きな経済成長が見込まれている東南アジアで投資をすることで、経済的リターンも成立させるという戦略です。ただ、現地で起業家を見つけることは簡単ではありません。ファミリーオフィスなど、現地のネットワークを持つ現地の名士とのネットワークをきちんと構築することが、成功のカギになると述べました。

INCJの佐藤さんによると、近年日本においても社会的インパクト投資への投資額も増えてはいるものの、世界と比較するとまだまだ規模が小さいのが現状、とのこと。日本でインパクト投資の課題として、同分野の投資家が少ないこと、ファンドマネージャーの経験が不足していること、インパクト投資に関連する関係者の連携が不足していることなどが挙げられました。

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実証実験による検証とインパクトの計測(2019年11月開催)
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