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成果・資料

【SciREX-WP】 ノーベル賞と科学技術イノベーション政策 : 選考プロセスと受賞者のキャリア分析

タイトル

ノーベル賞と科学技術イノベーション政策 : 選考プロセスと受賞者のキャリア分析

英語タイトル

Nobel Prize and Science, Technology and Innovation Policy : An analysis for selection process of Nobel Laureates and their scientific carrier

著者名

赤池 伸一

原 泰史

中島 沙由香

篠原 千枝

内野 隆

キーワード

Nobel Prize and Science, Technology and Innovation Policy : An analysis for selection process of Nobel Laureates and their scientific carrier 

発行日

2016/5/31

出版者

政策研究大学院大学科学技術イノベーション政策研究センター

シリーズ番号

#03

URL

https://grips.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=1581&item_no=1&page_id=13&block_id=24

シリーズ名

SciREX ワーキングペーパー

概要

科学技術イノベーション政策を議論する上で、ナショナルイノベーションシステムにお ける基礎研究の役割を明らかにすることは重要な課題である。



本稿では、基礎研究を評価し、 その社会的な影響を把握するための手段としてのノーベル賞に着目する。 本稿における議論の出発点のひとつとして、2000 年以降の日本出身のノーベル賞受賞者 の増加が挙げられる。第二次大戦以降、西欧諸国出身の研究者の受賞率が減少し、アメリカ 出身の受賞者の割合が増加するなか、日本出身の受賞者の割合は 2000 年代以降増加している。このことは、科学技術イノベーション政策、特に基礎研究に対する支援方策の在 り方を検討するうえでいくつかの視座を与える。なぜ日本出身のノーベル賞受賞者は増加 したのか。彼らにはどのような共通点はあるのか。ノーベル賞受賞者の増加には、政府の科学技術イノベーションに対する取り組みが影響しているのか。



もし影響しているとすれば、 どのような役割を果たしたのか。これらの疑問に対し、ノーベル賞が授与された研究成果お よび、これらの研究成果を生み出した研究者の業績・経緯について精査することで、優れた 科学的発見がどのようにして生み出されたのかを明らかにするとともに、そのとき、研究者 の研究活動を支援する政策がどのように実施されていたのかを精査することが本研究の目 的である。 本稿では予備的な調査として、(a.) ノーベル賞の受賞・選考プロセスに関する調査, (b.) ノーベル賞に係る既存研究の調査および、日本の科学技術政策におけるノーベル賞の役割 のサーベイ, (c.) ノーベル賞受賞者が研究を行った時期に係る定量的調査, (d.) 日本出身の ノーベル賞受賞者に対する科学的キャリアの分析を行った.



ノーベル賞の授賞・選考プロセスに係るヒヤリング調査からは、ノーベル賞の選考が厳し い守秘の下で厳格な手続きで行われていることを明らかにした。ノーベル賞の選考関係者 へのインタビューで指摘されているように、地道な基礎研究や人材育成が重要な意味を持 つこと、特に、研究成果が国際的な学術コミュニティの中で認められることが必要不可欠で あり、さらに社会的な意義を持つ研究成果が重視されるケースも多い。



ノーベル賞の既存研究に係るサーベイからは、従来個々の受賞者のケースを基にして、演 繹的に社会的、科学的影響を明らかにしようとする定性的な研究から、近年では学術論文や 特許情報データを用いることで、研究者としての属性や科学コミュニティへの効果を推し 量ろうとする定量的な研究が増加していることが確認できた。 また、これまでの科学技術基本計画におけるノーベル賞の位置づけについて分析を行っ た。第 2 期および第 3 期科学技術基本計画では、ノーベル賞の受賞者数について「50 年で 30 人」という目標を掲げていた。こうした目標を政府が明示したことに対するメディアお よびノーベル賞関係者の反応をヒヤリング調査したところ、当初はネガティブな反応が多 かったものの、基礎研究や科学人材の育成の重要性を強調するためのスローガンのひとつ として、後に好意的な評価が高まってきたことが確認できた。



ノーベル化学賞、生理学医学賞および物理学賞受賞者を対象とした分析からは、(1) 受賞 者の多くは 30 代中盤から後半にかけて受賞に至る重要な研究 (コア研究) を行っているこ と, (2) コア研究を行う時期は分野により異なり、近年高齢化している分野 (物理学)と若年 化している分野 (化学) が存在すること, (3) 研究から受賞までの年数は近年増加している こと, (4) それ故に, 受賞時の年齢は近年特に老齢化していることを明らかにした。 また、日本出身のノーベル賞受賞者を対象とした研究キャリアの分析からは、受賞者の多 くが多彩なキャリアを経ていることを明らかにした。また、他国出身のノーベル賞受賞者に 比べ、コア研究に取り掛かる時期や、受賞時の年齢がより高いことを明らかにした。 



しかしながら、企業での就業経験や主にアメリカへの留学経験など、複数のコミュニティに 属した経験や、外部の知識を積極的に吸収しようとする姿勢が、革新的な研究を生み出す上 での有益であったことは示唆できる。



ノーベル賞受賞者の研究者としてのキャリアは多様性に富んでおり、後にノーベル賞を 受賞するような優れた研究成果を生み出す科学者を育成するために参考と成り得るような、 いわゆる「黄金律」は存在しない。しかしながら、留学制度、大学内組織あるいは科学コミ ュニティ内にて知識の交換を支援する仕組みづくりなど、制度上研究者が自由度の高い研 究活動を実施し、それを後方から支援する制度設計が、革新的な研究を支援するうえで重要 な役割を果たしてきたことを示唆できる。



今後の研究として、ノーベル賞を受賞した研究者の学術論文、特許、ファンディング情報 を相互に突合することで、ファンディングやキャリアにおける職位や組織内での環境が、研 究活動に果たした役割を精緻に分析する。これにより、科学技術イノベーション政策が研究 者に果たす役割をマイクロレベルで解析し、望ましい制度設計の在り方を模索する。 

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