新型コロナウイルス
持続可能な対策を目指して
厚生労働省クラスター対策班の西浦博教授に聞く
文・藤田正美
世界で猛威を振るう新型コロナウイルス。イタリア、スペイン、アメリカなどでは感染者の急増によって医療体制が追いつかないという「医療崩壊」まで起きている。日本でも東京などで毎日の感染者数が急増しており、いわゆるオーバーシュート(感染爆発)が起きつつあるのかどうかを懸念する声も急速に高まってきた。
3月30日、小池百合子東京都知事は会見で、引き続き密室・密集・密接の3つの「密」を避けるよう都民に要請し、さらに厚労省のクラスター対策班の分析に基づき、バーやクラブ、カラオケやライブハウスに行くことも自粛するよう求めた。
さらに4月3日、クラスター対策班の西浦博北海道大学大学院医学研究院教授は、衝撃的な見通しを発表した(グラフ参照)。そのポイントは、新型コロナウイルスの基本再生産数を2.5(ドイツ並み)としてシミュレーションしたとき、流行対策を何もしなければ赤線のように感染者は指数関数的に伸び、制御不能になる。「自粛」を呼びかけることで、これまで日本では20%ぐらいの「人と人の接触減少」があったが、それでは伸びを数日遅らせることができる(緑の点線)だけで、やはり手に負えなくなる。しかしより強力な対策で、接触を80%減らすことができれば、あるところから感染者数が激減し、後は「クラスター対策」を講じることで対処が可能になるというものだ。
危ないところの二次感染を防ぐ
西浦教授は、新型コロナウイルスについてこう解説する。「このウイルスは、SARSウイルスと似ていて、感染者1人あたりが生み出す二次感染者の数にはかなりバラつきがあります。ほとんどの人は他の人にウイルスを移さない。つまり二次感染者を数えるとゼロになります。どこで伝播が起きて、どこで起きなかったかをずっとクラスター対策班で見ていて、空気の淀んだ閉鎖空間で伝播していることがすぐ分かってきました。たとえば、屋形船のケース。窓が開いていればまだ安全だったのですが、寒かったために閉め切ってカラオケパーティをやっていました」
「危ない特異的なところの二次感染を防ぐことができれば、一次感染者1人当たりの二次感染者の平均値を1以下にする、つまり感染拡大を抑えることができます。それが理論的にある程度分かりました。指数関数的にぐいぐい感染者が増えるのは、本当に感染者が増えてからです。そうなるとイタリアを始めとするヨーロッパやアメリカのような状態になります。この段階になると制御不能になります」
クラスター対策とは特異的に感染者が増えているところをカットして、全体的な二次感染者の再生産数を1以下に抑えようという作戦だ。西浦教授は言う。「都市の封鎖は長期間できるというものではないですよね。経済をできるだけ止めずに、スマートに閉鎖空間だけをカットしてなんとかやっていこうということです」
この対策で実際、中国からやってきた流行の第一波は止めることができたという。2月26日、安倍首相は「今後2週間の大規模イベントの中止や延期」を要請。さらに27日には全国すべての小中高、特別支援学校を対象に3月2日から春休みまで休校にするよう要請した。
効果を確認できた北海道