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SciREX事業の成果フォローアップ調査2024の結果概要

政策研究大学院大学科学技術イノベーション政策研究センター(SciREXセンター)では、2020年度と2024年度の二度にわたり、文部科学省の科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業(SciREX事業)関係者のフォローアップ調査を実施した。フォローアップ調査では基盤的研究・人材育成拠点(以下、拠点)、文部科学省および関係機関にてSciREX事業に関わった人々を対象に、本事業の人材育成やキャリア形成、ネットワークの広がりなどの効果や影響を把握するとともに、事業終了後に向けた意見や課題を抽出するためにアンケート調査を行っている。本稿では、2024年度調査の概要紹介、二回のアンケート調査のデータの比較分析結果とともに、これまでのSciREX事業の教育活動や研究活動を通じてつながりができた外部関係者の関係形成の経緯についてインタビュー調査を実施した結果も示す。そして、これらの分析から、SciREX事業による具体的な成果事例を抽出し、課題を整理して考察する。

フォローアップ調査概要

フォローアップ調査は2020年11月と2024年8~9月、いずれもオンラインでアンケートを実施した。調査対象機関は拠点(5拠点/6大学)のほか、関係機関として文部科学省、NISTEP、RISTEX、CRDSである※1。調査対象者は(A)拠点においてSciREX教育プログラムを受けた修了生、(B)拠点、関係機関にて事業に関与した教職・研究職・専門職、(C)拠点、関係機関にて事業に関与した顧問等シニア、(D)文部科学省にて事業に関与した行政官、の4種類である。なお、調査対象者には(B)~(D)の異動者、退職者も含む。2024年調査では2020年調査の対象者だけでなく、その後に増加した関係者も対象者として追加した。

2020年調査と2024年調査における設問と回答形式はほぼ同一であり、一部の問い表現が若干異なる程度である。質問は対象者ごとに異なるが、対象者の属性、SciREX事業との関わり、キャリア形成や現在の職・ポジションとの関係、SciREX事業の内容と効果、行政官に必要な能力・知識、政策形成と政策研究の関係、今後に向けた意見・要望、といったカテゴリーに分けられる。

※1

【基盤的研究・人材育成拠点】
・政策研究大学院大学 科学技術イノベーション政策プログラム(GIST)
・東京大学 科学技術イノベーション政策の科学教育プログラム(STIG)
・一橋大学 イノベーションマネジメント・政策プログラム(IMPP)
・大阪大学/京都大学 公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)
・九州大学 科学技術イノベーション政策教育研究センター(CSTIPS)
【中核的拠点機能】
・政策研究大学院大学 科学技術イノベーション政策研究センター(SciREXセンター)
【関係機関】
・文部科学省(MEXT)
・文部科学省 科学技術・学術政策研究所(NISTEP)
・科学技術振興機構 社会技術研究開発センター(JST-RISTEX)
・科学技術振興機構 研究開発戦略センター(JST-CRDS)

2024年度調査の結果概要

2024年調査では、修了生において、SciREX拠点教育プログラムは「満足だった」「どちらかと言えば満足だった」を合わせて98.6%であり、2020年と比べると満足度が5.1ポイント上昇している。プログラムで学んだことや経験が比較的役に立っていると回答した者は9割近くに達しており、自由回答によると、他学生や教員との交流やつながりの場としてもプログラムが評価されている。

教職員等においては、研究成果が政策の現場などで一部でも活用されたとする回答割合が7割を超えている。SciREX事業の中で担当した教育や人材育成に関する取組については、「サマーキャンプでのグループ担当・学生指導」が最も高く、「拠点教育プログラムの講義の検討・実施」や「拠点教育プログラムにおける学生指導」も比較的高い。

顧問等シニアにおいては、人材育成についての肯定的な意見が複数見られた一方、改善点としてはデータの蓄積や質の評価、人材育成や交流などが挙げられた。SciREX事業における研究活動に関しては、政策担当者と研究者との相互理解の促進や定期的な議論が評価されている。

行政官では、現在の職においてSciREX事業での経験が比較的役に立っていると回答した割合は55.2%である。否定的な回答には、異動や転職等により役立てにくい分野に従事してしまったという理由が多い。行政官が研究プロジェクトに関与する上での課題認識や改善点についても、人事異動に関する意見が多くなっている。

2020年調査と2024年調査の比較分析結果

フォローアップ調査の対象者数は、2020年調査の519名に対して2024年調査は910名と増加したが、回収率はそれぞれ45.7%、18.1%であった。なお、回収率が減少した理由としては、両調査の設問がほとんど変わらなかったため2020年調査の回答者が2024年調査に回答する意欲が働きにくかったことや、調査依頼方法が変わって回答する義務感が薄れたことなどが推察される。

2020年調査と2024年調査の結果を比較分析したところ、まず、修了生において、SciREX拠点教育プログラムで身に付いたこととして、科学技術・イノベーションの体系的理解、政策及び政策形成・実施過程の体系的理解、手法や方法論の習得、研究・政策の実践的能力の涵養、学際的で柔軟な思考力の獲得(STIGのみ)、研究開発マネジメントに対する知見(IMPPのみ)のいずれも、2020年調査に比べて2024年調査で肯定的に答える割合が増加している。また、満足度も拠点にかかわらず高く、満足度が高い人はプログラムを他の人にも薦めたいと答える傾向にある。なお、学生を対象とした「今度の進路に関する現時点での希望」は、研究者や学生(進学)を希望する割合が増加している。

教職員等においては、現在の職やポジションとSTI政策の研究・実務との関連がやや低くなっている反面、研究成果が政策の現場等で活用されたことがあるという回答がやや増えている。SciREX事業の中で担当した教育や人材育成に関する取組については、サマーキャンプでのグループ担当・学生指導を経験した割合が増加している。

行政官においては、SciREX事業への関わり方として政策リエゾンや共進化実現プロジェクト担当、SciREX事業担当という直接的な関与に限らず、行政官研修の受講や学生として参加するなど、関与形態が多様化している。また、SciREX事業での経験が役に立っていると回答する割合も増えている。

SciREX事業の拠点や関係機関のネットワークの活用意向については、2020年調査に比べて2024年調査では修了生、教職員、行政官のいずれも減少している。ネットワークに関して2020年調査では教職員から「他大学の学生と交流がはかれた点」が評価された一方、「学生の国際的な交流がもっとできればよい」「専門分野の異なる拠点間の連携」「研究や教育プログラムを通じて、もっと拠点間で関わりを持つべきだと思う」というようにさらなる改善を求める声もあった。2024年調査でも、教職員から「他学生との交流の機会がよりあれば良かったと思います(オンライン等を含む)」「改善が望まれる点としては、教育プログラムとしての横での連携機会がほとんどないことが挙げられる」という声が続いていたことから、現状のネットワークに基づく交流や連携が不十分であるために、そうしたネットワークを活用したいとは思わないという回答傾向が高まっている可能性が考えられる。ただし、Alumni/同窓会ネットワークの活用意向については、IMPPとCSTIPSの修了生において割合が高い。両拠点とも社会人受講生が比較的多く、同窓会ネットワークも堅調に継続していることから、ネットワークを活用したいという期待が高くなっていると推測される。

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「関係作り」について外部関係者へのインタビュー
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