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2025年度 第5回SciREXオープンフォーラム「科学技術イノベーション政策における
『政策のための科学』」推進事業
(SciREX事業)の挑戦と成果

2.修了生が語る学びと実践の架け橋

 中盤では各拠点の修了生6名もオンラインで参加し、加納氏の進行により、その生の声を通じて、受講のきっかけやプログラムによって育まれたものや、現在のキャリアが報告されました。加納氏自身もSTiPS大阪大学プログラムの修了生であり、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) CRDSフェローを務めた後、2025年4月から民間企業に勤めています。今回参加した修了生たちは、現在、国立研究開発法人、大学等のアカデミア、中央省庁や地方自治体の行政機関、そしてイノベーション推進の中核を担う民間企業でそれぞれ活躍しています。このような多様なキャリアパスが実現されたという結果において、特に注目すべきは、修了生が単に知識を習得しただけでなく、実践の場で新たな価値を創造していることです。

 国立の研究機関で活躍する修了生として、2名からお話を伺いました。
 修士課程時にSTiPS大阪大学プログラムを修了した石尾麻由氏は、現在、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に所属し、新エネルギー産業関連研究開発の支援職に就いています。受講のきっかけは、2011年の東日本大震災にあります。当時は物理学科の学部生で、近隣研究室で行っていた福島の土壌の放射線量測定に協力した際、科学的に正しい放射線量に対して社会のさまざまな反応があり、一度科学と社会との関係を学びたいと考えたと述べました。プログラム内で多様な方々と議論する中で、自分の中の軸ができ、科学と社会をつなぐことに魅力を感じて進路として現職を選んだといいます。
 CSTIPS修了生の内田祐紀哉氏は、現在、水産庁からの出向として国立研究開発法人水産研究・教育機構で未利用資源・漁場の開発や新たな漁業生産方式の企業化に向けた実証調査に従事しています。修士課程の2年間にSciREX事業に関わり、2022年サマーキャンプの実行委員も務めました。入学時に手にしたプログラムのフライヤーが受講のきっかけとなり、「政策と科学とをつなぐことが将来の選択肢を考える上で重要」と考えたと述べました。結果、科学技術社会論などで多様なバックグラウンドを持つ方々とともに学んだことが、視野を広げる機会になったことを振り返りました。現在のキャリアについては、水産業が大学進学前から身近にあったことに加え、(プログラムを通じて)人知の及ばない自然に対しても可能な限り科学的な根拠をもって政策立案していくことを考える必要性に気づき、選択したといいます。

 アカデミアで医師や教員として教育・研究に取り組む修了生として、3名からお話を伺いました。
 GiST修了生の沼尻保奈美氏は、夜間修士課程でのプログラム参加が、国立研究所職員として8年間勤めた自分の進路を見つめる上で大きな転機になったと述べました。(入学)当初は、企業等の最前線で活躍する他の受講生に気後れすることもあったが、多様な講義を受講するにつれて視野が広がり、学ぶ楽しさを感じたそうです。特にオープンサイエンスに実務でも触れたことによって、「研究現場をより良くするために政策そのものに直接寄与したいという考えが強くなり、博士課程に進学した」といいます。博士課程ではJSPSの助成を受けてオランダ・ライデン大学のCWTS(科学技術研究センター)に短期滞在して国際的視野や人的ネットワークを広げました。現在は、博士課程の研究テーマであったオープンサイエンスに関わる助教職に京都大学で就いており、「大変嬉しく思っている」と語りました。
 東京大学医学部附属病院に勤める佐藤靖祥氏は、2024年2月に新設された臨床腫瘍科の立ち上げスタッフとして従事しています。博士課程の4年目に臨床研究に打ち込みながら1年間だけSTIGへ参加しており、その理由として、医療現場が抱える課題を政策に届ける糸口を見出そうとしたことを挙げました。限られた時間の中、サマーキャンプにも参加したことにより、自分の専門分野外の方々と交流の機会を得られたことは新鮮であり、視野が広がるとともに、自分の持つ医療の専門性から医療に詳しくない他分野の方々へアドバイスや現状を知らせる活動ができたその貢献も喜びだったと語りました。
 岩手大学総合政策学部で准教授を務める杉谷和哉氏は、STiPS京都大学プログラムを修了しています。京都大学大学院人間・環境学研究科在学中に指導教員が同プログラムに参画しており、勧められたことが受講のきっかけだったと振り返ります。「(他部局であった)医学研究科の川上先生らによる講義を受けられた経験は良かった」と述べ、当時知らなかったEBPMを認知し自身の研究分野としたことと、得られた人的ネットワークが、現職に従事する今の自分へとつながり多大な恩恵を受けたと述べました。

 民間企業や行政でイノベーションを推進しているIMPP修了生である米澤政洋氏は、20歳代で学部を卒業し、民間企業に所属しながら30歳代でMBA、そして40歳代で一橋大学の大学院博士課程に進学したといいます。その後、鳥取県からCIO補佐官の任命を受け、地域支援に携わったり、大学で非常勤講師を務めるなど、IMPPでの学びを活かしています。バックグラウンドの経営学からイノベーションという視座でプロセスとメカニズムを学びたいというIMPP受講理由から発展して、現在は、社会に貢献すべく地域の方々(への支援)をテーマにした研究活動も、東京科学大学博士課程に進学して継続していると述べました。

 課題感や今後に期待することとして、沼尻氏は、夜間受講だったため学生同士が集まって議論する機会が得られなかったことを挙げました。佐藤氏は、医学部ではSTIGがあまり知られていなかったことが残念であり、また、修了生のネットワークが東京大学だけでなく垣根を越えて構築できることを期待しました。今後に期待することとして、「現在の自分の領域ではドラッグ・ロスなど研究が創薬に活かしきれていないと感じる。そのための人材育成プログラム構築に着手しているがELSIやRRI、政策面でのサポートが重要になる」とし、STIGと連携して取り組み始めているが、こういったことがほかの現場の課題解決にも資するのではないかと述べました。米澤氏は、IMPPで最も得られたものは「社会を見るレンズ」となる学術的なバックグラウンドだと述べ、見方を学ぶことはできても、正しく現状を見るための光の当て方や光の量はHow toだけでは難しく、ぼんやりとしか見えなくとも、まず光を当ててみる者が増えること、そのモチベーションを上げられるプログラムを増やすことを推奨しました。石尾氏は、自分のようにつなぐ人材だけでなく、社会を知りたいと考える専門家・研究者が今後もアクセスできるように、こういったプログラムを継続的に行っていくことが重要であると述べました。杉谷氏は、「地方には地方だから抱える課題がある。それが日本全国で抱える課題につながることもある。(SciREX事業は)どちらかというと中央官庁寄りだったように思うので、地方の視点・目線も入るとよりエンゲージできる(課題がある)のではないか」と述べました。内田氏は、CSTIPSでは社会人の履修生が多く現役学生が少なかったことから、もっと多様な(若者の)新しい視点や考え方を得られる機会となることを望むと述べました。
 加納氏は、修了生のコメントを総括して、SciREXプログラムの受講者層はバラエティに富んでおり、この交流が、自分の専門性とは別の多角的な視点で物事を捉える機会となっていたことが、重要な成果、恩恵だったとまとめました。また、修了生によるアルムナイ・ネットワーク構築の必要性など指摘された課題も踏まえて、どのようにオペレーションを設計していくかを考えなければならないとし、総合討論へとつなぎました。

3.人材育成の成果とネットワーク形成に向けた課題

 総合討論では、伊地知氏が3つの論点を提示しました。
 まず、1つ目は「人材育成の成果として誇れるものは何か」「重要だがあまり取り組めなかった活動は何か」です。
平川氏は、STiPS大阪大学プログラムでの取り組みで誇れることとして、「科学技術と社会の課題について自分ごとの問題として考えてみたい、あるいは、いろんな分野をつなぐことに強い関心を持っていた学生に対して、ちゃんと(できる、学べる)場を提供できたこと」と述べました。また、いろいろな実務家との交流を通じて、将来のキャリアコースを示せたことも1つの大きな成果としました。「大阪大学全体としてダブルウィング・アカデミックワークであった。大学院全体としての教育の三本柱、従来型の専門を極めていく、学問と学問の間をつなぐ学際融合的な取り組み、そして、社会と知の統合。社会との連携を通じて社会の課題を解決していく、そこに大学の知を還元していく、あるいは、社会から大学が学ぶ。その3つ目の代表格として下地を作った」としました。
 柴山氏は、STIGとして誇れる点として学際性と国際性を挙げました。後者については、英語話者と日本語話者の科目が分断している点などの課題を残していますが、「学生同士のコミュニケーションの機会を増やしていくことが一番大事」と述べました。
 林氏も、社会人教育の重要性について、「GiSTは、社会で働きながらSTI政策の実務に係る問題に直面している人たちが集った。改めてこの分野の理論、あるいは考え方、方法論を学ぶ場を提供できたことが誇れるところ」と述べました。特に履修証明プログラムの成果について、「授業には40名くらいのさまざまなバックグラウンドを持つ社会人学生が集まって多面的な議論をしている。教員が口を挟む余地がないほど、皆さんの経験や知識が豊か」と活発な議論の様子を紹介しました。林氏は、そのような場は非常に重要であり、当初の想定以上に意味のある活動になったと評価しています。

 青島氏も、厳しい修了要件にも関わらずIMPPで成果を上げた修了生を評価しました。「与えられるのは学位ではなくサーティフィケート。それにもかかわらず学術論文2本を求める、なかなか厳しいハードル。オンライン(講義)も基本行わず国立まで来てもらう」という条件にもかかわらず、非常に良い受講生ネットワークを構築。今も勉強会などを自主的に開き、それ以外に実務の中でも、修了後も続くさまざまなネットワークを活かして新しい動きが生まれていると紹介しました。「高いハードルを越えた方々が、卒業した後もつながれる環境を作ったところが良かった」と述べました。
 また、少し話題がそれるとしながら、林氏は、「今回修了生として発表してもらった沼尻氏はSTI政策分野の研究者として一歩踏み出した。多様な人々にSTI政策の課題を知ってもらうと共に、この分野を支えてくれる研究者・教育者の育成が必要」と述べました。日本の若手研究者が海外の研究者と協力して、この分野のフィージビリティを上げていくことが必要で、そこにはまだやるべきことがあり、課題点であると指摘しました。
 これに関連して沼尻氏は、博士課程に進んでから毎年海外の学会に参加するようになり気が付いた点として、「私はサイエントメトリクス系やSTI、欧州のポリシー系の学会に参加しているが、日本人の参加者がいない」と報告しました。国際的なネットワーク形成に後れを取っていることを危惧しており、「昨今の学生は消極的なのか、これから海外に出ていこうとする方がなかなかいない。SciREXの中でも今後日本にとどまらず、海外に出てネットワークを広げていけるような環境づくりができると良い」との考えを示しました。

 ここまでの討論から伊地知氏は、「誇る点と共に、いくつか今後に向けての課題が出された」とし、次に、現状を踏まえてこれからどのようにSTI政策人材育成を展開し、(どういった)方向性を取っていくのか、また、どのような環境・制約条件を考慮する必要があるのかを、拠点に閉じず、日本全体のこととして考えて欲しいと、パネリストに問いかけました。
 これに対して平川氏は、拠点が取り組むELSI人材の育成に関わる変化を捉えて、「だんだんELSIで考えなければならない課題が広がってきた。国際環境的にも変わってきている」と説明しました。研究インテグリティ、研究セキュリティ、経済安全保障の文脈、オープンサイエンスなど、具体的に新たなトピックを列挙し、これをいかにプログラムへ取り入れていくかが1つ大きな課題だと述べました。

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4.グローバルとローカルの視座から見たSTI人材育成の課題
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