1. HOME
  2. SciREXクオータリーTOP
  3. 29号トップ
  4. 2025年度 第5回SciREXオープンフォーラム

2025年度 第5回SciREXオープンフォーラム「科学技術イノベーション政策における
『政策のための科学』」推進事業
(SciREX事業)の挑戦と成果

5.政策現場が求める人材像 - 元行政官の視点から

 最後に、情報・システム研究機構副機構長の斉藤卓也氏が、政策と研究とをつなぐためのSciREX事業が15年を通じて、意義や目的に沿った歩みを遂げてきたかを、科学技術政策を推進する行政の立場から話しました。斉藤氏は、文部科学省でSciREX事業の立ち上げに深く関与し、初代のSciREX室長となった当事者として、思い入れを込めて振り返ります。

 冒頭、斉藤氏はSciREX事業誕生の最大のきっかけとして、2009年の事業仕分けを挙げました。当時の与党の国会議員から突き付けられたスーパー・コンピューター開発に対する「一番でなければダメなのか」という発言に対して、当時理化学研究所の理事長であった野依良治氏が発した「不用意に事業の廃止、凍結を主張する方には、『歴史という法廷』に立つ覚悟ができているのか」という問いは、「政策立案、科学技術イノベーションに関する大きなインパクトを起こした」と当時の衝撃を振り返りました。
 また、当時内閣府が行った研究者のキャリアパスに関する調査結果も、SciREX事業開始に影響したと語りました。「『現在の研究者のキャリアパスは、これから研究者を目指す人にとって魅力が十分だと思いますか』というアンケートで、全く足りないという人が60%以上、あまり十分とは言えない人を足すと回答者のほとんどとなった」といいます。さらに、別のアンケート結果と重ねると、事業仕分けで叩かれた科学技術について、「最もノーベル賞を取るような成果を出す30代の人が、(研究者は)全く魅力のない職業と答えた年代と重なる。けれども、政策は(日本学術会議会員の数が多い)60代の人がほとんど決めている」という構造が明らかになりました。斉藤氏は「この仕組み自体が、もう限界なのではないか」と感じたといいます。
 これらの政治的背景を踏まえて、文部科学省は、客観的根拠に基づく政策形成を目指して「科学技術イノベーション政策のための科学」を構築すべく、政策形成プロセスと共進化させていく、車の両輪として推進するという指針を策定したと説明しました。
 初期のSciREX事業を推進する委員会の構成にもこだわりがあったといいます。斉藤氏は、政策立案プロセスを変えることが車の片輪となって共進化が進められることから、「政策のための科学ですので、政策の方、当時の文部科学省の担当局長も事業の推進委員という肩書で入ってもらい、一緒にこの事業をどうしていくか考えていった」と述べました。
 15年を経た現在のSciREX事業の評価として、斉藤氏は「大学での活動、人材育成、JST-RISTEXの研究は、それなりの規模で進み、成果も出ているという印象」と一定の進捗を認めつつ、「科学技術行政システム全体がどれだけ変わったのか、政策形成プロセスが進化したのか、そこには、まだ少し課題がある」と評価しています。
 特に人材育成については、行政機関や大学、ファンディングエージェンシーなども含めて、人が流動しながらキャリアパスができていくことも当時は想定していましたが、日本の組織風土として人材が流動的ではないこともあり、「引き続きの課題と思っている」と述べました。ただし、行政とのつながり、政策立案とのつながりはもう少し求めたかったといいます。行政官が(異動によって)入れ替わることは当初から想定されていたために政策リエゾン制度を作ったものの、「必ずしも機能しなかった面がある。反省材料だ」と述べました。今後、行政側ではない方面からの双方向の歩み寄りの必要性も挙げつつ、15年間ある程度の予算や人員が、行政ではない機関に配分されてきたことを踏まえると、「大学やファンディングエージェンシーの方からもっと行政へ積極的にアプローチがあってもよかったのではないか。つなぐという意味では、まだ今後いろいろ取り組むことがある」と締めくくりました。

斉藤氏作成資料

6.パネルディスカッション - 共進化を担う“つなぐ”人材の未来像

 3名からの発表を踏まえて、政策と研究をどのようにつなぐかをテーマにしたディスカッションへと移りました。安藤氏は冒頭、15年間のSciREX事業を振り返り、「つなぐ人材や機能は、やはり必要であることで間違いないだろうという前提を確認した」と議論の出発点を示しました。その上で、「では、具体的に実際につないで共進化する、そしてEBPMを実現していくために、どこに、どのようなつなぐ人材や体制、機能が必要か」をパネリストに問いかけました。

安藤氏作成資料

 祐野氏は、自身の2つのプロジェクト経験から、「プロジェクトだけでつなぐというのは限界があり、かつ、その行政側の所掌範囲というものだけに縛られていては、エビデンス、研究の結果は出てこない」と指摘。「やはりプロジェクトではなくて、プログラムレベルで何らかのつなぐ機能が必要なのだろう」と述べました。共進化プロジェクトが個別の所掌範囲に縛られ、行政官の異動が弊害となる中、「もう1つ高い視点からつなぐ機能というものがあると、より自由度が上がったり、議論が、ディスカッションが進む」と提案しました。
 黒河氏は、「“つなぐ”ということは、とても難しい。先ほど、スキルフルだという話をしましたが、誰か、研究をした経験がある人で、研究現場を離れた人に任せればいいみたいな話では到底ない」と強調。「やはり、つなぐ人材に求められるスキルとナレッジみたいなものをちゃんと体系化して、それをトレーニングしていくっていうことを本当に取り組めたかが、少しこの事業としての課題だった」と振り返ります。ただ、コンピテンシーは割と明確になっていたことから、次に考えることは、誰がどのように提供していくかだと述べました。さらに、改めて「研究者に全てを求めるのは無理だろう」とし、「研究の生産性も落とさずにコミュニケーションもできるのは素晴らしいことですが、すべての人にそれを要求するというのは難しい」と指摘。「これを媒介できる人は、本当の意味でエフォートやリソースを割いて、評価を携えて育成していくというのを本気でやれるかが、次のチャレンジ」と述べました。JST-RISTEXの観点では、プロジェクト側から期待されたのは政策側とのコミュニケーションのチャンネルをプログラム側で支援することだったと述べ、プログラム側の資源、能力の問題など、さまざまな制約の中で、つなげられるものはつなぐべきだったが、自分たちが持っている資源に限りがあることを前提にして、担保できないものについて、より広いネットワークの中に自分たちを位置付けておかないと、(コミュニケーションが)スタックしてしまう、そういうジレンマに陥ると語りました。
 これに対して安藤氏が、「共進化実現プログラムは、担当課室に紐づいていたことで、現場に近い良さと、逆にその縛り、制約が出てしまう弊害もきっとあっただろう」とフォローしました。その上で「こういった(SciREX事業のような)ことを今後新たに実施する時に、より良い課題設定を実際どうしていくのか、政策リエゾンのように、人や機能、制度みたいなもので担保していくにはどうすれば良いか」と述べました。また、公募型プログラムについて、「所管の科学技術振興機構も、本当の意味で行政の中にいない状況でプログラムマネジメントをする辛さがきっとあったのではないか。そうすると、実際どこがプログラムのそういう(つなぐための支援)機能を持って、動かし、そして、どういう人が担っていくべきか考えなければならない。行政側のリソースの少なさもある中で、どういった人たちと連携していけばいいのか」と問いました。また、黒河氏の話題提供で出された研究者側に求めるコンピテンシーについて、「行政官がつなぐこと(役割)をする場合のコンピテンシーも必要なのではないか」とも加えました。

 斉藤氏は、「研究者で、そういう(研究と政策とをつなぐ)ことができる方はスーパーマンだという話があったが、たぶん行政側もそうだろう」と応じ、「目の前に山ほどある日々の仕事をしながら、長期的な目線で研究者ともお付き合いして最先端のエビデンスをもって、長い目で政策を考える。その両方ができている人がそんなにいるのだろうか」と行政側の現実を述べました。その上で、「やろう、やりたい、やるべきだと思っている人同士が、まずはつながっていくことは共進化プログラムである程度できていたのだろうが、(今後も)少しでもいいからやっていく、増やしていくということなのだろう」と展望しています。また、社会課題もどんどん複雑になり、技術の進化も速くなっていることから、「コンサルや大学であればURAなどが(研究者と行政の)間に立ちながら、最先端の研究の成果を政策につないでいく機能は絶対にニーズが高く、求められているだろう。そこをしっかり考えていかなければならない」とも述べました。斉藤氏は、そこに特別な技能が要されるのであれば、例えばSciREXセンターが担うなど、意識して“つなぐ”ところの技能を強化する必要はあると考えています。
 これに対して再び安藤氏は、「実際にこれを続けていく、どこかへ機能を埋め込もうとすると、具体的に実施方法かプログラムなどを考えなければならない。このデザインは結構難しい」と述べました。シーズ型、ニーズ・プル型、共創型などさまざまな取り組みの中に、さまざまな課題があることから、「永遠に埋まらないギャップをいかに埋めていくという話ではないか」と考えるためです。特にEBPMのサイクルの中になかなか位置付けにくい場合であっても、一部を切り出して共に歩んでいくような仕掛けを、今後も短期的・中長期的両方の目線を持ちながら進めるには、どういった座組でやっていくのが良いかと問いかけました。

 黒河氏は、「UK Research and Innovation (UKRI)による取り組みのP2R(Policy to Research)のように、1周回って再度政策立案者側をエンゲージメントしたファンディング・プログラムを用意するのは、1つの方法」とし、これは車輪の再発明ではなく未完のミッションであり、走らせ続けることでトレーニングしたり、さまざまな資源を豊かにしていくと述べました。トレーニングも、研究者向け・行政官向けの枠組みを設けて合わせ技にしていくなど、複合的な組み合わせによるプログラムのリデザインはあり得ると提案しました。
 その中で、安藤氏は「STI政策が広がっていき、いわゆる科学技術研究の振興だけでなく、イノベーションにまたがるようになっている。英国のP2Rも同様の広がりを見せている」ことを取り上げて、地方行政も射程に入れながらSciREX事業のドメインをどう定めていくべきか、さらにパネリストに問いかけました。
 斉藤氏は、事業立ち上げ当初も同様の議論をしたといい、「当然政策研究が政策立案に貢献するのは科学技術イノベーション政策だけではないが、きっかけと文部科学省がやるべき部分はまさにそこ(科学技術イノベーション政策)だった。文部科学省と近い関係にある大学という同じコミュニティの中で、まず科学技術イノベーション政策から始めていい循環にしていく」との考えで始まり、そしてゆくゆくは全ての政策に広がり日本全体の政策が良くなることを期待したと振り返ります。「今まさに科学技術イノベーション政策自体がどんどん広がり、いろいろな省庁と一体化することは歓迎すべきこと」と述べ、うまくつながっていけば、15年間のSciREX事業の活動を元に、さらに広がっていくのではないかと展望しました。
 また、最先端の政策研究と、行政が結びつくという面は、「ある程度行政と話をする接点を持ちながらも、研究をバリバリやって成果を出して頂き、それを元に政策を育てるといった“種を蒔いておく”みたいな話と、もう1つ、既にある成果を使って、どうやって政策立案につなげるかの2つのアプローチがある」と提示し、もしかすると後者には共進化という観点が抜けていたのではないかと述べました。この点について斉藤氏は、教育の現場などにいかに行政官が入って一緒にやっていくという話とも関係があるように感じていると述べました。

 最後に安藤氏は、各パネリストに一言ずつコメントを求めました。祐野氏は「私自身、京都大学でSTiPSのプログラムを学生として受けて、さらにプログラムで教育する・担当するという立場となった。午前中の『STI政策人材育成教育プログラムによる15か年の取組の成果とこれから』のパネル討論で川上浩司先生(STiPS)から「本学でURAをそれほど排出できなかった」という課題が挙がったところ。その課題の背景には、もちろん大学という受け入れ側の問題もありつつも、政策過程における知識などをテーマとする公共政策学といった従来の学部や研究科の科目構成だけでは足りないからこそ、何らかの新しいプログラムを立ち上げて実施してきた。その点では、まだ道半ばのURAという機能というものを、もう一度見つめ直してもいいのではないか」と展望しました。
 黒河氏は「私自身、まさにつなぐ役割も担ってきた。これは楽しくて仕方ない仕事だなと思う。ずっとこれをライフワークにしていきたいと思えるような、仕事に巡り合わせていただいて、SciREX事業には本当に感謝している」と述べ、「同時にこの仕事が自分にとって研究の題材になっている。つなぐ人材としての役割を追求し、楽しめるような人たちを、もっともっと刺激し、育てていくようなプログラムが今後出てくるといい」と期待を示しました。
 斉藤氏は、リエゾンの活用や(SciREX事業を通じて)できた研究者のコミュニティ、行政のコミュニティの一層の活用を提案し、「サマーキャンプは継続して実施されてきた。あのような場に行政官や研究者たちが一堂に会して、もっとウェットな接点というものを持てると、より具体的に、色々と変わっていく」と締めくくりました。
 政策現場と研究をつなぐためには、実践を積み重ねることが必要です。今回議論されたような事業を通じて見出された具体的な提案が、今後、SciREX事業が目指した共進化の一層の推進に活かされることが望まれます。

以 上

次ページ 
特別講演「計算社会科学を基盤とした政策科学の新展開」
  • 1
  • ・・・
  • 6
  • 7
  • 8
  • ・・・
  • 11
ページの先頭へ