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新型コロナウイルス 持続可能な対策を目指して
厚生労働省クラスター対策班の西浦博教授に聞く

※2020年4月6日掲載時点での記事です。1次情報は厚生労働省や首相官邸、地方自治体など公的機関からの情報をご確認ください。

効果を確認できた北海道

この国民への要請は実は専門家がアドバイスしたものではなかったと西浦教授は言う。しかし「大規模イベントの自粛はかなり功を奏したのです。これは政治家の先生のヒットでした」。実際、海外では大きなイベントをきっかけに大規模流行が起こっている。韓国の宗教法人の集会やマレーシアのモスクを起点にした流行などがそれだ。

北海道の鈴木直道知事が「緊急事態宣言」を道民に向けて発表したのは2月28日。このときも西浦教授は厚生労働省を通じてアドバイスをした。ただ、この宣言自体は法的根拠もなく、3週間にわたって外出自粛を要請しただけだった。それでも「効果があったということがデータで確認できた」(西浦教授)という。事実、北海道は感染者の爆発的な拡大を食い止め、3月19日には「緊急事態宣言」を終了している。

いまも東京を除けば「国内発生」は減ってきている。それがデータで出てきているため、クラスター対策で行けるというのがある程度分かってきたと西浦氏は言う。ポイントはあくまでも持続可能なオプション、つまりは「自粛」という強権を伴わない政策でどこまで流行を抑えられるかというところにある。

厚生労働省クラスター対策班

厚生労働省に急ごしらえで設置されたクラスター対策班

緊急事態宣言が発令されると

そうは言っても、感染を抑えきれないときはどうなるのか。すでに政府は3月13日、新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正法を成立させている。この法律に基づいて首相が「緊急事態宣言」を出すと、都道府県の知事に大きな権限が与えられる。「現在の政策は要請レベルの自粛です。不要不急のものは避けるようにお願いしているとはいえ、通勤も通学も、買い物もできます。しかしロックダウン(都市封鎖)となるとそうはいきません。例えば、公共交通機関を止めるという手段さえ検討しています」(西浦教授)。それはロックダウンを前に東京から人が脱出してしまうと周りの都市や離れた都市に感染がひろがってしまうからだ。原発事故のときのような動きにならないよう、最悪の事態も想定しながら検討している。

もう一つ問題がある。特措法が発動されて、ライブハウスやフィットネスジムを閉める、大規模イベントは中止という話になったときには、補償をどうするかということだ。特措法の中には補償に関する条項はない。政府や自治体は、何らかの補償を別立てでやることになるだろうが、法律的には担保されていない。だからこそ「一定の合意でできる範囲でどこまでうまくやれるかが重要だ」と西浦教授は言う。

それでも、「自粛要請」でここまで行動が変容できる国は日本だけだという。西浦氏がアドバイスをした北海道のケースでも、知事はそれほどきつい言葉を使ってはいないのに、職場は休みとか在宅勤務になり、大学も休みになった。札幌のすすき野にしても客足が半分ぐらいに減った。そこまで閑散として伝播が止まったのだが、それをもたらしたのは緩い要請だった。「ここまで我慢できる市民というのはすごい」と西浦教授は言う。

「第二次大戦以来の危機」

アメリカのトランプ大統領は「新型コロナウイルスとの戦いはわれわれが経験したことのない戦争だ」と言った。通常の戦争ならば、国のリーダーは国民を一致団結させなければならない。そうしないと乗り切れない。ヨーロッパのリーダーたちは、第二次大戦以来の危機と呼んで、国民の団結を呼びかけた。

ただ団結すると言っても、どれくらい頑張ればいいのか。国民にとってはその見通しが何より必要だ。それが分からなければ、自粛疲れになってくる。西浦教授は「5〜6月になればある程度の戦略の見通しはつくと思うが、流行は全体的には1年」と語る。こうした見通しは、オリンピック・パラリンピックの中止が決まるまではなかなかオープンに語ることができなかったが、中止が決まってやっと落ち着いた。

欧米とくにヨーロッパでは、新型コロナウイルスとの戦いについてリーダーが国民に語りかけている。もちろん西浦教授の立場から言えば、政治的にどうかということより、科学的に正しい話が国民にうまく伝わって、行動が変わるというのがいいと思っているという。どういうリスクがあるかを正確に伝えた上で、どのように意思決定をするか。「リスク・インフォームド・ディシジョン」が必要だとも指摘する。「たとえば東京の感染症専門のベッド数にしても、もう満杯になった。そういうリスクを国民の皆さんに直視してもらって、現状認識ができた上で合意を形成して決定できるという状態をこの流行をきっかけに作っておきたいと思っています」

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