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ワークショップ 科学的知見を社会に
実装することの難しさ

ワークショップから見えたもの

2019年1月11日、地震研究の知見を社会に実装する方法の検証として、愛知県知多郡東浦町に暮らす住民に向けたワークショップが開かれました。当日はコンピュータ上の東浦町に地震を発生させ、その被害シミュレーションからオリジナルの地震対策を住民たちが自ら練るという進行を採用しました。

ワークショップから見えたもの
参加者が日常的に使うスポットやルートを地図上に書き出し、町の中での行動を可視化

森川さんによる研究概要の解説ののち、参加者が日常的に使うスポットやルートを地図上に書き出し、町の中での行動を可視化します。続いて、「まさに明日地震が起こった」と仮定したときに知っておくべき道や施設、情報を書き出します。具体的には、避難に使えそうな道、避難所となりそうな施設、食料が確保できそうなお店などです。

これをアシスタントがシステムに入力し、コンピュータ上に「生活者が実際に使用しているルートやスポットが記憶された東浦町」をつくります。またその補助として、近辺の電気・水道の業者が加わり、一般に見えづらい地下のインフラ等についての情報を提供しました。

マップを完成させたのち、複数の断層帯シナリオによる地震を発生させると、地震動の規模や予測される被害範囲が視覚的に表示されていきます。参加者の住民は、自宅等の重要スポットが被害を受けることや、想定していた避難ルートが使用できなくなることに直面し、やや困惑している様子が伺えました。続いて「災害発生時に、できなくなること/やらなくてはならなくなること」、つまり非常時の課題を設定するよう指示された際も、「そもそもどう動いたらよいか検討もつかない」「家の中にいるべきか、家の外に出るべきか判断がつかない」といった声がありました。

参加者が日常的に使うスポットやルートを地図上に書き出し、町の中での行動を可視化

しかし、ファシリテーターが「災害時は状況が複雑になり、先が読みづらいため課題設定は難しいが、共助と呼ばれる地区防災計画の観点から自分たちで課題を設定することが望ましい」と伝えると、「水や食料はどこで調達すればよいか」 「どのくらいの高さまで逃げれば安全なのだろうか」といった住民それぞれの課題が表出しはじめました。ワークショップの最後には、東浦町・藤江地区というコミュニティはどうしていくべきかを考え、万が一の時にこそ共助ができるように、普段からあって欲しい力、関係、仕組みはなにかを議論しました。

ファシリテーター

今回のワークショップは、防災研究を地域の中で有効的に活用するために、「万が一の時に備えた計画策定」だけでなく「普段のコミュニケーションを活性化させる土台としての計画づくり」に着目して実施されました。終了後、住民からは「想像していた以上に、いろいろな危険があることが分かった。そして自分ひとりでは対処できないことも分かり、もどかしくなった」「この場所に来ない(防災意識の低い)人たちに対してどのようにアプローチすべきか知りたい」といった声が上がりました。低関心層・無関心層の脆弱性については、森川さんも「防災は生命に関わる事項なので、私たちが訴求しなければいけない層は広い。必要に応じて関心を集めながら、科学的知見を継続的に活用してもらうための仕組みづくりが求められている」と指摘しています。

プロジェクトの期間は2年間。現在も、研究成果を社会に実装する方法の検証は続いています。科学的知見を住民や行政の政策過程に反映させるためには、どのような情報を、どのような形で打ち出すことが効果的なのか。東浦町のワークショップのように分野や土地を横断しながらフレキシブルに分析を進め、今後も新たな観点をさぐっていきます。

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