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RISTEX-SciREX 36プロジェクトを振り返って エビデンスに基づいた制度作りの実験場

政策決定とは価値判断である

山縣 然太朗

森田: 一つ言えるのは、政策もそうですが、あるエビデンスがあったらある結果になるという因果法則で我々の社会が成り立っているわけではなく、やはり価値判断が伴っていることです。最終的な価値判断のようなものはきちんと人間が責任をもって、自覚的にやらなくてはなりません。その前の段階で、思いつきや不確かなものをどう認識して排除していくかというところで、政策のための科学が重要なわけです。

山縣: 価値が科学的エビデンスと一致しないときに、どう合意形成をして選択できるかというところが重要になってくると思います。予防接種法が変わってはしかワクチンが義務接種から勧奨接種になり、任意接種になったことで接種率が下がって、はしかがいまだに流行したり、そのために海外に修学旅行に行けなくなるといったことが起きたりしています。はしかは予防接種をしたときよりも自然に感染したときのほうが合併症の起こる確率が桁違いに高いんです。でも人間の心理としては、自然に病気になったなら仕方がないけれども、昨日まで元気だった子が継続して元気でいるために予防接種をして重篤な副反応が出ると受け入れられないですよね。しかしそれを社会としてどう考えていくかというときに、政策としては、副反応の可能性は否めないから最終的には自分で決めてくださいとする方法と、いや、これは集団でやらなければならないので義務接種にします、その代わり何か起きたときにはきちんと国として責任を持つ仕組みを作っていく方法があります。

―社会が許容できるレベルを見極めるということですね。

森田: 今までは他へ回すか先送りするかできていた課題が、人口減少によってそれができなくなってくると、負担の在り方をどう考えていくかという問題に直面します。たとえば、川があってかつては向こう側に10万人が住んでいて、立派な橋が3つかかっていたとします。50年後に川向こうの住人が3万人になったとき、劣化した3本の橋のうち、1本だけを架け替えてあとの2本を落とさなければならない場合に、その1本についてどうやって合意を得るかが問題になるのです。有力者の一声で非合理なうちに決まってしまうのか、皆で議論して、川のこちらの病院に行くまでの時間が最も短いといった数字をもとにして決めるのか。少なくとも、ここは利益がないだろうという場所を排除するだけでも、かなり選択肢が絞られてくるはずです。そういう問題がこれから起こりますよということを正面からきちんと持ち出して、みんなが備えていくのが必要かと思います。総務省の「自治体戦略2040構想研究会」でも、相当厳しい認識が出てきています。

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