SciREXサマーキャンプ2024政策提案プロセスを体験。
参加者たちが議論を深め合った3日間
つなぐ力、越境する力を発揮しやり切った最終日
2024年9月13日〜15日の3日間、科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業(SciREX 事業)の一環として、SciREX
サマーキャンプが東京・六本木の政策研究大学院大学(GRIPS)で開催されました。
13回目となる今年は、SciREX事業の人材育成拠点がある6大学(GRIPS、東京大学、一橋大学、京都大学、大阪大学、九州大学)および名古屋大学から、約50
人の学生が参加。多様なバックグラウンドをもつ参加者たちが知見を出し合って議論を進め、具体的な社会課題を想定した政策提案プロセスを体験する貴重な機会となりました。充実した3日間の様子をレポートします。
静かな熱気に包まれた最終発表会
全国7大学から多様なバックグラウンドを持つ人材が集結した「SciREXサマーキャンプ2024」も、いよいよ最終発表会です。GRIPS内の大ホールに参加者、審査員、教職員など関係者が集まり、午前10時から各グループ15分間の政策提言と質疑応答が行われました。
今年は、実行委員会の提案によって例年のように賞を設けて順位付けをするのではなく、採点とフィードバックに比重を置くプログラムに変更。以下の3点が審査基準として参加者にも周知されていたことで、政策提言をまとめる上でのガイドラインとなったようです。
審査の観点
- 1)課題設定(現状把握・課題設置の適切さ、着眼点のユニークさ、新規性)
- 2)政策提案としての完成度(エビデンスの扱い方、客観性、議論のプロセス、具体性、実行可能性、費用対効果)
- 3)表現力(理解のしやすさ、質疑に対する応答の的確さ、理論性)
審査員は平川秀幸教授(大阪大学)、飯塚倫子教授(GRIPS)、迫田健吉産学連携推進室長(文部科学省)、中川尚志海洋地球課長(同)。発表後の質疑応答や講評の場面において、各氏の持つ知見や実社会でのエピソードを交え丁寧にフィードバックを行ってくださいました。
「斜面市街地」をスマートシティ化する輸出構想
実行委員の吉村氏による開会の挨拶に続いて、早速最終発表がスタート。トップバッターは『課題解決に向けたスマートシティの社会実装』をテーマにディスカッションを行ってきたグループ。全員で登壇します。政策提言のタイトルは「国際的モデルとなる斜面市街地の整備 再現可能性のあるスマートシティの輸出」です。海外のスマートシティ事例の多くは平坦な都市であることから、日本に多い斜面市街地をスマートシティとして再整備し、斜面市街地の国際的モデルを構築。それを輸出するという政策提言です。
斜面市街地のメリットやデメリットを提示した上で、2030年までに実験的な導入都市の選定、座組を行い、具体的な導入サービス内容を検討。2035年までに法整備や予算整備、効果検証を終え2035年以降に本格的に導入段階に入るとまとめました。
続く質疑応答では、審査員から「国際的な視野で横展開を狙った野心的な内容である」と評価を受ける一方、斜面都市のデメリットを解決し斜面都市の魅力を引き出す具体的なプロセスを細かく提示して民間を動かすことが資金の面でも重要なのではないか、またそれについてどのようなディスカッションがあったのか教えてほしい、という質問があがりました。
これに対しメンバーは「このプランを検討する際、政策でなければできないことは何であるのかを考えたため、サービスの一つ一つの部分はあえて対象外とした。自治体と協働した企業は新しく海外に進出するきっかけを作ることができる、という観点において投資と同じだと考えている」と応じていました。
ワークロンガー時代のジョブマッチングとは
人生100年時代、高齢者がより長く働くワークロンガー時代に則した政策提言も行われ、今日重要視されるテーマが会場の関心を引きました。タイトルは「ワークロンガー時代における持続的な高齢者雇用のための具体的方策〜高齢者向けAI支援ジョブマッチングプラットフォーム構想〜」です。
65歳以上の就業者数が20年連続で前年を上回り、就業意欲も高まる中、その能力を十分に発揮できる環境をどのように作り出すのか。また生産年齢人口が急減する日本社会において高齢者の就業促進は経済成長にもつながるのでは、と提言し、高齢者向けの転職支援をAIによるマッチングで行う構想を提案しました。中国が法定定年の年齢を段階的に上げていることや、同国の柔軟性のある高齢者雇用の事例も合わせて紹介するなど、多角的なエビデンスに基づいた政策提言を行いました。
これに対し質疑応答では、「高齢者はそもそもデジタルツールに入力して登録するのが難しい、という側面がある。AIによるマッチングと人的なアシストをうまく融合させるといいのではないか」、「健康面の不安への対応はどうか」などの意見があがりました。メンバーは「データの入力についてはサポーターを配置するなどの支援を検討するほか、健康や体力面に配慮して自動運転を導入した通勤支援も行っていきたい」と回答しました。
博士人材のキャリア形成と産学連携を考える
「博士人材イノベーション牽引プロジェクト」も、参加者の関心を集めたテーマの一つ。これは、博士後期課程の学生の産学連携マネジメントスキルを培い、イノベーションエコシステムを担う人材としてのキャリア形成を支援するというものです。産学連携における人材育成の現状と課題を関係者からヒアリングし、企業との人的交流などを通して博士人材を活用する政策提言にまとめました。
審査員からは「現状、産業界の人材クオリティは大変ネックになっており、鋭い視点を持った提案だった。ただ難しいと感じたのは、社会人博士が大学側に移る時に、企業側からすれば投資して採用した人材が流出してしまうという側面があるのでは」との意見が出されました。これに対しメンバーは「社会人博士が大学に転籍するということではなく、出向するかたちを取り企業側のニーズをきちんとフィードバックする前提で考えている。将来的に産学連携がうまくいって、連携企業のブランド力向上につながると思う」と回答しました。審査員からは大学と企業、産学の人材交流によるそれぞれのメリットをどうやって見える化していくのか、今後も議論を続けてほしいとエールが送られました。
昼休憩を挟んで、午後2時過ぎには全12グループの政策提言と質疑応答が終了しました。午前中に発表を終えたグループも集中を切らすことなく発表や審査員のコメントに聞き入っており、会場は終始静かな熱気に包まれていました。
審査員より、全てのグループに5分間のフィードバック